「序盤の1失点は想定内だよ。切り替えて攻撃に移ろう!」
『おおっ!』
2回の表のうちの攻撃。1人出れば上位打線に回るから、下位打線でも積極的に振っていってほしいところだ。
「ヨミちゃんの調子はどう?」
「いつも通りかな。変化球もキレてるし、敬遠のダメージもないよ」
「武田さんが野次によって崩れなくて良かったよ」
本当に武田さんは問題なさそう。どちらかというと……。
「……ヨミちゃんの球は顔を狙われているような迫力があるから初見の右打者は体を仰け反るんだけど、2番と5番には平然と見送られた」
「梁幽館打線にとっては経験の範囲内の球って事だね」
「うん……。予想以上に手強そう」
経験豊富な梁幽館にとってあのレベルの変化球もその内に入っているって事か。いや、それよりも……!
「……私が気になったのは最後の内角高めを躊躇なく打たれた事かな」
「えっ?」
「……!」
「山崎さんはやっぱり心当たりがあるみたいだね」
「……多分和美さんかも。確かに昔から困った時はインハイという事はあるかも」
「癖になると面倒だから注意した方が良いかもね」
「うん……」
この回は1人出塁するものの、4人目でしっかりと抑えられる。
(朱里さんがいるチームとはいえ、総合力ではこちらが圧倒的に上……。そろそろ主導権を握りたいですよ!)
(……とか高橋さんは思ってそう。守備に関してはバッテリーの頑張り次第で吉にも凶にもなるのが怖いところ。一応さっきの攻撃中に息吹さんと肩を作ってはいるけど、願わくば私の登板がありませんように……)
しかし超絶ピンチのタイミングで私の出番がくる予感がした。気のせいでありますように!
この回はまずは6番をサードゴロに抑えてワンアウト。次の吉川さんも三振に、8番の小林さんもショートゴロ。上手く三者凡退で終わらせる。さっきの予感は杞憂だったのかな?
(本当に武田さんの調子が良いな。でも……)
次の回はこの試合の最初のターニングポイントである梁幽館打線の2巡目……。そこを無事に切り抜ける事が出来たのなら、こっちが一気に優位に立てる。
「三者凡退!良い流れだね」
「この回は2番からだから、どんどんチャンスを作っていこう」
その為にもまずはこの攻撃で勝ち越したいところ……。
(……って朱里は言ってたけど、普段は希の後ろだから、回の頭が私って余りないのよね。とにかく塁に出る!)
藤田さんは2、3球見逃して、打てそうな球は可能な限りカットする。うちでは安定して2番を任せられるね。
「くっ……!」
そして5球目……。
「あっ……!」
『ヒットバイピッチ!』
おっ、先頭出塁。
(次は川崎さんか……。梁幽館の守備を考えるとバントだろうけど、川崎さんは試合ではバントを余りしないんだよね。それがどう出るか……)
芳乃さんもバントのサインを出していた。中村さんには得点圏で回したいからだろうか。
川崎さんは初球でバントをするが、当たりが弱すぎる。捕手の小林さんが素早くセカンドへ送球。チャンスを広げる事が出来なかった。
「良いぞ小林ー!」
「依織バズーカ!」
(なんて送球……。捕ってからがものすごく速い……!)
(采配ミス……!?稜ちゃんに普段バントさせてなかったから?さっきヒットだったし、信じて打たせれば良かったの……?)
……これは不味いな。芳乃さんの気持ちが折れ始めている。下手に弱気を見せると主導権を握られかねない。
「まだ攻撃は終わってないよ!希ちゃん、頑張れ~!」
「任せて!」
(多分球種は全部見たし、早めに……打つ!)
中村さんは初球でレフト前に落としてヒット。これでツーアウト一塁・二塁。
『5番 センター 岡田さん』
(ここで実質4番かよ。だが抑える!)
(カウント取りのカーブを叩く!)
主将は初球のカーブを打つ。
「セカンド!」
……しかしセカンドの守備に阻まれて6、4、3のゲッツーとなってしまった。
「くっ……!」
(やはりそう上手く点を貰えないか……。ベンチの空気も悪くなりつつあるし、どうしたものか)
でも試合は面白くなってきた。次のターニングポイントに備えて布石を立てておくかな……。
「あ~、また無得点か……」
「相手は埼玉の4強常連校。そう甘くはないという事ですね」
「いっそのこと柵越えのホームランを狙っていくしかないね!」
「それが出来るなら苦労しません」
「……いや、もしかしてあの子ならそれが出来るんじゃないかな?」
「あの子?」
「……ああ、彼女の事ですね」
「そそ。1回戦からベンチみたいだけど……」
(確かに彼女ならそれを可能にするでしょうが……)
「……恐らく朱里さんもそのタイミングを見計らっているでしょう」
「まぁ少なくともそれは今じゃなさそうだもんね~」
「ねぇ、あの子って誰?」
「和奈はまだ会った事がないんだっけ?それならこの試合の終盤をお楽しみにって事で♪」
「上位に回るこの回だ……。狙い球を絞って打つのもよし、球数を放らせるのもよし。一気に突き放すぞ!」
『おおっ!!』
3回裏。打順は9番から……。次から2巡目に入るから、この打者は絶対に切りたいところ。
しかし2球目に打たれてレフト前に運ばれる。
(レフトは初心者……)
「大村さん、二塁に送球!」
「はいっ!」
うおっ。凄い肩……。
「暴走だぜ!……ってあれ?」
(流石に自重したか……。しかし今の西浦さんは武田さんのあの魔球に合わせて打った。梁幽館打線にとってはあの魔球もそこまで難しい球じゃない……か)
それでもこの段階で武田さんの手札を晒して良いのは2つある内の1つだけかな?武田さんの実力を2回戦で全部出し切るのも勿体無いからね。
次の陽さんにも痛打されてノーアウト一塁・二塁。
(次はゲッツー警戒でバントだろうから、とりあえずアウトを1つ貰おう)
予想通りバントをしてワンアウト二塁・三塁。3番の高代さんを抑えて、中田さんを敬遠で次の5番で勝負が理想的だね。
(上手くいけば中田さんに回さなくて済む可能性もあるからね)
スクイズ警戒の為か1球外す。
(ここで1番嫌なのは満塁で中田さんに回る事……。カウントを悪くしたくない。ストライクがほしい……と相手も思っている筈。つまり……!)
スクイズ。山崎さんは読んでいたのか高く外す。
(かかった!)
(外された!)
(くっ……!絶対に当てる!)
ガッ……!
(よし、打ち上げた!これで……)
「山崎さん!頭上に気を付けて!」
(朱里ちゃん……?うっ!?)
スクイズを打ち上げたところまでは良かったけど、山崎さんが太陽の光が目に入り、落としてしまった。点は取られずに済んだけど、ランナーはオールセーフ。ワンアウト満塁となってしまった……。
(なんて不運……!読み合いには勝っていたのに!しかも次の打者は……)
『4番 ファースト 中田さん』
(これは最高の形ですね。スクイズ成功よりも良いかも!さて、将棋でいうところの王手まできましたよ朱里さん……!)
成程……。さっきの嫌な予感はこの状況の事だったのか~。はっはっは!……じゃないなこれ。滅茶苦茶ピンチだわ。
芳乃さんがタイムを取っているのを見たので、私もマウンドに行く。
「ごめんね……。私のエラーのせいで満塁になっちゃって」
「陽の動きはそう簡単に予測出来ないからね。仕方ないよ」
「タマちゃんはいつも完璧過ぎるからねぇ。たまにはあっても良いのでは?」
いやいや、そのたまにが致命的なんだけど……。
「それよりも朱里ちゃんがマウンドに来たって事は……」
「……うん。少なくとも私はそのつもりだけど、武田さんはそれでも良いかな?」
「う~む。……仮に私がこのままマウンドにいたら?」
「満塁だろうと勿論敬遠。この時点で武田さんの手の内を見せるのは早計だと思うからね。武田さんが中田さんと勝負するのは次の打席からだよ」
逆に言えば私はいくら手の内を晒されようがどうでも良いからね。
「素でエグい作戦ね……」
「まぁ毒も食らわば皿までって言うしな!」
「そっか~。それならこの局面は任せるよ!」
「お願い朱里ちゃん。このピンチをなんとか切り抜けて!」
「了解」
まぁなるようにしかならないけど、やってみますかね……!
『新越谷高校、シートの交代です。ピッチャーの武田さんがファースト、ファーストの中村さんがライト、ライトの早川さんがピッチャーです』
「この局面で出て来ましたか……!」
(その可能性もありましたが、まさか本当に朱里さんが出てくるとは……)
「朱里せんぱい……!」
「朱里ちゃんがマウンドに!」
「この局面で出て来るって凄い度胸だね~☆」
「ですが新越谷にとっては最適解の一手です。これを見越して朱里さんと武田さんの両方をスタメンに置いたのでしょう」
「しっかしこんなに早く朱里の成長が見られるとはね。梁幽館には感謝だね♪」
「そうですね。朱里さんがシニアからどれだけ成長したのか楽しみです」
「ごめんね朱里ちゃん。本当はもう少し余裕のある場面で出したかったのに……」
「気にしない気にしない。それよりも山崎さんは大丈夫?さっきので目がチカチカするとかない?」
「それは大丈夫……」
「とにかくこのピンチを切り抜けて梁幽館の流れを切ろうか」
「うん!」
ワンアウト満塁。打者は通算ホームランが50本を越えるスラッガーか……。
「この局面で私が使う球は……だよ」
「それでいけそう?」
「初球に中田さんがどう出てくるかで勝負が決まると思う」
初球から打ってくるなら次の一手を考える。もしも見逃すなら……。
(ここで早川朱里か……。映像で見た不可思議なストレートに対抗する為にも……!)
初球は……!
『ストライク!』
(……!やはりストレートにしては違和感があるな。この違和感がわからず今までの打者は早川に抑えられたという事か)
(見逃した?だったらこの勝負は……!)
私の勝ち……だね!
ズバンッ!!
『す、ストライク!』
(な、なんだ今のストレートは!?さっきのやつとは段違いの球だぞ!)
「あの投手凄いぞ!」
「中田を空振りに取った!」
「何者なんだ!?」
相変わらず騒がしいお客だなぁ……。私が何者かって?ただの投手だよ!
(なんとしてもバットに当てる!!)
ズバンッ!!
『ストライク!バッターアウト!!』
中田さんを三振に取ると球場全体が叫び声をあげた。煩いよ!
「…………」
「…………」
「…………」
「あ、朱里ちゃん、いつの間にあんな球を投げるようになったんだろ……」
「あ、アタシは知らないかな~。瑞希は?」
「……私も知りませんでした。まさかあれほどの球速を身に付けていたとは」
(あれは間違いなく朱里さんが高校になって得たもの……。球速自体は洛山高校の大豪月さんには遠く及びませんが、恐らくあのストレートにも朱里さん特有の秘密がある筈。あとどれくらいそれを投げるかは知りませんが、分析させてもらいますよ)
「朱里ちゃん、ナイスピッチ!」
「すげーな!ここから朱里1人で勝てるんじゃないのか?」
「さてね。それはまだわからない。何れにせよ私が投げるのはとりあえず梁幽館の流れが途切れるこのイニングまで……。そこからは再び武田さんに任せるよ」
「で、出来るかなぁ……?」
こらこら。なんで武田さんがそんなに弱気なのさ。
試合を再開させて、5番の笠原さんと対峙。ここから私が投げるのはストレートに見せ掛けた変化球。
(遅い?さっき奈緒に投げたあのストレートじゃないのか?なめやがって……!)
(……とか思っているんだろうな。これはこれで私の全力だっての!)
『ストライク!』
(なっ!?)
「あれは映像で見たストレートか?」
「……ですね。奈緒さんに投げた1球目と同じものです」
「あの球の正体が何かわかればと思って見送ったが、それが間違いだったという訳か……」
『ストライク!バッターアウト!!』
(何にせよこれは不味い。流れが完全に向こうに行ってしまったぞ)
はぁ……。なんとか満塁のピンチを無得点で凌いだ。流れは掴んだし、打順も私からだし、勝ち越させてもらうよ。梁幽館!
遥「朱里ちゃんの緊急リリーフによって満塁のピンチを無得点で抑えた!」
朱里「なんでいちいち叫ぶの?」
遥「なんか強く主張しないといけない気がして……」
朱里「……まぁ梁幽館戦はこの話を境に大きく変化を始めているからね。どれだけ原作の面影が残るか……」
遥「アンケートの方もオリジナル展開を所望している人も多いよ!」
朱里「柳大川越へのリベンジが成功するか否か……。成功したらある人の入部が大幅に(話数的な意味で)遅れると言っても良いね」
遥「ある人って?」
朱里「それは先のお楽しみ」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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