『ありがとうございました!』
整列と挨拶が終わって私達は球場の外に待機していた。今は川口姉妹が武田さんを軽くマッサージ中。
「どこか変なところない?」
「うん」
「めっちゃ良い球投げてたわね」
「うん」
「ヨミとはまた真剣勝負したいものだな」
「私も!」
「うん……」
なんか武田さんの様子が変だな。どこかぼーっとしてるっていうか……。
「お疲れ様です」
私達の後ろから声を掛けてきたのは梁幽館の中田さんだった。後ろには高橋さんもいる。
『お、お疲れ様です!』
中田さんから労いの言葉をもらえると思ってなかったのか、皆はどこか緊張していた。
「これ……連れて行ってください」
そう言って中田さんが主将に渡したのは千羽鶴だった。梁幽館の人達が1人1つ折っていたのだろうか……。想像するとシュールかも。
「試合では完敗だが、打席では1勝1敗といったところか……。またどこかで勝負したいな」
「はい……」
中田さんは武田さんに勝負したいと言った後私に話し掛ける。
「……早川に対しては私の完敗だった。次に勝負する機会があったら負けないぞ?」
「私も負けるつもりはありません」
(私は誰が相手でも負けるつもりはない……。誰にも負けたくない。二宮にも、金原にも、清本にも、そしてチームメイトの誰にも……!)
私の中にどす黒い感情が割り込むが、今はそれを抑えて私は中田さん達に気になっている事を質問をする。
「あの……。橘はどうしていますか?あの子があんな局面に立たされたのは初めてでしょうし」
「……はづきさんはずっと泣いています。自分のせいで3年生の夏が終わってしまったと」
私の質問には代わりに高橋さんが答えてくれた。まぁ橘にはメールくらいは送ってあげようかな?そして……。
「私も朱里さんに聞きたい事があります。朱里さんは今日のこの展開……一体どこまで予測していたんですか?」
高橋さんは私がどこまでこの展開を予測していたのかを聞いてきた。これには中田さんを含めた全員が気になっているみたいで、一斉に私の方を向いた。ちょっ!?視線がきつい!
「展開自体を予測……というよりは理想ですね。それを考えていたのは新越谷が梁幽館のいるブロックに入った時からです。新越谷の打線は強力な部類に入ると思ってますから、1回戦の影森との戦いも苦戦はすれど負けるとは考えませんでした。梁幽館は1回戦で中田さんが先発をしていましたので、2回戦の先発を吉川さん、リリーフに橘か中田さんが入ると予測しました」
一息置いてから、私は説明を続ける。
「先発に関しては吉川さんで来る確率が高いと芳乃さん……うちの参謀担当が予測していましたので、吉川さんの球を打てるようにストレートにはマシンの最高設定を、落ちるスライダーには武田さんが放ったあの魔球で対策をしました」
「成程……。和美さんが打たれたのは武田さんが和美さんと同タイプの投手だったという訳ですね」
「多分ですけどね。……でも梁幽館側がそうだとわかったら武田さんから点を取るのはそう難しくないんじゃないかと私の中で思いました。それを芳乃さんに相談した結果、私がワンポイントで登板する場面を作る事にしました」
「それがあの3回裏のワンアウト満塁の場面か……」
「他にも左打者である陽さん、吉川さん、小林さん、西浦さんの4人に対して投げる事も想定していましたが、私の予想を大きく上回る程に武田さんが好投してくれました」
本来なら中盤以降にその4人の打席の時は私が投げる予定だったからね。
「まぁアクシデントを含めて悪い事も色々ありましたが、それを帳消しに出来る程の武田さんの活躍によって3失点で済みました。私の中ではその倍は取られても可笑しくなかったですから……」
6点よりも多く点を取られていたら白旗上げてたかもなぁ……。
「では最後にもう1つ……。代打で出た……雷轟さんのバッティングは凄まじいものでした。あれほどの打力を今まで温存していたんですか?」
「そうですね。雷轟を出すタイミングはこの場面だって私の中で決まっていました。温存していた理由は雷轟の実力を見せ付けるには強豪校相手の方が良いと思ったからです。私が出したいと思った状況で出せたのも大きいですね」
「君は……そこまで先を見据えていたのか?」
「シニアでは二宮……私と組んでいた捕手の子がよくやる戦術で、高校は別なので代わりに私が……と思ってこの試合に限らず新越谷が今年度に入ってからの試合全てここから先はどうなるのか……とか、私がその立場だったらどうするか……とか考えていましたね」
勿論私がスタメンで出場する時は余り他の人の事を考える余裕はなかったけどね。
「……まぁ長々と語りましたけど、その内容の九分九厘は芳乃さんと似たようなものばかりです。新越谷の勝利は芳乃さんの采配のお陰だと私は思っていますよ」
「朱里ちゃん……」
なんか皆が信じられないものを見る目で私を見てるな……。でも実際本当に私が思っている事だからね。理想が綺麗にはまりすぎただけなんだよ。特にこの梁幽館戦は……。
「……その思考、見習わないといけませんね」
「いやいや……。私のはあくまでも理想論ですから、見習う必要はないですって」
そういえば高橋さんは二宮と戦術面で意気投合してたな……。この2人こそ同じ高校に行ったら不味かっただろうなぁ……。
「時間を取ってすまなかったな。私達はこれで失礼する」
「勝ってくださいね。1つでも多く……!」
中田さんと高橋さんはそう言って去って行った。
「皆さん、揃っていますか?」
『はーい!』
「今日は素晴らしい試合でしたね。感動しました」
藤井先生的にも今日の試合は良いものだったらしい。私としてはまだまだ課題が多いものだと思っているけど……。
「私は車ですので、とりあえず学校に集合で、その後は……」
「焼肉が良いです!」
「スイーツでしょ!」
「お寿司!」
川崎さん、藤田さん、雷轟が祝勝会で何を食べるかを言っているけど……。
「いやいや、練習に決まってるじゃん……。私達の課題は多いんだから」
「早川さんの言う通り帰ったら練習です。反省点を重点的に。……まぁベスト4に入ったら行きましょうか」
どうせなら県大会優勝するまではお預けでも良いと思うけどね。
藤井先生は車で先に帰り、私達も電車で帰ろうとすると……。
「やっほー☆」
「こんにちは」
「2回戦突破おめでとう!」
金原、二宮、清本に絡まれました。早く帰って練習したいんだけど……。
「まぁまぁ、そんな邪険にしなくっても良いじゃん!他の皆は瑞希と和奈と話してるよ?」
金原に言われて隣を見るとそれぞれが半々で二宮と清本と話していた。
(はぁ……。藤井先生に連絡を入れておこう)
藤井先生に連絡を入れた私はこの雑談がいつ終わるかわからないので……。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「行ってらっしゃい!」
トイレに向かいつつも3回戦の対戦高校について軽く調べておく。
(次の相手は馬宮高校……。特筆するところはないけど、2勝した実力はある。エースの村井さんと主将の西田さんに焦点を当てて……)
考え込んでいる内にトイレの前についたので、思考を一旦終えて入る。
「おや、また会ったな」
「どうも……」
まさかの中田さんとの再会。いくらなんでも早すぎる……。
「1人か?」
「はい。皆は試合を見に来ていた友人と話し込んでいるみたいです」
……っていうかトイレは1人で行くものだよね?そう思うのは私だけなの?
「……梁幽館の夏は終わった。さっきも言ったが、私達の分まで1つでも多く勝ってきてくれ」
「約束はしかねますね。新越谷は新越谷で戦ってますから……。そこに他校の気持ちを入れる余裕は少なくとも私にありません」
「そうか……。それは残念だ。君は君で私達とは違うプレッシャーと戦っているんだな」
「そうですね。この大会の結果によっては……」
私が新越谷で野球が出来なくなってしまうかも知れないのだから……!
朱里「ラストに急展開入りました。言葉の意味は次回に明かされます」
珠姫「あれ?なんで私呼ばれたの?遥ちゃんは?」
朱里「雷轟は諸事情でいないよ。山崎さんを呼んだのは次回の冒頭のモノローグ担当が山崎さんだから」
珠姫「そ、そうなんだ……」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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