梁幽館との試合が終わって私達は学校に戻ろうとしたら朱里ちゃんと同じシニア出身の清本和奈さん、金原いずみさん、二宮瑞希さんが声を掛けてきて皆で話し込んでいる。
「ちょっとお手洗いに行ってくるね」
朱里ちゃんがそう言ってお手洗いに行った後……。
「山崎珠姫さん」
「二宮さん……?どうかしたの?」
「少し2人で話せませんか?」
(どうしたんだろう……?でもあの川越リトルシニアで正捕手として活躍していた二宮さんから何かを得るチャンスかも)
この時の私はまさかあんな話を聞くとは思わなかった……。
「うん、良いよ」
「話の内容が内容ですので、ここから少し離れましょう」
二宮さんがそう言って歩き始めた。と、とりあえず着いて行こう!
「タマちゃん……?」
あっ、ヨミちゃんの目の光が消えていく……。
「ヨ~ミ!今日のピッチング凄かったじゃん!」
「わわっ!いずみちゃん!?」
「アタシ見てて鳥肌立っちゃったよ~!」
金原さんがヨミちゃんに話し掛けた。金原さんは私達の方を見て……。
(ほら、瑞希と大事な話するんでしょ?ヨミの事はアタシに任せて☆)
金原さんは私達にウィンクをした。これは行っても良いって事なのかな……?
「行きましょう。いずみさんが時間を稼いでいる内に」
「う、うん……」
少し歩くと殆んど人がいない場所に着いた。球場の近くにこんな所があったんだ……。
「さて……。まずは2回戦突破おめでとうございます。朱里さんがいるとはいえあの梁幽館相手に勝利したのはとても凄い事だと思います」
「あ、ありがとう……」
き、緊張して上手く話せない……。
「話というのは朱里さんについてです」
朱里ちゃんの……?
「山崎さん、貴女は朱里さんの過去についてどれくらい御存知ですか?」
朱里ちゃんの過去……。朱里ちゃんが話したのは確か……。
「……朱里ちゃんがリトル時代に右肩を炎症して、サウスポーに転向したって話を聞いたよ」
「……他には何か聞いていませんか?」
他に……?
「あとは足腰と肩を鍛えるのと、スタミナを付ける為に外野手をやるって事くらいかな?」
「……成程、そうですか」
(相変わらず1人で背負いますね……。あの時も私が強引に聞き出さなかったらどうなっていたでしょうか?)
「……今から私が話す事はシニアの人達も知らない事です。朱里さんは……」
二宮さんはポツポツと朱里ちゃんの今の状況を話す。私はそれを聞いて顔色が悪くなった。
「そ、それは本当なの……?」
「朱里さんのご両親が言っていたので、間違いないでしょう。県大会で一定以上の結果を出さなければ朱里さんはこの埼玉を去る事になります」
「朱里ちゃんは反対しなかったの!?」
「……朱里さんは自分の意見を押し殺す人間です。自らが前に出る事がなく、それこそリトルシニア時代でもエースを辞退しようとしていたくらいです。本人も仕方のない事だと思っていました。埼玉を離れる事もご両親の都合ですし」
そんな……!
「そんな朱里さんが自分の意見を伝えました。新越谷を離れたくない……と。朱里さんはそれほど新越谷野球部を大切に思っています」
朱里ちゃん……。私達の事をそんな風に思ってたんだ……。
「そこでご両親は条件を出しました。大会で優勝したら残留を許す……と。去年も同じ事があったのですが、朱里さんは死に物狂いで川越シニアで全国優勝を勝ち取り、ここに残る事が出来ました」
(思えば雷轟さんを秘密裏に育てていたのはご両親に抗う為の術を水面下で準備していたのかも知れませんね)
「……それで、朱里ちゃんが新越谷に残るにはどこまで私達は勝てば良いの?」
「……高校女子野球のレベルは毎年上がってきてますから、ご両親も高校になると条件を緩和しました。県大会優勝……そこまで勝ち上がれば朱里さんは3年間埼玉に残る事が出来ます。3年間……というのは朱里さんが出した精一杯の交渉の末にご両親が譲歩した結果でしょう」
「県大会……優勝……!」
「今日の梁幽館戦を見る限りだとギリギリそこに辿り着けるか……というのが私から見た印象ですね。新越谷は確かにかなりの実力がありますが、準々決勝に当たる可能性がある柳大川越と大宮大附設、準決勝で当たる可能性が高い咲桜、決勝で当たるかもしれない椿峰と美園学院……。新越谷が勝ち上がるにはかなり高いハードルになるでしょう」
今二宮さんが言った所は皆強い所ばかりだ。柳大川越には1度負けているし。でも……!
「……それでも、私達はやるしかない。朱里ちゃんと離れたくないから!」
「……!」
(良い眼をしていますね。これなら新越谷はもしかすると……!)
「……全国で散り散りになっている川越シニアの人達もそれぞれ朱里さんのいる新越谷と戦いたいと思っています。勿論私も含めて。だから……新越谷こそが朱里さんの居場所になれる事を願っています」
優勝目指して頑張ってください……と言って二宮さんは帰って行った。
「あっ、タマちゃん!」
「ヨミちゃん……」
「……?どうしたの?なんか様子が変だけど……」
「……なんでもないよ」
二宮さんに聞いた話を頭の奥底へ仕舞っておいて、私はヨミちゃんに……。
「ヨミちゃん、一緒に全国に行こうね?」
「……?うん!」
一応……この事を朱里ちゃんに話した方が良いよね……?
学校に戻ってからの練習が終わって皆が帰ったので、私も帰ろうとすると山崎さんに呼び止められた。どうしたんだろうか?
「……朱里ちゃん」
「どうしたの山崎さん」
「二宮さんに聞いたよ……。県大会で優勝しないと朱里ちゃんは……」
ああ……。二宮め、余計な事を言ってくれちゃって。私の胸に仕舞っておこうと思ったのになぁ……。
「……そうだよ。県大会で優勝しないと私は新越谷……というよりは埼玉を離れる事になる。この事はもう皆に言ったの?」
「ううん……。誰にも言ってない。言うにしても朱里ちゃんには先に話しておいた方が良いかなって……」
まぁそれが普通の判断だよね。出来れば知られたくないもん。特に雷轟には……。
「そっか……」
「……朱里ちゃんは不安じゃないの?たった1回負けるだけで、転校する事になるんだよ!?」
確かに条件はかなり厳しい。でも今の新越谷なら県大会優勝なら出来るかも……とか希望を持っちゃった私は親に土下座して条件を軽くしてもらったんだよね。流石に全国優勝は今のままだと無理だもん。
主に白糸台とか洛山とかさぁ……!特に洛山は白糸台以外の相手には二桁得点で勝つ打力の可笑しい所だもん!しかもそこに清本が追加って馬鹿じゃないの!?白糸台(というか神童さん)もそんな洛山相手に一桁どころか下手したら完封するんだもんなぁ。
でも県大会までならなんとかいけると私は思っている。当たるとしたら準々決勝の柳大川越、準決勝の咲桜、決勝の椿峰、美園学院……。特に咲桜と椿峰はシニアから1人行ってるから、その子達と戦って勝てるかどうかだけど……。
「……私は誰にも負けるつもりはないよ。例えそれが埼玉県内Aランク以上の高校が相手だろうとね」
「朱里ちゃん……」
まぁ仮に県大会で負けたとしても新越谷の皆と戦えるならそれはそれでありなんじゃないかと思ってしまう。口には出さないけどね。
「……一応この事を皆には黙っておいて。プレーに支障が出ると勝てる試合も勝てなくなるからね」
「……そうだね」
……現に今山崎さんに支障が出そうになってるけど、大丈夫だよね?山崎さんが精神面に強い事を期待してるよ?二宮みたいに図太い事を期待してるよ?
「そろそろ帰ろうか。明日も3回戦に向けて練習しなくちゃね」
「うん……。朱里ちゃん」
「ん?」
「勝とうね。県大会……!」
「当然」
誰が相手でも負けるつもりはない。
珠姫「……なんかとんでもない事になってきたね」
朱里「作者的に柳大川越に勝つオリジナルルートの構想のつもりなんだろうか?」
珠姫「もしも県大会で負けたらどうなるの……?」
朱里「私の出番は当分なしで、モノローグ担当は山崎さんになると思う」
珠姫「なんで私……?遥ちゃんは?」
朱里「雷轟にはモノローグ担当なんて無理でしょ」
珠姫「この小説の主人公は遥ちゃんなんだけど……」
朱里「作者的には男子高校生の日常でいうところのタダクニのポジションだから……って事じゃないかな?」
珠姫「遥ちゃん可哀想……」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
-
見たい
-
見たくない