5回裏で向こうの打順は5番の石川さんから。
(5番の石川さんと6番の平田さんは武田さんの強ストレートにタイミングが合ってきている。映像を見て攻略方を見出だしたんだろうな……)
『ファール!』
今も初球から打ってきた。さっき満塁のピンチを凌いだから、流れが柳大に行きつつある。だから……。
(ヨミちゃん、いくよ)
(うん……!)
ツーナッシングから投げる武田さんの3球目……。
(ここで遅めのストレート……?それなら打つ!)
ズバンッ!
(なっ!空振り!?)
『ストライク!バッターアウト!!』
投げたのは以前私が教えたストレートに見せ掛けたカーブ。梁幽館戦を終えてから強ストレートが通用しなくなった時に備えて少しずつ練習し続けて、4回戦が始まる頃には完成した。
(使うのは県大会の決勝、或いは全国の舞台から……って思っていたけど、それほど甘くはなかったか……)
もしも県大会を勝ち抜く事が出来たのなら、全国に備えてあと1、2球種くらい変化球を覚えた方が良いかもね。
「今武田が投げたのはストレート……なのか?あれくらいのストレートならタイミング的にも打てて可笑しくはなかったが……」
「あれは……。間違いありません。武田さんが投げたのは朱里さんがシニア時代に投げていたストレートに見せ掛けた変化球……」
「ストレートに見せ掛けた変化球?」
「変化球の曲がり始めを遅らせる事で変化量が小さくなる代わりに傍目からは変化してても気付かれにくくする球です」
「な、なんか凄い事を言ってるな……。そんな簡単に出来る事じゃないだろう」
「勿論です。朱里さんでさえ会得するのに1年以上の時間を費やしました。本来ならそれでも早すぎるくらいです」
(それを武田さんは何日で……?柳大川越との練習試合を終えて朱里さんが投手をやっていた事を話してから?いえ、仮に朱里さんと知り合ったであろう4月からだとしても僅か3ヶ月……。そんな短期間で身に付けたと言うのですか……?)
「だとしたら早川の得意技を会得した武田は……」
「はい、武田詠深は天才の部類に入ります」
武田さんはストレートに見せ掛けたカーブ……命名偽ストレートを他の球と上手く混ぜる事で二者連続三振。そしてこの打者も……。
(朱里ちゃんが教えてくれたこの球は強ストレートの時とは違ってキチンと制球が出来ている。これなら……!)
(遅い……。さっき石川と平田に投げたやつか?)
ツーシーム、カットボール、偽ストレート、そして……。
(ここでナックルスライダー!?)
『ストライク!バッターアウト!!』
3球目に投げたあの魔球。偽ストレートはギリギリまで変化しない上に変化量がかなり小さいので、その正体を見極めようとすると変化量の大きいあの魔球に着いていけなくなる。
(武田さんはやっぱり凄い。私も負けてられないな……!)
次の準決勝は私が先発の予定……。勝ち上がってくるのは友沢がいる咲桜の可能性が高いだろうし、武田さんに負けないピッチングをしないとね。
「ナイスピッチ!ヨミ!」
「三者連続三振なんて凄いわ!」
「後で私にも石川さんと平田さんに投げたストレート投げて!」
5回裏は武田さんの切り札である偽ストレートによって連続三振。中村さんは偽ストレートを後で投げてほしいと相変わらず血気盛んである。あの、その2人に投げた球は私のコピーだよ?本人で良かったら幾らでも投げるよ?なんなら中村さんにはもう投げてるよ?
(偽ストレートは決してウイニングショットにはならないけど、見せ球以上の代物に仕上がっている……。武田さんの持っている球種を駆使すれば全国でもそうは打たれない)
とはいえその前にこの準々決勝を突破しないと……!
~そして~
6回は表裏共に三者凡退。まさか最終回までどっちも無得点とは……。もしかしてこのまま延長戦に入ったりする?
「さぁ!点を取っていこう!」
『おおっ!』
この回の打順は雷轟から。朝倉さんの時は歩かされて、練習試合では大野さんにも歩かされた……。この試合でも雷轟はずっと歩かされるのだろうか?
『5番 レフト 雷轟さん』
(私の打席……。ここまで全部歩かされているから、なんとしてでも打たないと!)
『ボール!』
(よし、雷轟は今大会の成績はホームランが多く、二桁以上の得点を勝ち取っている。この打席もくさいところ突いて歩かせるぞ)
(…………)
『ボール!』
「……やっぱり遥は歩かされそうだな」
「こうなると後続で点を取るしかないですね」
6番はこの試合当たっている藤原先輩。7番の川崎さんもさっき打っているから、雷轟が歩かされても期待値は高いけど……。
『ボール!』
(これまで私が歩かされる試合は沢山あった……。それでも私はただ見逃していた訳じゃない。敬遠球までは流石に打てないけど、そこまで外されてなければ……!)
カキーン!
『ファール!』
(打てる!)
「当てた!?」
「良いぞ!遥ちゃ~ん!」
(梁幽館の中田さんは明らかなボール球でも上手く打った……。どんな球でも食らい付く姿勢は格好良いとも思った……。それでいて打つ時には打つ……そんな打者に私はなりたい!)
『ファール!』
「当たる当たる!」
「かっ飛ばせ!遥!!」
雷轟は際どいボール球をカットし続ける。カットになれていないのか、中田さんのように豪快なファールにはなってない。しかしこうなってくると向こうが敬遠球を投げてくる可能性もある。
(練習試合の時も思ったが、雷轟の球を見極める技術は大したものだ。ボール球だとわかっていてもカットされてしまう……。やはりここは敬遠球で歩かせるべきか)
(……勝負よ)
(何?)
(この私がこれ以上逃げるなんて許されないわ。練習試合の時も2回、彼女との勝負を避けた。あの日の私は屈辱だった。あの日逃げた私が夢に出るくらいにね……!)
(彩優美……。それなら打ち取ろう。雷轟遥という強敵を!)
(当然。なんなら三振にしてやるわ!)
フルカウントでの大野さんの6球目。コースは際どい……。見逃したら手が上がるかもしれないコース……。
(練習試合であんたに打たれたツーシームよ。私があの頃よりも成長しているってところを見せてあげるわ!)
大野さんが投げたのは奇しくも初めて試合で、初めてバットに当てたツーシーム。勿論あの頃よりもキレがある。それを打とうと雷轟が構えた瞬間……。
ゴッ……!
(!?これは……!)
(そう……。そう……なのね)
カキーン!!
(正真正銘、私の負けね……)
雷轟が打った打球は場外まで飛んでいき……。
『ホームラン!』
ホームランとなった。練習試合と違って今度はセンター方向に飛ばした、完璧なホームランだった。
「よく打ったぞ!」
「相変わらず物凄いパワーだな!」
「ありがとう遥ちゃん!」
1周ぐるっと回った雷轟は皆から手荒い祝福を受けていた。
「大野が投げたツーシームは良い球だった。にも関わらず場外まで運ぶとはな……」
「しっかりセンター方向へと運ぶあたり雷轟さんも成長していますね。パワーなら和奈さんにも負けていません」
「仮に雷轟が打撃チームの洛山にいたとしても4番を任せられるレベルにまで成長してたな。早川、武田、雷轟……。他にも手強い奴はいるが、特に注意しないといけないのはこの3人だな」
「和奈さんとは違って雷轟さんは両打ちですからね。右投げの神童さんと対峙する時は左打席に立つでしょう」
「両打ちのスラッガーか……。雷轟は何れこの高校女子野球……いや、プロの世界にも旋風を巻き起こす存在になるのかも知れないぞ」
「それは私も大野さんから打ったあの打球で感じました。彼女はそう遠くない内に和奈さんをも越える最強のスラッガーになるでしょう」
(それこそ守備の方を鍛えたら手の付けられない存在になる可能性が高いですね。全国の舞台に上がってきたら雷轟さんがどのような成長を遂げるのか楽しみです)
雷轟に打たれた大野さんは崩れる事なく、後続を3人で抑えた。私なんか三振しちゃったよ……。
7回表で遂に均衡を破って1対0で私達がリードしている。
「最終回だよ!遥ちゃんが取ってくれた1点しかないけど、全力で守ってこの1点を死守しよう!」
『おおっ!』
柳大の攻撃は2番からの好打順。しかし武田さんはあの魔球と偽ストレート、強ストレートを上手く混ぜて2番、3番を打ち取る。そして……。
『4番 キャッチャー 浅井さん』
迎えた4番打者。中田さんには劣るものの、浅井さんも長打力があるから、うっかりしてしまうとホームランを叩き込まれる。
(凄いよ。ヨミちゃん!あの柳大川越に1点もあげないなんて……!)
(私がここまで成長出来たのも朱里ちゃんがいたから……。もし朱里ちゃんがいなかったら私はどうなっていたんだろう?)
(朱里ちゃん……そして遥ちゃんがいたから、私達はここまでこれたのかも知れないね。……4番の浅井さん。ここまでは完璧に抑えているけど、油断してると一発もらってしまうから、ここも全力で抑えるよ!)
(うん!)
武田さんはここまで100球近く投げている。これは本来7イニングでは投げる事は殆んどない球数だ。少なくとも私には無理。
『ストライク!』
しかもここまで三振が殆んどなんだよね。打たれたのも強ストレートの癖を見抜かれて打たれたようなものだし……。あれ?だとするともしあの時私がフライを捕れなかったらこの試合負けてた?
『ストライク!』
(武田詠深……。ここまで凄い投手だったとはな。あの梁幽館に勝つ訳だ。でも私だって負けてられない!)
カキーン!
『ファール!』
3球目のあの魔球を捉えてファール。1点リードだとやっぱりまだまだわからないね。下手するとこれで同点かもしれないし。
(あの球のタイミングが合ってる……。ここは朱里ちゃんから教わったあれでいくよ)
(ううん、ここはあの球でいく)
(さっき打たれてるのに……?)
(朱里ちゃんが以前言ってた。私のあの球を決め球にするなら、この場面でこそ投げ切る事だって。だから……!)
(……わかったよ。全力できて!)
(うん……!朱里ちゃん、私はここで投げ抜くよ。腕を大きく振って!)
武田さんは3球目よりも大きく変化させてあの魔球を投げた。それは梁幽館戦で山崎さんが捕逸させた時よりも大きく変化した。
『ストライク!バッターアウト!!』
それでも山崎さんは後ろに逸らす事なく捕り切った。
『ゲームセット!!』
試合終了。1対0で私達の勝利!
「新越谷が勝ったか……。そう来なくては面白くない」
(見てろよ朱里……。準決勝で私はおまえを越えてみせる!)
遥「勝った……の?」
朱里「勝ったよ私達は。あの柳大川越にリベンジをはたした」
遥「やったー!!」
朱里「そして物語は原作を越えてオリジナルへ……」
遥「このまま県大会優勝だ~!」
朱里「そうしないと私的にも不味いしね」
遥「どういう意味?」
朱里「それは秘密」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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