友沢にはホームランを打たれたけど、気を取り直して後続の打者に対して偽ストレートを投げ続ける。
(くっ!亮子からストレートに見せ掛けた変化球の話は聞いているのに、タイミングが合わない……!)
(今の5番打者を見る限りまだこの球は通用しそうだね)
私の偽ストレートの媒体は5種類の変化球が元になっている。これ等を上手く混ぜて相手を翻弄させる。
(これによって当面は凌げるけど、友沢を相手にする時どうするかなんだよね……)
まぁその時が来たらその時考えよう。
その後5~7番を連続三振で2回表は友沢のホームラン1点に抑えた。
(やはり朱里のピッチングはそう簡単には崩せないか……。こうなったら投手戦だな。私の方は打たせるつもりはないぞ?)
打順は今日4番の雷轟から。この試合は雷轟にかかってると言っても過言じゃないから、何がなんでも打ってほしいところだ。
「亮子さんにホームランを打たれたものの、後続は三振で抑えましたか」
「朱里って打たれてもあんまり気にしてなさそうだよね~」
「朱里ちゃんは試合の時に表情を変える事がないから、打たれても動揺しているかわからないもんね……」
「チームメイトとしてはそのポーカーフェイスは頼もしい限りですが、同時に監督泣かせでもありますからね」
「……で、新越谷の攻撃は今日4番の雷轟さんだよね」
「どっちが勝つんだろう……。瑞希はどう思う?」
「……どうでしょうね。勝敗自体は何とも言えませんが、亮子さんが雷轟さんに対して初球をどう入るかによって1打席目の勝敗は決まると思います」
「頼んだよ雷轟」
「うん!頑張るよ!!」
気合いを入れてバッターボックスに入る……んだけど。
(左打席に立った……?)
友沢はサウスポーだから、両打ちの雷轟は本来右打席に立つのがセオリーの筈。
(雷轟遥……。両打ちだったのか。左投げの私相手にわざわざ左打席に入るとは……)
(左打者に届かないカーブと右打者に届かないスクリュー。私にとってどっちが打ちやすいのかはまだわからない……。スクリューは橘さんと対戦した時をイメージしたらいけるかも知れない。でも左打者の希ちゃんにカーブを打つ為の突破口が私で掴んでほしいから、この打席は左で勝負!)
(……セオリー等雷轟遥には関係ない……か。雷轟は2回戦の終盤からの途中出場にも関わらず大会で既に4本のホームランを打ち、打点も二桁を取るパワーヒッターだ。不用意に入ったらやられる。それなら初球からいくか)
(友沢さんの投げるカーブとスクリューに私達の打線は萎縮してしまってる……。朱里ちゃんが言ってた。4番の仕事は相手のエースに勝つ事と、味方打線に勢いを乗せる事だから……!)
(カーブで雷轟を打ち取る!)
(カーブを打つ!!)
「……これは初球勝負になりそうかも」
「どういう事朱里ちゃん?」
私が呟くと武田さんが尋ねてくる。
「決め球はここ1番……という時に投げられて決め球って話は前にしたよね?雷轟相手に不用意に入ったら打たれる事は友沢自身も察したと思うから、左打者に対しての決め球であるカーブを投げてくる。また雷轟もそれをわかっているから、初球で勝負が決まるかも……って思ったんだよ」
「へぇ~」
(とはいえあのカーブにしろ、スクリューにしろ、わかっているからといって簡単に打てる球じゃない。決め球2つ……というのは厄介極まりないよ)
それでも打つのが4番の仕事……。頼んだよ。
(いくぞ!)
友沢が振りかぶって投げる。
(カーブ!……えっ?)
友沢が投げたカーブは先程までよりも変化が大きく、それはそうとまるで……。
「な、なんて曲がり方してんだ!背中からボールが向かってくるみたいだぞ!!」
「希ちゃんに投げた時よりも変化が大きい……」
(な、なんて角度で曲がってくるの!?まるで背中からボールが向かってくるみたい……!)
「遥ちゃん!」
「遥!」
(それでも……絶対に当てる!)
なんとかバットに当てようと雷轟は体を踏み込ませるけど、結果は空振り。
「わわっ!」
しかも尻餅までついてしまう。あんなカーブを本当に打てるのかな……?
「今のカーブ、さっきよりも変化が大きいね……」
「えげつないどころじゃないって絶対!」
「背中から曲がってくるカーブが外角低めギリギリに決まるとは……。あの角度から曲がってくる球は本来体を開かないと見る事は難しく、かといって最初から踏み込まないとバットには届きません」
「両方を同時に……って普通は出来ないよね」
「亮子さんはそのレベルの変化量をカーブとスクリューで打者毎に使い分けています」
「えっ……!あ、あんなの打てないよ!ましてやあんな変化量のカーブやスクリューが外角低めギリギリに決めるなんて!」
「そうですね。流石に毎回は無理だとは思いますが……」
さっきのカーブはやばかった。しかしあんなのが毎回決まるとは思えない。つまりよく見ていけば四球も狙える筈……!
(さっきのカーブはコース自体は際どかった……。見ていけばボール球になるのもあると思うから、それは振らずに甘く入ってきた球だけを打つんだ!)
2球目も友沢はカーブを投げてくる。
(カーブ。低いから、ボール……?)
雷轟はボール球だと思って見逃す。でも今のは1球目と全く同じコースだ。よって……。
『ストライク!』
(なっ!?)
雷轟も2球続けて同じコースに投げてくるとは思ってなかったみたいで驚愕している。
「あんなカーブ、コントロールするのも難しい筈なのに、それをいとも簡単に投げるなんて……」
「毎回あのコースに決まるんだったら、最早エースクラスだよね」
友沢は私にライバル心を抱いており、私を越える為に日々練習をしていると二宮が言っていた。その成果があのカーブとスクリューなんだとしたら既に私を越えている気がするけど……。
そして3球目。当然友沢はカーブを投げる。
(やっぱりカーブ……。でもどうすれば良いの?多分コースは入っているし、振ってもバットは届かないし……)
『ストライク!バッターアウト!!』
カーブはまたもや同じコースに入り、ストライク。雷轟は手が出ずに三振してしまった……。
「う、嘘でしょ!?カーブを3球全部あのコースに決めてくるなんて……!」
「打てない球をいつでも投げる事が出来る投手……。これは朱里さんに匹敵しますね」
「下手したら朱里ちゃん以上かも……」
「朱里さんの決め球はストレートですから、一概に亮子さんが上……と結論するのは早計です」
(本当に狙って毎回決められるとしたら新越谷は苦しくなるでしょうね。やはり亮子さんのホームランはとても重たいものになっています)
「うぅ……!」
「ドンマイ」
「あんなの打てなくても遥を責められないぜ!」
「あのカーブ、仮に右打者でも打つのは厳しいでしょうね」
藤井先生の言う通りあのカーブは右打者でも簡単には打てない。初回でやったようにストレートと高速スライダーを低めに投げてから、カーブを投げる事によって速度差や高低差を突かれて三振してしまう。
それなのに友沢は右打者に同等の変化をするスクリューを投げてくる。それだけ本気で私達に勝ちに来ている……と考えるとライバルとしてなんか嬉しくなっちゃうね。
(さぁ、4番の雷轟を完璧に打ち取ってこの試合は優位に立たせてもらったぞ朱里!)
(友沢の変化球……。上手く攻略出来るかはあの人にかかっているね)
この試合の鍵を握るのは雷轟以外にもう1人いる。その人が何かを掴めたら雷轟も友沢の変化球を捉える事が出来るんだけど……。
(そうなると勝負は最終回か……)
それまでは何としても相手に追加点を与える訳にはいかない!
遥「三振しちゃった……」
朱里「あのカーブは打てないよね……。ところで何で雷轟は左打席に入ったの?」
遥「スクリューはもう橘さんから打ったから、今度はカーブを打ちたくてつい!」
朱里「そ、そんな理由で……」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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