試合は進んで4回表。1打席目の雷轟が三振してからも友沢の変化球は止まらず、ここまで全員三振させている。
私もそれに負けず友沢以外を三振で打ち取り、この回も2番、3番を三振させる。そして迎えた友沢の第2打席……。
『4番 ピッチャー 友沢さん』
(ここまで私のホームラン以外は互いに三振のみ……。まさか朱里とこのような投手戦が出来るとはな)
(1打席目は完璧にタイミングを合わされたから、その借りを返したいね)
梁幽館の中田さん相手に2球投げたきりのストレートを初球から投げる事にした。全ては勝利の為に……!
ズバンッ!
『ストライク!』
(っ!これが映像にあった朱里の本当のストレートか。シニアでは1度も投げた事がなかった球……。これは攻略のしがいがありそうだ)
(友沢達相手ならこれだけだと打たれるかもしれない……。それならもう1つ見せてあげるよ)
新越谷に入ってから入手した私の新技を。私と山崎さんしか知らないとっておきを……!
『ストライク!』
(くっ……!今までに投げた球とは比べ物にならない速さだ。これはタイミングを取るのが難しいぞ)
ツーナッシング。追い込んだ今なら……!
(朱里ちゃん、ここはあれでいくつもり?)
(勿論。試合で投げるのは初めてだけど、絶対に決めてみせる)
(わかった……。私は朱里ちゃんを信じるよ)
山崎さんの了承をもらって私は振りかぶり3球目を投げる。
(やはり今までよりも速いストレート……。コースは真ん中近くだし、何としてもバットに当てる!)
私だって意地がある。私だって悔しいという気持ちはある。私だって負ける訳にはいかない時がある……。
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
(な、なんだと!?何故真ん中付近のストレートの筈が地面スレスレまで落ちてるんだ!?)
(これはそんな状況下で編み出したボールだよ……)
友沢がカーブとスクリューを見せたお返しとして受け取ってよね!
「い、今朱里は何を投げたの?凄い落ちたんだけど……」
「……恐らくSFFですね。それもフォークのような落差のある球です」
「あんな球、シニアでも投げていなかったよね?2人は見た事ある?」
「アタシは少なくとも見た事ないかな~」
「……私もありません」
(SFF自体はストレートに見せ掛ける球として投げた事はありましたが、まさかSFFそのものがここまでの球に成長しているとは……。恐らくあのSFFは先程投げた速いストレートと混ぜて使う朱里さんが新たに編み出した戦術でしょう。ストレートに見せ掛けた変化球を複数操り打者を翻弄させるピッチング、何か秘密があるであろう速いストレートで打者を打ち取るピッチング、そして速いストレートと同速で変化量があるSFFを混ぜたピッチング……。どれも脅威的です。更にそこから配球を混ぜる事も可能……という事ですか)
「……やはり同学年で朱里さんを越える投手はいないのかも知れませんね」
「チームメイトとしては頼もしいけど、敵になると厄介だねぇ。梁幽館戦で見た速いストレートと言い、今のSFFと言い、朱里がなんか遠くに行った気分だよ……」
「でも今日はあのSFFを見られて良かったね」
「亮子さんのカーブとスクリューにせよ、朱里さんのSFFにせよ、どちらかが勝ち上がった時に何れは目の当たりにする球でしょう。早めに見れて対策を立てられる……というのはとてもありがたいですね」
「ナイピだよ。朱里ちゃん!」
「上手く抑えられて良かったよ」
「最後に投げた球は何だったんだ?」
「SFFです。全国クラスの強敵とぶつかった時の為に新しい球種がほしいと思って山崎さんと練習しました」
「あれSFFかよ!?朝倉さんのやつよりも全然凄いぞ!」
「試合で投げるのは初めてだけど、ちゃんとコントロール出来てたね」
山崎さんが言うように練習ではコントロールが中々出来なくて、この試合がぶっつけ本番みたいなものだったよ。
(でも今の1球で感覚は掴めた……。これで投球の幅が広がるね)
「後でそのSFF、私にも投げて!」
「タマちゃ~ん!朱里ちゃんと2人きりで練習してたなんて聞いてないよ~!」
「朱里ちゃん、珠姫ちゃんと2人きりで練習してたの……?」
この3人面倒くさいな。山崎さんも呆れてるじゃん……。っていうかこの回は中村さんからでしょ?
「……すみません。まさか朱里があんな球を隠し持っていたとは思ってませんでした」
「いやいや、この試合でうちがリードしてるのは間違いなく亮子のお陰なんだから、気にすんなよ!」
「そうそう!相手の一巡目を全員三振に抑えているなんて凄いよね!……まぁ私達も取られたアウトは全部三振だけど」
「……ありがとうございます。残りの4イニングに私の全てを賭けるつもりで頑張ります」
「……無理はしちゃ駄目だよ亮子ちゃん」
「二巡目だよ!ここでなんとか反撃しよう!!」
ここまで全員友沢のカーブとスクリューによって三振してるもんなぁ……。なんとかして突破口を作りたいところだけど……。
「……が……で、あのコースに……だから」
雷轟の方を見ると何かを考えているみたいだ。それならもう1人の両打ちに聞いてみるかな。
「息吹さん、友沢の球はどうだった?」
「凄いなんてものじゃないわよ。1打席目は朱里に言われた通りに右打席に立って友沢さんのスクリューを見たけど、バットが届かなくて……!」
「それなら次の打席が回ってきた時は……」
私は友沢攻略の為に息吹さんに耳打ちをする。
「……それ本気?」
「うん、本気」
「朱里がそう言うなら、私はそうするわ」
「ありがとう息吹さん」
これで雷轟が何かしら掴めると良いけど……。
『1番 ファースト 中村さん』
(昨年の県優勝校相手に1点で踏ん張ってる朱里ちゃんの為にも打ちたい……!)
『ストライク!』
(でもあのカーブは左の私じゃ踏み込んでも届かん……。フォーム崩して打っても大した当たりにはならんし……)
『ストライク!』
2球続けて友沢のカーブを空振りする中村さん。やっぱり1打席だけだと打つのは難しいのかな?
(ん?踏み込み、フォーム、大した当たりには……?)
(何を考えているか知らないが、次で三振だ!)
(……やってみる価値はあるかも。一発勝負やけど、決める!)
友沢のカーブに対して中村さんは踏み込みながらスイングするけど、それでもバットは届かない。
(よし、これでワンアウト……何!?)
カッ……!
不意にバットが飛び出てボールに当たる。
「えっ……?バットを手から放した!?」
(よし、上手くいった!)
中村さんは打球が内野の頭を越えたのを見て一気に走り出して二塁打となった。これで友沢の完全試合は阻止出来たけど……。
(まさかあんな方法で友沢のカーブを攻略するとはね……)
これには敵どころか味方もびっくりしていた。私もびっくりだよ。
「あのカーブに左打者がバットを届かせるのは不可能かと思いましたが……」
「届いたね。それもとんでもない方法で……」
「アタシも真似したら同じように出来るかな?」
「普通は出来ないよあんな事……。たまにバットがすっぽ抜けてそれが偶然ボールに当たるっていうのはあるかもだけど、それがヒットになるなんて無理だもん」
「球が力のないカーブだった事と、適したタイミングで捉えたからこそ、内野の頭を越してヒットになったのでしょう」
「人間業じゃないよね~」
「多分偶然だとは思いますが……」
……ともかく私の打順か。
(とりあえずストレートとスライダーはなんとか当てられるから、それが来たらカットしつつ右打者に対するスクリューの対策を考えるか)
『2番 ピッチャー 早川さん』
(一打同点のピンチで朱里か……。私のカーブやスクリューが簡単に打たれるとは思わないが、先程の中村の事もある。油断は出来ないな)
あっという間に追い込まれた私はスクリューが打てる筈もなく、呆気なく三振。中村さんみたいにバットを放ろうと思ったけど、余計な事して怒られるのもあれだしね。
「……朱里ちゃん、友沢さんのスクリューはどんな感じだったの?」
ベンチに戻ると雷轟が友沢のスクリューについて聞いてきた。
「左打者に対するカーブと余り変わらないよ。強いて言うならスクリューの方が球質は重いと思う」
「……わかった。ありがとう!」
そう言って雷轟はネクストサークルへ歩いていった。今ので何かわかったのかな……?
3番の山崎さんはバントでランナーを進めようとするも、スクリューがバットに当たらず三振。バントの構えをした山崎さんにスクリュー以外の球を投げなかったな……。
「……が、……をして、あのコースだと……は」
雷轟は何かを呟きながら再び左打席に入る。
(4番の雷轟……。諦めているという気配は感じられない以上は全力のカーブで抑える!)
『ストライク!』
「……だと、……を意識して」
『ストライク!』
「……なら、次の打席に……を」
『ストライク!バッターアウト!!』
な、何を呟いてたんだろう?三振しちゃったけど……。
「どうしたの遥ちゃん?何か考え事?」
「……ううん、何でもないよ。ただ希ちゃんのお陰で何かがわかりそうだけど……」
雷轟は中村さんの曲打ちによって何かヒントを得られたようだ。
(本当の勝負の行方は最終回までわからない……か)
それなら私達の出来る事はそんな雷轟の前に1人でも多くのランナーを出す事だ。あと相手にこれ以上点を与えない。
「雷轟さん、大丈夫かな……?」
「3球全て見逃しでしたからね。打つ気がないと諦めていないと良いのですが……」
「う~ん……」
「いずみちゃんどうしたの?」
「いや、アタシならどうやって亮子のカーブを打とうかなって考えてて……」
「……迷惑行為になりますので、中村さんがやったようにバットを投げる真似は止めてくださいね」
「やらないよ!アタシの事をなんだと思ってるのさ?」
「今時ギャル……でしょうか」
「いずみちゃんって見た目がどう見てもギャルだもんね」
「まぁ自覚はあるけどさぁ……」
これで4回が終了。1対0で咲桜高校がリードというたった1点差が苦しい展開になっている。
今はグラウンド整備の為に私達は体を休めている。
(ここまでのアウトがお互い全部三振とか凄い事してるなぁ……)
友沢に至っては本職はショートだからね?それなのになんであんなエグい曲がり方するカーブとスクリューが投げられるんだろうね。いっちょんわからん。
(朱里の投球パターンがあのSFFで更に広がった……。ただでさえ朱里から打つのが難しいのに、あんな球を見せられたらもっと打てなくなる。この1点がなかったらどうなっていた事か……)
(この試合は投手戦。現状は点を取られている私が劣っているけど……)
(これだけでは有利とは言えない……)
(まだ試合は終わっていない。私自身もこれ以上打たせない)
(だから7イニングを完璧に抑えてやる……!)
(友沢には……)
(朱里には……)
((負けられない!!))
絶対に……負ける訳にはいかない!
遥「4回終了!」
朱里「ここまでお互いの安打数は1本ずつ……」
遥「友沢さんのホームランと希ちゃんのヒットだね」
朱里「果たしてあれをヒットと呼んでも良いのか……」
遥「それにアウトが全部三振なんて凄いよね!」
朱里「……友沢の本職はあくまでもショートだからね。私達は野手にここまで抑え込まれているんだよ」
遥「それでも私は打つよ!」
朱里「そういえば2打席目になんかブツブツ言ってたね。何を言ってたの?」
遥「それは次回のお楽しみだよ!」
朱里「次回で咲桜戦は終わりだね」
遥「絶対に……打つ!」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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