呼び鈴が鳴ったので、玄関のドアを開けるとそこには山崎さんがいた。
「……私、山崎さんに家の場所教えたっけ?」
別に隠している訳じゃないけど、そういった話題がなかったから特に私からは何も言ってないんだよね。
「えっと、二宮さんから聞いた……」
にーのーみーやー!私の個人情報を何だと思ってるんだよ!?
「まぁ良いや……。今日はどうしたの?」
「明日って決勝戦でしょ?だから……」
「美園学院の情報の整理?それともバッテリー練?」
それなら芳乃さんと明日先発の武田さんも呼んだ方が良いと思うけど……。
「あっ、そうじゃなくて……」
……?なんか言いにくそうにしてるけど、どうしたんだろう?
「言いにくい事?」
「ううん。……明日の決勝戦で負けちゃったら朱里ちゃんとお別れだと思ってしまうと、少しでも長く朱里ちゃんと一緒いたくて」
な、なんかこの子急にこっちが恥ずかしい事言ってくれるんだけど?しかも顔を赤くしちゃって……。
「……私は別に良いけど、山崎さんは何かしたい事とかある?」
「わ、私はなんでも……。朱里ちゃんは?」
「私はこれから自主練するか、二宮達の試合を観に行くかを考えてた」
「それって県外……だよね?」
「そうだよ。向こうがわざわざ私達の試合を観に来てくれてたから、そのお礼も兼ねてね」
「確かに……。自分達の試合があるのに、私達の試合を遠路はるばる観に来てくれたんだよね」
まぁそれがなかったら山崎さんが私の事情について知る事もなかったんだろうなぁ……。
「……それで山崎さんが来たんなら丁度良いから、二宮のいる白糸台高校の試合を観戦に行こうって今思ったんだけど、どう?お金とか大丈夫?」
「うん、それは大丈夫」
「それなら行こうか。白糸台の試合なら今から行くと試合開始前には着くと思うよ」
私は山崎さんを連れて西東京予選の会場に行く事に。途中で武田さんも誘おうと思ったけど、山崎さんは私と2人が良いとの理由で断られた。何故私と2人が良いのだろう?
~そして~
電車で2時間程移動して、そこから歩いて10分。西東京予選の会場に到着!日程を見てみると丁度第1試合が終わったところだ。
白糸台の相手は松庵学院か……。松庵学院は白糸台にここ2年間ずっと負けているけど、それでもシードを守り抜いている強豪校だ。というか白糸台が優勝する2年前までは全国常連の高校なんだよね。
(2年前といえば神童さんが白糸台に入った年から……。神童さんが入学した事によって全国出場を連続で決めただけじゃなく、春夏で4連覇を成し遂げている。今年で春夏5連覇の記録を出せるか野球好きは皆注目をしている)
あわよくばそれを破るのが私達新越谷だったら良いんだけどね。
「朱里ちゃん、ここが空いてるよ」
「ありがとう」
山崎さんが見付けた席は真ん中付近の席で、全体が見やすい良い席だ。
白糸台は後攻のようでそれぞれの選手達が守備に着く。
「あれ?投手が神童さんじゃない……?」
「神童さんは決勝戦で投げるつもりだろうね。今マウンドにいるのは2番手の新井さん。高校生の中で2人いるかわからないジャイロボールの使い手だよ」
「ジャ、ジャイロボール!?それってプロでも投げられる人が少ないあの……?」
「そうだね。新井さんの球はハイスピンジャイロと言ってストレートの回転軸が打者に向かって進み、手元で伸びるようになってとても打ちにくいんだよ」
「そんな凄い球を投げる人が2番手って……」
「白糸台じゃなかったら100%エースだろうね。しかも新井さんは2年生……。神童さんの後釜とも言われている投手なんだ」
(正直新井さんのピッチングが見られるのはラッキーだね。私のストレート主体のピッチングをこれからどうするか考える為にも色々学ばせてもらおうか……!)
新井さんが1球目を投げる。
ズドンッ!
『ストライク!』
「は、速い……!」
「熊谷実業の久保田さんよりも速い。高校生でこれよりも速い球となれば洛山高校の大豪月さんくらいしかいないと思うよ。神童さんは変化球中心の投手だし」
(それに加えて新井さんはコントロールも抜群だ。これも二宮の影響だろう……。去年までの新井さんはノーコンで、投手を余りやらせてもらえなかったって話だからね)
それでもあれくらいの球速は出てた。春大までの新井さんなら攻略法はあるけど、今の新井さんは隙が見当たらない……。
(相変わらず二宮は投手の力を引き出すのが上手い。しかも他にも二宮のお陰で投手力が上がったっていう話も聞いた事があるし、今年の白糸台は去年よりもかなり強いだろうね……)
それに今日のスタメンは二宮以外は全員2年生。これは3年生が引退した後の戦力がどんなものか確かめる為なんだろうけど、大会の準決勝でよくやるよ……。
~そして~
試合は0対6で白糸台の勝利。新井さんもノーヒットノーランの記録を叩き出した。
「す、凄い試合だったね……」
「そうだね」
2年生と二宮しか出てないチームなのに、打撃力は全員クリーンアップクラス。二宮も2安打3打点と大活躍……。終始危なげのない安定した野球だった。
「朱里さん?それに山崎さんも……。観に来てくれたんですね」
球場を出ると二宮に声を掛けられる。横には神童さんと新井さんも一緒だ。この2人が一緒だと二宮のちっちゃさが際立つなぁ。
「まぁ私達の試合を毎回観てくれてたみたいだしね」
「勿論決勝戦も応援に行きますよ。その日は練習も休みですので」
「その日はうちの決勝戦前日なんだがな……」
神童さんが呆れながら言うけど、私達も明日決勝戦なんだよね。
「しかし早川と山崎が観に来てたのか……。私のピッチングも見せた方が良かったか?」
「いえ、新井さんのピッチングを丁度生で見たいと思っていたので、今日は来て良かったです」
「ほほう?私のピッチングを見たかったとはお目が高い」
「新井さんは試合終盤になると球が荒れ始めるのが今後の課題ですね。3年生が引退したら新井さんがエースになるんですから、それまでに荒れ球をなくしましょう」
「うっ……!良いじゃん!今日はノーノー決めたんだからさ」
「駄目です。全国の強豪はその隙を突いて崩しに行くんですから、早めに対処するに越した事はありません。朱里さんなら既に幾つか対策が浮かんでいても可笑しくないですから」
二宮が偉く私を持ち上げているんだけど……。確かに私ならあそこの四球から突破口が3パターンくらい思い浮かんだけど、それも白糸台と当たる頃にはケアが終わってそう。
(それに私達と当たった時だと神童さんが投げる可能性が高いだろうし……)
二宮達との挨拶を終えて帰路に着く。
「……あれが王者白糸台の野球なんだね」
「そうだね。新井さんの方はまだ付け入る隙があるけど、それをカバーする守備力と、後続の投手も梁幽館の中田さんクラスがゴロゴロいるからね。どんな投手が私達に当ててきても厳しい戦いになるのは間違いないよ。流石春夏4連覇を決めたチームだ」
そこに二宮が入った事で投手の層がかなり厚くなった。二宮は投手の力を引き出すのが上手いからな……。私も助けられた事があるし、神童さんもお世話になった事もあるみたいだし。
「……私達、勝てるかな?」
「まぁ今のままじゃ無理だろうね。そもそも敵は白糸台だけじゃないし」
「……っ!」
清本がいる洛山高校と金原がいる藤和高校、他にも川越シニア出身の同期や先輩達がそれぞれ散り散りになっているし、勿論その高校の地力も高い。私達は全国から数えたら良いとこ中の下って感じだろう。
「それでも経験を積めばもしかするかもね」
「経験……」
「芳乃さんや藤井先生の話だと全国出場が決まったら合宿をするって言ってたし、試合経験を積んで、私達の長所を伸ばして、課題を克服すれば白糸台相手に良い勝負が出来ると思うよ」
まぁ向こうも同じように強くなっているだろうから、差が縮まるかどうかは私達次第……かな。
「そう……だよね」
「……なんか試合観てたら練習したくなってきたよ。山崎さん、付き合ってもらえる?」
「うん……。わかった」
明日はいよいよ決勝戦。全国の切符を絶対に掴んでやる!
遥「明日はいよいよ決勝戦!相手は美園学院だよ!」
朱里「春には全国出場を決めている強豪だから、どうなるか……」
遥「準決勝みたいな投手戦かな?」
朱里「可能性はあるだろうね」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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