試合は進んで7回……。あれからも武田さんと園川さんは互いに譲らずの投げ合いになっており、どちらもランナーを出しながらピンチを凌ぐ……。これを5回裏、6回表、6回裏と繰り返し、最終回まで2対2の接戦が続く。ちなみに雷轟は3打席目も歩かされていたよ。
(あれから雷轟がエラーをしなくて良かったよ……。やっぱり今後の雷轟の課題は守備……というよりは捕球だね。誰に雷轟の捕球率アップを頼もうかな?)
まぁそれはさておき、7回表は6番の藤原先輩から。藤原先輩はこの試合でも園川さんのストレートとシュートに着いていっている。ただ三森3姉妹の守備がヒットを打たせてくれないだけで……。
園川さんの初球はストレート。内角高めの良いコースだ……。これは並の打者なら手は出せないけど……!
カンッ!
藤原先輩は初球から打ちにいき、その打球はレフトに飛んでヒットとなった。
(……ここにきて皆が3姉妹の射程距離外に狙い打つ事が出来るようになってきたね。特に主将と藤原先輩と中村さんは上手く成果を出している)
あとの人達は惜しくもアウトになったり、3姉妹の守備範囲内までしか飛ばせなかったりしている。それでも充分凄い事なんだよなぁ……。
(この試合がどう転んでも新越谷の打撃レベルが大幅に上がった事は間違いない。あとはこの決勝戦に勝てるかどうかだけど……)
出来れば勝ちたい……。勝って全国で待っている二宮達とも戦いたい、勝って私は新越谷で野球がしたい。今ではそんな想いがふつふつと沸いてくる。この気持ちを何かにぶつけたい!
「息吹さん、ちょっとキャッチボールに付き合ってもらっても良い?」
「別に良いけど……。どうしたの?」
「ちょっとね……。それに武田さんは相当な球数を投げさせられてるから、延長戦に入った時の事を考えて肩を作ろうと思っててね。良いよね芳乃さん?」
「そうだね。ヨミちゃんがあとどれくらい投げられるかわからないし、息吹ちゃんと朱里ちゃんには肩を作っててもらおうかな?」
「了解」
「わ、わかったわ!」
芳乃さんからの了承も得たので、息吹さんとキャッチボールをしながら、マウンドを見る。
川崎さんは送りバントでランナーを二塁に進めた。川崎さん、バント上手くなったな……。これでワンアウトランナー二塁。
(今度は上手く決まって良かったぜ……。正直セカンドかショートに転がしてたらゲッツーだったかもだし……)
続く大村さんは園川さんのストレートを当てて外野まで飛ばすけど、深く守っていた外野が捕球してツーアウト。しかしその隙を突いて藤原先輩は三塁へタッチアップを決めた。
『9番 ピッチャー 武田さん』
「これは勝負は延長戦に入りそうね……」
「あんま流れは良くねーな」
これ完全に武田さん信用されてないじゃん……。
「こらこら。まだアウトにもなってないのに、決め付けるのは良くないよ。それに……」
「それに?」
「この打席の武田さんは期待出来るかもよ?」
打席に入った武田さんの表情からは闘志が伝わる。これは雷轟と毎日打撃練習をしていた成果が現れるかも……!
ここで時は大会前に遡る……。
「はいっ!」
武田さんは打撃練習をしているが、中々手応えのある当たりが出ていない。
「ヨミって練習が好きな割に打撃はてんで駄目だよなー」
「うう……!」
「でもスイングは悪くないけん、あとは上手く当てれば……!」
「なんで上手く打てないんだろ……?」
武田さんは打撃に手応えがなくて落ち込んでいた。
「武田さんと似たようなスイングをしている子がそこにいるから、何か参考にしてみたら良いんじゃない?」
「ヨミちゃんと……?」
「似たようなスイング……?」
私がそう言うと皆は視線を前方に移す。
カキーン!カキーン!カキーン!
「よし!もう1本!!」
「うわぁ……。相変わらず遥のバッティングはエグいな」
「私も負けられん……!」
「雷轟のスイングは武田さんのスイングと類似しているから、何か得るものがあるかも知れないよ」
「遥ちゃーん!」
早っ!もう行動に移してる。
「どうしたのヨミちゃん?」
「私、全然打てなくて……。そこで打ちまくってる遥ちゃんにバッティングのご教授をと……」
「私で良かったら全然良いよ!まずはね……」
雷轟は武田さんに打撃のコツを体を使って教えている。
「足の踏み込みとかも思い切ると打球が前に飛びやすくなるよ」
「ふむふむ……」
なんか思っていたよりも上手く教えられているね。雷轟って感覚派だから人に教えるのに向いてないと思ってたけど、武田さんも雷轟の教えに理解を示している。
カキーン!
「やった!前に飛んだ!」
「この感覚を忘れない内にじゃんじゃんいこう!」
「うん!」
まぁ武田さんが雷轟と同じ感覚派かもしれないという事は私の胸の中に仕舞っておこう……。
……あれから毎日武田さんは雷轟と打撃練習をしていたから、その成果を影森戦でも発揮出来た。園川さんもかなりの球数を投げて球威が落ちているから、武田さん次第ではヒットを打つ事も夢じゃない。
「ヨミちゃんファイトー!」
「勝ち越しのチャンスです!」
「打てーっ!!」
(皆の期待を背負ってる……。遥ちゃんと毎日練習した成果をここで発揮する時!)
(最終回で少し球威が落ちてきたわね……。でもツーアウトだし、全力で投げ抜くわ)
『ストライク!』
園川さんの1球目はシュート。迂闊に打ちにいくと間違いなく詰まらされる。園川さんの決め球だと言っても過言じゃない。武田さんは落ち着いているのか、シュートを見送る。
(これじゃない……)
2球目に投げたのは逆を突くスライダー。武田さんはこれも見送った。
『ストライク!』
(これも違う……)
「お、おい。追い込まれたぞ?」
「確かに追い込まれたね。でも武田さんの表情を見てみなよ」
「ヨミちゃんの……!」
バッターボックスにいる武田さんはこれまで見た事のない程の集中力とかつて雷轟が友沢の球を打つ時と同じ表情をしていた。
(ヨミちゃんのあんな顔……見た事ない)
(遥ちゃんも言ってた……。長打……特にホームランを打つ時は集中して、その時に得た集中力を全て打つ時に使い果たすって)
どうやら次の1球で決まりそうだね。
(横の変化球2つにはぴくりとも反応しなかった……。手が出なかったとは思えないけれど……)
(3球で決めるぞ。こい!)
(ええ、わかってるわ)
((ストレートで抑える!!))
園川さんが投げた3球目……。それはこの試合で最速であろうストレートだった。結構な球数を投げてるのに、まだあそこまでの球威になるのか……。
(いけ、ヨミちゃん。練習を思い出して……!)
(遥ちゃんとの練習を思い出して打つ!!)
「はいっ!!」
カキーン!!
そのストレートに武田さんは完璧にタイミングを合わせた。それと同時に三塁ランナーの藤原先輩はホームに走った。
打球はセンターに。園川さんのストレートが重かったのか、打球が失速していっている。前進していたセンターの三森夜子はそのボールを一生懸命追い掛けている。
『いけーっ!!』
私達の想いが届いたのか、落ちる事なくセンタースタンドにスッと入っていった。つまり……。
「や、やったー!」
「ホームランだ!」
「ヨミの奴……。打ちやがった」
「凄いよ!ヨミちゃん!!」
(あれが雷轟との練習で得た武田さんのバッティングだね。ギリギリだけど、入って良かったね)
これで4対2……。私達の優勝に王手だ!
「い、今のホームランは熱かったねー。アタシ心臓がバクバク言ってるもん」
「入るか入らないかの瀬戸際……。打力が低い武田さんだからこそ打てたホームランですね」
「ウム、あれも私好みのホームランだな!ピッチングと言い、武田詠深は中々骨のある奴だ!!」
「大豪月さん、嬉しそうですね~」
「あのホームランを見ていたら練習したくなったぞ。非道!清本!帰って練習だ!!」
「了解です~」
「わ、わかりました」
「……私達も帰るか」
「そうですね。あのホームランが間違いなく決勝点ですし、埼玉県代表は新越谷高校で間違いありませんので」
「じゃあアタシも帰って練習しよっと☆」
(流石にここから負けるような事はないでしょう。おめでとうございます朱里さん……)
『ストライク!バッターアウト!!ゲームセット!!!』
7回裏、武田さんによる三者連続三振で試合が終わった。
『4対2で新越谷高校の勝利!』
この瞬間、私達新越谷高校の全国出場が決まった……!
遥「つ、遂に私達が試合に勝ったんだね。県大会で優勝したんだね……?」
朱里「そうだね。次は全国で試合だよ」
遥「……でも最後に決めたのがヨミちゃんだったのは意外だったね」
朱里「そうでもないよ。武田さんは素晴らしい投手だ……。良い投手っていうのは本来打撃も良いんだよ。決めるべくして決めた……ってところだね」
遥「次はいよいよ全国大会だね!」
朱里「その前に何話か閑話と番外編を挟むと思うけどね」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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