4回表。こちらの投手は息吹さんから藤原先輩に代わる。
他の守備位置としては息吹さんがライトに、レフトにいた中村さんがファーストに、ファーストにいた武田さんがサードに、サードにいた雷轟がレフトになった。
(向こうは投手を代えてきたか……。藤原も最近目覚めたジャイロボーラーとして警戒が必要だな。というか素人集団のうちが打てるのか?)
(藤原先輩がジャイロボールを投げるのはもう向こうにも知れ渡っているだろうね。この試合の方針によって藤原先輩はショートリリーフだから多く投げて1イニング半……。なるべく向こうには打たれないようにしたい)
そんな藤原先輩の1球は……。
ズバンッ!
『ストライク!』
今日もジャイロボールがノビているね。この回は下位打線だし、そこまで酷い展開にはならないと思うけど……。
「凄っ!藤原さんっていつからジャイロボールを投げられるようになったの!?」
「お披露目したのは全国大会の1回戦からですね」
「そっかー。アタシは試合だったから見られなかったんだよね」
「先発の川口息吹と言い、今の藤原と言い、そして武田、早川と……。新越谷は選手層が薄いように見えるが、投手陣は優秀名のが沢山揃っているな!」
「そうですね~。野手のレベルも全国レベルまで成長していっていますね~。一部の選手はその中でもトップクラスかも~」
「それでも何人かは拙い部分が見え隠れしてるがな。その辺りが新越谷の今後の課題になるだろう」
「言い方は悪くなるけど、新越谷がここまで勝ち上がってきたのは投手戦を制したお陰な試合が9割を占める。梁幽館や咲桜、美園学院、そして白糸台も投手戦に勝ってきた結果だと思う」
「まぁ熊谷実業や永水や洛山みたいに打線に火が点く試合もあるけど、格上相手にはどうしても武田、早川、雷轟の3人に依存しがちなのが目立つな」
「実力面でも精神面でも、良くも悪くも依存する……か」
「この試合は清澄側も新越谷と似た部分が多いから、良い勝負をしているように演出してるね」
「清澄は宮永さんと天王寺さん以外はこの春に野球を始めた人ばかりですからね。それよりも……」
「もぐもぐ」
(宮永プロはすっかり馴染んでいますね。藤原さんがジャイロボールを投げたのを見ても特に反応していませんでしたし、彼女にとっては取るに足らない球……という事でしょうか?)
「これも美味しい」
『ストライク!バッターアウト!!』
藤原先輩のジャイロボールに清澄の下位打線は対応しきれず三者凡退となった。
『セットアッパーの藤原選手、清澄の打線を三者凡退で終わらせました!』
『藤原選手が投げたジャイロボールに対応出来なかったみたいですね。次の上位打線が彼女の球に食らい付けるかが見物です』
藤原先輩は次のイニングで投げて3人まで。次の回の清澄は上位に回ってくるから、タイミングを見計らって次の投手を投入するつもりだ。
「さて……。そろそろ肩を作りにいくかな。武田さん、ブルペンに行こうか」
「私も?」
「いつでも投げられるようにしておいて、どちらが先に投げるかも状況を見て決めようかなってね」
「まぁ私も早く投げたいし、良いよ!」
「そう言ってもらえると助かるよ」
私は武田さんを連れてブルペンへと向かった。
「……芳乃ちゃん、理沙先輩の次に投げるのってまだ決まってないの?」
「……一応私の中では次に投げるのは決まってるんだけど、朱里ちゃんにも相談してからになるかな?」
「そうなんだ」
(朱里ちゃんの中ではこの試合のプランは決まってるって事なんだろうけど、それならなんでヨミちゃんと一緒にブルペンに行ったんだろう……?)
「ナイスボール!調子は良いみたいだね」
「うん、私はいつでも絶好調だよ!」
「それは良かった」
武田さんとブルペンで軽く投げ合ってお互いに肩を作る。私自身捕手は出来ないけど、武田さんのあの魔球を5回に3回は捕球出来るくらいには技術を身に付けた。
「……こうして朱里ちゃんと2人きりになるのって初めてだね」
「そういえばそうだっけ……」
武田さんと練習する時って投手の投げ込みが中心で捕手の山崎さんがよく一緒にいたし、全体練習でしか武田さんと絡んでないかも。
「……ありがとね朱里ちゃん」
「どうしたの?急に……」
「私がここまで野球を続けられて強くなったのって朱里ちゃんのお陰だから……」
「私は一緒に練習してるだけで、特にこれと言って何かをした訳じゃないよ?」
本当に。その理論でお礼を言われるなら、私も武田さんを始めとする新越谷の皆のお陰でグッと成長出来た。
仮に強豪校のスカウトに応じていたらここまで成長は出来なかっただろう。それは少ない人数ながらも互いに助け合って、苦楽を共にしたから今の私達があるんじゃないかと思っている。
「うん……。でも私やタマちゃん、遥ちゃん、芳乃ちゃん、息吹ちゃん、理沙先輩、他の皆だって朱里ちゃんがいなかったらここまで来れなかったよ。全部朱里ちゃんのお陰」
そ、そこまで称えられる事をした覚えはないんだけど……。
「……それを言うなら私もだよ。皆がいたから私はここまで成長出来た」
「……朱里ちゃんは本当に優しいね。自分の意見を押し殺して皆の成長を優先させる。朱里ちゃんだって自分の練習がある筈なのにも関わらず私達の成長を第一にしてくれた……」
な、何を言っているのだろうか……。
「私ね、聞いたんだよ。県大会で優勝出来なかったら朱里ちゃんが新越谷を離れちゃう事を……」
「武田さん……」
何故武田さんがそれを知っているのか……という無粋な事は聞かない。山崎さんがこっそり武田さんに話したのか、山崎さんの時折見せる悲しそうな表情を察して強引に聞き出したのか、二宮と山崎さんの会話を盗み聞きしていたのか……。
「……でも朱里ちゃんは自分を優先せずに、そんな辛い状況にも泣き言を言わずに頑張った。全国行きが決まってから朱里ちゃんがイップスに陥った時も誰にも頼らず黙々と1人で解決しようとしてた」
それを言われると痛いな……。
「私は誰にも迷惑を掛けたくなくて……」
「うん、それが朱里ちゃんの優しさなんだと思う。県大会の事も朱里ちゃんが私達に伏せてたのはそれを気にし過ぎてプレーに支障が出ないようにする為になんだよね?」
「……まぁね」
「だからその事で私は朱里ちゃんを責められない。私が同じ状況に陥ってしまったら私も朱里ちゃんと同じようにしてたと思うから……」
「武田さん……」
「だからこれからはそういう事も皆で分かち合おう!勝利の喜びも、敗北の悲しみも、全部全部!」
はは……。敵わないな。そういう部分も含めて武田さんを見習わないといけないね。
「そうだね。ありがとう……ヨミ」
「えっ?朱里ちゃん?今名前で……」
うわぁっ!また聞こえてた!?これで前科2犯だよ!
「ねぇねぇ!もう1回名前で呼んでよ!!」
「恥ずかしいから却下!」
山崎さんの時と同じミスをした私はこれも山崎さんと同じように2人の時だけは名前で呼ぶ事で妥協してもらいました……。
遥「朱里ちゃん……?」
朱里「……何かな?」
遥「私も名前で呼んで!」
朱里「やだよ」
遥「1回だけ!1回だけだから!!」
朱里「恥ずかしいから嫌」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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