宮永さんにホームランを打たれたものの、4番の鏑木さんを三振に抑えてスリーアウト。7回表が終了して、あとは7回裏。私達は追い込まれているのだ。
「ふぅ……」
(結局宮永さんには1度も勝つ事が出来なかったか……。私が成長している分も宮永さんも成長している……って事だね)
宮永さんはプロになるのだろうか?いや、その前に宮永さんが高校にいる内にリベンジを果たしたいところだ。
(朱里ちゃん……)
なんか皆の視線を感じる……。やはり私が踏ん張り切れなかったから、怒っているのだろうか?実は私負け投手になるの初めてなんだよね……。
「朱里ちゃん!」
「ら、雷轟……?」
「ナイスピッチだよ!」
「いや、私は打たれたんだよ……?」
「確かに宮永さんには打たれちゃったけど、その時の朱里ちゃんが投げた球からは魂を感じたよ!」
何それ?レフトからでもそういうの伝わるの?
「遥ちゃんの言う通りだよ。それに朱里ちゃんは頑張り過ぎ」
「が、頑張り過ぎ……?」
芳乃さんは頑張り過ぎって言ってるけど、私なんてまだまだ精進しないといけないのに……。
「確かに……。私達は朱里に頼り過ぎたのかもな。キャプテンとしても情けないよ。今までの試合で朱里に助けられたし。お疲れ様」
「そうね……。むしろ私達が先輩としてこれから朱里ちゃんを支えたいかないとね。もちろん他の皆もね」
主将も藤原先輩もこんな私を慰めてくれる。正直申し訳ない気持ちでいっぱいです……。
「ありがとうございます……。それと私が打たれたせいで試合に負けそうになって申し訳ありませんでした」
私は頭を下げる。渾身のストレートを打たれたし、宮永さんは本来歩かせるべきだった。
「……朱里ちゃんだけのせいじゃないよ。失点はチームの責任だからね」
「芳乃さん……」
「芳乃ちゃんの言う通り。朱里ちゃんのお陰で私達はここまで来れたって思っとーよ」
「中村さん……」
「朱里にはバッティングについてアドバイスをもらったし、自分のバッティングの見直しも出来たわ」
「私もな。左打ちの練習に付き合ってくれて助かったぜ!」
「藤田さん、川崎さん……」
「私も一球入魂を教えてもらいました!」
「ミーティングでも朱里の意見はとても参考になるしな」
「大村さん、主将……」
「私達は朱里ちゃんに新しい球種を教えてもらったわ」
「朱里の決め球だったシンカー、良い感じで曲がるようになったわよ」
「藤原先輩、息吹さん……」
やっぱり新越谷の人達は優しい人しかいないね。
「朱里ちゃんは新越谷の影のエースだよ。梁幽館戦で私がピンチだった時に火消しをしてくれた事……今でも感謝してるよ!」
「朱里ちゃんが投げる球は安心感があるから、ミットにボールが収まった時にいつも心強いって思うよ。今回は宮永さんに打たれちゃったけど、朱里ちゃんなら次は負けないよ。きっと」
「武田さん、山崎さん……」
本当に、私は良いチームメイトに出会えた。リトルシニアでも二宮、清本、金原、友沢、橘を始めとする他のチームメイトも素晴らしい人達だったけど……。
「私、朱里ちゃんに出会えて良かった。朱里ちゃんがいなかったら野球出来なかったもん……。朱里ちゃんがいたから野球がこんなに楽しいんだってわかったよ!」
「雷轟……」
シニアで活躍してから数々のスカウトがきていた。それを全て蹴って新越谷に入学したのはある人からの指令ではあるけど、そのお陰で最高のチームメイトと出会えた。
(過去に不祥事こそあったけど、今の新越谷は最高のチームだ。あの子もこの試合を観ていたら……そんな新越谷に力を貸して欲しい)
「ありがとう……」
私がそう呟くと皆は嬉しそうに(特に雷轟、武田さん、山崎さん、芳乃さん)その言葉を受け止めた。
「……さて!1点負けている最終回。正直刀条さんのクセ球はまだ攻略には程遠い。作戦と呼べるものはないけど、最後まで諦めずに、狙い球を絞ってバットを振っていこう!」
『おおっ!!』
この回は1番から。点を取るチャンスはまだまだ全然ある。
『1番 ファースト 中村さん』
(刀条さんは球種こそ多いけど、どれも決め球と呼ぶにはレベルが足りない。強いて言うなら大村さんに投げたストレートくらいか……)
カンッ!
中村さんは初球打ち。打球は一二間を破るヒットとなった。
(ここにきて楓が捕まり始めた……。本来野手の楓にここまで投げさせるのはやり過ぎたかも知れないけど、新越谷はまだ楓のクセ球は攻略出来ていない。大村のホームランが出た時は焦ったけど……)
(今の打球がサードに飛んでいたら確実にアウトだった……。サード方面に気を付けて打てばそこまで清澄の守備は堅くない筈)
『2番 キャッチャー 山崎さん』
ここで不味いのはゲッツーを取る事。1点ビハインドの最終回だけど、安定行動を……。
コンッ。
一塁線にバント。大切なのは確実にスコアリングポジションにランナーを進める事だ。
『アウト!』
これでワンアウト二塁。
『3番 センター 岡田さん』
「まずは同点です!」
「いけーっ!打点マニア!!」
それ久々に聞いた。そのお株は雷轟や藤原先輩の方が相応しいと思うし、今の主将はどちらかと言うと安打マニアじゃないだろうか?
カンッ!
主将の打った打球は鋭いショートゴロ。守備位置からも三塁がアウトになる事はなさそうだ。
(まだだ……。絶対に繋ぐ!)
主将が決死のヘッドスライディングを見せる。その結果は……。
『セーフ!』
「やった!」
「これでワンアウト一塁・三塁!」
チャンスではあるけど、下手を打てばゲームセットになりうるピンチでもある。
『4番 レフト 雷轟さん』
(ここで雷轟か……。恐らく歩かされるだろうから、実質ワンアウト満塁で藤原先輩に回る)
向こうの守備力を考えてもこの試合は藤原先輩に託されたようなものだ。そう思った時……。
『ストライク!』
は……?
(えっ?勝負するの?てっきり歩かされると思っていたけど……)
私だけじゃなく、新越谷の皆も、特に雷轟が今のストライクに驚いていた。
(本来なら雷轟遥もこの次の藤原も私の見立てだと勝負を避けるべき2人だ。でもそうすると押し出しで同点になってしまう……。それ故にさっき岡田を打ち取れなかったのが痛い)
(天王寺さん曰くもしもその2人と勝負せざるをえなくて、どちらかと勝負をするとしたら、経験値の少ない雷轟遥だ……と言っていた。それなら私は天王寺さんを信じるまでです)
(勝負……してくれるんだ。この試合、どこか私は諦めていた。私じゃ決勝戦では力になれないんだって……。ホームランを打てない私に価値なんてない……。そう思ってた。今日もトンネルしちゃったし)
『ストライク!』
(でも違った。新越谷の皆はそれを気にしなくても良いと言ってくれた。朱里ちゃんは歩かされた時に備えてのチャンスの広げ方を教えてもらった……。私は新越谷に必要とされてるって嬉しくなったんだ)
雷轟が追い込まれた……。でも本人からはそのような表情を一切感じず、凄い集中力が解き放たれる。
(そんな新越谷の為に、中学のあの頃から色々してくれた朱里ちゃんの為に……)
3球目に刀条さんが投げたのは大村さんに投げたストレート……いや、もしかしたらそれ以上かも知れない。勝負所の全力投球だ。
(絶対に……打つ!!)
カキーン!!
(打たれましたか……)
(私の判断が甘かったのだろう。やはり雷轟遥は歩かせるべきだった。雷轟、藤原と連続で歩かせて押し出しにするのが1番正しい判断だったのかも知れない……。まぁ後悔はないけどな)
雷轟の打った打球はグングンと伸びていき、球場の遥か彼方上空へと飛ぶ文句なしの場外ホームランだ。
『ゲームセット!』
最終スコア……2対4で私達新越谷高校の全国優勝が決まった。
遥「…………」
朱里「…………」
遥「……やったね」
朱里「……そうだね」
遥「なんか不思議な気持ちだよ」
朱里「私もだよ」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
-
見たい
-
見たくない