ワンアウト一塁・三塁のピンチで阿知賀の安打製造機である原村さんが左打席に立つ。
(ここで原村さんを抑える事が出来たら流れは一気にこちらに傾く……。この試合最初の踏ん張り所だよ武田さん)
それに原村さんの打率は7割弱と阿知賀だけじゃなく、全国でもトップクラス。この人を抑えるのは難しいだろう。
カンッ!
(また初球打ちか……。阿知賀は徹底してカウントを取りに来る球を打ってくるな……)
武田さんが初球に投げる球はストレート、カットボール、ツーシーム、強ストレートの4種類。中でもストレートとツーシームが多い割合で投げている。
そしてコースとしてもアウトコースを読まれている可能性がある。これは梁幽館戦でもあったけど、武田さん……この場合は山崎さんとも共通して言える事で、これまでの試合も武田さんが投げる時は初球にアウトコースでくる確率は8割を越えていた。
(投手陣もそれぞれ何かしらの課題がありそうだ……)
武田さんの場合は投げるコースだったり、私の場合は無論スタミナだったり、渡辺は乱調気味の投球の克服だったり、川原先輩は制球力だったり……。
本職の投手じゃない藤原先輩と息吹さんにもそれぞれジャイロボールの対になれる変化球の取得だったり、球全体の球速向上だったりと私が見る限りだけでもこれだけの課題が見付かる。
(この辺りは芳乃さんや藤井先生にも相談してそれぞれの課題に取り組む必要があるね)
……それよりも今は目の前の試合に集中しよう。
状況は3番の原村さんが初球打ちで打ち取りはしたものの、三塁ランナーの高鴨さんがホームインして阿知賀が1点先制。後続の打者を凡退させて1回が終了した。
「なんとか1点で抑えたね」
「それよりも高鴨さんの足速すぎでしょ。県大会決勝で戦った三森3姉妹の事を思い出したわ……」
「案外三森3姉妹も山を走り回っていたりしてな!」
川崎さんが笑いながらそう言うけど、その冗談は笑えないんだよなぁ……。
『くしゅんっ……!』
「……3人同時にくしゃみをするとは思わなかったわ」
「山は冷えるからね。走り込みの為とはいえ流石に薄着し過ぎたかな……」
「誰かが私達の噂をしてるのかも……」
「それだけ私達が有名になったのかね?」
「夕香、夜子、走り込みを再開するわよ」
「了解、朝海姉さん」
「しかしあの大豪月さんがこの六甲山を息継ぎなしで自転車で登ったとは……」
「私達が偶然洛山に合わなかったらここにはいなかったものね」
「そして次こそは県大会を勝ち抜いて、私達美園学院が全国優勝を手にしてみせると意気込んで走り込みをしようとしたら偶然居合わせた大豪月さんがこの六甲山をオススメしてくれた……」
「あの屈強な上半身と強靭な下半身……。それ等を会得する為の参考の1つとして私達がこうして六甲山で走り込みをしている訳だけど……」
「……今考えても脈絡もへったくれもない」
「だよね……」
「夕香、夜子、無駄口叩かないで足を動かしなさい!」
「……朝海姉さんのスポ根な性格が大豪月さんと意気投合したのが切欠で、私達はここでかれこれ3日は走ってる」
「この次は上半身を鍛える為に大豪月さんが行った島まで足を運んで薪割りする事になったりして……」
「夕香姉さん、その冗談は笑えない……」
……で、2回表は雷轟の打順からなんだけど。
『ボール!フォアボール!!』
(やはり雷轟は歩かされる……か)
阿知賀の名捕手である新子さんは雷轟を歩かせる方針でいくようだ。
この夏大会を通して雷轟と清本の2人はバットに当てたらホームランは確実……と全国の高校で知れ渡り、余程の挑戦者でもない限りこの2人は常に歩かせる事にしているらしい。そう考えると極めたスラッガーというのも決して良いものではないかも知れない。
(雷轟もそうだけど、清本も大変だな……)
その後5番の藤原先輩、6番の川原先輩と続いて満塁のチャンスを作るが、ピンチに強い高鴨さんが3者連続で凡打に抑えて2回表も無得点となった。
(高鴨さんも武田さんと同じタイプなんだよね……。ピンチの状況でも決して動じず、目の前の打者に集中して投げる……まさしくエースに相応しい投手だ)
私が武田さんに劣っている1番大きな要因であり、私が目指すべき投手像でもある。
(今日は高鴨さんのピッチングも良く見ておこうかな)
何か参考になる部分もあるだろうし……。
遥「遥ちゃんは歩かされ続けて不満なのです!」
朱里「私に言われても仕方ないんだけど……」
遥「私も相手投手と勝負したいよーっ!」
朱里「熊谷実業なら勝負してくれるかもね」
遥「でもその試合ってカットされるって話なんだけど……」
朱里「……では次回をお楽しみに」
遥「目を反らした!?」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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