今日の合宿プログラムは全て終了して、後は食事、入浴、睡眠だけだ。
「疲れた……」
「練習メニューの数自体は多くないのに、もうクタクタよ……」
「ま、まぁ確かにハードな練習だったかもな……」
「そうね……。私と怜が1年生だった頃に受けたシゴキ並だったわ。あの人達とは違って永水の人達は無理はさせてなかっただけ良心的かしら」
しれっと藤原先輩がとんでもない事を言い出した。何があった去年までの新越谷野球部……。
(しかし私はもっと練習したい。初日だから練習量が少なかっただけかも知れないけど、私は何も掴めていない……)
雷轟は狩宿さん指導の内野手練で1段階上の練習をしていた。投手練では息吹さんが覚醒する切欠になる練習をしていた……。同じ投手練でも私以外は成長の兆しが見受けられる。
(もしかして私の成長はここで終わるって事……?シニアで同じチームだった二宮や清本、友沢に金原、橘も夏に比べて著しい成長を遂げているのに、私だけ……)
「朱里?」
そんな事を考えていると息吹さんが声を掛けてきた。
「ど、どうしたの息吹さん?」
「大丈夫……?」
「う、うん。私は大丈夫。私に用があるんだよね?」
「……朱里って左投げよね?」
「そうだね」
「光先輩にも左投げのアドバイスをもらったんだけど、両利きで、元右投げの朱里からも何か助言をもらえないかしら?」
成程……。確かに私は昔右投げだったから、今の息吹さんの練習において何かしらのヒントがもらえるのは確実だと思ったのだろう。
「……私もリトルの頃に似たような練習をやった事があるんだけど、その時に左投げで得た経験値をそのまま右投げで実行したんだよ」
「左投げで得た経験値をそのまま右投げで……?どういう事?」
「まぁ今は左投げの練習に専念した方が良いかもね。ある程度手応えが出てきたら岩戸さんから指示が出るだろうから」
もしも今息吹さんがやっている練習がリトル時代に私がやった練習と全く同じものならば、その内息吹さんがもう1度右投げで投げるように言われる筈……。その時に見られる息吹さんの進化が楽しみかも。
「……よくわからないけど、朱里がそう言うならきっとそうなのよね?わかったわ」
なんでこんなに信用されているんだろう?
食事と入浴の時間が終わり、就寝までまだ時間があるから、私は外の空気を吸いに行く事にした。
(それに色々聞きたい事もあるしね……)
尋ね人は都合良く私のうろつく先にいるかな……?
「あら、どうかしましたか?」
背後から声を掛けられる。声の主は石戸霞さんだった。神代さんも一緒にいる。そういえばこの2人も顔が似ているような……。
「少し気分転換にでもと思いまして……」
「そうなんですね」
笑いながら石戸霞さんは私の言葉を捉えた。
「……それで?私に何か要件があるのではないですか?」
(まぁそれもバレるよね……。少し視線を当て過ぎた気もするし)
……無駄な駆け引きはいらない。私は私の聞きたい事を直球で聞く事にした。
「……早川茜」
『!!』
母さんの名前を出すと2人共反応した。どうやら私の予想はほぼ当たっているだろう。
「この名前をご存知ですか?」
石戸霞さんも神代さんも母さんを知っているようでどう答えたら良いのか悩んでいる様子だった。
(霧島神境と母さんの関係……。母さんは結構謎の多い人だけど、これがわかれば少しは母さんの事を知る事が出来るかも)
母さん……早川茜は謎多き人物で、私が知っているのは母さんが六道さんと20年前にバッテリーを組んでいた事、母さんが父さんと結婚して私を身籠るまでの間はプロ野球選手だった事、そして色々な人物と交流がある事……。これくらいしか知らないのだ。
(母娘の溝が深かった時期もあってかその時の私は知ろうともしなかったけど……)
私が色々な意味で次のステップに進む為にはきっとこの質問の答えがヒントになっている筈……。出来る事なら聞いておきたい。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
-
見たい
-
見たくない