「おおっ!投げてきたよ!」
「完成度としては8割……というところかしら。あとの2割は彼女達で補っていく必要があるでしょうね」
「茜ちゃんは相変わらず厳しいねぇ」
「そうかしら?私よりも物凄く早い段階で完成形に近付いているわ」
「確かに……。茜ちゃんの時は半年は試行錯誤してたね」
「それにあの中山という投手はこれからも伸びるわ」
「そうだねぇ。もしかしたら来年の県対抗総力戦に食い込むレベルなのかも」
「本人が出るかどうかは別として……ね」
「そういえば茜ちゃんはいつ頃あの子達と出会ったの?」
「朱里達が全国大会で頑張っている頃よ」
『ストライク!バッターアウト!!』
川原先輩はあれからも中山さんの投げる『燕』に手が出ずに三振となった。
「こ、これはノーマークだったよ……。中山さんがあんな球を投げるなんて……」
「凄く上にホップしていくのに、コースはストライクゾーンを通っているから、振らざるを得なかったよ……」
(しかし中山さんと母さんの接点がわからない……。それ以上に中山さんが母さんと何かしらの練習をしているのが意外だった)
母さんとて『燕』を取得するのに半年は掛かったというのに、中山さんはそれをどれくらいで覚えたんだろうか?
(幸い全盛期の母さんの投げる『燕』に比べたら付け入る隙はある。問題は誰が攻略するかだけど……)
まず雷轟は期待しない方が良いだろう。
『ボール!フォアボール!!』
「うぅ……!」
理由としてはこのように歩かされるから。中山さん自身も『燕』が未完成だとわかっているのだろう。
『ストライク!バッターアウト!!』
5番の主将も、6番の山崎さんも『燕』を捉えられず三振。スリーアウトとなった。
「なんなんだあの球は……」
「あれは……」
「朱里ちゃん中山さんがあの球の事を知ってるの?」
「あれは母さんが現役の頃に決め球として投げていた球です」
『ええっ!?』
私の発言に皆が驚く。私だって驚いているよ。
「朱里ちゃんのお母さんがなんで中山さんに……?」
「それは私もわからない」
(中山さんが母さんと同じアンダースローだから……というのが何かしら関係してそうだけど……)
それなら同じアンダースローで、新越谷の渡辺に『燕』を教えてほしかったよ……。
「……話を戻しますと、母さんが決め球として投げていた下からホップするそれはまるで燕が下から上に飛んでいく様を表現して当時その球を見た人達からは『燕(スワロー)』と呼ばれています」
「燕……?」
「まぁあくまでも比喩表現だから」
「……なんにせよその『燕』とやらは簡単に打てる代物じゃない以上、こちらも点をやる訳にはいかなくなったな。切り替えて守るぞ!」
『おおっ!!』
「…………」
「渡辺?どうかした?」
「ううん、なんでもないよ。ただ……」
「ただ?」
「星歌と同じアンダースローの使い手がここまで凄いと……なんだか負けていられないってなるよ……!」
渡辺の目には仄かに闘志の炎が宿っている。シニアまでの渡辺とは違う。新越谷に入って、永水と合同で行った合宿を経て頼もしく成長している。
「まぁ空回りしないようにね。渡辺は自我が強くて1人で突っ走るところもあるし」
「うっ……!頑張るよ」
まぁこの試合は渡辺にとっても良い刺激になりそうだ。
(あれは朱里さんの母親である茜さんの決め球……。まさか中山さんが投げるとは思いませんでしたね)
「な、なんなのあの球は!?下から上に凄い勢いでホップしていったけど!」
「あ、あれを初見で打つのは難しいかも……」
「この段階で投げてきたのが幸いですね。イニング的にも最低あと一巡はしますので、攻略する時間はあります」
「でも誰が攻略するの?遥は歩かされるだろうし……」
(私が見た感じ雷轟さんを除いた新越谷で『燕』を攻略出来る可能性があるのは中村さん、川原さん、岡田さん、山崎さん、そして朱里さんの5人……。新越谷はもしもを考慮して絶妙な打順をしています。1番可能性のある朱里さんをいつ代打で出すのかによってゲームが決まりそうですね。何れにせよ……)
「……憶測では判断出来ませんね。この目で見たものを私は信用します」
中山さんと渡辺のピッチングは両者譲らずの展開で、試合は0対0のまま終盤の6回裏を迎える。そして……。
カンッ!
遂に渡辺が影森打線に捕まった。
遥「中山さんが攻略出来ないままピンチに!星歌ちゃん頑張って!!」
朱里「この試合の雷轟は期待出来ないし、『燕』を捉えるのは誰になるのか」
遥「朱里ちゃん、なんだか私の扱いが酷くない?」
朱里「気のせいだよ」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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