7回表。打順は雷轟から。
『ボール!フォアボール!!』
例によって敬遠で歩かされた雷轟。もうチャンスはここしかないね。
(雷轟、仕掛けるよ。)
(合点!)
最低でも雷轟を三塁まで進めたいところだね。あと一塁が埋まるとゲッツーの可能性もあるし、成功させたい。
ズバンッ!
『ストライク!』
(前の打席から思っていたが、凄い勢いでホップしてくるな……。これは闇雲に振らない方が良さそうだ)
初球から雷轟は盗塁を試みる。その結果は……。
『セーフ!』
まずは二盗成功。出来れば次も決めたいな……。
(…………!?)
雷轟がリードしていると、牽制球が飛んでくる。
『セーフ!』
(危ない危ない……。ここで刺されたら試合に響くところだったよ)
(中山さんも疲れているだろうし、『燕』は連投出来ない筈なんだけど……)
牽制球を挟んで2球目。中山さんが投球動作に入った瞬間を雷轟は狙う。
(今だ!)
(また走った!?)
ズバンッ!
『ストライク!』
(くっ……!)
捕手の田西さんが慌てて投げるも……。
『セーフ!』
雷轟が三盗に成功。これなら状況次第で得点も狙える……!
(それにしても思った通り、捕手の田西さんがまだ中山さんの投げる『燕』に慣れていなくて捕球の後に数秒のラグがある……。皆にはギリギリまで粘ってもらうけど、雷轟にはホームスチールを視野に入れてもらう必要があるね)
「奇襲の2連続盗塁……。思い切ったね~」
「恐らくあの指示を出したのは朱里さんでしょうね」
「朱里ちゃんって時々大胆な指示を出してくる時があるよね。私も朱里ちゃんのお陰で盗塁がある程度出来るようになったし……」
(雷轟さんを三盗させたという事は朱里さんも中山さんが投げる『燕』の弱点に気付いているでしょう。誰かが『燕』を打つか、三塁ランナーである雷轟さんがホームスチールを仕掛けるか……。新越谷の勝利にはこの2つのどちらかが必要とされていますね)
「『燕』を捕球する際のラグを上手く利用してるね。私も『燕』に慣れるまでには結構時間が掛かったなぁ……」
「私達の場合はランナーの出塁を許していなかったから、気付く事が出来なかったわね。しかし影森のバッテリーもそのくらいは予測していた筈よ」
(ここから先、誰が彼女の投げる『燕』を捉えるか、はたまた三塁ランナーの彼女がホームスチールを仕掛けるか……。見物ね)
『ストライク!バッターアウト!!』
先頭の主将はその後投げられた『燕』を空振り。ワンアウトとなる。
「ようやく目が慣れてきたんだが、思ったよりも上に球がいくんだよな……」
「それが『燕』の特徴でもありますからね。それに……」
「それに?」
「『燕』はここから更に化けます」
『なっ!?』
私がそう言うと皆は驚いていた。
「あの球が更に進化するってのか!?」
「多分ね」
中山さんが『燕』を更に進化させているかはまだわからない。流石にそんな短時間で進化していたらかなり不味い展開となるだろう。
(何れにせよ雷轟の働きに掛かっている。頼んだよ)
そしてランナーが三塁にいるので、山崎さんにはスクイズのサインを芳乃さんが出す。
(スクイズ自体は向こうもわかっている筈。それにしては内野が定位置にいるな……)
余程バッテリーを信頼しているんだろうね。そうじゃなきゃスクイズの可能性があるのに定位置は無理だ。
(内野は定位置……。なんとかスクイズを決めたい……!)
(スクイズする気満々……。でもそう簡単には決めさせない!)
ズバンッ!
『ストライク!』
(そんな……!当たらないなんて)
やはりそう簡単には決められないか……。いよいよ雷轟が上手くやるかどうかに賭けるしかなくなってきたよ。
『ストライク!バッターアウト!!』
山崎さんはスクイズを決められず、三振となった。
「……っとと!」
『セーフ!』
幸い雷轟は帰塁しているので、最悪の事態は避けている。
「ごめん……」
「ドンマイ。とりあえず今は川崎さんと雷轟を応援しよう」
「稜ちゃんはわかるけど、遥ちゃんも?」
「この状況下で点が取れるかどうかは雷轟に掛かっているからね」
川崎さんが打ってくれるのならそれで良いけど、下手に手を出すと凡打になりかねない。
「遥ちゃんに?遥ちゃんは三塁ランナー……ってまさか!?」
「そう。雷轟にはホームスチールを狙わせる」
影森のバッテリーが雷轟のホームスチールを読んでいる可能性は高い。さっきからリード大きいし。というかあからさま過ぎるんだよなぁ……。あっ、また牽制されてる。
『セーフ!』
ツーアウトなのに、引っ掻き回してるの凄いな……。多分天然でやってるんだろうけど。
『ストライク!』
1球目は川崎さんの空振りによって1ストライク。今から行う作戦は次の2球目が本番だ。
(さて、上手くいくかどうか……!)
中山さんが振りかぶった瞬間に雷轟は走り出した。
(ホームスチール……!)
中山さんは『燕』を投げる。
『ストライク!』
田西さんが捕球する際に僅かに発生するラグも健在。3回から投げているから、もしかしたら慣れているのかも……とか思ったけど、そんな事はなかった。しかし……。
(それは読んでいる……!)
田西さんが雷轟にタッチしに走り出す。雷轟もそれに合わせて帰塁する。
「サード!」
サードへの送球。サードも雷轟の近くに来ていた。
『挟まれた!?』
『遥ちゃん!!』
挟まれたとわかった雷轟は一瞬立ち止まる。
(雷轟……!)
雷轟が本格的に野球を始めたのは今年の春から。同じく今年の春に野球を始めた大村さんとはスラッガー候補でもある事からとても仲が良い。
雷轟と大村さんは互いに野球漫画を貸し合う関係でもあるそうだ。2人なりに野球を覚えようとしていたんだろうね。その漫画による影響力も強いけど……。
……話を戻して雷轟の野球は素人故にとにかく自由だ。打撃フォームは漫画に影響されているのかバラバラだったりするし、走塁や守備の練習等でもその片鱗を見せている。
もう1度言う。雷轟遥の野球はとにかく自由だ。だからこそ……!
「はっ!!」
『飛んだ!?』
球場にいる私以外の人間がほぼ同時にそう口にした。
(まさか本当に決めるとは思わなかったよ……)
なんと雷轟は田西さんとサードの人に挟まれた後にバク宙をしたのだ。こんな自由な野球をするのは雷轟以外にいるだろうか?
「……しまった!」
少し遅れて田西さんが反応するが、その数瞬を見逃さなかった雷轟はホームへと飛び込んだ。
『セーフ!』
雷轟の自由な野球スタイルが好を奏した瞬間だった。最終回にして私達は影森から先制点をもぎ取った。
「ナイスラン!」
「バク宙をした時はびっくりしたわ!」
チームメイト全体から手荒い歓迎をされている。ちなみに中村さんは雷轟を蹴る事もなく、皆に混じっています。
(なんにせよ点は取れた……!)
あとは勝つだけ……だね!
「……アタシ何年も野球やってるけど、ホームスチールの時にバク宙するのを見るのは初めてだよ」
「あはは……」
「これは雷轟さんなりの敬遠された時のアプローチでしょう。彼女に敬遠すれば、二盗三盗されて今のようにホームスチールをされる……」
「いやいやいや!それ最早野球じゃないよ!?」
「清澄高校の部員達も似たような特技を持っていると思って良さそうですね」
「ええ~?そうなのかな~?でも清澄には1回負けてるし、でも……ええ……?」
「いずみちゃんが百面相してる……」
「放っておいて大丈夫でしょう」
(雷轟さんの自由な野球スタイルに星歌さんのオリジナルフォーク……。この試合も収穫がありました。やはり朱里さん達の試合を観るのは楽しいですね)
『ストライク!バッターアウト!!』
渡辺は疲れが見えていたものの、最後まで投げ切った。頑張ったね。
(星歌も柳大川越で頑張っている蓮華ちゃんには負けられない……!)
(渡辺から危険な雰囲気を感じるな……。まるで永水へ合宿に行く前の私と同じ感じが……)
私と同じようにならない為にもケアはしたいけど、どうしたら良いのか……。
遥「勝利!」
朱里「かなり苦戦したね……」
遥「ホームスチールもしたし、実質ホームランだよね!」
朱里「それは違うと思うけど……」
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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