整列と挨拶を終えてお手洗いに向かうとそこには母さんと中山さんがいた。
「お、お久し振りです!」
「そうね。最後に会ったのは9月の初旬頃かしら?」
やはりというか母さんは中山さん達と会っていたのか……。
(……というか私達が鹿児島へ合宿に行っている間にも会っていたんだね)
最後に会ったのはって言っていたから、多分もう少し前……少なくとも夏大会で影森と戦った後くらいには接点がありそうだ。
「……今日は未完成のまま教えてもらった球を投げて、それで負けてしまって、コーチに会わせる顔がありませんでした」
「…………」
母さんってコーチとか呼ばれてたんだ……。本当になにがあったんだろう?
「それでも新越谷には『燕』抜きではまた夏のようにコールドゲームになりかねない……って思ったんです」
「だから未完成のまま投げたのね。その割には健闘した方だと思うわ」
「……ありがとうございます」
確かにあの『燕』はまだ未完成だった。母さんが投げていた球はグラウンドにおいて更なる進化を発揮するからね。
(砂塵に紛れてボールが消えたと錯覚させるビックリボール……。燕が砂に隠れたような表現から『砂燕』って呼ばれてたっけ?)
「燕はグラウンドにて更に成長する……。貴女はまだそれを知らないわ」
「『燕』が……更に上があるんですか!?」
「ええ。次の夏に向けて本格的な練習をなさい。捕手にも慣れさせないといけないわ」
そういえば捕手の田西さんは『燕』の捕球に少しラグがあったもんね。そのお陰で勝てたようなものだけど……。
「はい……。精進します!」
最早夏大会の中山さんとは別人に見える。守備も上手くなってるし、来年の夏はどんな成長を遂げているのか楽しみになってきた。
「……それでそんな貴女に1つお願いがあるのだけれど、良いかしら?」
「お願い……ですか?」
「これから先貴女のような投手に出会った時に『燕』を教えてあげてほしいの」
「『燕』を……?」
「私にも貴女と同じくらいの娘がいるのだけれど、娘は無理して肩を壊してしまい、『燕』を広める事は出来なかった……」
母さん……。そんな風に思ってたんだね。もしも私が右肩を壊してなかったら母さんから『燕』を教えてもらう事もあったのかな?
「私を……娘さんと重なっていたんですか?」
「そう……なのかも知れないわね。貴女と初めて会った時も、ひたむきに投げ込んでいる姿を見て私は声を掛けた。同じアンダースローの投手として、1人の野球好きとして……」
「……わかりました」
「…………?」
「私は将来コーチのような指導者になります。そしてそこから『燕』継承させてみせます!」
な、なんかとんでもない事を聞いてしまった気がする……。
「……い、良いのかしら?」
「はい……。もう決めました!」
「そう……。それなら私はもうなにも言わないわ。貴女の人生だもの。自由にやりなさい」
「はいっ!」
良い返事をして中山さんは走って行った……。
「……朱里、いるのでしょう?姿を現しなさい」
あっ、バレてた。何故わかったんだ……。
「……言っておくけど、盗み聞きするつもりはなかったからね?」
「わかっているわ。……それよりも彼女はまだまだ手強くなるわよ」
「それは今日の一戦で痛感したよ」
影森の他の投手を私は知らないけど、全体の守備力もあるし、打撃力は並程度でありながらも繋ぐ力も持っている……。主将の言う通り影森も強豪の仲間入りをしたと言っても過言じゃないだろうね。
「母さんはこれからも中山さんに指導するつもり?」
(もしもそうなら影森との戦いは母さんとの戦いという事になる)
「どうかしらね?まぁ会った時に手が空いていたら何かしらはするつもりよ」
どうやら母さんと影森……というよりは中山さんとの接点及び『燕』の継承はこれからも続くみたい。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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