「星歌にはもう無理だよ……。投手交代だよ……」
泣きそうな表情で渡辺がそう言った。予想以上に志木さんのホームランが効いてるっぽいね。しかも打たれたのが決め球な訳だし……。
「……代えるにしてもまだ誰も肩を作れていない。だから最低でもこのイニングは投げ切ってもらわなきゃ困るよ」
私や川原先輩はこのイニングが終わり次第肩を作り始めるかと相談してた。本当ならもう1イニング早くやるべきだったのかね……?
「朱里ちゃん……。でも……!」
「私と練習した日に私が言った事を忘れた?」
「……っ!」
昨日渡辺と練習している時に遡る。
ズバンッ!
「ナイスボール!調子は良いみたいだね」
「うん。ありがとう……」
「渡辺の投げる球は球種も多いし、決め球のフォークは簡単には打たれないと思う」
「えへへ……」
仮想敵が今の渡辺にいないから、抑えられているように感じているだけだ。
「……でもこのままだと柳大川越には通用しないだろうね」
「え……?」
正直影森戦で渡辺が抑えられたのはのは影森には決定打を打てる選手がほとんどいなかった。3年生もどちらかと言えば繋げるタイプの選手だったし。まぁ影森の野球からそれを察するのはかなり難しい。当人達は自分達だけでやる野球が好きだったみたいだし……。
しかし柳大川越はそうもいかないだろう。あの武田さんでも苦戦するレベルの打者が私達と同じ1年生で何人かいる上に、渡辺の幼馴染である志木さんも打撃力はかなりのものだ。通用して一巡だけだ。
「理由としては志木さんに渡辺の持ち球を把握されている可能性がある事、そして志木さんが分析タイプの捕手である事……」
「そ、そんな……!じゃあ星歌はどうしたら良いの?」
「1日やそこらで柳大川越相手に通用するようになるのははっきり言って無理だ」
「そ、そんなにあっさり言わなくても……」
そんな人体改造みたいな方法でも使わない限りそんな短時間で出来る訳がない。そんな簡単に成長出来るのなら、野球選手になるのになんの苦労もいらないよ。
「渡辺に心掛けてもらうのは影森戦でのピッチングを思い出してほしいのが1つ」
「影森戦のピッチング……?」
「そう。あの時は中山さんが渡辺と同じアンダースローだった事で、渡辺の闘志に火が点いた……。もしも渡辺の持ち球が攻略されてつるべ打ちに遭ってしまっても闘志の火を消してしまう……なんて事になったらゲームが終わると考えた方が良いね」
正直影森戦も逃げ切れた要因の1つに渡辺自身の闘志があったからだと思うの。
「星歌の……闘志……」
「渡辺はなんだかんだ踏ん張りが強い、粘りのある投手だと思っているからね。あともう1つは渡辺直伝のオリジナルフォークについてだけど……」
「星歌のフォーク?」
「橘のスクリューは映像で見てわかるよね?」
「うん……。はづきちゃんの投げるスクリューは鬼気迫るって感じの凄い球だったよ」
どうやら渡辺から見た橘のスクリューはそういう風に見えていたらしい。
「橘のスクリューと同じように投げてほしい」
「はづきちゃんのスクリューと同じように……って、どうやって投げたら良いの?」
「それは……!」
「……うん。ありがとう朱里ちゃん。星歌のやるべき事を思い出したよ」
「……それなら良かったよ。あとは山崎さんともう1度配球の相談をしておいて。読まれてる可能性もあるからね」
「わかったよ。珠姫ちゃん、配球なんだけど……」
渡辺は先程までの弱気が吹き飛んだみたいで、山崎さんと配球について話し合ってる。
「……なんか朱里ってメンタルケアとか得意そうだよな」
「本当。チームで1番向いてるんじゃないの?」
二遊間の2人からそんな発言が飛んできた。いやいや、私よりも芳乃さんの方が向いてるって……。
『アウト!』
その後の渡辺はなんとか持ち直して、失点は3点で済んだ。ここから反撃開始だね!
「渡辺ちゃんはなんとか持ち直したね~」
「でも新越谷は大丈夫かな……?終盤で3点ビハインドだけど……」
「……いや、その心配はないだろう」
「そうですね。むしろ流れは新越谷に来ています」
「どういう事?」
「志木さんにホームランを打たれて尚、一塁・二塁のピンチになりましたが、その後の星歌さんのピッチングとバックの声出し等もしっかりしていましたし、星歌さんの闘志に触発されています。精神論は余り好みませんが、そういったムードで新越谷が力を発揮するチームだというのをずっと観てきました」
(大元は朱里さんのふとしたアドバイスでしょうが、雷轟さんや武田さんといったいずみさんレベルのムードメーカーがチームにやる気を見出だしています。私達白糸台では鋼さんがその役割を担っていますね)
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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