私達と風薙さんが初めて会ったこの河川敷……。そこに足を運ぶと風薙さんとウィラードさんがキャッチボールをしていた。
「……ここに来ると思ってたよ。朱里ちゃん!」
「お久し振りです。風薙さん」
「……遥は元気してるかな?」
「そうですね。相変わらず元気いっぱいです。その、雷轟とも1度話し合った方が良いと思いますよ」
「そう……だね……。うん、わかってはいるんだけど……」
(まぁ部外者の私がこれ以上突っ込むのは野暮か……)
軽く一言、風薙さんに挨拶をして……。
「初めまして……かしら?早川さん。私はウィラード・ユイ。真深と彼方先輩のチームメイトで、ルームメイトよ」
「は、早川朱里です。よろしくお願いします……」
アメリカでの有名人……3月にあるシニアリーグの世界大会において、注目度トップクラスの選手……ウィラードさんに握手を求められて、私はタジタジだった。だって緊張してるんだもの!握手に応じれた事を褒めてほしいくらいだよ!
「私は先程会いましたが、改めて……。二宮瑞希です。上杉さん、ウィラードさんと3月に相見える事を楽しみにしています」
「貴女の事はとても印象に残っているわ。小柄な体型に似合わず、物怖じせずに彼方先輩の投げる球を堂々と捕球してきたもの」
「彼方先輩の球を捕ったって話を聞いた時は耳を疑ったけれど、本当だったのね……」
「驚くのも、疑うのも無理もありません。風薙さんの投げる球を初見で捕れる選手はいない……と騒がれているくらいですしね。自惚れるつもりはありませんが、捕球技術と情報力に関して私は誰にも負けるつもりはありません」
自分を前に出さない二宮がここまで闘争心、対抗心を剥き出しにしているとは……。珍しい事もあったもんだ。
「瑞希ちゃんは本当に凄い選手だよ。アメリカにはまずいないタイプの捕手だし、私からしたら世界でも1、2を争う捕手だと言っても過言じゃないもん。それはプロ選手を含めた全員の中で、2人といない最高の捕手……」
「……それは流石に誇張し過ぎだと思います」
風薙さんが言っているのは決して大袈裟ではない。捕球に優れ、情報収集と分析能力に優れ、味方投手を立ち直らせたり、味方投手の能力を最大限引き出したり、持ち前の情報力と情報量で相手の弱点、味方の弱点を瞬時に暴き、解決、利用したりを1度に出来るのは私の知る限りだと二宮だけなのだから……。
「……彼方先輩の球を初見で捕れるだけである程度は察していたけれど、二宮さんって本当に凄い選手なのね」
「そうね……。3年前はまだそれが表に出ていなかったもの」
「私は黒子に徹する方が性に合っていますから、表に出て行動するのはいつも他の人に任せています」
二ノ宮本人はあっけらかんとそう言っているけど、やっている事はかなりエグい。本当に高校生か疑いたくなる。身長は小学生なのに……。
「そんな瑞希ちゃんはシニアリーグの世界大会に向けて何か動いているのかな?」
「……そうですね。この場では口にしませんが、既に他国の有力選手の情報は8割方抑えています。もう3ヶ月もありませんしね」
またこの子はとんでもない事を……。風薙さんが別次元の選手なのは間違いないけど、二宮だって負けていないよ?別次元の捕手だよ?
「ねぇ真深、もしかしたら私達の情報も既に……」
「……ええ。抑えられていても可笑しくないわ」
まぁ味方にするなら心強いか。世界大会が終わればまた敵同士だけど……。
「あっ、そうだ!朱里ちゃん、折角だから私の投げる球……見ていかない?」
「それは願ってもない事ですが、良いんですか?これからライバルになる選手に持ち球を見せても……」
「全然!さっき瑞希ちゃんにも見せたし、それに……」
風薙さんは一呼吸置いて、威圧する。
「私は誰にも負けるつもりはないから……!」
それは先程までの風薙さんとは違う……冷酷な表情をしていた。
(出たわね。彼方先輩の威圧感……)
(味方ながらいつもヒヤヒヤするものね……)
(この威圧感……。神童さんや大豪月さんにも負けていない。あの2人と対戦していなかったらきっと私は押し潰されていた)
改めて洛山高校と白糸台高校には感謝である。そして風薙さんが投げる1球目……。
ズバンッ!
『ストライク』
い、今のがドロップ……?球速も速いし、変化も凄い。本当に3年前とは比べ物にならないじゃないか……!
ズバンッ!
『ストライク』
次に投げたのはナックル……。不規則な変化をする事で有名なナックルだけど、これもドロップと同じくらい速く、鋭い変化だ……。この人はどこまで成長するんだよ!?
「次はストレートを投げるよ」
予告ストレート!?舐められている……なんて事は風薙さんに限ってない。絶対的な自信があっての発言だろう。
(例え大豪月さん以上のストレートだとしても、前の2球に比べたら……!)
打てる……!
ガッ……!
『ファール』
うっ、腕が痺れる……!こんなの高校生が、人間が投げる球じゃないでしょ!?
「……次で最後ね。私が最近完成させた決め球を投げるよ」
これも予告。多分投げられるのは二宮が説明を濁した球なんだろうけど……。
「行くよ……!」
投げられたその球は先程と同じコース。球速的にストレートっぽいけど……。
(ここから何か変化する……?いや、とにかくカット!)
ズバンッ!
『ストライク。バッターアウト』
そ、そんな……。球が……。
「これが私の最高の球。1球……瑞希ちゃんに投げたのを含めて2球限りのサービスだよ。次の夏大会、及び県対抗総力戦でこれを攻略出来る打者と私は対戦したい……。それが朱里ちゃんと遥がいる埼玉なのか、瑞希ちゃんがいる東京か……。待ってるね」
「あっ、彼方先輩!?」
唖然呆然としている私にそう告げて風薙さんは去って行き、ウィラードさんもそれに続く。
「……私もそろそろヨミの家に戻るわね。また会いましょう」
上杉さんも去り、この場には私と二宮の2人になった。
「どうでしたか?風薙さんの投げる球は……」
「……正直圧倒的だったよ。3球目に投げたストレートも打てたのは多分偶然。そして最後に投げた球は……」
「……どうして、どうやってあのような面妖な球を投げられるかは謎ですが、打つ為の手掛かりは掴めた気がします」
「奇遇だね。私もだよ。でも……」
「それが実行出来るかはまた別の問題……という訳ですか」
「うん……」
(本当ならウィラードさんの球も見ておきたかったのですが、自身の手札はそう簡単には晒しませんね。仕方ありません。3月を待ちましょう)
今日、風薙さんの投げる球を打席越しに目の当たりにした。二宮が風薙さんを別次元の選手……と言ったのも理解した(同時に二宮もまた別の次元の選手である事もわかった)。
特に最後に投げられたあの球……。あれこそが偽ストレートの最終形態にして、理想形態……完成形なのだろう。
(でもそんなの関係ない。私は私で風薙さんに追い付ける……いや、追い越せるような選手になりたい……!)
その為にまずは……シニアリーグの世界大会で世界一を勝ち取らなきゃね!
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
-
見たい
-
見たくない