4回裏。郭上鈴さんの投げる球……特にストレートは勢いを増している。
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
「このイニングも二者三振……」
「何球かはボール球もありますが、何れもコースがギリギリですので、思わず手が出てしまっていますね。ストレートに強い筈の高橋さんが振り遅れています」
「で、でも次は4番の清本さんですよ!」
「そうだね。清本さんならあのストレートに対応出来るかも……」
朝日さんと渡辺さんが言うように、清本ならあのストレートに対応出来て、ホームランを打つのも難しくない。しかし……。
「この試合はこれ以上和奈さんには期待しない方が良いかも知れませんね」
「えっ……?」
二宮がそう言った瞬間、相手チームの捕手が立ち上がった。
「け、敬遠!?」
「1点差で、一塁が空いていて、尚且つ前打席の清本のホームランを見れば歩かせても不思議じゃないよ。私が向こうの立場でも恐らくそうするだろうしね」
それくらい向こうの判断は常識的で、試合に勝つ為の敬遠策だ。
『ボール!』
「…………」
(しかし清本のあの様子……。敬遠球を如何にして打つかを考えている顔付きだね)
これなら次の打席……いや、下手したらこの打席で清本は動くかもね。
「向こうは清本さんを歩かせる方針で行くみたいね」
「練習試合の時は1度勝負を避けちゃったけれど、彼女のあの打球を見てしまったら普通は歩かせても可笑しくないもの。私でも状況によっては歩かせるわ」
「……そういえばあの練習試合でウィラードちゃんが清本ちゃんを歩かせたのは満塁時のあの1打席だけだったね~。それならまだ清本ちゃんの本当の恐ろしさを知らない訳だ~」
「清本さんの……」
「本当の恐ろしさ……?」
「ハッキリ言って本当に清本ちゃんを歩かせるつもりなら、背中側に投げないと無理だね~」
「で、でも結構大きく外されていますし、言ったら悪いんですが、その……清本さんは小柄だから、あのコースに手を出すのは不可能だと……」
「普通はそうだよね~。でも清本ちゃんは特別だからね~。じゃあ2人に質問するよ~?敬遠球を投げる時にどんな球を投げるかな~?」
「それは……スローボール……ですよね?」
「ウエストならともかく、敬遠ともなるとほぼ確実にコントロール出来るスローボールを投げる筈です」
「うんうん、大正解~。スローボールというのはその名前の通り、遅く、力のない球……。だから清本ちゃん程のパワーを持ち、絶対に打ってやるんだという執念が合わさると、敬遠球では清本ちゃんを誤魔化せなくなるんだよ~」
「そんな……事が……!?」
「清本ちゃんの次の……いや、もしかしたらこの打席でそれが見られるかもね~」
『ボール!』
カウントがツーボール、ノーストライク。バッテリーは完全に敬遠体制に入っているね。しかし……。
「二宮、どうやら清本は敬遠球を打つつもりみたいだよ」
「……どうやらそうみたいですね。和奈さんが歩かされたら代走を出すつもりでしたが、そうなってくると話は別です」
「えっ?えっ?ど、どういう事……?」
私と二宮の会話に高橋さんを始めとするほぼ全員が困惑している。この意味がわかっているのは母さんと三森3姉妹くらいだろうね。
「……清本和奈は状況に応じて敬遠球やウエスト球を強引に打ちに行く傾向がある。それがどんな時か……っていう具体的なところまではわからないけど、多分この打席がそうなんじゃないかと思う」
更に夜子さんが捕捉説明。それによって皆が食い入るように清本の打席に注目し始めた。
『ボール!』
(今の3球で、郭上鈴さんの敬遠球の軌道はわかった。あとは集中して、手首に力を込めて……!)
郭上鈴さんが投げる4球目。これまでと同じコースに敬遠球のスローボール。
(……どんなに強引でも、どんなに不恰好でも、私はそれを打つだけ!)
「!?」
カキーン!!
「嘘……」
「ほ、本当に敬遠球を打っちゃった……」
敬遠球を打った清本はその反動で転倒した。まぁ敬遠球の仕様上そうなるのは仕方ない。況してや清本は140センチ女子なのだから。
そして140センチ女子とは思えない並々ならぬパワーの持ち主である清本が打った打球は電光掲示板に直撃し、ホームランとなった。
「ま、まさか本当に敬遠球を強引に打つなんて……。真深はあんな事、出来る?」
「……普通は出来ないし、やろうとも思わないわ。正直あのホームランを見るまでは私も歩かされるのは仕方ない事だと思っていたもの」
「これでわかったよね~?清本ちゃんは敬遠球に対して、あのように強引に打つんだよ~。まぁその反動であのように転んじゃうんだけどね~。清本ちゃんを本当に歩かせるつもりなら、清本ちゃんの背中側に投げないと不可能……いや、もしかしたら背中側に投げたとしても清本ちゃんは何かしらの対策を思い浮かべて対応するだろうね~」
「成程……」
「真深……?」
「……いえ。日本代表に、清本さんに感謝ね」
「えっ?感謝?」
「……私も、敬遠球に対するアプローチをしてみようかしら」
「正気?」
「検討の余地はあるわ」
(あらら、これは上杉ちゃんに火が点いちゃったね~。日本代表は今後上杉ちゃんに対してどのような球を投げるのか、勝負を避ける事が出来るのかがわからなくなりそうだね~。清本ちゃんの一打が計らずとも上杉ちゃんを強くしてしまったみたいだよ~?)
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