2回表は息吹さんの好投によって三者凡退で終わらせる。
「くっそ~!息吹もすげー成長してるな」
「わ、私だって朱里やヨミ達には負けてられないものね」
いや、本当に息吹さんは凄まじい成長を見せてるよ。猪狩さんという起爆剤が私達投手陣の更なる成長に協力してくれてる。尤も猪狩さん本人は無自覚なんだけど……。
「…………」
(それに比べて武田さんの方は……絶賛伸び悩み中だ。本人のやる気と、逆境に発揮される爆発的能力上昇でそれを誤魔化しているけど、それにもいずれ限界が来る。それまでになんとかしないと……)
でもそれを私ではどうにも出来ない。こういう時二宮だったらどうしていただろうか?
(武田さんの件は……メイン捕手の山崎さんや木虎に任せておくのが吉かな?)
私は私の事で手一杯だ。打倒上杉さん(と二宮と、清本と、金原と、友沢と……)を目指して頑張るとしよう。
「春星さん、ファイトです!」
「ここで一発、頼んだわよ!」
大村さんと藤田さんの応援に春星は無言で頷き、打席に向かった。
「春星さん、どうしたんでしょうか……?」
「あの子は人見知りだからね。私と初めて会った時も無言だったよ」
春星は猪狩さんに負けず劣らずの寡黙さに加え、台湾でも最低限しか人と関わらなかったと秋月さんも言っていた。せめて野球部の皆には心を開いてくれても良いと思うけどね……。
「でも朱里には随分懐いているわよね?」
「まぁ1度世界大会で勝負した……という理由が大きかったのかもね。私に対してはすぐに心を開いてくれたよ」
なんなら母さんよりも早かった。これは喜んで良いのか微妙なラインだけど……。
「…………!」
「…………」
す、凄い沈黙……。寡黙同士の対決だと余計に静かな空間が出来上がってるよ。
「あっ、猪狩さんが振りかぶりました!」
「……!」
カキーン!!
「しょ、初球からタイミング完璧に!?」
春星は猪狩さんの投げたカーブに完璧にタイミングを合わせ、打っていった。
『ファール!』
レフト線切れたか……。割とギリギリだったね。
「でもよくあんな速い変化球にいきなり対応が出来るわね……」
「確かに……。私達も洛山にいた大豪月さんのストレートと変化球を合わせるのには随分と苦労したもんね」
あの時は大豪月さんの腕の振りでストレートか、変化球かを見極めたんだったね。まともに打てたのは雷轟と主将と藤田さんだけだった気もする。他は当てるだけで精一杯だったし。
「でもそういう意味だと藤田さんは次の打席で良い線いくんじゃない?」
「わ、私が?」
「前に芳乃さんと話してたんだけど、藤田さんは空振りがうちで1番少ないし、粘りもある……。これはボールの軌道を上手く読めてる証拠だよ」
「そうなんですか!?」
「まぁ真相は藤田さん本人にしかわからないけどね。それが藤田さんの持ち味なんだよ」
「私の……持ち味……」
「さて、今は2人の対決に注目しようか。多分この紅白戦で1番の見所だろうからね」
新入部員同士の対決……今のところは経験の差で春星がリードしてるけど……。
カキーン!!
『ファール!』
(っ!少し差し込んだ……)
猪狩さんも負けてはいない。壁当てしかしてないとは思えないよ。一体どれくらい投げ込んだのか?
(流石、台湾一のスラッガーね。猪狩先輩の球に対して完璧にタイミングを合わせてくるわ。それでも差し込んでいるのは……)
「…………」
(猪狩先輩の球がそれ程勢いと重さがあるから……。壁当てしかしてないと言っていた割には体幹もしっかりしてるし、下半身も安定している……。投げ込み中心とは言え、基礎をしっかり叩き込んでいるのね)
(打者との対戦……面白い。今までは壁にしか投げてなかったけど、対人戦はとても面白い。特に今投げてるあの子のような人とは特に……)
ツーナッシング。ここで投げられるのは恐らく……。
(猪狩さんの決め球……。本当に猪狩プロのようなライジングショットが投げられるのなら、きっとここで投げてくるけど……)
本当に投げてくるのかな?
「…………」
(今ならなげられる気がする。あの人が言ってた、至高のストレートが……!)
「大きく振りかぶった!?」
(今から来るのは彼女の決め球……!)
猪狩さんが投げたのは、母さんの燕や、ウィラードさんの決め球のストレートとは似て非なる下から上にホップする球……。まさか本当にライジングショット!?
(ぐっ!重い……!?)
ガッ……!
春星は猪狩さんの投げた球を打ち上げた。ふらふらと上がる打球をゆっくりと猪狩さんは捕球した。
「これが私の決め球……。命名ライジングキャノン」
そう、どこか誇らしげで猪狩さんはそう言った。無表情な人だと思ったけど、良い顔するじゃん。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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