大宮さんと響さんからとんでも話を聞いて一晩が明けた。今日は合宿最終日で、夕方には船に乗って帰る事になってるんだけど……。
(水切りの仕上がりが微妙だな……。15回前後しか跳ねない)
私は朝早くの海辺でこうして練習している。私はウィラードさんに比べたらかなり仕上がりが遅れているので、こうして自主的に練習しなきゃ追い付けないのだ。
「早川さん……?」
私に声を掛けてきたのは上杉さんだった。片手には数枚の葉が付いている大きな竹を持っている。あんな重い大竹を片手で持つなんて……。やはり上杉さんは力持ちだね。
「おはよう上杉さん。上杉さんも自主練?」
「おはよう。ええ、私も遥ちゃんやバンガードさんには負けてられないと思って、こうして早めに練習しようと思っていたのよ」
成程……。どうやら上杉さんも私と同じ考えのようだ。他の人達よりも早く起床して、遅れを取り戻そうという算段。
「……お互いにあともう少しといったところだし、2人で練習しましょうか?」
「構わないよ」
正直私と上杉さんは生涯のライバルになるんじゃないかと、初めて対戦した時からずっと思っていた。
私から見た上杉さんは誰よりもホームランを打ち、足も速く、肩強く、守備も上手い……。こと野球に関しては非の打ち所が全くと言っても良いくらいの完璧な選手だ。
(上杉さんの他に……上杉さん程優れている選手は神童さん位だろうか?あの人も隙が見当たらない)
他の選手は大豪月さんなり、新井さんなり、ウィラードさんなり……どんな人にも多少の弱点や隙はある。如何にそれを悟られない様に振る舞うのが選手としてやらねばならない事だ。それは私だってそう。
(だけど上杉さんと神童さんにはそれが見当たらない。出来る事と言えば真っ向から勝負をするか、勝負を避けるかの2択……)
上杉さんを相手には今までそれで運良く勝てた。この特別練習メニューで、そして昨日の試合で私のフォームから球速、球種までバレてしまった……。ここからは本当に実力勝負になるだろう。
「早川さんの昨日のピッチングは凄かったわ。ユイと同じフォームで、同じストレートを持ち、尚且つユイよりも1歩先を進んでいる……」
「……大袈裟だよ。私自身は大した事はない」
本当に。母さんから教わったフォームと決め球、そして風薙さんから教えてもらった偽ストレート……。この2つが今の私を生成しているんだ。他人の力を頼っただけで、私自身は何もない。
(それこそ右肩を完治させて、リトル時代に投げていたシンカーを完全に投げられるようになる為に、今私はそれを目標に野球を続けている……)
右投げ時代に投げていたあのシンカーこそが私のアイデンティティだ。息吹さんに伝授したけど、私自身が諦めた訳じゃない!
「ユイもあの世界大会から……そして今回の合宿において、自分は完全に早川さんに遅れを取っている事を自覚した……と言っていたもの」
「ウィラードさんが……」
まさか私の事を認めてくれているとは思わなかった……。誰かに認められるのって嬉しいものなんだね。
「ねぇ、早川さん」
「どうしたの?」
「……私とユイは遠前高校で天王寺先輩に聞かれているの。私達は何の為に野球をしているのかと、彼方先輩が引退した後はどうするのかと……」
(そういえば上杉さんとウィラードさんは風薙さんに着いて行く形で日本留学したんだっけ?だから天王寺さんは2人に目的を聞いている訳だ……)
だったら今年3年生の風薙さんが雷轟との和解……という目的を果たしたらどうするのか、また風薙さんに着いて来た上杉さんとウィラードさんはどうするのかと……。
「実際に上杉さんはどうするつもり?」
「……わからないわ。私も、ユイも、彼方先輩にはとてもお世話になったの。当初はその恩返しのつもりで、彼方先輩と共に行動をしているわ。それが終われば再びアメリカに帰る予定だった……。でも遠前高校野球部で過ごして来た日常も私達にとっては本物よ。だから最後までやり切りたいとも思っているわ。彼方先輩と共にありたいと思う反面、遠前野球部でも頑張りたい……という2つの想いが入り混ざってるの」
「…………」
「……私は、私達はどうすれば良いのかしら?」
上杉さんなりに迷っている訳か……。これからの事を、風薙さん達が引退した後に野球部に残るか、アメリカに帰るかを……。
「……さてね。あくまでも決めるのは上杉さん自身だよ。自分の事は自分で決める」
「厳しいのね。早川さんは」
「私ならそうするだけだよ」
まぁ……私が上杉さんの立場なら悩みに悩みまくっているだろうけどね。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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