イニングは進んで4回表。初回以降私達は黛さんの球に対して決定的な一打が出ていない。
チャンスは作れるものの、要所で投げてくる癖球に凡退してしまう……の繰り返し。特に3回裏なんてクリーンアップ全員を敬遠で歩かせて、後続の打者に対して力のあるピッチングで打ち取り続けている。
そして現在。ワンアウト一塁・二塁のピンチを迎え、打席に入るのは……。
「お願いします……」
4番の清本さん。ここを凌げたら、由紀ちゃん的にも大分楽になるけれど……。
ズバンッ!
『ストライク!』
初球は見送り……。ナックルの不規則な変化を見極めようとしているわね。
「それにしても……由紀のナックルはキレと変化量が上がったわね。あれは先輩のナックルよりも上かも知れないわ」
以前に彼方先輩がナックルを封印する……という話を聞いた時は私も真深も驚いた……。でもそれは由紀にナックルを伝授する為のものだったと知った時は先輩らしいとも同時に思ったわね。
「それは凄いですね。あの時に彼女が投げたナックルは高校生の中で……いえ、プロ選手のなかでもあのレベルのナックルを投げる投手はいませんでした。夢城由紀さんが投げるナックルは更にその上を行く……と」
「ええ。味方で良かったとも思っているわ」
シニア時代は敵だったから、彼方先輩の実力が同じ投手ながらわかっていた……。でも今は同じチームでプレーしている訳だし、私鳴りに彼方先輩のピッチングに自らの可能性を見出だしておきたいわ。
カキーン!!
『ファール!』
「しかし和奈さんはカット気味の打球が多いですね。ナックルを多投させて、夢城さんのスタミナを枯らす作戦でしょうか?」
あんなホームランすれすれの打球がカットだなんて、思わず笑っちゃうわよね。まぁ真深も似たようなバッティングをするし、別段珍しいとも思わない時点で私も異常なのかしら?
「可能性はあるだろうね。ナックルなんて高校生が多投出来る球じゃないから……」
「普通の投手ならそれでも良いけど、由紀に仕掛けるのは愚策としか思えないわ」
「えっ?どういう事?」
「確かにナックルは普通の投手が多投すると、握力がなくなり、失投やスタミナ切れが起こりやすいわ。でも由紀は違う……」
(そう……。早川さんの言うように、普通の高校生投手なら握力を使うナックルなんて多投は出来ない。でも由紀は無尽蔵のスタミナを持っている)
それは私も、彼方先輩ですら羨む才能の持ち主……。天王寺先輩から聞いた話だと、1日の投げ込みの数は1000球を越えているとか。それが本当なのかは知らないけど、凄いわよね……。
カキーン!!
『ファール!』
これで10球目……。ナックルに対してあれだけ粘れる清本さんも流石よね。私が警戒している打者トップ3に入るだけあるわ。
(でも由紀だっていつまでもカットされ続ける訳にはいかない。きっとどこかで使ってくる筈……)
由紀が今投げているナックルよりも、更に変化の大きいナックルを……!
(体力の方はまだ問題ないけれど、これ以上は時間の無駄ね。見せてくれないのなら、もうこれでおしまいよ)
(またナックル……!)
11球目。由紀が投げたのは今まで投げていたナックルよりも更に変化の大きいものだった。このタイミングで投げてきたのね。
(変化が大きい!?)
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
(これまで投げなかったのはきっと由紀なりに何かしらを考えていたから……)
それは多分真深達の為……だと思うけど、真相のところは由紀にしかわからないわね。あの娘も、そして妹の亜紀も無表情過ぎて表情が読めないもの。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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