「私と……1打席勝負をしてほしいんです」
私のこの発言に対して神童さんは何かを考える素振りを見せた。正直無理を言っている感が否めないから、断られても仕方のない事だと思うわ……。
「……条件がある」
「条件……ですか?」
「今から行うのは上杉と1打席勝負をするのではなく、私の投球練習に上杉が打者役として付き合う事。もちろん上杉は私の投げる球に対して手を出しても構わない。あとは私の裁量で練習を終わる……これは絶対だ」
「…………」
「……以上の条件を飲むのなら、私の球を見せてやろう。どうだ?」
……状況を整理すると、私は神童さんの投球練習の為の打者役、神童さんの裁量次第で私は神童さんに挑む事が出来る……という事ね。
(もしかしたら最短で1球しか投げてもらえない可能性もあるけれど、場合によっては1打席分以上神童さんの球に挑める……と考えるべきかしら?)
「……はい。その条件で構いません」
「よし。二宮、悪いが私の練習にもう少し付き合ってくれ」
「わかりました」
二宮さんが合図を出す。これは互いに準備が完了して、神童さんの打席形式での投球練習が開始するのを表す。
「じゃあいくぞ……!」
それと同時に、神童さんから凄まじい圧を感じた。
(な、なんて圧なの!?まるで初めて彼方先輩を相手にしたような……いえ、それ以上だわ)
大豪月さんからも似たような圧を受けた。でも彼女のとはまた別の威圧感……。
「1球目」
ズバンッ!
投げられた球はスライダー。球速そのものは大豪月さんよりも遥かに遅い。でも……!
(手が……出なかった。それに『大豪月さんよりは遅い』というだけで、スライダーはかなりの球速を秘めてるわ)
変化球のキレと変化量は彼方先輩と同等……もしくはそれ以上かも知れない……。まだまだ色々な投手がいるのね。
「続けるぞ?」
「は、はい!お願いします!」
打ち砕く事は出来なくても、抗うくらいはさせてほしいものね。
ズバンッ!
「くっ……!」
これで何球目になるかしら?私は神童さんの投げる変化球に対して、バットが空を切るばかり……。
(まさか1球も当てられないなんて……!)
神童さんが投げている球はスライダー、シュート、カーブ、シンカー、フォーク、カットボール、チェンジUP、SFFの7種類の変化球とツーシーム。どの球もプロ選手顔負けのキレと変化量なのだけれど……。
「今日はイマイチ変化球の調子が良くないな……」
「そうなんですか?」
「ああ。代わりと言ってはなんだが、ツーシームはいつもより良く投げられている気がする」
「それは捕手に向けて投げるのが久し振りだから……という理由が含まれていそうですね」
「それはあるかもな。私の全力の変化球を捕ってくれる捕手がわざわざプロのスカウトを蹴って、大学進学を選択するとは思えない」
神童さんの話によると、変化球の調子が余り良くないとか……。
(そんな変化球に対して1度もバットにかする事すら出来ない私は……まさに井の中の蛙という言葉が当てはまるわね)
ズバンッ!
(また……空振り……!)
「はぁ…はぁ…!」
「次で30球目ですね」
もう30球なのか、まだ30球なのか……。時間の感覚すら可笑しくなりそうな……そんな現象に陥っている。こんな経験は今までなかった訳だし……。
「キリが良いし、次の1球で最後にするか」
(最……後?)
神童さんは次の1球で最後だと言った。次の1球で終わり……?
(……そんなの、納得出来る訳ないじゃない!)
このままでは終われない。勝負の結果は私の完全敗北だけれど、一矢報いる事もなく終わるなんてあってはならない……!
「こ、これは一体……」
「真深っ!?」
(後ろから声が……?)
後ろを向くと、そこにはユイと早川さんが。とんでもないものを目にしたかのような顔をしていた。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
-
見たい
-
見たくない