最強のスラッガーを目指して!【本編完結】   作:銅英雄

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早川朱里と橘はづき

『ありがとうございました!!』

 

夏大会の2戦目。梁幽館との試合は去年の夏大会よりも激戦で、私達新越谷はなんとか勝つ事が出来た。

 

正直これといった勝因はない。強いて言うならば、2安打2打点の春星の活躍ありきだと思う。

 

(その春星だって1歩間違えば打ち取られていた……。台湾一のスラッガーをあそこまで苦戦させられる投手はそういないと思ってたけど、これは改めて埼玉のレベルの高さが伺えるね)

 

まぁともあれ勝った事には変わらない。切り替えて次の試合に備えよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……で、お手洗いに行っている訳だけど。

 

「あ、朱里せんぱい……」

 

なんか橘と遭遇したんだけど。しかもなんか既視感ある出会いなんだけど?まぁ去年に会ったのは中田さんなんだけどさぁ……。

 

「お疲れ様橘。ナイスピッチング」

 

「それはお互いに……ですよ。初回の友理先輩以降の武田さんもそうなんだけど、朱里せんぱいも凄かったです」

 

(なんかいつもの元気がないな。まぁ敗戦だし、3年生は引退してしまうし、仕方ないと言えばそれで済むけど……)

 

正直慰めなんてする必要はないと思う。何故なら勝者が敗者を慰めるなんて惨めで、屈辱的だから……。

 

「……本当は」

 

しばらくの沈黙の後、橘がポツリと話し始めた。

 

「本当は……私は登板予定じゃなかったんです。新越谷と試合をする前の試合で私は弥生ちゃんと継投してて、新越谷との試合では和美先輩を完投させるつもりでした……」

 

それに関しては私達もそう思っていた。正確には吉川さんと橘のどちらかが完投するつもりで投げてくるものばかりだと……。それは過去に梁幽館と試合した時の因縁めいたものがあったからだと思う。

 

「でも実際は違った……。試合前日に和美先輩が新越谷を抑え切れなかったら、私に投げさせるつもりだったみたいなんです。私は直前まで知らなかったのに……」

 

(多分橘の性格上、遠慮するからだったんだろうね。だからギリギリまで言わなかった……)

 

橘は上下関係がとてもしっかりしていて、先輩を純粋に敬っている。まぁ同い年の私にも同等の扱いを受けてたけど……。

 

「それでも今日の和美先輩なら、きっと新越谷の打線を抑えられていたんですよ!私じゃ、新越谷の勢いを止める事は出来なかった……!」

 

「……それは違うんじゃない?」

 

「えっ……?」

 

「吉川さん達は橘になら後続を任せて大丈夫だって判断したから、交代を提案してたんだと思う。橘にギリギリまで言わなかったのは、橘が遠慮してしまうから……」

 

「そ、それは……」

 

まぁ結果的に春星を抑え切れてなかったけどね。口には出さないけど……。

 

「で、でも和美先輩は私よりも凄い投手で……!」

 

「確かに今の吉川さんは凄まじい勢いで成長していってるね。でもそれは橘だって同じだと思うよ」

 

「私も……?」

 

「橘は自覚しやすい方だと思うから言うけど、去年の夏大会が終わった後に猛練習して、その結果が今の橘になってるんじゃないかな?その過程で梁幽館の全部員に頭を下げて色々やってたみたいだしさ」

 

「……っ!」

 

ちなみにこれは高橋さんから聞いた。100人以上の部員に逐一頭を下げて、その人独自の能力を覚えようとしたんだとか。こういう努力の天才を目の当たりにするのは二宮以来かもね……。

 

「……まぁこれ以上は私が言っても仕方ないし、あとは梁幽館で話し合ってね」

 

私がそう言って皆の所に戻ろうとすると……。

 

「ま、待ってください!最後に1つ……良いですか?」

 

「……良いよ。どうしたの?」

 

橘に引き止められた。恐らく橘を三振させる時に投げたスクリューについてかな?

 

「私に投げた最後の1球……スクリューですよね?今まで投げてこなかったのに……」

 

「そうだね。私もここまで本格的なものを投げるつもりはなかったよ。右肩のリハビリも続けている訳だしね。だから橘に投げたのが特別」

 

「私にだけ……?」

 

「橘は私に対して『せんぱい』って敬称で呼ぶよね。それはなんで?」

 

「そ、それは朱里せんぱいが……私が野球を始める切欠になったから、憧れだから……」

 

「リトル時代のある試合で私が投げているのを見て、橘は野球を始めようとした訳だ?」

 

「そう……ですね。私にとっては雲の上の人だったから……」

 

「でもシニアでは私と一緒のチームだった……」

 

「それは本当に幸運だったと思います。憧れの人と同じチームで野球が出来るって……。まぁ私じゃアンダースローは無理だったんですけどね。私自身も左利きですし……」

 

……で、シニア入団時に橘が私にスクリューを見てほしいって言ってたっけ?今となると何もかも懐かしく感じるよ。

 

「話を戻そうか。私があのスクリューを投げたのは……橘が私に憧れていたのと同じように、私も橘はづきという投手をリスペクトしていたんだよ」

 

「朱里……せんぱいが?」

 

「そう。だからスクリューを投げる時は橘だけにしようって思ってたんだよ。いつ来るかわからない機会だったけど、それは思ったよりも早く来た訳だしね」

 

「まさか……ずっと私に投げる為に……!?」

 

「まぁそんなところ。最後に1つ……」

 

私は皆の所に戻る前に、橘にずっと言いたかった事を言う。

 

「私に憧れるのは結構。そういう目で見られるのも悪い気はしないしね。でも……私自身、橘とは対等なライバルでありたいんだよ」

 

「…………!」

 

「だからいつまでも『せんぱい』呼びだと対等な気がしないから、それも早い内に卒業してね?」

 

まぁそんな簡単には抜けないか……。橘の『せんぱい』呼びは最早癖の領域まで行ってそうだし。

 

「あり……がとう。ありがとう!朱里!!」

 

「礼を言われるような事は何もしてないけどね。じゃあね橘」

 

今度こそ、私は皆の所に戻った。なんか柄にもない事を言っちゃったかな……。

金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?

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