私は今日の試合でホームランどころか、ヒットすら打てていない。もっと言うともっと前の試合から調子が悪い。
「話、聞かせてもらうよ。皆からは許可をもらっているしね」
(前にもスランプに陥った事があって、その時は今みたいに朱里ちゃんが慰めてくれたっけ……)
あの時と違うのは今回はの不調の原因がハッキリとわかっているから。迷惑を掛けたくなかったし、出来れば私だけで解決しなきゃいけない問題なんだけど……。
「……聞いてもらっても良い?私達の話」
私にはお姉ちゃんがいる。小さい頃に訳ありで別居しちゃってるんだ。
朱里ちゃんは私のお姉ちゃんを知ってるみたいだし、朱里ちゃんはお姉ちゃんに何か恩義を感じてるようだし、私達にあった事を話せば、少しは楽になるのかも知れない。そう思って私は話し始めた。
雷轟は語り始めた。雷轟の過去を、風薙さんと仲違いしてしまった話を……。
「小さい頃はね?私達は仲の良い姉妹だったんだよね。家は貧乏だったけど、お父さんも、お母さんも、そしてお姉ちゃんもいて幸せだったんだぁ……」
今の雷轟の家って割と裕福な方だと思うけど、昔はそうじゃなかったのかな?
「でもね、ある日を境に私達の歯車が狂い始めたんだ……」
「ある日……?」
雷轟が口にしたのは、私の予想よりも重く、悲しい話だった。
「今から10年前、お父さんが死んじゃったの……」
「……それは私が聞いても大丈夫なやつ?雷轟が嫌なら、私はもう無理には聞かないよ?」
「ううん大丈夫。私が話したいだけだから……。続けるね?」
それからもポツポツと雷轟は話し続けた。
父親が死んでしまってしまった事、死んだ父親が残した多額の借金がある事、そして……。
「その3日後にある人から私達姉妹のどちらかに養子になってほしいってお誘いが来たんだ。その人は養子に来てくれれば借金返済の援助をしてくれるって言って……」
「その家の養子に風薙さんがなった……と?」
「うん。でもお姉ちゃんはとても冷たい目をして……こう言ったの。『こんな貧乏な家はいらない』って……」
「……っ!」
風薙さんがそんな事を?太陽のように明るくて、優しい人が?にわかには信じられない……。
「その時の目は今でも覚えてるよ。今でも、お姉ちゃんのあの目は怖かったから……。それで、お姉ちゃんが養子になって、家の借金も無くなって、10年経った今ではそれなりに落ち着いた生活に戻れたと思う……」
中々壮絶な人生送ってるなぁ……。右肩壊した私の比じゃないくらいに。
「こ、これ以上雷轟家の闇を聞くのは止めておくよ。私もちょっと踏み込み過ぎたしね」
「……じゃあ話を戻すね?あんな冷たい目で発言をしたお姉ちゃんだったけど、10年経った今になって、思うところがあるんだよね。だから私はそれを確かめる為に、お姉ちゃんに会いに行きたいなって思ってるんだ」
「そっか……」
「でももし私が会いに行って、お姉ちゃんがあの冷たい目で対応されるって考えてたら、震えちゃって……。それが試合に影響が出てたみたい」
「……それでも、雷轟は会いに行くんでしょ?風薙さんに」
「……そのつもり。タイミング的には県大会が終わった後になるかな?県対抗総力戦が始まるまでの間の、一瞬だけでも、話がしたいなって思ってるよ」
雷轟はまた身震いしながら言った。それ程に冷たい目の風薙さんとやらが怖いみたいだ。
「……ごめんね。とりあえず今は大丈夫。皆が心配してるし、戻ろっか!」
パッと切り替えて、雷轟は駆け足で皆の所へと向かった。
(本当に、大丈夫なのかな?)
私のこの不安は、想定よりも悪い形で実現する事になる。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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