今日は咲桜との試合の日。芳乃さんが悩みに悩んだ末、先発は私が務める事になった。で、今は武田さんとお手洗いを済ませたところなんだけど……。
「ふんふんふーん♪」
「なんか機嫌良いね。どうしたの?」
武田さんの性格上自分が投げないとわかったら、落ち込みそうなものなのに……。
「なんにもないよ?」
「ええ……」
武田さんがよくわからないよ……。
「ヨミ……」
「…………!」
後ろから武田さんを呼ぶ声が聞こえたので振り返ると、咲桜の選手らしき人がいた。ユニフォームを着てないから、多分ベンチ外の選手かマネージャーなんだろうけど……。
(武田さんの表情から察するに、武田さんが中学時代に同じ野球部員だったっぽいね)
ただ単に同じ野球部の人間だったのか、それとも……。
(……まぁ私には関係ない話かな)
触らぬ神に祟りなし。下手に藪をつつくと蛇が出そうだしね……。
(大丈夫?私は席を外そうか?)
(ううん。朱里ちゃんにもいてほしいかな……)
武田さんから同席の許可をもらったので、私はここに留まる事に。メンタルケアが必要なのかな?
「久し振り……。元気だった?」
「野球……続けてたんだね。ビデオでこれまでの新越谷の試合を見たけど、凄かったよ」
「そっちもやってたんだ?しかも咲桜で……。びっくりしたよ」
「まぁ見ての通り1軍は無理だけどね……。でも雑用とかサポートでも充実してるよ。やっぱり野球が好きだったからね」
「そっか……。私も今は楽しいよ」
武田さんがふんわりと笑う。それは無理をしているようにも見える。鬱ぎ込むよりかは余程マシだけど、もしかしたらその1歩手前の状態なんじゃ……?
「敵だけど、頑張って」
「うん。そっちも……」
そう言って武田さんの元同級生は咲桜のベンチへと歩いて行った。
「野球が好きだった……か。だったらなんであの時は……」
「……多分彼女にも思うところはあったんだよ。そうでなければ野球を続ける……それも咲桜では無理だったんだ」
「そうだよね……。多分、これで良かったんだよ。朱里ちゃんも側にいてくれてありがとう!」
武田さんがいつもの調子を取り戻す。なんか1人で落ち込んで、1人で立ち直った気もするけど、私がいた意味はあったんだろうか……?
「何敵と話しているの!」
皆の所に戻ろうとすると、今度は叫び声が。去年ここに来たからわかるけど、ここって結構声が響くんだよね……。つまり耳が痛い。
「知り合いに挨拶しただけっすよ。何を怒ってるんですか……?」
「こいつは元新越谷だから今日はピリピリしてんのよ。去年もそうだったし……」
声のする方向にはさっきの人が咲桜の部員と何やら揉めている様子が。しかし元新越谷か……。
「うるさい。試合前の交流は禁止でしょうが」
「でも残った相手の先輩……1年間我慢し続けて、ここまでのチームを作るって凄いですよね。去年の夏は全国優勝してるし、秋大会も県決勝まで勝ち進んでいますし……」
「あのさぁ……。実質1年間の停部を食らったら野球を諦めてしまうか、ウチ等みたいに散り散りになって他所様に拾っていただくかの2択だったんだよ。暴力3年生も学校に残っているのに、何をされるか……」
どうやら1人は元新越谷の選手みたいだ。主将達が結果を残しているのを見て余計にピリピリしている様子……。
「それなのに敢えて残ったって事は……下級生ばかりになった時に仕切りたかったんじゃないの?同じような事をしてたりして」
は?今あの人なんて言った……?
「そうは見えませんけどねぇ……?」
「フン。全国優勝したのだってまぐれが続いたのよ。それか汚い手を使ってたり……」
「そりゃ去年の梁幽館との試合では初回敬遠とかしてたりしましたけど……」
「戦術じゃなくて、ラフプレーの事だよ。この試合でも仕掛けてくるんじゃないの?」
(それはない……。ヨミの存在を知って全試合をくまなく見たけど、初々しくて柔らかい印象のチームだった……。多分この人は羨ましいんだろうな。今の新越谷が……)
何やら言いたい放題言ってくれるね……。ラフプレーを仕掛ける?まぐれが続いた?
「あ、朱里ちゃん?顔が怖いよ……?」
武田さんが私を心配してくれている。本来なら武田さんだって怒りたいと思っている筈なのに……。
「……武田さん。芳乃さんに、皆に伝えておいてよ」
「えっ?」
今日の試合ではスタミナ配分無視するから、完投するのが難しそうだって……!
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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