「どうしてこうなった……」
そう呟いたのは一ノ瀬さんだった。
今の状況を整理すると、親切高校のマネージャーと名乗った坂柳さんの提案で一ノ瀬さんと雷轟の1打席勝負をする事に。もちろん一ノ瀬さんは嫌がったのだけど、坂柳さんが一ノ瀬さんの耳元で何かを呟き、一ノ瀬さんは顔を青くしながら勝負を了承したそうだ。一体何を言ったのだろうか……。場所は河川敷へと移動している。
「なんだかワクワクしてきた!」
「頑張ってね。遥ちゃん」
捕手役に山崎さん。互いに敵同士なので、サインのやり取りはなし。ただ一ノ瀬さんが投げる球を、ただ山崎さんに捕球してほしいそうだ。捕手の捕球力とアドリブに対する対応が問われるね。
(まぁここで雷轟と一ノ瀬さんが勝負するのは結構重要な事かもね。雷轟が打てなかったら私達が親切高校に勝てる可能性はかなり低くなるけど、逆に雷轟が一ノ瀬さんから打つ事が出来れば勝率はかなり上がってくる……。まさにハイリスクハイリターンだ)
(雷轟さんと一ノ瀬さんの勝負を設けられたのは大きいですね。一ノ瀬さんと雷轟さんの相性、山崎さんが一ノ瀬さんの球をアドリブで捕球が出来るかどうか、そして親切高校の勝率の上下……。結果はどうあれ、鈴音さんに良い報告が出来そうです)
「じゃあ行くよ……。打つにせよ、空振りするにせよ、さっさと終わらせてね」
(サイドスロー!)
そう言って一ノ瀬さんが初球で投げたのは……。
(シンカー……!)
カキーン!!
シンカーにタイミングが完璧に合っており、雷轟が飛ばした打球は夜空に消えた。
「ええ……?飛ばし過ぎでしょ。何なの?ボールの数は有限なんだよ?あっ、でもボールがあれしかなかったら、自動的に解散になるか……。よしもう帰ろうそうしよう」
「安心してください。予備のボールはちゃんと複数ありますよ。それに打球方向は完全にファールですので、勝負は続行です」
「嘘でしょ?もう嫌なんだけど……」
雷轟が放った打球によってボールが紛失したと思い一ノ瀬さんが帰ろうとするも、坂柳さんが予備のボールを複数用意していたらしく、一ノ瀬さんの淡い願いは崩れ去った。まぁ雷轟もカットのつもりでファール性の場外弾を放ったっぽいし、これで終わるとも思えないよね。
(よし……!上手く出来たよ。カットでも打球を場外に飛ばす事が!ギリギリまで見極めて、覇竹のスイングで今度はホームランを狙うよ!)
(遥ちゃん、嬉しそうだなぁ……)
腕をグルグルと回して張り切っている雷轟と、対照的に俯いている一ノ瀬さん。この2人は本当に正反対だよね。
「はぁ……。もう嫌だよ……。嫌だから、全力で抑えに行くからね……!」
「……来ましたね」
私の隣にいる坂柳さんが何かを呟いた。一ノ瀬さんの方を見てみると、なんだかこれまでに感じた事のない圧を感じるようになった。
(あれが……一ノ瀬さん?シニアではあんなの見た事がない……)
カンッ!
(球の勢いが……上がった!?)
2球目もシンカーだったけど、1球目とは全然違う……。
「一ノ瀬さんはネガティブになればなる程に、球の威力が上昇します。精神をLowにする事によって、放たれる変化球はこれまでの比ではありません」
確かに……。シニア時代でも見られなかった一ノ瀬さんの成長が、まさかこんなところでお目見えするなんて……!
「これで終わり。全員消えて……!」
カウントはツーナッシング。一ノ瀬さんは次の1球で雷轟さんを仕留めるつもりだ……。
(えっ……?嘘っ!?)
投げられたのはカーブ。それは友沢の投げたカーブよりも変化が大きく、更には不規則に曲がり、雷轟のバットは空を切った。しかしそれだけじゃなかった。
「し、しまった!」
「珠姫ちゃん!?」
「嘘……。山崎さんが逸らした!?」
捕手役の山崎さんが一ノ瀬さんのカーブを逸らし、ボールは転々と山崎さんの後ろに転がっていった……。
「ふむ……。やはりこの勝負を組んで良かったですね。色々と収穫もありました」
「あの……。もう帰っても良いかな?」
「そうですね。夜間ミーティングに向かいましょう」
「や、やっぱり逃げられなかった……」
「今日はありがとうございました。また3日後……決勝戦でもよろしくお願いします」
そう言って坂柳さんは一ノ瀬さんを引き摺って行った。
「強く……強くならなきゃ……!」
「このままじゃ……」
雷轟と山崎さんの精神に深い傷を負わせて……。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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