(さて……とは言っても、1点ビハインドのこの状況をなんとかしないといけないのもまた事実……)
5回表。2対3で私達は負けている。それにホームランを打った大村さん以降は未だ一ノ瀬さんの球を打ちあぐねている……。状況は一気に不利になった今、こちらも大きな動きを出したいところだけど……。
「…………」
(代打攻勢を仕掛けるのはまだ早い……芳乃さんはそう判断してそうだ)
この点に関しては藤井先生も同意見だろう。この回を含めて私達の攻撃チャンスはあと3回……。もう少し見定める必要があるかな?親切高校の守備陣の動きを……!
ズバンッ!
『ストライク!』
「また……変化が大きくなっている」
「しかもコースギリギリに曲がってくるのが厄介ね……。特にヨミのあの球のように、顔面すれすれのコースからストライクゾーンへと食い込んでくるカーブが……」
「そして下手に打ちに行こうとすれば、外へと逃げるシンカーとシュートによって空振りするし、それをこちらが想定すれば、逆を突く真っ直ぐが投げられる……か。緻密に考えられた配球だよね」
「はい。打ち手の心理を利用した巧妙な戦術ですね」
捕手である山崎さんと木虎がそう言うなら、本当にそうなんだろうね。配球を考えたのはバッテリーなのか、それともマネージャーでありながらも二宮と似ていて、二宮と同等の頭脳を持ち合わせている坂柳さんなのか……。
(じゃあ二宮の思考をトレースすれば、配球の攻略に繋がったりする……のかな?)
……可能性は低そうだけど、やってみる価値はありそうだ。
「朱里ちゃん……?」
「ちょっと考える事があってね。もしかしたら配球の突破口が掴めるかも知れない」
『本当に!?』
うわっ!全員が凄い食い付いてきた!?そんなに気になる……?
「ちょっと読み合いになりそうだけどね。ちょっと武田さん、耳を貸して?」
「えっ?う、うん……」
私なりに二宮の思考をトレースした結果を、私は武田さんに耳打ちする。その際に武田さんが少し赤くなっていたのは多分気のせいだろう。
「そ、それでいけるの?」
「確証はかなり低いけどね。あくまでもやってみる価値があるというだけ……」
「わかった……。やってみるね!」
この回の先頭打者である武田さんが私の助言を聞いてやる気を出したような感じがする……。なんで?
「流れは完全に親切高校に行っちゃったかな~?」
「そうでもないでしょう。確かに向こうの4番打者に打たれはしましたが、その後の武田さんのピッチングは今日1番に冴え渡っています」
「た、確かに……。今のヨミちゃんの球を打つのは難しそうかも……」
(決して不可能と言わないのか和奈さんですね)
「でも羽矢さんも負けてないよね。コースギリギリに変化球をバンバン投げてくるし……」
「ストライクゾーンギリギリに曲がってくるカーブと、ボールゾーンへと逃げるシンカーとシュート……。今の一ノ瀬さんはこの3種類を散らしていますが、中盤戦の今ではそろそろその逆を突いてくる、或いはその心理を逆手に取ってくるケースが出てきますね」
「そうなの?」
「現に新越谷側が円陣を組んでいます。恐らくここからは読み合いが発生してくるでしょうね」
カウントは0、1。次も武田さんには見送るようにサインを出したけど……。
ズバンッ!
『ストライク!』
(アウトコースにストレート……。こっちがシンカーかシュートを読んで見送る読みかな?)
(ここまでは朱里ちゃんの読み通り……。1球目はコースギリギリにカーブを投げてきた。本当に散らして来た……!)
でもこれで追い込まれた。次は外してくる可能性を考慮しても、費やせるのはあと1球……。次かその次の球で一ノ瀬さんは仕留めに来る。そしてそれを武田さんに打ってもらう訳だけど、果たして上手くいくか……!
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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