ベンチ裏で雷轟を宥めていると、上杉さんと水鳥さんに声を掛けられた。なんかこの2人の組み合わせは珍しい気がする……。
「ベンチ裏で何かしていたのかしら?」
「いや、ちょっと雷轟がね……。精神的に不安定な状態だから、少し宥めていたんだよ。それよりも2人はどうしてここに?」
上杉さんと水鳥さん……。この2人は同じ高校の野球部だけど、性格的に合わなさそうなんだよね。そしてこのタイミングで、ベンチ裏にこの2人が来たという事は……。
「……風薙さんの事か」
「ええ……。その通りよ。私と志乃先輩は今の彼方先輩の状態に思う事があって、2人で話し合おうと思ったの」
「余り大勢の人間を巻き込むべきではないと思って、ベンチ裏で上杉と話そうとしたら、早川と雷轟がいた……」
今の風薙さんはまるで二宮のような冷たい目をしている。……いや、二宮はあんな目をしていても、こちらをしっかりと見ている。そして今の風薙さんにはそれがない。その事について2人で話し合おうとした訳か……。
「それならウィラードさんとかも呼んだ方が……」
「ユイは彼方先輩に付いてもらっているわ。今の彼方先輩を1人にはしておけないもの……」
成程ね……。
「多分今の風薙は野球に集中している……と言えば聞こえは良いけど、あれはすがっているだけ、逃げているだけ……」
「私も……そう思います。前までの彼方先輩は圧倒的な実力を持ちながらも、どこか楽しそうに野球をしていましたから……」
雷轟が風薙さんに会いに行ったあの日……。あの日を境に雷轟も、風薙さんもどこが可笑しくなった。2人の歯車が狂い始めた……。
「……多分お姉ちゃんが11年前に私とお母さんから離れていったあの時から、お姉ちゃんの人生は可笑しくなったんだと思う」
ようやく立ち直った雷轟が口を開く。
「雷轟……」
「私達家族の問題に皆を巻き込みたくはないけど、もう黙ったままでいるのは辛いよ……。だから話す。私の話せる事だけを……」
雷轟が話したのは今から約11年前。風薙彼方がまだ雷轟彼方だった頃、家はとても貧乏な上に、多額の借金まで背負っていたらしい。
そんなある日の事、アメリカ在住のとある富豪の養子にならないかと言われたらしい。それが後の風薙家で、どうやらアメリカに支社を構えているらしい。
最初の内は2人共風薙家の養子になるのを渋っていた。幼くして、家族が離れ離れになるのが耐えられなかったから……。しかし風薙家が借金を全額返済してくれる上に、雷轟家へ資金援助までしてくれる……という雷轟家側からするととても魅力的な申し出がなされた。
そして風薙さんは考えて、考えて、考え抜いた末に、家族の為……という言葉に蝕まれ、今の風薙さんのような冷たい目で『こんな貧乏な家族はいらない』と口にして、風薙家の養子となったそうだ。いやまだ6歳とか7歳の子供に背負わせ過ぎでしょ……。まぁ仕方ない部分も多々あるんだろうけど!
「……これが私視点でわかる事全部。お姉ちゃんは私達家族を守る為に、あんな酷い事を言ったんだって、最近になって気付いたの」
「そんな……そんな事って……!それじゃあ彼方先輩は……」
「……風薙は1人で、孤独に、自分のやった贖罪を背負っている」
雷轟の話を聞いて上杉さんも、水鳥さんも苦々しい表情をしている。
(色々と腑に落ちない点もあるけど、とりあえずわかるのは……)
「……言いたい事は野球でぶつけた方が良いって事なのかな」
「えっ……?」
「早川、さん……?」
「前に風薙さんに会った時に言ってたんだよ。『私は不器用だから、言いたい事は全部野球でぶつけてる』って……。だから、もしかしたら野球でなら雷轟の主張をぶつけられんじゃないかなって思ったんだよ」
姉妹だから、思考回路は似てると思う。だから現状それが最善手の筈……!
「……成程ね。確かに朱里の言う通りなのかも知れない」
『!?』
私の後ろから声が聞こえたので、全員が勢い良く振り返る。
「やっほー」
そこには天王寺さんがいた。い、いつから話を聞いてたんだろうか……。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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