沖縄選抜との試合の夜。ヨミちゃんが投げ込みをしたいとの事で、私はその付き添いとして、近くの公園(昨晩番堂さんと剛田さんが喧嘩し合ってた場所)でヨミちゃんの球を受ける事に。
ズバンッ!
「ナイスボール!今日の試合でも球は走ってたよ」
「ありがとー!でもなんか物足りない気がするんだよね。それに……」
「それに?」
「遥ちゃんのお姉さん……風薙さんの球と比べると、何か足りないって思うんだよ」
「ヨミちゃん……」
沖縄選抜との試合では私はベンチだったけど、ベンチから見てもヨミちゃんの球は走ってた。風薙さんの球が凄いのはわかるけど、ヨミちゃんにはヨミちゃんの良さがきっとある。
「……まぁ良いや。もう1球行くよ!」
「来い!」
ズバンッ!
ストレートも、あの球も、他の球種も、前まで……洛山主宰の地獄の合宿に行く前よりも格段にキレが上がってるし、球の勢いもある。でもヨミちゃんはどこか不満そうにしてるんだよね……。
「おっ、いたいた。今日の試合で投げ足りなかったのかな?」
「「か、監督!?」」
私達の前に現れたのは、埼玉選抜の監督をしている大宮さん。そういえば地獄の合宿で見掛けたんだっけ……?
「武田さんは今日の試合はお疲れ様。今後に備えて山崎さんと投げ込みの練習をしていたのかな?」
「は、はい……」
なんだろう?この人と話すのは緊張するな……。
「あの!今から私の球を見てもらっても良いですか?」
「ヨミちゃん?」
「今の私は何か足りないものがあると思うんだ……。でも監督なら、それがわかるかも知れないから!」
今のヨミちゃんに足りないもの……。でも確かに私ではまだわからないものが監督には見えているかも知れない。
「成程ね。話はわかったよ。とりあえず打席に立って良いかな?打者目線の方がよく見えると思うし」
「はい!」
「それに丁度武田さんを鍛えようと思ってたからね……」
「!!」
今……監督は確かにヨミちゃんを鍛えるつもりだって言ってた。だからヨミちゃんを探していたのかな?
「投げて良いよー」
「よーし……!」
ズバンッ!
「ふむ……」
ズバンッ!
「成程……」
ズバンッ!
「うん。大体わかったかな?もう止めて構わないよ」
「えっ、もうですか?」
「武田さんの課題が見えてきたからね。とりあえず今日はもう遅いし、詳しくは明日に説明するね。試合もない事だし……」
「わ、わかりました……」
どこか消化不良のヨミちゃんだけど、監督の言う事を信じて待つしかないのかもね……。
翌日。私とヨミちゃんは監督に言われるがままに着いて来たんだけど……。
「ここは……?」
「この場所は知る人ぞ知る……魔の六甲おろし坂だよ」
「す、凄い坂……」
「や、山登りでもするんですか?」
こんな坂を登るってかなりキツそう……。
「さて……今の武田さんはかなり屈強な上半身を手にしているね?」
「えへへ……。これでもキツい特訓を乗り越えて来ましたから!」
確かに地獄の合宿でヨミちゃんがやった特訓はキツい……というか、常軌を逸してたよね。ヨミちゃんはなんか誇らしげにしてるけど……。
「でも武田さん的には何かが足りてない……って思ってるんだよね?」
「はい……。なんとなくなんですけど、それが何かがわからなくて、モヤモヤするっていうか……」
「その答えは武田さんの下半身が鍛えられた上半身に着いて行ってない……って事だよ」
「下半……身?」
「まぁ武田さんも下半身を疎かにはしてないだろうけど、上半身に比べると、並程度しかない」
「そんな……!」
「じゃあどうしたら……!?」
「そこで下半身を鍛えられた上半身に合わせるべく特訓を行っていく訳だけど……」
監督が若干言い淀んでいる。どうしたんだろう?
「昨日も言ったけど、止めるのなら今の内だよ。これから行う特訓はハイリスクだからね」
(そういえば言っていた……。だからヨミちゃんは一晩中考えていたんだ。監督の特訓に従うのか、否かを……)
そしてヨミちゃんが考え抜いた末に、出した結末は……。
「……やります。やらせてください!」
「良い返事だ。でも吐いた唾は飲み込めないよ?」
「覚悟の上です!!」
凄い決意……。今のヨミちゃんには迷いがなさそうだ。
「OK。じゃあ武田さんには今から乗り物に乗ってもらうよ」
そう言って監督が用意したのは……?
「自転車……?」
「これで登るんですか?」
「そうだよ。楽しくサイクリングといこうか♪」
監督は楽しそうに、発言してるけど……。
「はぁ……!はぁ……!」
(あ、歩くより、す、数段キツい……!)
「か、監督、これって……」
「マウンテンサイクリング……。間違いなくあらゆるスポーツの中で下半身を酷使するスポーツだよ」
や、やっぱり……。しかもこんな坂を登るとなると、もっとキツくなる。
「ヨミちゃん!無理して飛ばさず、ゆっくり登って頂上を目指して行こう!」
「駄目だよ。ペースを緩めたら苦しむのは自分自身なんだから♪」
こ、この監督はただでさえ坂道は自転車の方がキツいのに、無茶苦茶な注文をしてる……。
「ふぅ……」
ヨミちゃんが一息入れる。休みながらでも、ゆっくりと登って行こうね。
「あー駄目駄目。途中で休んだら」
「「えっ……!?」」
しかし監督からとんでもない発言が飛び出した。
「息継ぎなし坂登り(ノーブレスクライミング)。この特訓で坂を登り切るまでの間に1度でも足をついたら、坂の最初からやり直してもらうからね」
息継ぎなしなんて……!そんな無茶苦茶な事が出来るの!?
「ちなみに洛山高校OGの大豪月さんと、美園学院の三森夜子さんがこの特訓を成し遂げてるから、前例はある……。武田さんは頑張って3人目になろうね」
ぜ、前例があるんだ……。でもそれってその2人が特別なんじゃ……?
「ぜ、前列があるんなら、わ、私にだって、で、出来ますよね?」
「もちろん。私は武田さんなら出来ると思って、この特訓を勧めている訳だしね」
ヨミちゃんも監督も出来ると信じているし、私が水を差す訳にもいかないよね。
「なら……やります!絶対にこの特訓を完遂します!」
「うん。頑張ってね」
ヨミちゃんがやる気満々だし、私には止める事が出来ない……。でも決して無理だけはしないでね?
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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