時間は少し遡り、東東京選抜の投手が鐘嵐珠がマウンドで投げている頃……。
ズバンッ!
『ストライク!』
「速いわね……」
「ええ。これは私達も他人事じゃないわ……」
「是が非でも勢いに乗ろうとしているのが伝わる……」
「…………」
早川朱里達が観戦している反対側のスタンドでは群馬選抜の選手である上杉真深、ユイ・ウィラード、水鳥志乃、風薙彼方が京都選抜と東東京選抜の試合を観戦に来ていた。
「私達がここに着いた頃にはあの投手が投げていたけど、どうしたらあんなスコアになるのかしら……?」
「京都予選は府代表である洛山高校を中心に、基本的には打ち合いになってるから、このスコアも別段珍しくはない」
「アメリカでもこんな殴り合いは見た事がないわ。こんなの投手側は正気を保てないわよ……」
上杉とウィラードは23対16という、普段見る事は決してないスコアに脱帽していた。水鳥は事前にデータを取っていたのか、対して驚いてなく、風薙はただ無言で試合を観ていた……。
「でも東東京選抜の新たに出て来た投手……鐘嵐珠さんの投げる球は苦戦しそうね」
「そうね。見たところはストレートだけしか投げていないけれど、あの球速は彼方先輩と同等のものよ」
「…………」
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
「リンゼちゃんが当てられないって事は、あのストレートは本物ね。打つのには時間を要しそうだわ」
「そうでもない」
「志乃先輩?どういう事ですか?」
「確かに鐘嵐珠の投げるストレートは風薙と同等。でも次に入る打者に関しては、打者側に軍配が上がる」
「次は3番……非道さんね」
京都選抜の3番打者……非道に水鳥は注目する。
「非道は風薙と同等か、もしくはそれ以上の球速の持ち主の球を最低でも2年以上見て、捕っている。そんな非道だからこそ、鐘嵐珠のストレートを打つのは難しくない」
ズバンッ!
『ストライク!』
「非道は打率こそ低めなものの、捕手らしく分析を得意とし、独特なアッパースイングで、ピンポン球のように軽々とホームラン性の打球を飛ばす……そんな打者。そして今の1球で、非道の射程圏内に入った」
「射程圏内……?」
カキーン!!
非道が鐘嵐珠の球を捉え、そしてその打球はポールに直撃し、ホームランとなった。
「まさかあんな完璧にアジャストするなんて……」
「1打席にも満たない時間で打つ程に対応が早いわ……」
上杉とウィラードが非道の評価をしていると、今まで黙っていた風薙が口を開いた。
「……前に洛山と練習試合をした時から確信してた」
「彼方先輩……?」
「確信って何を……?」
「今私が1番打者として警戒しているのは非道さん。彼女の不気味と呼ばれる分析力と、豪速球に対する物怖じのなさ、そして対応の早さ……。どれを取っても、この大会の参加者の中でも頭1つ以上抜けてる……」
物静かに、それでいて淡々と語る風薙彼方には最早以前の天真爛漫さはなかった。
「じゃ、じゃあ遥ちゃんは?彼方先輩の妹の……」
「…………」
上杉の質問に対して、少しの沈黙の後にこう答えた。
「……今のあの子にそんな価値はないよ。あるのは有り余らせた力だけで、打者としての怖さは一切ない」
暗に実の妹である雷轟遥は無価値だと、見る影もないと……。
(このままでは駄目ね。今の彼方先輩は何があったかは知らないけれど、遥ちゃんに対して酷く失望してしまっている……)
「で、でも妹さんのいる埼玉選抜はレベルが高いですよ?その打線で4番を打っているみたいですし……」
「……そうだね。埼玉選抜のレベルは高い。特に走力と守備力に関しては全都道府県の中で1番だと思う」
(埼玉選抜の評価そのものが低くない?それなら……)
群馬選抜が埼玉選抜と当たるのは決勝戦。もしも埼玉選抜がそこまで登り積める事が出来たのならば……!
((今の彼方先輩の苦しみから解放してくれる筈……!))
上杉とウィラードは同時にこう考えていた。風薙彼方の妹である雷轟遥がいる埼玉選抜なら、元の明るく元気な風薙彼方に戻してくれると、風薙彼方の瞳に光を宿してくれると……。
(その為にまずは私達群馬選抜が決勝戦まで勝ち上がらないとね)
(まぁそれでも最後に勝つのは私達群馬選抜よ……!)
全ては、県対抗総力戦の決勝戦に、委ねられた……。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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