松岡さんは沖縄選抜との試合で打たれ込んで以来、自分の投球スタイルに疑問を持っているようだ。
(私は……私の今のピッチングに何を思うだろうか?)
中学1年生から高校1年生までの期間の私はストレートに見せたを中心とした配球だった。後に私が偽ストレートと名付けたそれは、ストレートに見える……偽物だった。でも私自身それを恥じる事はない。かつて私に偽ストレートを教えてくれた風薙さんはこう言った。
『偽物は本物になろうという意志がある程、本物よりも本物なんだよ』……と。この言葉に私は少なからず救われた。だったら今度は私が松岡さんを導く番……なのかな?
「松岡さんは……本物と偽物、どちらの方が価値があると思いますか?」
「えっ……?それは……本物の方が価値があるんじゃないの?」
「そう……ですね。私もさる方の言葉を聞くまでは、松岡さんと同じ価値観でした」
私は一呼吸置いて、発言を続ける。
「今の私は本物よりも、偽物の方が圧倒的に価値があると思っています。そこに本物になろうという意志がある程、偽物の方が本物よりも本物なんですよ」
「そこに本物になろうという意志がある程、本物よりも本物……か」
ちなみに二宮は本物と偽物は同価値だと言っていた。曰く、本物も偽物も等しく同じ物なのだから、差別化は出来ても、全くの別物……とはならないそうだ。
「……少し気分が軽くなった気がするよ。ありがとう、早川さん」
「い、いえ、私は受け売りの言葉をそのまま言っただけに過ぎませんから……」
「例え受け売りの言葉だったとしても、今は早川さんがその言葉を言って、私がその言葉に救われた……。その事実は変わらないんだよ。だから……ありがとう」
め、面と向かって言われると存外照れるものなんだね。お礼の言葉って……。
「わ、私はそろそろ宿舎に戻ります」
「じゃあ私も戻ろうかな。一緒に行こ?」
「はい!」
とりあえずは松岡さんの気分は楽そうに見える。明日の試合がどんな結果になるかはわからないけど、少なくとも松岡さんにとっては色々と収穫出来そうな……そんな試合になる気がするよ。
「松岡さんはもう問題なさそうですね」
「そうだね。早川さんには感謝だ」
「あとは明日の試合で結果を出すだけ……。仮に埼玉選抜が負けたとしても、松岡さんにとっては悪い結果にはならないかも知れません」
「もちろん勝つに越した事はないけどね……。私達もそろそろ戻るよ有栖」
「はい。鈴音さん」
私が宿舎に戻ると……。
「良い?あんた1人で謝りに行くのよ?」
「何を言ってるの?私達は一蓮托生……。道連れよ!」
「なんでよ!?あんたが台を斬ってしまったんでしょうが!」
番堂さんとゴウさんが言い合いをしていた。まさかまた喧嘩とかじゃないよね……?
「あっ、朱里ちゃんが戻って来た!」
「……何があったの?」
「聞いてくださいよ朱里さん!剛田の奴が誤って台座を斬っちゃったんですよ!」
「ちょっと手元が狂っただけなんですよぉ……」
松岡さんの次はこっちの問題か。こればっかりは監督である大宮さんに進言しないといけないね……。
(先行きが不安なんだけど、本当に大丈夫なのかな……?)
翌日に連帯責任という事で、私達4人が大宮さんに頭を下げて、台座を修理してもらった。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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