あれから松岡さんも、黛さんも、無失点で切り抜け続けた。松岡さんはバック守備(主に三森3姉妹)に、黛さんは今でも三振が多く、クリーンアップの3人以外は未だに黛さんの投げる魔球を当てられていない。
そして7回表……。
ズバンッ!
『ボール!フォアボール!!』
3番の非道さんに出塁を許してしまい、ノーアウト一塁。そして最悪の打者に回ってきてしまう……。
「よろしくお願いします……!」
清本和奈。前2打席は運良くアウトに出来たけど、この打席はどうなるか……。
(きましたね。清本さんの3打席目……!)
(ここを乗り越えたら、以後回って来ない可能性があるから、出来る事なら抑えたい……!)
前のイニング辺りから松岡さんの制球が乱れている。まあまあ無理もないよね。非道さん、清本と連続で威圧感打者と何度も対決しているんだから……。
(威圧感打者との対決はスタミナ消費を多くする……。これは私もシニア時代に何度も体現した事だ)
あの時は清本だけだったけど、今の松岡さんの場合はそれに加えて非道さんとも戦っている。況してや非道さんは何をしてくるかわからない分、もしかすると清本以上に苦戦する可能性すらもあるのだ。
まぁ話を戻すと……。
「はぁ……!はぁ……!」
松岡さんのスタミナが限界に近い。大宮さんは一応室内ブルペンから後続候補の3人を呼び戻しているみたいだけど、この回までは松岡さんを引っ張ろうと考えているみたいだ。
(松岡さん……)
(大丈夫だよ志木さん。後続の投手の負担を少しでも減らす為に、1打席でも多く上位打線と戦わなきゃ……!)
ズバンッ!
『ストライク!』
スタミナは限界に達しそうなのに、球威は今日1番……。あの状態は私にも心当たりがある。
(リトル時代に私が炎症を起こしたあの日の状態と、今の松岡さんの状態はかなり似ているんだ……!)
だとしたら松岡さんはこの場で燃え尽きるつもりなのかも知れない……。
「………っ!」
清本も当時の私をよく知っているからか、松岡さんを心配しているように見える。でも敵だから余計な感情を消そうとしている……。今の清本の弱点と言えば、非情になりきれないところくらいだろうか?二宮も時々甘いと言っていたし……。
「か、監督!松岡さんはもう限界だと思います!あのままでは倒れてしまいますよ!?」
誰かが大宮さんに訴え掛ける。雷轟も私がマウンドで倒れた事を知っている1人なので、松岡さんの状態に対して早く休ませるべきだという意見に同意している。隣にいる武田さんと山崎さんも首を縦に振っているみたいだけど……。
「……代えないよ。本人が投げると言っている以上はね」
「そ、そんな……!」
「こ、これじゃ松岡さんが倒れちゃうよ……!」
「…………」
「皆さん、監督はあくまでも松岡さん本人の意志を尊重しているだけに過ぎません。元より倒れるのも、本人の覚悟の上……。それを邪魔するのは無粋ではありませんか?」
『…………』
坂柳さんの一言で全員が押し黙る。でも私は松岡さんの気持ちがなんとなくわかるんだよね。ここまで来ると意地なんだ……。無論後続の投手への負担を減らしたいという気持ちも本物だろうし、もっと投げたいという気持ちもある。
(でも……松岡さんの抱えている気持ちはそんな大層な物じゃなく、もっと単純で、自分勝手で、わがままな想い……)
ズバンッ!
『ストライク!』
今対峙している強打者と勝負がしたい……その一心にある。
(私の全力を……この打者にぶつける。これが今出せる全力投球だ……!)
(松岡さん……)
(凄い球……。今あの人はかつての朱里ちゃんと同じ道を辿ろうとしてる。目の前の打者を相手に全力を出して、燃え尽きる……。そんな覚悟のある眼をしてる。本当は……私はあの人に朱里ちゃんと同じ目に遇ってほしくない。でも……それでも、私はその想いに応えなきゃいけない)
「全力の相手には全力で迎え撃つ……。それが打者としての、礼儀だからっ!!」
カキーン!!
1打席目はライトライナー、2打席目はセンターへの犠牲フライ。清本を相手にここまで抑えられたのは大金星だと思ってる。でも……。
(1打席目よりも、2打席目よりも、全力を尽くした投球だったのに、それでも打たれるっていうのは……存外悔しいものだよね)
『な、なんと本日2度目の場外アーチ!清本選手の逆転ツーランホームランです!!』
『これで3対2……。打ち合いになるのか、投手戦になるのかはまだ未知数ですが、寸分の狂いで打線が爆発しかねない……京都選抜はそういうチームになっています。これからの展開も目が離せません』
ぐるりと1周し、ホームインした清本のその目は松岡さんを心配そうに見ていた。
「ふぅ……」
(偽物は……最後まで本物には勝てなかった。それでも私はまだまだ足掻く……足掻いてみせる)
松岡さんはもうフラフラで、いつ倒れても可笑しくない状況にある。
「……伝令、投手交代を伝えて」
「!……はい」
大宮さんが投手交代を告げる。今にも倒れそうな松岡さんを雷轟と武田さんが支えて、ベンチへと歩いて行った。そしてそんな松岡さんの後を継ぐのが……。
「……松岡さん、貴女の想いはしかと受け取ったよ」
交代で投げるのは朝倉さん。捕手は志木さんだし、奇しくも柳大川越のバッテリーがここに見参した。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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