8回裏。なんとかこのイニングを乗り越えて、9回で勝ち越したいものだ。
(でもこの回は7番から……。十文字さんと二宮に回ってくるんだよね)
『アウト!』
先頭打者を打ち取りワンアウト。さぁ、ここからだ……!
(さて……。ここいらで勝ち越したいところだけど、今の泉はウチの上位打線を抑えている。どうしたものかな)
ズバンッ!
『ストライク!』
「…………」
「………?」
(今の見逃し、なーんか妙な感じがしたなぁ~)
(気になりますが、こちらはとにかく抑えるだけです)
見逃し……?今のコースは割と打者が振ってくるコースだったのに?
(非道さんと同じ事をしようとしてる……?自身の打席で見極めて、次の打者に決めてもらう……)
非道さんの場合はそれが1打席目で、先頭2人を抑えればチェンジになるから、そこまで深く考えていなかった。しかし十文字さんの場合は終盤の8回、ワンアウトで、次の打者は二宮……。嫌な予感しかしない。
問題はなんで十文字さんがバットを振らないかって事だ。バッテリーもそれが不気味だと思ってるよ……。
ズバンッ!
『ボール!』
制球も少し乱れてる……。疲れがあるようには見えないけど、十文字さん程の打者がバットを振らないなんて怖過ぎるからか、歩かせようとも思ってしまうバッテリーの判断も決して間違ってはいないのかも……。1度タイムを取って、内野陣が集まる。
「泉さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫!なんか圧を感じるせいか、普段よりも疲れるのが早いだけなんじゃないかな~?」
「でも向こうの8、9番は他チームの4番よりも怖いですし、慎重になるのも致し方ないと思います」
「でも慎重になり過ぎて、それが向こうの思う壺になるのが1番不味いんじゃないですか?」
「まぁ私もそう思ってるよ。だから可能な限り、全力を注ぐよ!私はこの回で交代だしね~」
「失投だけには気を付けて、投げていってください」
「りょうかーい!」
タイムが終わり、試合再開。果たして十文字さんを抑える事が出来るのか……。
(まぁここまで来たら、腹を括るしかないねぇ。見よ!私の全力を!!)
ズバンッ!
『ストライク!』
(タイム中に何を言ったのかわからないけど、大体こちらの想定通りに事が進んだね。これなら次の二宮を相手に1球くらいは絶好球が来るだろうし、そこを突いてもらおうかな?)
(もう一丁!)
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
「おおっ!泉さんの球の勢いが増したよ!?」
「…………」
「朱里ちゃん?」
「どうしたの?」
「……いや、ちょっと妙なんだよね。十文字さん程の強力な打者が1球も振らなかったなんて」
不自然な見逃し……。多分非道さんとはまた違った嫌な雰囲気を感じたんだ。
「きっと手が出なかっただけだよ!今の泉さんはイケイケだよ!」
「まぁ次の打者との対戦が終われば交代するけどね」
しかもあの見逃しのあとに二宮が打席に入るんだよ?バッテリーも警戒はしてるんだろうけど、さっきの十文字さんの打席で力を出し過ぎたから、二宮の打席に対してのコンディションが少し落ちている……。
「十文字さんを抑えられたんだから、あともう一踏ん張りだよ!」
「そうだね。ここを切り抜けたら、こっちのペースになるよ」
確かにここを抑えられたら、かなり大きい。
カキーン!!
『えっ……?』
大き、かった……。その想いは二宮によってあっという間に打ち砕かれた。私の感じた嫌な予感が最悪の形で実現してしまったんだ。
二宮が高めに来たチェンジUPを捉えて、その打球は電光掲示板に直撃した。この終盤で、勝ち越されてしまった……。
「ナイバッチ瑞希ちゃん!」
「great!価千金のホームランデース!!』
「私がホームランを打てたのは十文字さんのお陰です」
「どういう事……?」
「泉さんのギアを十文字さんが最大限まで引き出したのです。ギアを最大限まで上げ切った直後の球はどうしても劣ってしまいますからね」
「で、でも十文字さんは1球も振らなかったよ?」
「だからですよ。十文字さんが強打者だと認知している投手はその十文字さんが1球も振らなかったら、どう思いますか?」
「何か……企んでる?」
「そうですね。そう思わせる事こそが、十文字さんの最大の目的な訳です」
「結果としてはただ1度もバットを振らなかっただけなんだよね。そして力を入れ過ぎたあとはギアが下がるから……」
「そこを私がホームランを打った……それだけですよ」
『…………』
(最早十文字と二宮は違う次元で野球をしているな……)
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
その後交代で投げた橘が日葵さんを三振に仕留める。なんとかチェンジにはなったけど、次が最後のイニング……。打たれたタイミングが悪過ぎて非常に不味い展開になってきたよ……。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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