6回表。ツーアウト一塁のピンチで迎えるのは4番の上杉さん。ここを凌げれば、埼玉選抜の優勝がかなり近くなる筈……!
『一ノ瀬選手、ツーアウトまで漕ぎ着けたものの、ランナーを出してしまいました!』
『前のイニング辺りから疲れが見え始めていますね。一ノ瀬選手はかなりハイペースで投げていますが、群馬選抜の強力な打線はそれくらいしないと抑え切れない……と判断しているのでしょうか?野球は1人でやる訳ではないので、無理のし過ぎは避けてほしいですね』
『青葉プロのそれは自分の体験だったり……?』
『そうですね……。高校時代の私は1人で突っ走る事が多く……って何を言わせるのかな!?』
実況と解説のやり取りはともかく、今の一ノ瀬さんは少し心配だな……。
「一ノ瀬さん、大丈夫ですか?前のイニングから制球が乱れているように見えますが……」
「心配はいらないよ。一応ツーアウトまで抑えたんだし、あと1人くらい問題ない。それに……」
「…………!」
「あの4番には全力でいかないと、打たれるしね……」
(一ノ瀬さん……。確かに彼女は他の打者よりも数段危険だし、全力で投げるしかないけど……)
疲れが見える一ノ瀬さん。しかし上杉さんを相手には全力で投げる他ない。
「いくよ群馬選抜のスラッガー。打てるものなら打ってみろ……!」
「…………」
(あの投手……疲れが見えているのに、球威を落とさないどころか、更に変化を増してきたわね……!)
そんな状態でも一ノ瀬さんの球威は落ちていない。それどころかこの試合1番の球にも見える……けど。
(彼女が投げていた変化球の独特さ……よく見るとそれは不規則ではなく、かなり規則的だったのよね。そしてその独特な軌道の正体は回転。それを様々な変化球で応用していた。今投げられた球だとシンカーね……)
「……だから私はその軌道の先に来るボールを打てば良いのよ!」
カキーン!!
『打ったぁ!大きい当たり!!』
3打席目にして、上杉さんは遂に一ノ瀬さんのシンカーを捉えてしまった。
『打球はグングンとセンター方向へと伸びていくぅ!』
そして、その打球は……。
ドゴッ!!
バックスクリーンに叩き込まれた。
『入りました!上杉選手の逆転ツーランホームラン!!埼玉選抜が死に物狂いで取った1点をアッサリとひっくり返しました!』
『上杉選手は一ノ瀬選手の変化球を完璧に捉えましたね。その時に投げられたのはシンカーでしたが、そのシンカー軌道の先にバットを持っていきました』
「…………」
マウンドでは呆然と一ノ瀬さんが立ち尽くしていた。そんな一ノ瀬さんを心配してか、私を含めた全員がマウンドへ駆け寄った。
「私、もう限界……」
ポツリと一ノ瀬さんが呟いた。普段から似たような事をずっと繰り返していた一ノ瀬さんだけど、今日は違う。肩で大きく息をしているから……。
「持てる力を全て出し尽くして、そして上杉には完敗した……。もう投げる力がない……。ごめんだけど、私はここまで……」
「一ノ瀬さん……」
伝令に連れられて、一ノ瀬さんはマウンドを降りた……。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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