7回表。ツーアウトランナーなしで打席に立つのは猪狩泊さんです。
「泊の3打席目だね」
「彼女の打撃方面はどうなんですか?」
「良くも悪くも壁当てしかしてなかったし、ボクもそれしか教えてこなかった……。投手としての務めを果たす為には打力なんてのは完全に蛇足でしかないからね」
その発想が最早プロ野球レベルなんですよね。とても高校野球でして良い思想ではありません。
「で、でも猪狩選手は打撃能力も高かったような……」
「ボクの場合は正直たまたまに過ぎない。ボクの打撃センスがあったから高校時代、そしてプロでも何年かは二刀流も出来ていた……。まぁ今は投手1本じゃないと現役選手達と渡り合うのは難しくなってるからね」
(それでも50近い選手が男女混合のプロリーグでタイトルを取れるレベルなのはまた猪狩選手が規格外の選手だからだと思うな……)
カンッ!
『ファール!』
泉さんの投げる変化球にタイミング完璧ですね。
「……タイミングは完璧に取れていますね」
「ほ、本当に壁当てしかやってないんですよね!?」
「間違いないよ。しかし打撃方面でも結果を出そうとしてる……。しかし1、2打席目のあの娘の打席結果はどうだった?」
「え、えっと……。確かどっちも四球だったよねいずみちゃん?」
「うん。振るべきじゃないコースもわかってるし、選球眼も並以上はあるね」
「……となると計2打席を費やして、あの投手の持ち球、フォーム、リリースタイミング、変化球の変化タイミングと変化量を調べていた説が濃厚だね」
「……本当に貴女の姪は素人ですか?」
「間違いなく猪狩の血だね。壁当ての時もそうだが、1つの事に打ち込むのに必要な集中力と、泊独自の野球センスが宿っている。だから……」
猪狩の血筋は本当に恐ろしいですね。風薙さんや雷轟さんのように野球をする為に出来た家計という感じがします。
カンッ!
『ファール!』
「に、2球目もタイミングバッチリ……」
「いざというときに頼りになる打者としての資質も兼ね備えている。あれは高校時代のボクを彷彿とさせているよ……」
「持ち球も打力も似てますからね」
(そうなるとこの試合は決着ですね。そして決定打を決めるのは……)
間違いなくこの打席で猪狩泊さんが決めるでしょう。
カキーン!!
「う、打った……」
「ホームラン……」
猪狩泊さんが打った打球は大きなアーチを描いて、スタンドへと入っていきました。
「相手の打線を完璧に抑え、打者になった場合でも決めるべき時は自身で決める……。今回で言えば、ソロホームランですね。猪狩泊さんは初心者という触れ込みでしたが、もしもしっかりと経験を積んでから野球部に入っていたとしたら……」
「エースはあの娘だった……か。成程ね」
猪狩投手はどこか納得したような表情を見せて、立ち上がりました。
「最後まで観て行かないのですか?」
「ボクが知りたい事は知れたから充分かな。それに今日のナイトゲームでは先発を任されているし、今から準備をする必要がある」
そういえば今日の試合では先発投手を任されているんでしたね。
「あ、あの!良かったらサインをもらえませんか!?」
「あっ、和奈ズルい!アタシもサインください!」
「まぁお安いご用さ。レディーがボクのサインを求めているのなら、それに応えるのが務めさ。君にも書こうか?」
「……一応、お願いしても良いですか?」
もらえるサインはもらっておきましょう。
(それにしても……。猪狩泊さんのポテンシャルの高さは春に野球を始めたばかりとは思えませんね。凄まじい速度で成長していっています)
彼女が県対抗総力戦の選定条件に入っていなくて、本当に良かったと安堵してしまいます。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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