二宮瑞希です。新越谷と梁幽館の試合が終わり、少し経った後……。
「やっほー☆」
「こんにちは」
「2戦目突破おめでとう!」
折角なので、新越谷の人達と少しお話をしに来ました。何か得られるものがあるかも知れませんからね。それに……。
(もう1つ。こちらの用件を済ませておく必要がありますからね)
「ちょっとお手洗いに行ってくるね」
朱里さんが席を外した……。このタイミングしかありませんね。
(しかし誰に話しましょうか……。主将の岡田さん?マネージャーの川口さん?)
責務が重要なこの2人に話すのは得策ではありませんね。かといって気遣いが出来て、視野の広い人でなければなりません。となると……。
「山崎珠姫さん」
ここは山崎さんにしましょうか。藤田さんや藤原さんとで悩みましたが、ここは同じ捕手……という側面や、2人よりも口が堅いだろうという私の偏見で決めました。
「二宮さん……?どうかしたの?」
「少し……2人で話せませんか?」
「うん、良いよ」
了承を得た事で、話をする為に場所を変えておきましょう。込み入った話になりますので……。
「話の内容が内容ですので、ここから少し離れましょう」
疑問符を浮かべている山崎さんですが、早歩きの私に追い付こうと駆け足で着いて来ます。
「タマちゃん……?」
山崎さんの動きに反応した武田さんが山崎さんに怪訝な表情を向けています。
(余り公にしたくない話なのですが……)
こうなれば武田さんにも話しておいた方が良いのでしょうか……?
「ヨ~ミ!今日のピッチング凄かったじゃん!」
どうするか悩んでいると、いずみさんが武田さんに絡み始めました。これは……。
「わわっ!いずみちゃん!?」
「アタシ見てて鳥肌立っちゃったよ~!」
(ほら、なんか大事な話するんでしょ?ヨミの事はアタシに任せて☆)
(いずみさん……。感謝します)
「行きましょう。いずみさんが時間を稼いでいる内に」
「う、うん……」
いずみさんに一礼してここを早足で離れ、球場の裏に……。
少し歩いた所に人気の少ない場所へ……。密会に使えそうな場所ですね。
「さて……。まずは2戦目突破おめでとうございます。朱里さんがいるとはいえあの梁幽館相手に勝利したのはとても凄い事だと思います」
これは素直な感想です。梁幽館は白糸台も苦戦する強豪校ですからね。
「あ、ありがとう……」
……そろそろ本題に入りましょうか。長話は禁物です。
「話というのは朱里さんについてです」
「朱里ちゃんの……?」
「山崎さん、貴女は朱里さんの過去についてどれくらい御存知ですか?」
朱里さんは山崎さんにも朱里さんの過去はある程度話している筈……。その程度によっては私の話す内容が変わってきます。
「……朱里ちゃんがリトル時代に右肩を炎症して、サウスポーに転向したって話を聞いたよ」
「……他には何か聞いていませんか?」
「あとは足腰と肩を鍛えるのと、スタミナを付ける為に外野手をやるって事くらいかな?」
「……成程。そうですか」
(相変わらず1人で背負いますね……。あの時も私が強引に聞き出さなかったらどうなっていたでしょうか?)
朱里さんが1人で抱え込んでいるのか、単に私達は信用されていないのか……。願わくば前者であってほしいものですね。
「……今から私が話す事はシニアの人達も一部の人以外は知らない事です。朱里さんは……」
私の話す内容に山崎さんは段々顔を青くします。友人のそのような話になると、そうなりますよね。
「そ、それは本当なの……?」
「朱里さんのご両親が言っていたので、間違いないでしょう。県大会で一定以上の結果を出さなければ朱里さんはこの埼玉を去る事になります」
「朱里ちゃんは反対しなかったの!?」
朱里さんは両親と冷戦状態とはいえ、反発しない方が良いと頭の中で思ってしまっているのでしょうね。だから受け入れるしかないと思っているみたいです。
「……朱里さんは自分の意見を押し殺す人間です。自らが前に出る事がなく、それこそリトルシニア時代でもエースを辞退しようとしていたくらいです。本人も仕方のない事だと思っていました。埼玉を離れる事もご両親の都合ですし」
朱里さんはいつもそうでした。1歩引いた立場で私達と接しているような……。新越谷でもそうなのでしょうか?
(いえ、それは少し違うのでしょうね。今の朱里さんは……)
私は昨日に朱里さんから聞いた内容を山崎さんにそのまま伝えます。
「そんな朱里さんが自分の意見を伝えました。新越谷を離れたくない……と。朱里さんはそれほど新越谷野球部を大切に思っています」
「朱里ちゃん……」
「そこでご両親は条件を出しました。大会で優勝したら残留を許す……と。去年も同じ事があったのですが、朱里さんは死に物狂いで川越シニアで全国優勝を勝ち取り、ここに残る事が出来ました」
(思えば雷轟さんを秘密裏に育てていたのはご両親に抗う為の術を水面下で準備していたのかも知れませんね)
雷轟さんを全国区の選手に育てる事こそが、朱里さんの両親に対する細やかな抵抗なのでしょう。
「……それで、朱里ちゃんが新越谷に残るにはどこまで私達は勝てば良いの?」
「……高校女子野球のレベルは毎年上がってきてますから、ご両親も高校になると条件を緩和しました。県大会優勝……そこまで勝ち上がれば朱里さんは3年間埼玉に残る事が出来ます。3年間……というのは朱里さんが出した精一杯の交渉の末にご両親が譲歩した結果でしょう」
「県大会……優勝……!」
それでもかなりハードルは高いでしょう。今の新越谷では少し厳しいかも知れません。
「今日の梁幽館戦を見る限りだとギリギリそこに辿り着けるか……というのが私から見た印象ですね。新越谷は確かにかなりの実力がありますが、準々決勝に当たる可能性がある柳大川越と大宮大附設、準決勝で当たる可能性が高い咲桜、決勝で当たるかもしれない椿峰と美園学院……。新越谷が勝ち上がるにはかなり高いハードルとなるでしょう」
「……それでも、私達はやるしかない。朱里ちゃんと離れたくないから!」
「……!」
(良い眼をしていますね。これなら新越谷はもしかすると……!)
今の新越谷に足りないのはハングリー精神……。1人でもそれを補えば、それが伝染して伝わるでしょう。そうすればきっと全国出場も現実になってきます。
「……全国で散り散りになっている川越シニアの人達もそれぞれ朱里さんのいる新越谷と戦いたいと思っています。勿論私も含めて。だから……新越谷こそが朱里さんの居場所になれる事を願っています」
これは紛れもない本心……。朱里さんには不自由なく、楽しく野球をしてほしいと思っています。
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