試合は5回表。新越谷にとって最大のチャンスが巡ってきました。
『ボール!フォアボール!!』
「この四球でノーアウト満塁……。朝倉も攻略間近か?」
「どうでしょうね。捕まえ始めたのには間違いないでしょうが……」
柳大川越に動きが……。投手交代のようですね。
「大野に代わったか。この場面を抑えられる奴は他にいないだろうし、適任だな」
「新越谷側は朝倉さん程の苦手意識がないので、チャンスだと思っている可能性がありますね」
しかし柳大川越のこれまでのデータを見る限りでは、こういった場面では大野さんの方が良い結果を残しています。これを見越して代えたのでしょうね。
「大野も3ヶ月前より成長してるな。また柳大川越とは練習試合をしてみたいものだ」
「最後に白糸台が柳大川越と試合をしたのは3月でしたよね?」
私達1年生が入る前。その時の試合は2対0で白糸台が勝った訳ですが、内容は余り良くありませんでした。
「ああ。その時はまだおまえはいなかったからな。うちも良い捕手が入った事で、投手のレベルが大幅に上がった……。これなら私が引退した後でも安心だ」
「引退宣言はまだ早いですよ。まだ都大会の途中なのですから」
学校側からは春夏5連覇を期待されています。勝ちが積み重なれば積み重なる程に、負ける事が怖くなってきます。川越リトルシニア時代でもそれは変わりませんでした。
「……そうだな。これまで白糸台は春夏4連覇を成し遂げたから、この夏も全国優勝して笑顔で引退したいものだ」
「その為にもまずは全国大会に出場ですね」
「もちろんだ。私達3年にとって最後の挑戦が都大会で躓いた……なんて事になれば、笑い話にもならないからな」
主将ともなると責任はどんどんと重くなりますね。この場合は1年生で捕手の私にも乗っかってくるでしょう。私のリード1つで……なんて展開は避けていきたいものです。
『アウト!チェンジ!!』
「大野が放つ圧に気圧されたか、1点も取れなかったみたいだな」
「新越谷に3年生がいないからなのか、重みが伝わらないのかも知れませんね」
今大野さんが放っているのは3年生の選手からよく見られるブースト……のようなものだそうです。投手は全ての球のキレが倍増し、野手は打撃能力が格段に上がり、守備も鋭敏になります。
(何切欠で覚醒するかわからない……というのがとても興味深いですね)
覚醒がなくとも十二分に実力を出している選手も複数存在します(神童さんもその1人ですね)し、わからない事だらけで参りますね……。
そして5回裏。先頭打者を武田さんはツーストライクで追い込みました。
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
(あれは……!)
朱里さんがシニア時代に投げていた……ストレートに見せた変化球。
「最後に武田が投げたのはストレート……なのか?あれくらいの球速のストレートならタイミング的にも打てて可笑しくはなかったが……」
「あれは……。間違いありません。武田さんが投げたのは朱里さんがシニア時代に投げていたストレートに見せた変化球……」
「ストレートに見せた変化球?」
「変化球の曲がり始めを遅らせる事で変化量が小さくなる代わりに傍目からは変化してても気付かれにくくする球です」
「な、なんか凄い事を言ってるな……。そんな簡単に出来る事じゃないだろう」
「勿論です。朱里さんでさえ会得するのにかなりの年月を費やしました。本来ならそれでも早すぎるくらいです」
(それを武田さんは何日で……?柳大川越との練習試合を終えて朱里さんが投手をやっていた事を話してから?いえ、仮に朱里さんと知り合ったであろう4月からだとしても僅か3ヶ月……。そんな短期間で身に付けたと言うのですか……?)
「だとしたら早川の得意技を会得した武田は……」
「はい。武田詠深は天才の部類に入ります」
厳密には風薙さんが朱里さんに師事し、朱里さんが武田さんに師事したのでしょう。やはり武田さんは私達白糸台にとっては脅威の存在ですね。
試合は7回表。打席には雷轟さんが入りますが……。
『ボール!』
「どうやらこの打席も雷轟は歩かされそうだな」
「しかし後続の打者は試合で当たっていますし、展開としては悪くないと思います」
既にカウントは3ボール。次の球も際どいボールゾーンに投げられます。
カンッ!
『ファール!』
「打って出たな。雷轟の意地というやつか……」
「そうみたいですね」
カンッ!
『ファール!』
歩かせる前提で投げているにしては大野さんはかなり力強い球が投げられています。もしかして次の1球は……。
「ストライクゾーンにギリギリ入るツーシームか。これは簡単には打てないぞ……!」
「…………」
(例え簡単に打てないウイニングショットだとしても、ここぞというところで必ず仕留めるのが……)
カキーン!!
(スラッガー……というものですよね)
雷轟さんが大野さん渾身のツーシームを捉え、その打球はセンター方向へ大きく伸びて、場外へと飛んでいきました。
「大野が投げたツーシームは良い球だった。にも関わらず場外まで運ぶとはな……」
「しっかりセンター方向へと運ぶあたり雷轟さんも成長していますね。パワーなら和奈さんにも負けていません」
今の和奈さんは敬遠球の対策も進めているそうですが、雷轟さんは果たしてどこまで成長し続けているのでしょうか?
「仮に雷轟が打撃チームの洛山にいたとしても4番を任せられるレベルにまで成長してたな。早川、武田、雷轟……。他にも手強い奴はいるが、新越谷で特に注意しないといけないのはこの3人だな」
「和奈さんとは違って雷轟さんは両打ちですからね。右投げの神童さんと対峙する時は左打席に立つでしょう」
左打ちの強打者は女子選手にもなるとかなり稀少ですので、雷轟さんはこれからかなり目立つ事になるでしょうね。
「両打ちのスラッガーか……。雷轟は何れこの高校女子野球……いや、プロの世界にも旋風を巻き起こす存在になるのかも知れないぞ」
「それは私も大野さんから打ったあの打球で感じました。彼女はそう遠くない内に和奈さんをも越える最強のスラッガーになるでしょう」
(それこそ守備の方を鍛えたら手の付けられない存在になる可能性が高いですね。全国の舞台に上がってきたら雷轟さんがどのような成長を遂げるのか楽しみです)
このホームランが決勝点となり、1対0で新越谷が柳大川越に勝利しました。
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