視点が3姉妹だから、ちょっと見辛いかも知れません。
これは私達3姉妹の情景を描いた話だ。
「春日部シニア出身、三森朝海です」
「同じく、三森夕香です!」
「……同じく、三森夜子です」
(三つ子……?凄く似てる)
シニア出身だからといって、派手な動きはまだ見せない。春日部シニア時代とは違って私達は身を潜ませる……。
(本当に……これで良いのよね?)
(調子に乗り過ぎても何も良い事はない。シニア時代の3年間味わった屈辱を発散したい気持ちもわかる……)
(地を這い、耐え忍ぶ……。本気を出すのはまだまだ先よ)
少なくとも進級までは大人しくしていよう……。
そう思っていたのに、それは早くに破られた。
切欠は入部1週間後の紅白戦。私達3姉妹はそれぞれ外野として出場する事に……。思えばこの時には既に監督にはわかっていたのかも知れない。バレていたのかも知れない。私達3姉妹の実力が……。
4回表。ノーアウト一塁・二塁。この時打席に入ったのは3番の諸積。1打席目は空振り三振だったけど、大振りが目立っていたと思う打者……。私達と同じ1年生だ。
(内野の守備はゲッツーシフト……)
(それなら私達もカバーに入れる位置に付くべきね)
(ただし長打警戒を頭の片隅に追いやるくらいの位置に……)
私達はそう思っていたけど、配置はほぼ内野後退。外野手にしては前進し過ぎな守備位置……。多分これが駄目だったんだろうね。
カキーン!!
「よっしゃ!長打コース!」
「ランニングホームランを狙えんじゃない!?」
この場にいるほぼ全員が諸積によるランニングホームランになるんじゃないか、内外共に長打警戒を怠っていたんじゃないか……と判断していた。しかし……。
バシッ!
『えっ……!?』
「……あ」
打球を捕ったのは、センターを守っていた夜子。本人も捕球してから気付いた。シニア時代でいつもやっていた守備を、常人にはありえない守備範囲を、まだ見せるつもりはなかった動きを……見せてしまった。この場にいた全員が呆気に取られてしまっていた。
「…………」
気を取り直した夜子がセカンドへ送球。立ち尽くしていたセカンドのグラブに入るようなストライク送球。多分ここでもやってしまっていたと思う。
『ア、アウト!』
一気に2つのアウトが入って、ようやく全員が気を取り直す。そのままファーストへと送球して、スリーアウト。三重殺(トリプルプレー)は私達姉妹にとっては最早珍しくない……。
「ナ、ナイスキャッチ……」
「あ、ありがとう……」
夜子に声を掛けてくれたのはファーストを守っていた愛甲。彼女も私達と同じ1年生。3年間切磋琢磨するチームメイト兼ライバルだから、ある程度は仲良くしたいところだけど……。今のプレーで引かれているのは明らかだ。
しかも目立っていたのはそれだけじゃなく、打席に立った時も私達は『やってしまった』のだ。
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
私達3姉妹はこの試合では7~9番を打っていた。曰く『三つ子だから、打順を固めた方が良いんじゃない?』との事らしい。まぁシニアでもそうだったから、これはありがたい。
それは置いておいて、私達がやってしまったのは……。
「どうだった……?」
「やはり変化球は手を出さないのが正解みたいね」
「シニア時代で私達は簡単に振っていたから、高校ではもう少しコースを見極めていかないとね。手を出しそうになるのが怖いわ……」
シニア時代では川越シニアの早川朱里に私達はずっとやられた。当てれば出塁確実……と言われていた私達だから、とにかくバットを振っていった。それが災いして私達は全打席空振り三振を取ってしまった……。
その反省の為に、見れるコースは見ていこう、手を出さずにいられる時はそうしよう……と、心に誓っていた。
「…………」
『ゲームセット!!』
試合が終わって、今日の練習はそのまま終了。部員達は着替えて帰る中、私達は呼び出しを受けていた。
「来てくれてありがとう」
私達を呼び出したのは、今日の紅白戦で私達に投げていた園川萌さん。春の大会で好投していた2年生投手。そして……。
「君達3人とちょっと話がしたくてね」
「は、はぁ……?」
園川先輩の球を捕っていた捕手、福澤彩菜さん。彼女も2年生。春で活躍していたバッテリーが私達に何の用なのか……。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど……良いかしら?」
「私達に答えられる事なら……」
どうやら園川先輩は私達に聞きたい事があるみたいだ。まぁ大体予測が出来るけど……。
「まずは貴女……夜子さんだったかしら?4回に貴女が見せた異常な守備範囲が普段の貴女なの?」
やはり夜子の守備についてね。あれくらいなら私達にとっては当たり前になってたから、つい癖で動いてしまったみたいなのよね。夜子もそう言ってたし……。
(これは……もう隠せないわね)
(仕方ないわ)
(…………)
3人でアイコンタクトを取って、園川先輩と福澤先輩には私達の全てを教えた方が良い……という決断に至った。聞かれた事は全部答えよう。
「……はい。私だけじゃなく、姉さん達も同様に動けます」
「そう……」
「でもあれだけの動きがマグレじゃないのがわかれば、夏にはレギュラー確実だろうね」
「そんな……私達はまだ1年生ですよ?」
「関係ないよ。私も萌も1年生で春大会でスタメンだったし、学年は気にしてない実力主義だよ。ウチは」
福澤先輩はそう言った。私達を買ってくれるのはありがたいけど、他の部員達に申し訳ない気がしてならない……。
「それともう1つ……」
あれ?まだなんかあったっけ?
「貴女達3人だけ、私が投げた変化球を1度も振らなかった……。その理由が聞きたいの。私にとってはこっちの質問が本命」
「えっと……」
園川先輩にとってはこっちの質問がメインみたい。これにはどう答えたものか……。
「わ、私達はシニア時代で空振りが目立っていたので、高校では見ていこうかと……」
「……本当にそれだけ?」
「うっ……!」
(夕香、顔に出てるわよ……)
(仕方ない。夕香姉さんは隠し事が苦手だから……)
夕香姉さんが返答に詰まっているので、私が代わりに答える事にした。
「失礼な発言になると思いますが……」
「構わないわ。私は私の改善点になるかも知れない事だから、知りたいの」
「……福澤先輩の捕球で補っていますが、本来なら園川先輩の投げた変化球の8割はボールゾーンに外れるコースでした」
「「!!」」
とは言っても結果的にはストライクだったし、これからも審判によっては普通に手が上がるコースだと思う。ボール0.5~1.5個くらいしか外れてないし、ストレートとの相性も抜群だから、空振りが多くなるのは仕方ないかも……。
「……それは私のスライダーやフォークの制球が上手くいってないと?」
「今はそれでなんとかなるかも知れませんが、目が慣れてくるときっと見てくる打者は多くなると思います。その分見逃し三振は増えてくるかもですけど……」
「空振りが取れなくなってくる……という訳ね」
「……はい」
実際にそれが正しい指摘なのかはわからない。これはあくまでも私達姉妹……というか夜子から見た視点なのだ。特に夜子はショートリリーフを務めていて、ピッチングスタイルも今の園川先輩に近いものだったのだから……。
(まぁ夜子の場合は無理に三振を取りに行く事はなかったけど、それは私達姉妹の守備力を信用してのものだったわ。園川先輩とはまた違う……)
「…………」
(これは驚いたな。私達と監督しか知らない萌のピッチングと制球力、そして欠点に、たった2打席で気付くなんて……。そしてその実行を可能とする選球眼……。監督は彼女達をスカウトで取ったと言ってたけど、あの守備範囲と言い、彼女達は本物だ)
「……ありがとう。今のピッチングを見直す良い機会になったわ」
この紅白戦以来園川先輩のピッチングスタイルが180度変化し、バックの守備力を信頼したものとなり、その少し先に私達3姉妹もその守備に貢献する事になる……。
続くかな?これまでの番外編と違って視点がコロコロ変わるから、難しいところだけど……。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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