私達三森3姉妹はあの紅白戦以降はセンターラインの連携守備を中心に練習をするようになった。
「次!4、6、3のゲッツー!」
カンッ!
例えば今はランナーを一塁に置いて、朝海姉さんと夕香姉さんによる二遊間でゲッツーを取る練習。
「夕香!」
「OK!」
リトルシニアからずっとやってきた連携だけあって、最早一連の動きとして洗練されている。
「……流石姉さん達だね」
「あの、ちょっと良いですか?」
私も二遊間を守れるけど、姉さん達に比べると完成度は低い。その代わりと言ってはなんだけど、センターとしてなら姉さんよりも上手く守れる自信はある……と思う。
「……聞いてますの?」
(でも姉さん達なら急増でセンターを守っても、私より上手く守れるんだろうなぁ……)
私も早く姉さん達と差別化出来るプレーを磨いた方が良いのかな……?
「ちょっと!!」
「わっ!?」
姉さん達の練習を見守っていると、横から大きな声が飛んできた。耳がキーンってする……。
「……いきなりなに?」
「先程からずっと貴女に声を掛けていましたわ!」
「……それはごめん」
ボンヤリと考え事をしてたからか、横にいる存在に全く気付かなかった……。
「それでえっと……?」
「黒木ですわ!黒木亜莉紗!!」
黒木さんか。同じ1年生だったのは知ってたけど、名前はまだ全員覚えてないな……。
「その黒木さんが私に何か用……?」
「貴女、最近ずーっと萌様の近くにいますわよね?」
「萌様……?園川先輩の事?」
「そうですわ!同じ投手の私でさえ萌様に近付く事が難しいっていうのに、投手でもない貴女が何故に萌様と親しくしているのかを聞きたいのです!!」
親しい……かなぁ?普通に先輩後輩としての距離感だと思うけど。
「……別に普通」
「な訳ないですわ!」
「……耳元で叫ばないで」
キーンってするから……。
(それにしても黒木さんは園川先輩の事をとても慕ってる……。この高校に入ったのは園川先輩がいたから……?)
「……私は園川先輩に簡単なアドバイスをしてるだけ。シニア時代は一応リリーフを務めてたし、今の園川さんのピッチングスタイルが私に似たところがあったから。それで園川先輩は私にアドバイスを求めてくる。それだけ」
「くうぅぅっ!」
なんか凄く悔しそう……。
「夜子ーっ!センターに入ってーっ!今からセンターライン全体を合わせた連携をするから!」
「わかった」
夕香姉さんに呼ばれたので、私はセンターに駆け寄る。
「ちょっと!まだ話は終わっていませんわ!」
背後から黒木さんが何か言ってたような気がするけど、練習よりも優先する話でもないと思うので、私は気にせず守備連携の練習に合流した。
また別の日。
「……をこうすれば、割とギリギリのコースを攻める事が出来ると思います」
「成程……」
この日は園川先輩と福澤先輩と一緒に園川先輩のピッチングと投球フォームの見直しをしている。ちなみに姉さん達は今日も二遊間の連携を磨いている。
「これが実現出来れば、萌は大きく成長するぞ……!」
「でも中々難しそうね……」
「……私が出来たんだから、園川先輩もきっと出来ます」
「ありがとう。また困ったら力を貸してもらうわ」
「私に出来る事なら」
そんな話をした後に園川先輩と福澤先輩が少し席を外した。そしてそれと入れ替えに……。
「三森夜子さん!また萌様と親密に……!」
「……どこから出て来たの?」
どこからともなく黒木さんが出て来た。気配を感じなかったんだけど?
「……そんなに園川先輩と話したいのなら、話せば良いんじゃない?園川先輩はかなり話しやすいし」
(余りコミュ力高くない私でも普通に話せてるし。まぁ間に福澤先輩が入っているからだと思うけど……)
「それが出来れば苦労はしませんわっ!!」
それは黒木さんの方に問題があるような……。
「なのに三森夜子さんは萌様とま、ま、ま、マンツーマンで……!」
(福澤先輩もいるけど……)
そういえば黒木さんの園川先輩を見る目は尊敬とかそんな次元にない気がする。
「……私よりも朝海姉さんの方が園川先輩と話してる回数が多いと思うよ?」
ちなみに夕香姉さんは既に部員全員とコミュニケーションを築いている。流石のコミュ力……。
「ぐぬぬ……!貴女達姉妹は萌様と距離が近いです!」
私はともかく、ポジションの都合姉さん達は上園川先輩……というか投手の近くにいるのは必然になると思う。
「私がどうかしたの?」
「も、ももももも萌様!?」
園川先輩が戻ってきた(もちろん福澤先輩もいる)瞬間、黒木さんがガチガチになった。見てて面白い……。
「いいいいえ、なななななんでもありませんわ!」
「……この子どうしたの?」
「多分園川先輩に対して緊張してるだけだと思います」
福澤先輩が黒木さんのガチガチ具合が気になったのか、私に尋ねてきた。
「変わった子だね……」
ちなみに当の園川先輩は黒木さんの敬意?に全く気付いていないみたい。
「やーこっ!レモハチ食べたい!」
連携練習が終わった夕香姉さんと夜子さんが私の方に駆け寄ってきた。レモハチというのは檸檬の蜂蜜漬けの事。夕香姉さんがそう呼んでいるみたい。
「休憩するの?」
「監督からも許可もらったわ」
この姉達は外堀を埋めるのが早い……。
「……わかった。用意する。先輩達も食べますか?」
「良いのかしら?」
「多めに作って来ているので、他の部員達にも配る予定です」
「えー?私達の分け前が減る……」
「夕香姉さん、シャラップ」
夕香姉さんを黙らせ、残念そうな朝海姉さんを諌め、檸檬の蜂蜜漬けが入ったタッパーを取りに行く。
(野球をしている時は頼りになるのに、私の料理の事になると途端にポンコツになるのはなんとかならないかな……?)
ロッカーからタッパーを取り出して、再び5人の所へ戻る。
「持ってきた」
「これこれ!いただきまーす!」
「いただくわ」
姉さん達がいの一番に食い付き、先輩達と黒木さんもそれに続く。1人3つずつまでだからね?
「流石夜子ね。これを食べたら、もう他の檸檬の蜂蜜漬けは食べられないわ」
「そうよね!最っ高!!」
「大袈裟……」
「朝海と夕香の気持ちわかるかも……」
「とても美味しいわ」
福澤先輩と園川先輩にも好評みたい。シニア時代にも似たような事があった事を少し思い出したよ……。
「く、悔しい……!でも美味しいですわ……!」
黒木さんは何故か悔しそうにしていた。なんか印象的……。
「……他の皆に配ってくる」
この日を切欠に監督から合宿があった際の料理当番に任命される事になった。
またまた別の日。
ズバンッ!
「ナイスボール!今日はここまでにしようか」
「……ええ」
この日は園川先輩の投球練習を見ていた。
「萌様ーっ!」
ちなみに私の横には黒木さんがいる。ついでに黒木さんとよくバッテリー練をしている田村さんと、近くには黒木さんと交代で投げ込みをしている小宮山さんもいる。なんか賑やかになった気がする。
「夜子、貴女ならこのコースに投げる時は……」
こうして園川先輩が私にアドバイスを求めている時は……。
「ぐぬぬぬ……!」
黒木さんの私を見る目が強くなり、それを田村さんや小宮山さんに咎められているのがここ最近の日常となっている。
「三森夜子さん!私と勝負ですわ!!」
「……何の勝負?」
「もちろんピッチングですわ!私の方が優れている投手だという事をわからせます!」
……なんか黒木さんに勝負を申し込まれた。
「……別に構わないけど、流石に本職の投手相手に私は勝てない。況してや球速や変化球の勝負なら尚更」
「何故勝負の前から負けを認めてますのっ!?」
「なんでも何も事実だから。黒木さんの投げるストレートはかなり速いし、スライダーとチェンジUPもストレートと合わさって一級品。そもそも投手としてのタイプが全く違うし、純粋な力比べで私に勝てる道理はない」
「ええ……?」
黒木さんには困惑していた。私の返しが予想外だったのかな?
「それなら夜子と亜莉紗が打者になって、1打席勝負をする……というのは?」
園川先輩がそんな黒木さんを可哀想に思ったのか、そんな提案を出す。
「流石は萌様!異論ない提案ですわ!」
「……黒木さんが良いなら」
ひょんな事から黒木さん1打席勝負をする事になった。
「来なさい!」
先攻は黒木さん。守備には誰も付いておらず、打った時は守備によってアウトかどうかを判断するらしい。
(とりあえず福澤先輩のリード通りに投げる……!)
コースは低め。様子見のストレートかな。
ズバンッ!
『ストライク!』
審判役は園川先輩。黒木さんにとっては良い審判になるかも知れない。
(打たせて取る前提で投げる球……にしてはかなり良い球だ。その気になれば三振も狙えそうだが、これが打たれるとなれば、夜子達シニアのレベルがかなり高かった事が伺えるな……)
(中々打ち辛そうな球ですわね。下手に打てば凡退するのは目に見えてますわ)
初球をストライクに取って2球目。
(同じコース……!)
カンッ!
『ファール!』
流石に同じコースだと打ってくるか。同じ球種だし、仕方ないと言えばそこまでかな。
(でも黒木さんの打力は今のファールである程度は把握した……)
彼女の打ち方を見るに、あそこに打たせるのが良いかな。
(真ん中高め……。打たせてもらいますわ!)
カンッ!
打球は三遊間方向を転々と転がる。まぁ誰も守ってないし、仕方ないけど……。
『アウト!』
「えっ!?」
園川先輩の判定に黒木さんは驚きの声をあげた。夕香姉さんがショートを守っている事を考えると、結果は多分ショートゴロ……。
「夕香が守っていると過程したら、余裕を持って打球を捕れる。だから結果はショートゴロね」
「そうだね。私も同意見かな」
どうやら園川先輩と福澤先輩も私と同じ意見みたい。でも夕香姉さんじゃなかったら抜けてた可能性が高い打球だったなぁ……。
「ぐぬぬ……!次は私が投げますわ!」
攻守交代。今度は私が打席に……。
(黒木さんはオーソドックスな速球タイプ。園川先輩に憧れてか、ビタビタにコースを突いてくる。憧れはピッチングスタイルにも出るのが伝わってくるね)
ズバンッ!
『ストライク!』
外角低めにストレート。かなりギリギリのコースだった。
(あのコースにあの速球を決めてくるのか……。夜子に触発された形だろうけど、亜莉紗も凄い投手だな。これは萌もうかうかしてられないぞ)
(追い込まれると、多分私が不利になる。それなら次の1球を打つ……!)
黒木さんの投げる2球目……。
ガッ……!
詰まらせた?でも上げてはいないから、打球は力なく一塁線に転がる。
「……かなり際どいわね」
「そ、そうですね……」
審判役の園川先輩とさっきまで投げてた黒木さんが結果に難儀していた。そんなに難しいかな?
「彩菜はどう思う?」
「夜子……というか三森3姉妹の走力を考えると、多分結果は内野安打だろうね」
「という事は私の負け……ですわね」
どうやら私は勝ったらしい。いまいち実感はないけど、多分内野安打なのは正解。弱いゴロなら私達姉妹は確実に内野安打が狙えるから……。
「……今回は私の負けですが、次は負けませんわよ!夜子さんっ!!」
この勝負で少しだけ黒木さん……亜莉紗と親密な関係になれた気がする。
「……お互いに頑張っていこう。亜莉紗」
1つ成長した……そんな1日だった。
黒木さんの口調難しい……。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
-
見たい
-
見たくない