対尾張シニア戦。先発投手は六道監督の指示で橘となった。本人は不安そうにしてたけど、監督の言葉によって奮起したみたいだ。そして……。
(1番に金原、3番に友沢、4番に清本、5番に高橋さん、8番に二宮……。この並びも最早恒例になったね)
オーダーの中に6人も女子がいる事そのものが凄いのに、恒例の並びを女子が占めているのが更に凄い。男子も特に不満を持ってないのが六道監督の手腕なんだろうね。
「こ、こんな大舞台でいきなり私が投げる事になるなんて……!」
「緊張する気持ちはわからなくもないですが、早いところ切り替えなければ相手の思う壺です」
「そ、そうだよね?よ、よし……!」
当の橘は緊張しっぱなしで、二宮に促されて深呼吸を繰り返している。まぁあの調子なら、試合開始までには緊張も解れている事だろう。
「は、はづきちゃんの気持ちはよくわかるよ。私もこの空気に当てられて、震えちゃってるし……」
「和奈さんは緊張し過ぎです。貴女は東京どころかアメリカの舞台にも立ったでしょう?」
「アメリカと東京はまた別だよ……」
清本は清本で緊張している。なんなら橘よりも緊張している。言いたい事はわかるけど、普通逆なんだよね……。
「そういう瑞希ちゃんは落ち着いてるね。やっぱり緊張とは無縁なの?」
「そんな事はありません。私だって人並みに緊張はします」
「表情からはわからないなぁ……」
「わ、私も……」
二宮だって緊張くらいはするらしい。いつもの無表情だから、わかる訳がないよね。
「そろそろ試合開始だよ!早く切り替えて切り替えて!」
監督の一言で不思議と辺りが静かになった。本当に試合へと切り替えてるんだろうね。
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
試合は私達の先攻。状況は相手投手に連続で三振を取られたところだ。
「やっぱ全国レベルは違うね~……」
「いずみさんは夏も相手をしたと思いますが……」
「い、いや、ほら、あれだよ!夏に比べて球のキレが上がってるって言うか……」
「それはそうでしょう。夏と同じ状態なら、そもそも全国に進めてはいません」
金原の言い訳タイムを二宮が軽く受け流す。まぁ金原の言う事は合ってるんだけど、二宮の正論がキツくて金原が押し黙っちゃってるよ……。
コンッ。
3番の友沢がセーフティバント。三塁線に上手く転がして……。
『セーフ!』
セーフとなった。これでツーアウト一塁。
「ふ、ふぅ……!」
次は清本の打順なんだけど、まだ緊張が溶けていないようだ。大丈夫かな……?
「和奈さんなら心配いらないでしょう」
二宮がそう言うなら、多分大丈夫なんだろう。清本との付き合いが1番長い清本なら……。
ズバンッ!
『ストライク!』
しかしあっという間に追い込まれた。清本と勝負しようとしているから、救いと言えば救いか……?
(そういえば尾張シニアは清本と対戦するのは初めてなんだっけ……?まぁ夏はアメリカでリトルリーグの世界大会の方に出てたしね)
清本、二宮、そして私の3人は夏の全国大会には出ておらず、同時期に進行していたリトルリーグの世界大会(小学5年生~中学1年生が出場対象)に出ていたからね……。
(でもそんな急な状況下でも清本を4番に据えた……。その理由は単純明快……監督が清本和奈という人間を信用しているからだ)
だから……。
カキーン!!
「!?」
相手投手は3球勝負のつもりで内角へと曲がるスライダーを投げた。それを清本が合わせて打った……。ただそれだけの話なんだけど、そんな簡単に出来る技術じゃない。しかも女子が、況してやシニア最小と言っても良いくらいに小さい清本がそれをやってのけたのだ。
打球はライナーの形を描き、そのままスタンドへと突き刺さった。
「せ、先制点……だよね?」
「そうですね」
「アタシ達が夏でも苦戦した投手に和奈はたった3球で素早く対応したって事だよね?」
「そうなりますね」
「しかも打ったのはホームラン。流石はウチの4番だわ……」
呆れ混じりに清本を称賛している金原だった。まぁこれに関しては私も同意見かな……。
(しかし先制点を取れたのは大きい……。欲を言えばこのまま逃げ切りたいね)
試合がどうなるかは橘次第になる……。頼んだよ?
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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