1回裏。マウンドにはようやく緊張が解れた橘。
(そういえば橘が練習以外で投げるのを初めて見るな……)
紅白戦や練習試合でも橘が投げる事はなかった。そんな中この大舞台で任されたって事はそれなりの実力を持ってはいるんだろうけど……。
「はづきちゃんが心配?」
「監督……。まぁそうですね」
私が橘の心配をしている他所に、六道監督が私に声を掛けてきた。
「大丈夫だよ。今はわからなくても、その内わかる時が来るよ。それこそはづきちゃん自身も自覚していない実力がね……」
「橘自身も自覚していない実力……?」
「私がはづきちゃんをベンチ入りメンバーに推した時、誰もが……はづきちゃん本人もがはづきちゃんのベンチ入りを反対してたよね?」
「そうでしたね……」
橘がベンチ入りメンバーとして発表された時、部内のほぼ全員(橘本人を含む)が猛烈な反対意見を出していたのは記憶に新しい。私はそれを見ていてハラハラしていたよ……。
「はづきちゃんがこのシニアに入った理由……朱里ちゃんは知ってる?」
「えっと……」
確かリトル時代の私のピッチングを見て憧れたからって言ってたような……。
「うん、それで正解だよ。そしてはづきちゃんが野球を始めたのはこの川越シニアに入った4月から……」
「えっ?そうなんですか!?」
衝撃の事実だよ。それじゃあまだ1年も満たない内にレギュラー争いが激しいこの川越シニアで女子の橘がベンチ入りしたって言うの!?
「そんなはづきちゃんが投手をやりたいって私に言ったその翌日から、はづきちゃんは淡々と練習をして、試合のある日は投手の投げる様をずっとずっと観察していた……。そしてはづきちゃんの才能とも言えるものが、それでいてはづきちゃんにしか出来ない芸当がこの試合出来る見られるかもね」
「橘しか……出来ない事が……!?」
ズバンッ!
『ストライク!』
監督と話している間に橘が相手の先頭打者を追い込んでいた。投げていたのは2球連続でストレートだけど、コースはかなりギリギリを突いていて、審判次第ではボールにもなるところだ。それを二宮の捕球技術によって補っている……。
(追い込みましたね。はづきさん、いきましょうか……)
(そうだね。監督が整えてくれた、橘はづきのお披露目……次に投げる1球はそのスタートだよ!)
橘が振りかぶって3球目を投げる。フォームはサイドスロー。そしてサイドにしては速いストレートと、それと合わせる変化球……恐らくそれが橘の決め球だろう。
ズバンッ!
『ストライク!バッターアウト!!』
左打者の胸元に大きくシュートしながら曲がる変化球……スクリューボールだ。
(しかもあれ程のキレのスクリューは見た事がない……)
「朱里ちゃんは確かスクリューを取得しようと試みているんだよね?だったらはづきちゃんの投げるスクリューは結構参考になると思うよ」
「そう……ですね……」
橘はづきの唯一無二のスクリュー。真似は出来なくても、私の投げる偽ストレートの媒体には出来るようにはしておきたいね。
「対戦相手の尾張シニアには申し訳ないけど、この試合は橘はづきの成長の為の贄となってもらうよ……」
監督が何かしらの企みをしている悪い顔をしていた。ちょっと尾張シニアに同情するな……。
『ゲームセット!!』
試合結果は5対1。橘の成績は7イニング投げて失点1、被安打5という初試合にして好成績を残して、川越シニアは愛知最強のシニアと呼ばれる尾張シニアに勝利した……。
金原いずみの藤和生活……(藤和高校野球部の登場人物は全てオリキャラ及び他作品キャラになります)見たい?
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