ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです   作:へびひこ

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第十話 迷える者に救いの手を……そして凱旋。

「未熟者の私では神父様から逃れることはできないと諦めました」

 

 アーシアは観念した。相手が自分を育ててくれた神父では逃げ切る自信が持てない。殺されることも捕まって異端と裁かれることも覚悟した。しかし神父はアーシアに危害を加えることもなく話しだした。

 

「要するに教会はおまえが民衆の支持を集めていることが鬱陶しくなったのさ。やり過ぎだ。馬鹿弟子」

 

 逞しい腕を組み穏やかに叱る姿はかつて教会にいた頃に自分を鍛えてくれたときとなにも変わっていなかったとアーシアは少しだけ微笑んだ。

 

 放浪のシスターとしてアーシアはいつの間にやら有名になっていたらしい。ふらりと現れ人々に救いの手を差しのべて去って行く。その名声はかつての『聖女』と比べても見劣りがしないほどになったのだと。

 

 そして危険視された。彼女が支持者を集めて宗派を立ち上げたらどうなるか? それでも教会の勢力は揺るぎはしないだろう。だが非常に鬱陶しい存在になると予想された。

 

 何しろかつての『聖女』だ。教会の上層部は事実を知っている。彼女は一般に噂されるような堕落した聖職者ではない。むしろ敬虔な信徒であった。悪魔と関わることがなければ今でも教会の『聖女』として人々に救いの手を差しのべていただろう。

 

 彼女自身に名誉欲や出世欲はないと評している。だがそんな人物を周囲の者が利用したらどうなるか。

 

 教会で献身的に働き『聖女』と讃えられた聖職者が何者かの策略によって『魔女』の汚名を受けて居場所を失い。追放された。

 それでも人々への奉仕の精神を忘れる事なく活動している『放浪の聖女』

 

 ある種の美談に近い。きっと人々はその姿に感銘を受け支持をするだろう。

 

「そうなったときに責められるのはそんなご立派な人物を追放した教会だろう。これに対処する選択肢はそう多くない。おまえさんを再び『聖女』として招き入れて懐に抱え込むか、排除するか。おおよそこの二つで上層部が選んだのは後者だった」

 

 教会の決断を告げた神父は多少苦々しげだった。

 

「神父様もきっと不本意だったのでしょう」

 

 アーシアはそう考えているらしい。よほどその神父を信じているのだろう。

 

 彼女がそこまで心酔する神父さま。一度会ってみたい気もする。けれど俺は悪魔だから会った瞬間にぶち殺されそうだ……。

 

 再び『聖女』として招くということは教会が間違った選択をしたと認めなければならない。

 教会全体に広がった『魔女』の汚名を払拭し、彼女を『聖女』として迎え入れる。それがかなり困難なほど『魔女アーシア・アルジェント』の噂は広がってしまった。

 

「だから俺たちは妥協案を出した。おまえさんにこれ以上教会を刺激するなと伝えてほとぼりが冷めるまで大人しくしてもらおうというものだった。状況が落ち着けばおまえさんもまた少しは自由に動けるかもしれない。あるいは噂の届いていない遠方の教会に『ただのシスター』として赴任を認めさせるという手もある。それなりにいい手だと思ったんだがなぁ……おまえさんの逃げ隠れの上手いこと上手いこと。優秀に育ってくれてなによりだと師としては思うが、おかげで何故か俺が責められたぞ?」

 

 困ったような顔で語る神父の言葉にアーシアは驚いた。

 まさかそんなつもりだと思わずに身を守る意味で逃げ隠れしていたがまさか師や他の人たちが自分を救おうとしていたとは思ってもみなかった。

 

 自分は孤独だとどこかで思い込んでいたとアーシアは呟くようにこぼした。そして味方などいないと諦めてもいたと。けれど密かにアーシアを気にかけていた人はいたのだ。

 

「正直とても嬉しかった。けれどその後の神父様の言葉で私は『折れて』しまいました」

 

 大方の事情を語ったあと神父はアーシアをじっくり眺めるとため息をついた。

 

「しかしまぁ、しばらく見ないうちにずいぶんとつまらない女に成り下がったもんだ。昔のおまえの目はもっと純粋で輝いていた。おまえの顔は常に人々を祝福するように微笑んでいた。今のおまえはまるであの頃の抜け殻か絞りカスだな。正直クソにも劣る有様だ」

 

 神父はすべてを見通すような瞳でアーシアを射貫いた。アーシアは本気でその視線を恐れた。アーシア自身、心やましい面があったのだと言う。

 

「人々を救い歩いていればいつか『聖女』に戻れるとでも期待していたのか? 教会から賞賛され、許されてかつての幸福だった頃に戻れるとでも考えていたのか? おまえの信仰は何処へ迷子になった。そうじゃねぇだろ? かつてのおまえは人を救うのに見返りなど期待してもいなかった。自分の評価さえ気にもしなかった。あの頃のおまえは本当に純粋に人々に救いの手を差しのべる存在だった」

 

 神父の言葉にアーシアは自らの心に隠していた邪念を暴かれたのだ。

 アーシアは力なく笑う。儚くまるで泣きだしそうな弱々しい笑顔だった。

 

「神父様の仰るとおりでした。私はどこかで期待していた。こうして人々に奉仕していればいつか認めてもらえると。それを神父様は一目で見抜かれました。私が奉仕の精神をもって人々に接していたのではなく打算をもっておこなっていたのだと」

 

 そんなことはない。アーシアは立派なシスターだ。

 俺はそう思うが、彼女はそう振る舞っていただけだと自嘲する。少なくとも教会に追放された後はそうだったと。

 

 神父はアーシアに告げた。

 

「おまえが苦しんだのはわかる。失意と絶望に苛まれただろう事も想像がつく。だが信仰を利用して昔に帰ろうとするその根性はクソ食らえだ。そんなくだらん信仰なら捨てちまえ。いっそすべてを忘れてただの女として生きていた方がまだマシな女になっていただろうよ」

 

 そう吐き捨てるようにアーシアを弾劾する。そして忠告を残した。

 

「今からでも遅くはねぇ。今のおまえは『聖女』になどなれはしない。過去にすがってないで前を見ろ。おまえはまだ若い、おまけに優秀だ。人生をやり直す機会はいくらでもある。おまえがしっかり前を見ればたくさんのものがあることに気がつくだろう。悪い事は言わん。『聖女』の肩書きも教会での暮らしも忘れちまえ。そして前を見ろ。まだ根性まで腐れ落ちてはいないだろう? しっかり自分の……『アーシア・アルジェント』の人生を歩いて行け。『聖女』の幻影にいつまでも囚われてるんじゃねぇよ。それはもうおまえの人生では終わったことだ。終わったことを追いかけてもそれは意味がない。クソッタレの腑抜けがサルのように自分を慰めるようなもんだ」

 

 そして神父はアーシアの前から去って行ったそうだ。

 アーシアに一切危害を加えず。けれどその心を一刀のもとに斬り捨てて。

 正直厳しい人だなと思った。もう少し優しい言いようがあるのではないかと。

 

「見捨てられた。今度こそ失望されて見限られたと私は絶望しました。そして目をそらしていた自分の醜さや女々しさにただ泣くことしか出来ませんでした」

 

 前を見て歩く気概など残ってはいなかったとアーシアは力なく告白する。

 

「もうなんの目的もなく、ただ意味もなくさすらいました。追っ手は来ませんでしたがこれならまだ追っ手から逃げていた頃の方が生きている実感があったと思います。そんな時にレイナーレさんに会いました。彼女は私の神器を欲していた。ならばあげてしまおうと思いました。私にはもう必要がないし、私自身もう生きていく気力がなかった。せめて神器だけでも誰かのために役に立つならそれでもいいと」

「神器を奪われれば死ぬことも知っていたのか?」

「はい、説明されましたから……それでもいいと言ったら驚いていましたね。そして『まるで抜け殻ね』と蔑まれました。確かに私はもうただ生きているだけの無意味な存在に成り果てていましたから反論もしませんでした」

 

『王』の確認にアーシアは淡々と答える。『王』の眉がしかめられた。そんなアーシアの態度が気に障ったのかもしれない。

 

「そしてあの日、せめて最後の思い出にとレイナーレさんたちの元から抜け出して街を散策しました。そしてイッセーさんと出会い、偉そうなことを説教しました。私にはそれを言う資格などないのにまったく何様のつもりなのかと自分で自分を軽蔑しました」

「それは違う! 俺は確かにアーシアに救われたんだ!」

 

 俺の恩人が自分を嘲笑うような歪んだ笑みを浮かべることに我慢出来ずに俺は叫んでいた。そんな俺をアーシアは優しい眼差しで見つめた。

 

「うれしかった。こんな私でもまだ迷える人を導くことが出来るのだと。人生の最後にたった一人でも手を差しのべることが出来たと。最初顔を見たときは思わずキン○マをケリ潰したくなるようなウジウジした玉無しのフニャ○ン野郎だと思いましたが、まるで別人のように生き生きと今を生きようとする男の顔になるのを見てなんてたくましく強い人なのだろうと眩しく思いました」

 

 ……俺はなにも聞こえなかったぞ。こんな可愛い女の子がそんな下品なことを言うわけがない。

 というかそんな言葉使わないで! 『王』といいアーシアさんといい、なんでみんなして俺の幻想を粉々に打ち砕くの!? いい加減現実に絶望して泣くぞ!?

 

「まだ死にたいか? 小娘」

 

『王』の声は冷たく素っ気ない。一気にアーシアに対する興味が失せたような表情をしている。

 アーシアはそんな『王』に困ったような顔を見せた。

 

「実は困っています。もう死んでもいい。生きていても仕方がない。未練はないと思っていましたが、こうして見ず知らずの私を救いに来てくれる人がいた。その人の想いを裏切ることはとても心苦しい。でも未熟な私ではもうどうしようもない。本当に困っています」

 

 ふむと『王』が何か思案するように顎を撫でた。

 

「なんとかできないんですか? アーシアを助けてくれるのなら俺は何でもします!」

「……そう言われてもな。本人に生きる気がなければ意味がない。もう一度聞く、本当に生きる気があるか?」

 

 俺の嘆願に『王』は少し困った顔をしてから真剣な目をアーシアに向けた。

 アーシアはその目を見返してお互いしばらく沈黙した。

 

「……もし生きる事ができるのなら、私は前を見て生きられるでしょうか? 神父様の仰るとおりに過去を想うのではなく『聖女』の名にしがみつくのでもなく、アーシア・アルジェントとして生きられるでしょうか?」

「我の提案を受けるのなら、どのみちもう『聖女』にはなれん。むしろ『魔女』として昔の仲間から裏切り者と蔑まれ責められることになるだろう」

 

 その言葉に俺ははっとした。

 

「まさか、『悪魔の駒』でアーシアを悪魔に転生させる気ですか?」

「他に方法がない。もはや治癒の魔法ごときではどうにもならん。イッセーの時と同じだ……あの時ほどおのれの非力を痛感したことはない。生きたいと魂から願う者に対して悪魔に転生するという手段しか我の手にはなかった」

 

『王』も、『王』ほどの力の持ち主でも非力に嘆くのか……悪魔も『王』もけして万能ではないのか。

 

 アーシアはしばらく瞑目した。

 その沈黙が俺は怖い。彼女が死ぬことを選んでしまいそうで。

 俺は断じてアーシアを『魔女』だなどと認めない。彼女こそ『聖女』だ。彼女がそれにふさわしくないなら他の誰が『聖女』になれるのだろう。

 

 そしてそんな彼女だからこそ本気で救いたいと思う。きっと彼女はこれからも多くの人を救う。本当に人の力になれる人間だと信じている。『赤龍帝の籠手』がなければ眷属最弱、きっと『兵士』の駒一つ程度の価値もなかった俺とは違う。

 

「そうですね……いっそ人間としての『私』を捨てて、悪魔として生きるのもいいかもしれません。あるいは今度こそ神父様の怒りを買って殺されることになるかもしれませんが、過去と決別してやり直すという意味ならこれ以上ないことかもしれません」

 

『王』の片眉が意外そうに跳ね上がる。少しばかりアーシアを見る視線が変わった。再び興味深そうにアーシアを見つめている。

 

「よいのか? 悪魔になれば信仰に生きる事は難しい。おおっぴらに信仰を貫くには悪魔の世界も世知辛い。隠れて信仰を続けるにしても神に祈ることさえ満足に出来なくなるぞ? 聖なる物は悪魔の弱点。神になど祈れば激痛に苦しむだけだ」

「それも主の試練と耐えて見せます。それにおもしろいじゃないですか。主を信仰する悪魔という生き様が他の誰に出来るでしょう。それをやりとげてみるのもおもしろそうですし、出来なければ私にはそこまでの信仰心はなかったと諦めるしかないでしょう。その時は信仰を捨て、普通に悪魔として生きる事を誓ってもかまいません」

 

 再び『王』が問いかける。その声は厳かでいっさいの嘘偽りを許さない厳しさがひしひしと伝わってくる。

 

「問おう。お主は本当に生きる気があるか?」

「生きたいと思います。少しばかり興味深い人、いえ悪魔に出会いました。その人物の行く末を見たいという欲があります。いま死ぬのは正直心残りです」

 

 興味深い悪魔? 『王』のことか? 確かにこの人はいろんな意味で目立つからなぁ。興味が出てもおかしくない。

 

「いいだろう。ただし悪魔に転生してもお主はお主のままだ。別人になるわけではない。そのことは履き違えてくれるなよ?」

「はい。わかりました」

 

 かすかに『王』の魔力の発動を感じる。

 するといつの間にか『王』の手のひらには『悪魔の駒』があった。転移かな? 俺にはあんな高等技術は出来ない。いつか出来るようになりたいなぁ。

 

「この駒は『僧侶』だ。お主にはもっともふさわしかろう」

「ではお願いします」

 

 王が真剣な顔で念を押す。

 

「これを使えばお主は人間ではなくなる。人間として死ぬことも選択肢としてはありだろう。そしてこの『悪魔の駒』で転生悪魔になれば我の眷属となる事になる。我に従い我と共に生きることになるがそれでもいいか?」

「いいでしょう。あなたにならば従ってもかまわないと私は思います。それにイッセーさんも一緒なのでしょう?」

「もちろんだ。イッセーは我が眷属。我が『兵士』なのだからな」

 

 俺は『王』にうながされるままに手に握りっぱなしだった神器をアーシアに渡す。小さな指輪はアーシアに触れると溶けるようにアーシアの体内に消えていく。

 

 そして『王』が『僧侶』の駒をアーシアの胸元に当てる。しかしなんの反応もない。『王』が小さく唸った。

 

「やはり足りん。『聖母の微笑』がいかに希少とはいえあくまで分類としてはただの神器だ。神滅具ほどではないはずだが……問題はこの娘の資質か」

「……無理なんですか?」

「案ずるな。我はリアス・グレモリーであるぞ。貴様らの『王』にして悪名高き冥界の問題児。不可能を可能にする奇人にして『紅髪の滅殺姫(べにがみのルイン・プリンセス)』と呼ばれた冥界に名高い『規格外(バグキャラ)』よ……まぁ見ておれ」

 

 不安になった俺が声をかけると『王』はそう言って俺に安心させるような力強い笑みを向けた。

 ある意味安心出来たけど。なんかすごい物騒な言葉を聞いた気がする。

 

 問題児? 不可能を可能にする奇人? 『紅髪の滅殺姫』?

 それと我が『王』よ。やっぱりあんた悪魔の中でも奇人変人扱いなのか?

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ああ、久し振りだな。

 ここまでの気合いははぐれ悪魔退治以来。いやあの時以上の威圧感かもしれない。

 

 堕天使相手ではほとんど全力とはほど遠かったからなぁ。

 

 と『王』の気合いの声で吹き飛ばされかけながら現実逃避する。必死に踏ん張るがずるずると押されていく。気を抜くと本気で飛びそうだ。

 

 ちょっ! ちょっと本気で飛ばされそうなんですけど!? 気合い一発で付近にいる俺が吹き飛びそうになるってなんだよ!?

 

 というか本気でちびりそうだよ!? ここに小猫ちゃんがいなくて本当に良かったよ!? ……というかアーシアは大丈夫なのか?

 

 視線を向けるとアーシアは目を見開いて驚いているがその場からびくとも動いていない。いったいどんな秘訣があるのだろう。ちょっと習いたい気がする。

 

 ……アーシアさん。もういい加減確信したけど絶対俺より強いだろ?

 

 ふいにぞくりと背筋が凍った。

 恐ろしいほどの魔力が『王』の周辺に凝縮されていく。『赤龍帝の籠手』を全力で使った俺でさえ足元にも及ばない。まさに天と地の差がある。

 

「奇蹟が神の専売特許など誰が決めた!? 奇蹟不条理を起こしてこそのリアス・グレモリーである! 我が魔力よ。我が魂よ。今ここに眷属の願いを叶えん為に、奇蹟の一つも起こして見せよ! さぁ刮目せよ。我が『兵士』そして我が『僧侶』候補よ。これが貴様らの『王』リアス・グレモリーの片鱗である!」

 

 これで片鱗かよ!?

 もはやツッコミすら虚しい。『王』が全力を振るえば余波だけで俺は死ぬんじゃないだろうか。

 

『王』が強すぎてやばすぎです。

 

 もはや俺の胃が悲鳴を上げている。ああ、後で胃薬を買おう。最近なんか腹がムカついて気持ち悪いんだよな……。

 

 そして『王』の手のひらの上にあった『悪魔の駒』が色を変える。目を奪われるような鮮やかな真紅に。

 

 その時はなにが起きたのかわからなかったが後で朱乃さんに聞いたらそれはおそらく『変異の駒(ミューテーション・ピース)』という物らしい。

 特殊な駒で、本来その駒一つで転生出来ない相手でも転生させてしまう特性があるとか。

 

 ちなみに『王』の意志によって駒が『変異の駒』に変わることはほぼないらしい。

 朱乃さんも通常の『悪魔の駒』が『変異の駒』になる条件は知らないと言っていた。『王』は元々一つ『変異の駒』をもっていたがそれはすでに眷属の一人、姿を見かけていない『僧侶』に使ったらしい。

 

 そして『王』の手に再び『変異の駒』と思われる真紅の駒が握られる。それをそっとアーシアの胸元に当てると今度は水面に沈み込むように『僧侶』の駒がアーシアの身体に吸い込まれて消える。

 

 一瞬アーシアが表情を変えた。かすかな苦悶の表情。しかしすぐに普通の表情に戻るとその背には悪魔の羽が広がっていた。

 

 その瞬間アーシアの身体から放出された莫大な魔力に俺は一瞬気を失いそうになった。

 

 さきほどの『王』の力に匹敵するレベルの魔力が不意打ちで放出されたのだ。ここまですごいともはや魔力攻撃と大差ない。俺の意識を刈りとるには十分な威力だったがなんとか踏ん張り頭を振って意識をしっかりさせる。

 

「ほう。この魔力は……なかなかの拾い物であったな。魔力量だけなら朱乃さえ上回っておる」

 

 楽しげな『王』の言葉に俺は驚愕した。俺は朱乃さんは『王』を例外とすれば眷属最強と教わったんですけど? その朱乃さんより魔力では上? あきらかに俺より強いだろう。確実に。

 

 吹き上がる魔力の嵐に戸惑っていたアーシアだったがすぐにコツをつかんだのか魔力の放出がぴたりと収まった。

 

 ……すごい。あの魔力をあっという間に制御したのかよ。絶対才能でもアーシアの方が上だと確信した。

 

 天才ってスゴイね……アーシアさんのお姿が眩しくて泣きそうですヨ……。

 

「未熟者ですがこれからよろしくお願いします」

「うむ。まだまだ教えることは多い。まずは気張らずに学ぶがいい。お主ならばいずれは最上級悪魔にだってなれよう」

 

 ゆっくりと立ち上がると深々と『王』に頭を下げ挨拶をする。そんなアーシアに『王』は上機嫌で声をかけた。

 

 最上級悪魔にもなれるって、アーシアさんはすごいですね……俺はそんなこと言われなかったなぁ。

 

 才能の差は絶対なのか? ああ、才能の差が将来の絶対の格差を決めるものではないとかキリっと言えるほどになりたい……とりあえず努力はしよう。努力すればきっと俺でも上級悪魔ぐらいには、なれたらいいなぁ。

 

 口から魂が漏れそうなほど陰鬱な気持ちで落ち込んでいると『王』が俺の背を叩いた。

 

「しゃきっとせい! お主は見事目的を果たしたのだぞ!?」

「イッセーさん。助けていただいたこと終生忘れません。心から感謝します」

 

 激励する『王』に続いてアーシアが俺に深々と頭を下げる。

 

 終生って、そんなたいそうなことを俺はしていない。アーシアを助けられたのは俺一人の力じゃない。むしろ『王』や仲間の助力がなければ難しかった。少なくとも命を救うことは絶対に出来なかった。

 

「そんな堅苦しい態度はやめてくれ、友達だろ?」

「はい、イッセーさん。これからよろしくお願いします」

 

 とりあえず友達という言葉を使って変に恩に着られるのから逃げる。そんな態度を取られると尻のあたりがむずがゆい気分だ。

 

「……本当に楽しみです。イッセーさんがこれからどのように生きていくのか。きっととても鮮やかで美しい道を歩むのでしょうね」

「……え?」

 

 穏やかな笑顔を向けてくるアーシアの口から意外な言葉が漏れた。小さな声だったが俺には聞こえた。

 

 ……もしかしてアーシアの言っていた『興味深い悪魔』って俺? まさか。どう考えても実力とインパクトなら『王』の方が上だろうに。

 

「さぁ、凱旋だ! イッセー、胸を張るがよい。この戦はお主の大勝利だ!」

 

 上機嫌な王が歩いて行く。その背を追おうとして、静かにただ立っているアーシアを振り返った。

 

 俺は笑顔で彼女に手を差しのべる。

 このくらいなら眷属最弱の俺でもしてあげられる。ほんのわずかとはいえ悪魔の先輩として仲間たちの元へ手を引いてあげるくらい。俺だってできる。

 

「さぁ、行こうアーシア! みんなが待っている。みんなと一緒に俺たちの部室へ行こう。そうしたら俺たちの仲間を紹介する。きっと仲良く出来る。きっと楽しい毎日になるさ!」

「はい、とても楽しみです」

 

 俺はアーシアの手を握り、その手を引いて『王』の背を追った。

 今日は俺たちの仲間に『僧侶』アーシア・アルジェントが加わった記念すべき日だった。

 

 

 

 

 蛇足かもしれないし、どうしてそうなったのか理解出来ないのだが。

 アーシアの手を引いて教会を出た俺たちを仲間たちが出迎えてくれたのだが、なぜか小猫ちゃんが一瞬嬉しそうに微笑んだ直後凄まじく不機嫌になってしばらく口をきいてくれなくなった。

 

 俺がなにをしたって言うんだ?

 




 アーシア救出編終了!

 最近体調が悪いので今回は休み休み書いていました。

 アーシアの物語をちゃんと書けたか、いまいち自信がありません。なにしろ捏造だらけなのでたぶん原作と矛盾する箇所もあると思います。

 堕天使討伐編はイッセーの成長。
 アーシア救出編はアーシアの物語を意識して書いています。

 次回からはおそらくフェニックス編です。ようやくこの物語の終幕に近づいてきました。

 さすがに毎日更新は体調的に無理なのでペースが落ちると思いますが、それでも長い期間をかける事なく完結させたいです。 
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