ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです 作:へびひこ
アーシアが仲間に加わったオカルト研究部はいたって平穏無事に過ごしていた。
そう、平穏無事だ。そうだと思う。特に問題なんてない。
強いていえば俺は胃薬を定期的に飲むようになった。
以前は症状の苦しいときだけだったんだが最近では常に服用だ。なんだか胃薬を飲むだけで気持ちが落ち着く気がする……。
「ニンジャみたいで楽しいですね!」
チラシ配りに出かけたアーシアがスゴイ笑顔で夜の町を疾走したりもした。
俺もそうだったがアーシアも悪魔に転生した事で身体能力が上がったらしい。でも普通に屋根に飛び乗ったり屋根を駆け抜けていったりしないで!? 君は女の子でしかもスカートなんだよ。もう少し恥じらいを持ちなさい!
そう叱りつけてなんとか道路を走らせる事になったが、アーシアはどうにもノリノリで楽しんでいた。具体的に言えばポストとポストの間を瞬間移動のような速さで移動してなにかをやりとげた満足げな顔をしていた。
「きっとニンジャならこのくらい出来たんでしょうね!」
どうもアーシアは忍者が好きらしい。いやたぶんアーシアさんなら忍者並みの事が出来そうな気もするけど。まさか分身の術とか出来ないよな? 『気合いで楽勝です』とか言われそうで怖いから聞けなかったけど。
『悪魔の駒』すごいと思ったが、よく考えたら俺はここまで人外レベルの動きは出来ない。木場でもこれには劣りそうだ。
念のため聞いてみたら似たような事は以前から出来たらしい。
「以前より身体が軽いのですごく楽しいです。今ならきっと木の葉隠れの術だってもっと完璧に出来るかもしれません」
……普通に忍術試した事あるんですか? 木の葉隠れって、確か森とかで木の葉で目眩ましして姿を消す術だっけ?
これなら追っ手からだって余裕で逃げられただろう。自分の速さに自信があったらしい木場がひそかに落ち込んだりもした。
速さが特徴の『騎士』よりはるかに速い『僧侶』ってなんだよ……。
念のため朱乃さんに『僧侶』の特徴を聞いてみたら。
「普通は魔力に関する能力の向上のはずですが……」
と、ちょっと自信なさげに答えてくれた。アーシアを見るといまいち自信がなくなるらしい。確かにアーシアは魔力もすごい。だがどう考えても身体能力が悪魔基準でもかなり突き抜けているらしい。
「ははっ……元シスターの女の子より遅い『騎士』ってなんだろうね? イッセー君はどう思う? 笑えると思わないかい?」
そう虚ろな目で笑う木場がひたすらに哀れだった。
なんかもう木場が精神的に重傷なので以後、アーシアには俺の自転車の荷台に乗ってもらい二人でチラシ配りをすることにした。主に俺の胃と木場のプライドを追い詰めないために。
アーシアと模擬戦もした。
「頼むぞドライグ! せめて、せめて一撃くらいはいれてやる!」
『おう、征くぞ相棒。敵わぬ強敵に挑むのもまた一興だ!』
俺はドライグの力も借りて全力で挑んださ。
けど『赤龍帝の籠手』で倍加する時間をもらったにもかかわらず『気合い一発!』と一撃で殴り飛ばされた……一応全力で倍加すれば上級悪魔とも戦えると部長が評価してくれたんだけどなぁ。
あとで強くなるコツを聞いたら『気合いと根性です』と元気よく答えてくれたけどね。それってアーシアさんだから出来るんじゃないっスか?
「……力なら負けません」
ふんぬと可愛らしく気合いを入れて小猫ちゃんは力比べを挑んだ。
ちょっと期待した。
なにせ小猫ちゃんは『戦車』だ。駒の特性的に圧倒的パワーと防御力が売りなのだ。
両者睨みあうように手を組んで力比べをする。お互いのパワーはほぼ拮抗しているように見えた。
しかしアーシアさんの『根性!』の一言で小猫ちゃんの小さな身体ははるか上空に吹き飛んでいった。それはものすごい勢いでかっ飛んでいった。お星様になるんじゃないかと不安になったほどだ。
「……スカイダイビングって怖いんですね」
パニックになって悪魔の羽で空を飛ぶ事すら忘れていた小猫ちゃんは上空からの自由落下の恐怖を存分に味わったらしい。地面にちょっとしたクレーターをつくって高所恐怖症になりかけていた。
小猫ちゃん、君の体験したのはたぶん別のものだと思うよ?
「速さだけが僕のすべてじゃないって事を見せてあげるよ」
そう宣言した木場は『
どうやら多種多様な魔剣を生み出す神器らしい。剣技に優れた『騎士』である木場にぴったりな神器だ。
一振りすれば炎が噴き出し、氷のつぶてが飛び、風の刃が襲いかかる。木場の速度と剣技をもって縦横無尽に数多の魔剣を操るその姿はさすがにすごかった。
しかしアーシアさんはさらに上を行く。
木場がさまざまな魔剣を生み出して斬りかかるも『それは残像です』とすべてかわされ、とんでもない超スピードにいいように翻弄されたあげくにぶん殴られて終わった。
「ははっ、アーシアさんは本当に強いね。うん、本当に強いね……むしろ僕が弱すぎるのかな……こんなんじゃ先輩失格だよね。こんな弱い男に先輩面されても迷惑だよね」
もはや人生に絶望した目で木場が自虐モードに入った。
なんと声をかけたらいいのだろう? 同じ男として気持ちは理解出来る。だが俺にはなんと声をかけたらいいのかわからない……下手に刺激したら泣きそうだ。
それはそうとアーシアさん。実は身代わりの術とかも使えたりしない? 実は本当に忍者だと言われても信じられそうだけど。というか普通に分身していなかった? あれは残像で分身じゃない? へぇ、そうなんだ……。
「これは予想以上ですわね。さすがに私でも手こずるかもしれません」
もう最後の望みは朱乃さんしかいない。
部長によれば朱乃さんの実力は上級悪魔レベルらしい。木場や小猫ちゃんも実はかなりの実力者で実力的には中級悪魔になっていてもおかしくないのだとか。
実は部長の修行のおかげでグレモリー眷属はハイスペックな少数精鋭部隊らしい。
その中でも頭一つ飛び抜けた眷属最強が朱乃さんだ。もちろん部長は例外だが。
神器で底上げしてやっとの俺と違って素のスペックで上級悪魔レベル。俺が時間をかけてようやく振るえる力を平気な顔で常時ぶん回すのが朱乃さんだ。
まだ実績が足りないので下級悪魔扱いだが実力ではそこらの上級悪魔にけして劣らないという我らが最強の『女王』だ。
……二人の戦いはもうものすごかった。
部長の結界のおかげで周囲に被害がないとはいえほとんど天災級の魔力のぶつかり合い。
魔力量ではアーシアさん、魔力の熟練では朱乃さん。ほぼ互角かと思われたのだが最後は身体能力の差とアーシアさんの個人スキル『気合いと根性』が勝負を決めた。
見た目『重いものなんて持ったこともありません』という雰囲気の美少女の放つ拳に魔力ごとブチ抜かれてぶっ飛ばされた朱乃さんは意気消沈してしまった。
「私はリアスの『女王』なのに……転生したての新人に負けるなんて……おまけに魔力量でも負けているし……私はリアスの『女王』なのに、『女王』なのに、『女王』なのに……」
陰鬱な空気を纏ってブツブツと自分の世界に閉じこもってしまった……大丈夫だろうか。
そのまま引きこもりそうだった朱乃さんだが翌日には普段の様子に戻っていた。どうやら部長が慰めたらしい。
心なしか上機嫌に見えた。いったいなにを言われたのだろう?
「さ、さすがに『王』ともなれば強いですね……!」
もはや眷属最強の名を得たに等しいアーシアさんでもさすがに部長相手は無理らしい。
一応模擬戦をしたが終始部長に遊ばれていた。
速さで攪乱すればさらなる速さで追いかけ回され、力で挑めば吹き飛ばされ、魔力をぶっ放しても逆に砲撃に飲み込まれてアーシアさんは撃沈された。
……アーシアさんの『気合いと根性』をも軽々吹き飛ばす部長のパワーがスゴイです。
まさに能力値的に大人と子供の差があったと思う。
つまり俺たちではどうあがいても部長には勝てない事が実証されたわけだ。俺たちより強いアーシアさん。そのアーシアさんを子供扱いする部長。
結果、部長最強の図式が完成した。わかっていたけど目の前で実証されるとさすが我が『王』と素直に感心する。
最強漢女は伊達じゃない。上級悪魔レベルの朱乃さんと互角に戦い、そして勝ってしまったアーシアさんを子供扱いする部長。本気出せば最強レベルである最上級悪魔も殺せると言っていたが、この人ならホントに出来るんだろうなと信じられる。
「なかなかいい運動になったわ。将来が楽しみね。いつか最上級悪魔になったあなたと戦うのが楽しみだわ」
と部長は再び猛獣のような笑顔で将来倒すべき敵にアーシアをロックオンしていた。
逃げてアーシア! ……いやアーシアさんなら大丈夫か?
本当に部長スゴイ。しかもあれでかなり手加減してそうだし。
威圧感も出していなかったし、口調も漢女なままだった。
全力を出すなら『王』として戦いそうだもんな『強敵にはそれにふさわしい敬意を払うのが『王』というものだろう』とか言いそう。
あの『王様モード』での全力戦闘か。怖いもの見たさでちょっと見てみたい気がする。そんな化け物なんて滅多にいないだろうけど。
そういえば初めて部長の漢女口調を聞いたときのアーシアは実に妙な表情をしていた。
それでも特になにも言わずにすぐに笑顔で流す精神力がすごい。
後で「部長は正真正銘の女性だぞ」と教えたら「そうですか……それはさすがにわかりませんでした」とちょっと驚いていた。普通に女装趣味の漢と思っていたらしい。
俺は普段の部長を『漢女モード』全力状態の王様オーラを纏った状態を『王様モード』と呼称することを木場と小猫ちゃんに提案して絶賛された。
まさに言い得て妙だと二人とも納得してくれたが、朱乃さんには言っていない。たぶん冷たく一睨みされて終わりそうだと思うのは偏見だろうか? 以前よりは友好的に接してくれるようになったが、やはり少し壁を感じる。
「副部長は部長への忠誠心では眷属一だから、こういう冗談は好まないだろうね」
木場は朱乃さんを『忠誠心の高すぎる人』と評価していた。
「部長への忠誠心がすごいから、部長に批判的だったり足を引っ張ったりすると怒るけど。ちゃんと役に立つところを見せればきちんと評価してくれる人だよ」
ああ、確かにそんな感じな気もする。あの人は基本的にいつも部長のそばにいるし。
あの漢女のそばに常にいられるって寛容な精神の持ち主か特殊な趣味な人か、さもなければ忠誠心が突き抜けていないと無理だと思う。
それに俺は最初部長に対する態度が悪かったしなぁ。あの一件以来『王』として認めているつもりだけど。
本当に『王』ならまったく別なんだけどな……だけど部長は基本非常時にしか『王様モード』にならない。それが部長の望みだから仕方がないけど。
かくして元シスターなアーシアは特に違和感がないどころかあっという間に眷属でも最強レベルの実力者としてグレモリー眷属内で地歩を固めた。
現在アーシアは俺の家に居候している。
部長はアーシアの住む住居を用意してくれると言ってくれたのだが、彼女はそこまでお世話になれないと固辞した。
結果、妥協して眷属の誰かの家に居候することになったのだが、何故か俺の所へ来た。
普通は同性の所へ行かないだろうか? 理由を聞いたら『友達ですから』と理由になっているのか、なっていないのかわからない返事が返ってきた。
もしかしたらアーシアにとってオカルト研究部の仲間はまだ一緒に住むには気心が知れていないのかもしれない。そう思えば拒否も出来ないので俺は覚悟を決めて彼女を家へ連れて帰った。
家族にはある程度正直に話す事にした。
正直上手く嘘をつく自信がない。
だからアーシアの助言『神父様は仰いました。相手を煙に巻くには真実を適当にぼかしながら語るのが一番説得力があると』に従ってみたのだが……本当にアーシアを教育した神父はなんというか人としてスレスレ過ぎて聖職者的には普通にアウトな気がする。
……こんなことアーシアにはとても言えない。アーシアはその神父を本当に敬愛しているんだから。
語った内容はだいたいこんなものだ。
アーシアは教会でシスターとして育ったが何者かの策謀によって教会を追い出され、行くところがないこと。悩んでいた俺がアーシアに救われたこと。よって恩人たる彼女を俺が家まで連れてきたこと。
両親はアーシアを歓迎した。涙を流して「息子を改心させてくれてありがとう」と感謝して「いつまでも居ていい。いっそ娘にならないか?」とまで言う歓迎っぷりだ。
どうやら両親は俺の学校での生活態度を知っていたらしい。
その不出来な息子が急に生活態度を改めたと聞き、なにがあったのかと思えば俺が恩人としてアーシアを連れてきた。さては彼女のおかげで息子が真人間になったのかと勘違いして大歓迎したらしい。
まぁ、都合がいいから否定しなかったけどさ。そこまで俺はひどかったのか? ……ひどかったかもしれんな。親不孝な息子でごめん。おまけに人間じゃなくなっています。今は悪魔で、最強漢女な『王』の下僕です。
これもいつか話さないといけないだろうなぁ。
さらに部長はアーシアを学校に通えるようにもしてくれた。
おかげで俺は毎日アーシアと一緒に登校している。クラスも一緒だ。
美少女と一つ屋根の下で寝起きして、朝は一緒に登校。お昼も一緒にお弁当を食べて、部活でも一緒。ある意味リア充とはこのことかと勘違いしそうな生活だ。
「裏切り者に天誅を!」
「リア充滅すべし!」
元変態三人組。現変態コンビの松田と元浜からは殴りかかられた。俺が変態行為から足を洗ったため彼らの呼称も変わった。俺は『元』変態三人組で現在更正しようと努力しているのを温かく見守られているらしい。
この間廊下で偶然会った生徒会長に「あなたが最近自らの行いを改めたのは聞いています。その調子で努力すればいずれ皆が認めてくれるでしょう。がんばってください」と応援された。どうやら一部では俺の評価が上昇しているらしい。まだ胡乱な目を向けてくる女子も多いが。
しかし元親友に殺意を込めた視線で睨まれると辛いものがあるな……普通に殴り飛ばしたけど。それはそれ、これはこれだ。おまえらに大人しく殴られてやる理由はない。そもそも俺はリア充じゃない。せいぜいリア充もどきだ。
貴様らにはわかるまい! 漢女の迫力にちびりそうになりながらも忠誠を誓い。恩人の美少女の
……そして何故か小猫ちゃんの態度も微妙に変だ。
機嫌は直ったらしく口をきいてもらえるようになったが、アーシアと一緒に居るところを見かけるととたんに不機嫌そうになる。アーシアがあまり好きではないのだろうか? 出来れば仲間同士仲良くして欲しいのだけど。
わからないといえば二人が妙な会話をしたのを聞いたことがある。
「……イッセー先輩が落ち込んで泣いているときに私は頭を撫でて慰めてあげたことがあります」
「そうですか、それは素晴らしいことです。その優しさはあなたの美徳でしょう……そういえば私はイッセーさんに悩みを打ち明けられたことがありましたね」
小猫ちゃんが今にも食い殺しそうな目でアーシアを睨んでいてはらはらした。
「……あまり調子に乗らないでください。私はイッセー先輩の親友ですから」
「そうですか、大丈夫ですよ。私は今のところそういうつもりはないですから。どうぞいくらでもイッセーさんと仲良くしてください……早く親友以外になれたらいいですね?」
……どういう意味だったのだろう?
というか小猫ちゃん、俺が女の子に慰められながら泣いたなんて他で喋らないで!? アーシアもよくわからないけど微妙に小猫ちゃんを挑発してないか!? やめて、二人がケンカしたら小猫ちゃんが勝てるわけないじゃないか!?
その後二人で帰宅しているときにアーシアが妙なことを口にしてクスクス笑いだした。
「ふふっ……ああ言うのを初々しいというのでしょうね」
そしてふと考え込んだ表情で小首をかしげた。
「あの方はある意味見る目があるのか、それともダメ男好きなのか、どちらなのでしょう?」
すみません。俺にはその発言の意味がわかりません。もう少し説明してくれませんか?
「ふふっ、内緒です。これはきっと女の子同士の話ですから」
そう言って教えてくれなかった。
俺には女の子という生き物がどうにも理解出来ないと最近思う。美少女から美女まで幅広く好きだと公言していたけど、俺は本当に外見ばかり見て喜んでいただけだったんだなぁ。
具体的にはおっぱいとか。今でも好きだけどさ、おっぱい。
だけどおっぱいだけ見て無邪気に喜べなくなってきている自分にちょっと驚きだ。こういうのも成長なのだろうか?
というわけで今日も漢女にて『王』率いるグレモリー眷属、オカルト研究部は平常運転だ……平穏だ。たぶん平和だ。きっとたいした問題はないに違いない。
たとえ転生したてのアーシアさんが強すぎて木場や朱乃さんのプライドがポキッとイっちゃっても。
部長が将来喰い甲斐のある獲物を見る目でアーシアさんを見ていても。
小猫ちゃんがときどき猫のようにアーシアさんを威嚇していようとも。
俺が最近胃薬を愛飲するようになっていても。
アーシアはいつもニコニコと笑顔で楽しそうに暮らしている。
いい子なんだよ? 恩人だし性格もいいし、美少女だし。
だけど能力がかっ飛んでいるからとんでもない事をやりそうで怖いだけで。
そういえばこの子、普通に神様に祈れるんだよなぁ。
あまりに自然に祈っていたから試しに俺も祈ってみたよ。頭が割れるかと思ったね。これに平気な顔で耐えていると思うともう尊敬するしかない。
それを部長に教えたらありえないという顔をされたっけ。
「さすが私も認めた
普通はありえないと部長は心底呆れ果てていた。悪魔になっても信仰を貫くと宣言していたがどうせすぐに挫折して諦めると高をくくっていたらしい。
元『聖女』すごい。アーシアさんすごすぎ……本当に人間だったのか、もはや疑わしいレベルだ。
いい子なのになぁ。これでもう少し普通だったら小猫ちゃんに並ぶ癒しキャラになったのに。
やっぱり俺の癒やしは小猫ちゃんだけか、どうも最近アーシアを一方的に敵視しているのが困るけど。
アーシアさんの規格外っぷりを書いていると楽しかったです。
外国人って忍者、好きそうですよね?