ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです 作:へびひこ
木場はかつて復讐に身を焦がしたことがあると聞いた。
仲間を皆殺しにされてただ一人生き残り、その原因となった存在を恨み、それを実行した者を憎んだ。
部長に悪魔へと転生されることによって命を救われリアス・グレモリーの『騎士』となった。
復讐心を胸に『騎士』として実力を磨いているとき、ふと部長に声をかけられたらしい。
「ねぇ、祐斗。あなたいつまでそんな腐った性根をうさんくさい笑顔で隠し続けるつもり?」
木場の復讐心など部長にはお見通しであった。
その後、悪夢のような『修行』をつけられて木場はある真理に到達した。
「……生きているって素晴らしい」
あふれる涙で顔を濡らしながら自分が生きていることに歓喜したらしい。
実に共感できる言葉だ。部長の修行を受けた奴ならきっと全員納得する。
「僕は仲間の分まで精一杯生きよう……ゴミムシを見る目でぶち殺されたりしたらあの世で僕を守ってくれた仲間に合わせる顔がない……こうプチって感じで潰されたら、いくらなんでもあんまりだ……」
そうして木場は真実リアス・グレモリーの『騎士』として生きる事を誓った。
精一杯生きて、生き抜いていつか仲間たちに会いに行くのだ。
「みんなに助けられた僕は精一杯に生きたよ」
と胸を張って報告するために。
そんな木場がとてもイイ笑顔を浮かべて走っている。レーティングゲームの開始と共に俺と木場、小猫ちゃんは三人一組で主戦場になるだろうもっとも戦いやすい場所を目指していた。
いつ見ても背筋が寒くなるような笑みだ。内面から闘争への歓喜が溢れている。悪魔っぽいと言えばイメージ的に合うが……いつもの爽やかスマイルはどこへ消えた?
模擬戦をして気がついたのだが、どうやら木場はバトルジャンキーの素養があるらしい。戦闘になるとやけにテンションが上がるのだ。
血まみれになりながらも高笑いをカマして剣を振るう姿はものすごく怖かった。
「やりすぎないようにしろよ。木場」
「イッセー君こそ、君のあの技ならあっという間に相手を全滅させられるだろう?」
「おまえだって似たようなもんだろうが……なんだよあれは、実は
木場は意味深に笑う。
「まさか、偶然の一致だよ」
戦場は駒王学園に似せてつくられた特別フィールド。現実とまったく変わらない異空間を造る悪魔の技術ってスゴイ。
俺たちは旧校舎、ライザーさんは新校舎。オカルト研究部室と生徒会室をお互いの本陣に設定されていた。
「こんなところに籠もっていたら建物ごと吹き飛ばされて終わりじゃない? まったくグレイフィアも少しは考えて欲しいわ」
そう愚痴をこぼしながら部長は本陣を見晴らしがよく退避も迎撃もしやすい旧校舎屋上に移した。建物ごとぶっ飛ばすのって悪魔的に普通なのか? 部長だけじゃないの?
新校舎から旧校舎への侵攻ルートは主に二つ。
その二つのうち戦いやすい開けた場所を主戦場と想定して俺と木場、小猫ちゃんが校庭へ向かう。ここが二つの校舎を結ぶルートの要所だ。
それにここなら周囲を気にせず暴れられる。視界が開けていて障害物がないため不意打ちも受けにくい。それはこちらも奇襲など出来ないという意味であるが、元より俺たちは奇襲向きではない。
正面から殴り合うか、圧倒的火力で押し切るのが俺たちの戦闘スタイルなのだ。そのためには広い場所で敵と遭遇する方がいい。
もう一つのルート。体育館を経由した整地されていない見通しの悪い森にアーシアとギャスパーが向かった。
アーシアは火力でなぎ倒すのも得意だが、圧倒的身体能力で相手を翻弄するのも得意だ。障害物に身を隠しての不意打ちなんて実にアーシア好みの戦場だろう。はっきり言ってますますアーシアが忍者化している気がする。
あの忍者のようなアーシアに普通についていけるギャスパーは実は本当に強かったのだなと実感出来たよ。
勝利条件は『王』を倒すこと。
シンプルな条件だがこれだと俺たちに負けはない気がする。なにしろあの最強漢女だぞ、俺たちの『王』が負けるところなど想像も出来ない。
しかし向こうも『王』はライザー・フェニックス。部長の見立てでは上級悪魔でも上位の実力を持つ強敵。
しかもフェニックスは不死性が高く、高い再生能力を持つため首を刎ねても死なないらしい。倒すためには再生能力を上回る大規模攻撃をぶちかますか、再生能力が尽きるまで削り尽くす。主にこの二つだ。
あちらも不死身と誇るフェニックスがそう簡単に負けるとは思っていないだろう。おまけにもう一人ライザーさんの妹が眷属として参加している。不死身のフェニックスが二人、しかも妹の方も上級悪魔レベルの実力者。そうそう負ける気はないだろう。
そして俺たちはついにぶつかりあう。
「さあ、未来をかけた戦争を始めましょう?」
そう部長は笑っていたらしい。本当に楽しそうに。
「イッセー君、頼む! 確実に数を減らす!」
「わかってる!」
目の前に居るのはフェニックスの妹さん率いる五人。少なすぎる。これはアーシアの方に大半は向かったな。
冥福を祈ることしか俺には出来ない。素直にこっちに来ればいいものを……。
『赤龍帝の籠手』はすでに発動状態。倍加する時間は十分にあった。
そして修行によって得た力の一つに『力の譲渡』がある。
基本的な使い方は倍加した力を他人に渡し、仲間の戦闘力を上げるという能力。おかげで俺はサポートキャラもこなせるようになった。
「いくぜ、ドライグ!」
『Transfer』
新しく手に入れた神器の力『
俺が後方で倍加し、その力を二人に譲渡する。それを受けてパワーアップした二人が暴れ回る。
俺たちの基本戦術だ。
そして先陣をきるのが我らが『騎士』の役目だ。
「さあ、覚悟は出来ているかい? ちょっと痛いと思うけど、がんばって耐えてくれよ? いきなり全滅させたら僕が二人に恨まれるからね!」
木場の周囲に数十本の魔剣が出現する。その数は百に迫るほど。
空中で切っ先を敵に向けて整然と整列する様はまさに剣の軍勢だ。今の木場にかかれば神器を使ってこの程度の数の魔剣をつくることも、魔力で意のままに操ることも容易だ。
正直俺の倍加ってあまり必要なかった気がする。十分オーバーキルだろう。その数の魔剣は。
信じられるか? これで余裕綽々に手加減しているんだぜ?
「さあ、蹂躙せよ! 我が『
唖然とするライザー眷属五人に向けて数十本の剣が切っ先をそろえて突撃する兵隊のように突進した。
「おのれ! 貴様それでも騎士か!? 騎士ならば正々堂々剣を振るえ!」
相手の罵声に木場は愉快そうに笑う。
「はっはっは! ああ、僕も以前はそう思っていたさ。けどね? ある人が教えてくれたんだよ。『武器が剣だから遠距離攻撃が出来ない? だったら剣を投げればいいじゃないですか』とね! そして僕はこの技を身につけた。僕の命令に従い敵を駆逐する剣の軍勢『千の剣軍』をね!」
敵の『騎士』と思わしき女性が盾となり、自ら剣を振るって後方の仲間をかばっている。
しかし『千の剣軍』の恐ろしいところは一回防げばそれで終わりなどという生やさしいものではないということだ。
まったくタイムラグもなしにすぐさま第二波、第三波の剣軍がつくられ突撃する。
息をつかせることもない連続攻撃こそがこの技の真骨頂だ。
次第に『騎士』の剣をもってしても討ち漏らしが出始め後方の味方に当たる。
それを魔力で防御しているが、飛んでくるのは木場がつくった魔剣だ。本物の魔剣よりは劣るらしいがそれでもただの剣とは破壊力が違う。
魔力の防御さえ突破され、次第に傷を負っていくライザー眷属たち。まだ防御を完全に抜かれていないからかすり傷程度だが、このままなら押し切られるだろう。
「……俺たちいらないなぁ」
「……まったくですね」
俺と小猫ちゃんがちょっと気の抜けたような顔をしても仕方がないと思う。思った以上に相手が弱い。あの中で俺たちとまともに戦えるのは先頭に立つ『騎士』とフェニックスの妹さんだけだろう。
その『騎士』でさえ木場の剣軍の前に手も足も出ない。フェニックスの妹さんは負傷しても即座に炎と共に再生しているので実質ダメージなしだ。さすが不死身のフェニックスだな。
「あっ! きゃぁああああ!!」
「
およそ戦場に似つかわしくない古風な和服……十二単ってやつか? それを着た少女の胸に木場の魔剣が突き刺さった。
周囲が一瞬動揺し、木場がその隙を見逃すはずもなく。追い打ちとばかりにますます剣軍を突撃させあっという間に美南風と呼ばれた少女は八本もの魔剣に串刺しにされた。
「……す、みません。ま……まったくお役に立てませんでし、た……」
血を吐きながらもそう悔恨の言葉を残し光に包まれ戦場から消える。
『ライザー・フェニックス様の『僧侶』一名。
あのメイドさんのアナウンスが流れる。あのメイドさんは今回のレーティングゲームの審判兼実況らしい。
「おのれぇええええええええ!!」
『騎士』が絶叫し、木場の剣軍を自身の剣で吹き飛ばしながら木場に迫る。
「騎士なら騎士らしく戦え! この卑怯者が!」
「はっはっは、君はなにを言っている? 僕は正々堂々戦っているよ。こうして君の目の前に立って技を振るっている。それに手も足も出ないのは君たちが弱いからだろう?」
肩をすくめて笑う。見下したような視線がすごい……実はそっちが本性とか言わないよな? おまえはいいヤツだよな? 木場。俺は信じている。信じているぞ……!
「剣を振るうことも出来ない卑怯者が! この『騎士』カーラマインが斬り捨ててくれる!」
「それは勘違いだよ。僕は別に剣を握って戦えないわけじゃない」
剣軍を突破してついに木場の目前に接近した『騎士』カーラマインの剣を木場が手に出現させた魔剣で軽々と受け止める。
「さて、一騎打ちをご所望かな? まぁ一匹始末したし、ダメージも与えた。最低限の働きはしたと考えてもいいかい? もしかまわないなら少し遊ぼうと思うのだけど」
「好きにしろ、意外に数も少なかったしな。あとは俺たちでやる」
「……任せてください」
木場がにやりと笑った。なんというか普段の爽やかさが欠片もない邪悪な笑みだ。
「仲間の許可がおりた。一騎打ちに応じよう。一匹、それもあきらかな雑魚だけしか始末できなかったのは残念だけど、たとえ一匹でも戦果は戦果だしね。ほら、駒に貴賤はないって言うだろう? それがたとえどんな役立たずの雑魚であっても」
「その汚らわしい口で私の仲間を! 美南風を侮辱するなぁっ!!」
……ホントに性格悪いな? 実はこの機会にストレス発散しているんじゃないだろうな?
いや、やりたいことは理解出来るぞ? たぶん挑発して冷静さを失わせたいんだろう。
普通にこいつらが連携して戦ったらそれなりに手こずりそうだからな。特にフェニックスの妹と『騎士』を中核に連携されるとめんどくさそうだ。この二人はおそらく上級悪魔クラス。あと二人、退場した一人も中級悪魔クラスだろう。
地力で劣る相手であっても隠し球や切り札次第では負ける事もある。
その点では『騎士』が単身突出して木場が引き受けるのはありがたい展開だ。敵の上級悪魔クラス二人が組んで戦うことはこれでなくなったのだから。
「あなたたちは自分たちが有利と思っているのでしょうが、すぐに思い違いに気がつくでしょう」
フェニックスの妹さんがそう戦意に満ちた目で俺たちを見つめる。
「なぜこんな少人数で私たちが来たのか、わからないほど愚鈍ではないでしょう?」
「おおかた大部分は別ルートで奇襲だろ?」
「ええ、勝つのは私たちです。迂回した十人の戦力を元より数が少なく主力と思われるあなたたち三人を欠いた状態で迎え撃てると思いますの?」
俺はちょっと困った。
頬をポリポリかいて小猫ちゃんを見る。小猫ちゃんは心底呆れた風に大袈裟にため息をついて肩をすくめて見せた。
その様子にどうもプライドの高いお嬢様キャラっぽいフェニックスの妹さんは苛立つ。
「……なにをおっしゃりたいのです?」
「『王』のそばにいる『女王』と別ルートを守る『僧侶』は俺たちの中で最強の二人だ。あの二人を抜く事なんて無理だと思うぞ?」
おまけに運良く二人を抜いた先に待っているのは最強の『王』だ。まず無理だろ。この布陣を破るのにその程度の戦力じゃ。
「確かに『雷の巫女』と『僧侶』は上級悪魔クラスと聞いていますが、数の上でこちらが圧倒的に……」
あの二人に多少の数の優位なんて意味がないだろ。殲滅されるか消し飛ばされるか、どちらにせよ最低限あの二人の攻撃を避けるか耐えられる能力がないと的にしかならない。
彼女の言葉をさえぎってアナウンスが流れる。
『ライザー・フェニックス様の『兵士』七名。戦闘不能』
ああ、これはたぶん一瞬で殲滅されたな……たぶん残りも瀕死だろう。
「アーシアだな」
「……あの人でしょうね」
フェニックスのお嬢様は顔色を失っている。七名の戦闘不能が一度にアナウンスされたという事はほぼ一瞬で七名が倒されたという事なのだ。
中級悪魔クラスを一瞬で七名。
それはびびるよなぁ……。
「……どういうことです? 事前に得た情報とは実力が違いすぎる……まさか実力を隠していた?」
いえ、その後の十日間で地獄を見せられて必死に強くなっただけです。
「それでも、それでも私たちは負けられません! お兄様の、我らが『王』のために!」
「せめて私たちがこいつらを倒してリアス・グレモリーに傷の一つもつけてやりましょう!」
「ライザー様が少しでも有利に戦えるように!」
なんか向こうは盛り上がっているなぁ。
「なあ、小猫ちゃん」
「なんですかイッセー先輩」
言ってはいけないような気もするが先ほどの木場の発言といい、目の前で闘志を燃やすフェニックス眷属といい。
「なんか俺たち、悪役っぽくないか?」
「……きっと悪の大魔王の配下ですね。私たちは」
邪悪な大魔王リアス・グレモリーを倒すために立ち上がった勇者ライザー・フェニックスとその仲間たち。
その前に立ちふさがる大魔王の側近たち。
勇者の仲間たちははたして強敵である大魔王の側近を倒せるのか?
そんなナレーションが聞こえてきそうだ。
「なんか微妙なデビュー戦な気がしてきたなぁ……」
「なんだかイメージが悪そうです」
それでも遠慮なく勝ちに行くつもりだけどね!
恨むなら恨め、特にライザーさん。あなたには同情しますが、それはそれ、これはこれです。全力で倒しに行きますので覚悟してください。
あの漢女と婚約か……ある意味、本当に同情するけど。悪いけどこれって戦争なんだよね。『王』の命令だし。
あとで愚痴ぐらいなら聞いてあげますから……勘弁してくださいね。
ヘルシングの少佐の演説動画を見てテンション上げて書いたのだけど。
そのせいか木場くんが壊れました。
正々堂々とした騎士なんていなかった。そこにいるのはとても良い笑顔で敵を駆逐する木場君だけだ。
きっとよそでさんざんやっているネタだろうと思うけど、やはり魔剣を無尽蔵に作れるなら飛ばしたいですよ。金ぴかの英雄王や赤い無名の正義の味方くずれみたいに。
うちの木場くんは復讐心がへし折れています。
『エクスカリバー見かけたら一本ぐらいへし折ってみたいかな?』程度の認識です。