ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです   作:へびひこ

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第十五話 最強の名を冠する仲間たち。

 あとで聞いた話になるのだが、アーシアは今回のレーティングゲームにあまり乗り気ではなかったらしい。

 

「婚約のような将来の重要なことを戦いで決めるというのはどうなのでしょう?」

 

 そういうことはきちんと話し合えとアーシアは不満をこぼした。

 

「それに戦いをゲームにするというのもちょっと……ゲームをするならもっと普通に平和的な競争をすればいいですし、戦うならばもっと真剣になるべきです」

 

 どうやら元聖女は悪魔のレーティングゲーム制度そのものが気に入らないらしい。

 

 殺しは原則禁止。レーティングゲームのシステムのおかげでよほどのことがない限り死なない。

 そんな戦いがあるか、と元聖女はちょっとお怒りだった。

 

「神父様は仰いました『戦いとは自分が譲れないモノ、貫きたいモノの為に命を賭けて相手の命を奪う行為だ』と」

 

 だからこれから戦う自分たちは負けたら死ぬくらいの覚悟は当然するべきなのだと。

 そして相手も負けたら殺される覚悟をしていて当たり前だと。

 

「殺さずに相手を無力化するのは『戦い』ではなく訓練でしょう? ああ、だから『ゲーム』なのでしょうか?」

 

 悪魔の風習に口を挟めるような立場ではありませんが少し不満です。

 

 そうアーシアは言っていた。

 アーシアにとって戦いとはきっとそういうものなのだ。守るべき人々を守り、譲れない信念を、信仰を貫いて人間の敵を殺す。

 

 そう敬愛する神父様の教えを受けてきたアーシアにとって『では戦いで白黒決めましょう。殺し合いはナシで』というのは不満しか感じない話だろう。

 

 なぜもっと話し合わないのか、なぜ戦うのなら命を賭けて戦わないのか。

 

 そもそもアーシアが武装したのも『手加減』するためだ。

 

 アーシアがもし神器を『禁手化』させれば、相手はまず死ぬ。レーティングゲームの安全装置がどれほど強力なのかはわからないが、そう思えるだけの威力を誇る武器となるのだ。そしてそれを振るうのが規格外と評されるアーシアならばライザー眷属全員の息の根を止めることさえ出来るだろう。

 

 それ故の武装。だけどそれをすべて聖なる武器にしたのはアーシアなりのささやかな反骨心だろう。

 自分と戦うのならば聖なる武器に肉をえぐられるぐらいは覚悟しろと。

 

 それならそもそも悪魔に転生したことすら不満ではないのか?

 そう思って尋ねた。

 

「ええ、もちろん不満ですし主への罪悪感もあります。でもそれでもあの時私は生きたかった。生きてこの目で行く末を見届けたいと強く望んでしまった。そして悪魔の誘惑に負けた……要は私が未熟なだけです」

 

 だから悪魔になっても信仰は貫くのだと。

 

 仮に悪魔の先兵となり主を殺せと言われれば自分はおそらくなにも出来ないだろう。はぐれ悪魔ならば狩ろう、堕天使なら殺そう。しかし正しく信仰に生きるかつての仲間や天使がたが相手なら自分はきっと迷い悩むだろう。未熟であるが故にと苦しそうに語った。

 

 そんなアーシアだが命を救ってくれた部長に対しては恩を感じてもいる。その人物も評価している。だからその命令に従い。戦いと言えるのかと疑問を持ちつつも突き進むのだ。

 

 

 森を疾風のように駆け抜けるアーシアは悪魔の気配を感じてその進撃をゆっくりとした歩みに変えた。

 

「あ、あの、アーシア先輩? もしかして真っ正面から行く気ですかぁ?」

「最初はご挨拶ぐらいしようかなと思いまして、どうせ『ゲーム』ですし」

 

 せっかく不意打ち奇襲がやり放題な戦場なのにと思ったが、その言葉に含まれた険にギャスパーはなにも言わないことにした。知らないなりに彼女がこの『ゲーム』を好んでいないことを感じたらしい。

 

 やがてお互いの姿を視認したとき、目の前には九人もの悪魔がいた。

 

「ほう、正面から二人だけか。舐められたことを憤るべきか、その度胸を評価するべきか。悩むところだな」

 

 リーダー格らしい女性悪魔が大剣を構えると他の八人もそれぞれ戦闘態勢を取る。

 

「初めまして、私はアーシア・アルジェント。リアス・グレモリーの『僧侶』です」

「ギャ、ギャスパー・ヴラディといいます。『僧侶』ですぅ」

 

 大剣を構えた女性悪魔が表情を綻ばせる。

 

「まさか尋常に名乗りを上げてくるとは思わなかった。代表して私が名乗ろう。私はシーリス。ライザー様の『騎士』だ。後ろにいるのは『兵士』全員、今からおまえを討ち取り、リアス・グレモリーに一太刀入れに行くところだ」

 

 アーシアは彼女の瞳をじっくりと見ると少しだけ微笑んだ。

 

「いい目をなされています。ライザーさんはきっと良い主なのでしょうね」

「……ああ、最高の主だ」

 

 敵に褒め称えられるという状況に相手の女性悪魔シーリスは少々困惑したようだった。

 

「私の師である神父様は仰いました『主とは無限の愛である。世界を愛し、人を愛し、動物を愛し、草木を愛する。その愛に格差など存在せず主の前に等しく平等である』と」

「……貴様、悪魔のくせに神の愛を語るのか?」

 

 不快げに顔を歪める相手などアーシアは気にもしなかった。見ているギャスパーがはらはらするほど自然体で語り続けた。

 

「神父様は仰いました『信徒たちは神の愛を感じ、それに感謝して生きる者たちである。異教徒とは正しい神の教えをまだ知らぬ哀れな存在である。無神論者とは神の愛を感じることさえ出来ない幼子である。みな主の愛を受けていることに変わりはなくその事を教え導くのが我々主に仕える者の使命である』と」

「もうやめろ。悪魔に神の教えを説いてなにをするつもりだ」

 

 苛立った相手の言葉など聞こえもしないという笑顔でアーシアは語る。まるで教会に集まった信徒たちに説教をする聖職者の姿だったとギャスパーがあとで教えてくれた。

 

「神父様は仰いました『悪魔とは神の愛を拒否した者たちであると。故に神の愛は彼らに届かず彼らは神を憎み刃を向け、人々を堕落させようとその耳元で囁き続ける。それは憎むべき怨敵であり、主の愛のために排除すべき敵である』と」

「……貴様、まさか堕ちた聖職者か? 堕ちてなお信仰にしがみついているのか? 哀れな。悪魔になった身で信仰などなんの役に立つ」

 

 哀れむような視線もアーシアにはまるで意味がなかった。ただアーシアは語る。

 

「神父様は仰いました『我々は悪魔だから彼らを討つのではない。彼らが無垢なる人々に害なす存在であるから討つのだ。なぜなら主の愛は無限である。いつか悪魔の元へすら主の愛は届くであろう。我々はもし彼らが主へ手を伸ばし、理解し、救いを求め、その愛を感じることが出来るのならば彼らの手すら取る未来もあるのかもしれない』と」

「狂人……いや、狂信者のたぐいか? それが原因で堕ちたか?」

 

 哀れむような、見下すような嘲笑にすら耳を貸さずアーシアは微笑んだ。

 

「私は悪魔となり、主への祈りを捧げながら実感しました。悪魔にすら主の愛は届く。けれど悪魔の側がまだその愛を受け入れることが出来ないだけだと」

「もう黙れ、狂信者。少しでも貴様を尊敬できる敵と見誤った私の目が曇っていた。貴様はさっさと狂信を抱いて死ね」

 

 シーリスと名乗った『騎士』が大剣を構えて走りだす。背後の『兵士』たちも動き出した。

 アーシアはその光景を見て漆黒のコートから武器を取りだした。

 

「いつの日か、悪魔にも主の愛が届くことを、悪魔がそれを受け入れる事を私は主に祈り続けます。そして私自身もそれを率先して行いましょう」

 

 取り出した刀身のない黒い剣の柄。それを指の間に挟むように両手に数本持つ。

 その存在から聖なるオーラを感じ取ってライザー眷属たちは仰天した。その足が自然に止まる。むしろ足がすくんだのだろう。

 

「ば、馬鹿な……悪魔が聖なる武器を使うだと!?」

「いまだ幼く主の愛を理解しえない哀れな悪魔たちに慈悲を与えたまえ。主の無限の愛の前には皆等しく平等であるという事を理解させたまえ。私は喜んでその先兵となりましょう」

 

 アーシアは笑った。

 

 それを見たギャスパーが凍り付くような笑顔だったらしい。

 ギャスパー曰く「ほ、本気でちびるかと思いましたぁ。というか一緒くたに僕も殺されると本気で怖かったですぅ……あの人って実は狂信者なんですか? アレを写真に撮ったらたぶんタイトルは『好戦的な狂信者の笑み』だと思います。間違いないですぅ」そう震えていた。

 

 アーシアの手に握られた無数の黒い剣の柄から甲高い金属音を響かせて白銀の刀身が現れる。ますます強くなる聖なるオーラに悪魔たちが身体をすくませる。

 

 一瞬だったそうだ。

 

 ギャスパーの目がかろうじてとらえた光景はまさに鎧袖一触だったらしい。

 一瞬の早業で次々と投擲される白銀の刃。その聖なる刃が空気を斬り裂き、音すら置き去りにしそうな速度で目の前の悪魔たちを貫きその肉をえぐっていく。回避も防御も出来はしない。これならまだ銃弾をかわせと言われた方がマシだろうと。

 

 一人あたり二本の剣に貫かれ、それだけでも致命傷に近いものをさらに聖なるオーラで身を焼かれ苦悶の声と共に七名の悪魔が退場する。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』七名。戦闘不能』

 

 そのアナウンスと目の前の光景に思わずギャスパーは全力でアーシアのそばから逃げ出したらしい。

 本気で次は自分も殺られると恐怖に駆られたそうだ。

 

「きょ、狂信者……いや狂人め! 貴様は狂っている! 貴様は異常だ! 貴様は……バケモノだっ!」

 

 なんとか即時戦闘不能にならずに耐えた『騎士』と運良く手に持った混に剣があたり一本が逸れ、一本が突き刺さっただけで耐えられた『兵士』が一人。

 

 九人もいた戦力が一瞬で全滅寸前。生き残った者も瀕死という状況に『騎士』シーリスは悲鳴をあげるように絶叫した。

 

 

 ……そこまで言うほどのことだろうか?

 

 悪魔が信仰を語り、いつか悪魔にも神の愛は届くと理想を語り、聖なる祝福を受けた武器を使いこなして悪魔を屠る……確かに罵声の一つも浴びせたくなるような理不尽かもしれない。よく考えてみれば気持ちはわかる気がする。

 

 悪魔は神など信仰しない。敵なのだから。

 悪魔に神の愛が届くなどと言う悪魔も聖職者もまずいない。不倶戴天の天敵同士なのだから。

 悪魔は聖なる祝福を受けた武器など使わない。いや使えない。触れただけで自身を焼きかねない武器など好んで使うものがいるはずもない。

 

 ましてや七人の悪魔。それもそこらの木っ端な下級悪魔ではない。将来を期待されるエリートであるライザー・フェニックスが自信を持って眷属として大事にする実力者たちだ。それがまるで手も足も出ずにたった一人の敵に敗退。

 生き残った二人も瀕死状態。それも偶然生き残ったに等しい。

 

 普通ありえないことのオンパレードだ。むしろ理不尽が円陣を組んで踊り狂っている。

 

 

「人間から見ればバケモノはあなたたちなのですが……ああ、もう私もそのお仲間でしたね。うっかりしていました」

 

 にっこりと微笑むアーシアに『騎士』は心底怯えていたらしい。もはや錯乱状態に近かった。

 ギャスパーから見てもその時のアーシアは恐怖でおかしくなるくらい怖かったとあとで俺に泣いてすがっていた。

 

 さらに言えばお手軽なお掃除感覚であっさり殲滅されたこともアーシアへの反感と憎悪をかき立てたかもしれない。馬鹿にされたと。

 

 これがもしいい勝負をした結果だったら、あるいはアーシアを非常識だと思いながらもその力量を認めたかもしれない。

 

 けれど現実にアーシアは笑顔を浮かべて圧倒的に数で勝る悪魔を一掃した。

 なんの苦労もない。この程度出来て当然だという顔で。

 

「私は狂信者ではありませんよ。私は正しく主の愛を理解し、その愛に感謝しているだけです。それは狂信ではありません、信仰と呼ぶのです」

 

 心外だと穏やかな表情で相手の間違いを正す元聖女。しかしその返礼はもはや狂気じみた絶叫だった。

 

 苦痛と絶望、屈辱と悔恨。さまざまな感情がない交ぜになった『騎士』はそれこそ狂人のように喉が裂けんばかりに叫ぶ。

 

「き、貴様は気が触れている、気が狂っている! 貴様は異常だ! この悪魔に堕ちた聖職者! この魔女が! 貴様の信仰など馬鹿げている! 誰が貴様を認めるものか! 貴様の言う神の愛などただの妄想だ! なにが神の愛だ! 妄想にすがる狂人が! 貴様の言う神の愛などクソ以下の役立たずだっ!」

 

 罵声というより、もはやそれは憎悪の凝り固まった呪詛だった。

 

 投擲された剣が身体をえぐるように貫き内臓を傷つけている。血が大量に流れ落ちて力が入らず。聖なるオーラが悪魔の身体を猛毒のように蝕む。

 

 気力を振り絞ってなんとか立っているような彼女はアーシアの敵になり得ない。剣を振るえるかどうかさえ怪しい。もはや彼女にとって目の前の敵を否定してやることしか反撃も出来ない。

 

 しかしその言葉を聞いた瞬間。アーシアの笑みが消えた。

 俺の知るアーシアなら自分がいかに罵倒されようと受け流してしまいそうだが、彼女は言ってはならないことを言った。まさに逆鱗に触れたのだ。

 

 それを目撃したギャスパーは恐怖のあまり本気でちびった。まるで表情をえぐりとったような無表情。そしてその瞳はまるで無価値な路上の小石にすら劣るものを見る無感動な瞳。

 

「……主よ。怒りのままに主の愛を疑う者へ、暴力を振るう私をお許し下さい」

 

 先ほどの攻撃がいかに手加減されたものであったのかがわかる一撃だった。

 ギャスパーですら目視できない速度で振るわれた拳は本来間合いの外にいるはずの『騎士』の腹に大穴を開けた。

 

「ガ、ガハッ……」

 

 悲鳴すらあげられず口から大量の血液が逆流して吐き出される。

 肉がなくなり、内臓も消し飛び、まるでそういう人体模型であるかのようにくり抜かれた腹。

 

 辺り一面に鮮血がほとばしり『騎士』はすでに白目を剥いて気を失っていた。

 

『ライザー・フェニックス様の『騎士』一名。戦闘不能」

 

 平坦な声で撃破を告げるアナウンスがひたすら悽惨な光景には場違いだった。

 

「主よ。私はまだ未熟者です……感情のままに暴力を振るうなど」

 

 アーシアは懺悔するように神に祈る。実際後悔していたらしい。信仰を、神の愛を理解しない悪魔に信仰と神の愛を説くはずの自分がそれを否定されたからと暴力をもって撃ち倒したのだ。

 自分でも自分の行動がショックだったとあとで聞いた。あれほど激情に駆られたことはないと。

 

「きっと自分でも無理だと思っていることを指摘されて逆上したのでしょう。私は本当に未熟者ですね」

 

 後日、そう笑っていた。

 

 

 瀕死状態ながら生き残った最後の一人が自らに突き刺さった剣を引き抜き、それを握りしめて走りだした。聖なるオーラに焼けただれる手のひらの苦痛すらものともせずに、アーシアから離れたギャスパーに向かって。

 

「せ、せめてこいつだけでも! こいつなら私だって!」

 

 ギャスパーは驚いたらしい。聖なる祝福を受けた剣を身に受け、瀕死のダメージを負いながらその剣を握りしめて特攻してくる。しかも自分に。

 

「この場合は普通アーシア先輩じゃないんですかぁ!?」

「一緒に死ねぇっ!!」

 

 本当に驚いたそうだ。なにしろすでに瀕死なのだ。大人しくリタイアすればいい。ルール上それが認められるのがレーティングゲームだ。

 

 しかもアーシアが強そうで勝てないからと自分に向かってくるとはと呆れたらしい。

 

 先ほどの再現のような一瞬。それだけで状況が劇的に変わった。

 

 ギャスパーに突進していた『兵士』の少女は足を止めてしまった。いや身体が動かなかった。そして目の前にいたはずの小柄な少女のような敵、戦闘力などなさそうな外見の敵は姿を消している。

 

 理解が追いつかずに呆然とした。

 

「……え? なんで身体が、う、動かないの? それに……敵は?」

 

 生き残りの『兵士』は動かなくなった自分の身体と目の前から消えた敵にきょとんとした。自分になにが起きたのかすら理解出来なかったのだろう。

 

「……イヤだなぁ、お姉さん。そんな簡単に見かけに騙されるようだときっと将来苦労すると思いますよぉ」

 

 生き残った『兵士』の少女の背後にいるギャスパーが血に濡れた右手を軽く振った。

 

 びちゃっと生々しい水音が響いてギャスパーの手から飛んだ肉片が地面に落ちる。赤黒い血まみれの肉片。かすかに衣服の布地も混じっている。

 

「神器すら必要じゃなかったです。この程度にすら反応できないなんて……本当に僕なんていらなかった気がしますぅ。ああ、血の匂いはやっぱり嫌い。早くお部屋に帰ってネットしたいですぅ」

「あ、あ、あぁ……あぁあああああああああああっ!!」

 

 自分の身体を見下ろした『兵士』の少女に映るのは片方の脇腹が無くなった自分の肉体。

 まるで無造作にえぐりとったように無惨に引き千切られ、赤い血液を溢れさせる肉と内臓、肋骨すら晒しているありえない自分の姿。

 

 狂ったような叫びをあげ、溢れ出る赤い血液で下半身を濡らしながら最後の『兵士』は光に包まれて消えた。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』一名。戦闘不能』

 

 無情なアナウンスが響き、それを耳にしたギャスパーはひそかに唇を吊り上げていたらしい。アーシアから聞いたが普段の気弱な少女のような可憐な姿はどこにもなく、まさに『悪魔』らしい凶悪さと好戦性を感じさせる笑顔だったと。

 

「正直、私はやはり未熟者だと痛感しました。可愛らしい方だと思ったのですがやはり悪魔であったのですね」

 

 アーシアがそう言うのならきっと相当物騒な笑顔だったのだろう。股間を濡らしていたのは少々情けなかったが。それもアーシアさんの怒りを見たのならむしろ同情する。

 

 ギャスパーは替えのパンツを常備しているか? 無ければ貸すぞ? 俺は常備することにしたからな! 返却はしなくていい。捨ててくれ。

 

 とにかく、アーシア、ギャスパー組の戦場は勝利に終わった。

 

 いろいろツッコミどころがあるが、はっきりわかったことはアーシアの信仰を馬鹿にするような真似は決してするべきではないと言うことだ。

 

 あとギャスパーも怒らせればたぶん怖い。今は『眷属最弱』扱いだが、それも戦力的に並べればたぶん一番下というだけだ。実際に戦えばかなり怖い相手だろう。無造作に女の子の脇腹を内臓ごとえぐりとるなんて真似俺には出来ない。

 

 そう言ったら小猫ちゃんや木場に胡乱な目で見られたが。

 なんだよ? 俺はそんなことはしないぞ? 少なくとも素手で内臓をえぐり出すような真似をしたことがないだろう?

 

「……イッセー先輩の技はさらにエグいです」

 

 小猫ちゃんにだけは言われたくない気がする。俺より凶悪な技を使うクセに。

 

 

 

 

 そしてたった一人残った別働隊であるライザーさんの『女王』はというと。

 

「朱乃、征け」

「はい、リアス。全力で殺りますわ」

 

 そういう会話のあと出撃した朱乃さんの迎撃をくらう羽目になった。

 

 どうやら正面から来たフェニックスのお嬢様率いる囮、さらに大規模の別働隊も囮にして戦力を引き出し、本命の『女王』が上空から襲撃する手はずだったらしい。

 

 数の少ない俺たちなら迎撃に戦力を取られて『王』の護衛など残す余裕はないだろうと考えたらしいが、残念なことにうちのアーシアさん一人でもオーバーキル気味だったので眷属最強クラスの朱乃さんを護衛に残す余裕があったのだ。

 

 上空から魔力をためて『王』に一撃入れようともくろんだ『女王』の前にほとんど音も気配もなく朱乃さんが姿を現した。

 

「な!? 『雷の巫女』……作戦が読まれましたか」

「というよりむしろ戦力の差がありすぎましたわね。我が『王』ならこの程度の奇襲など簡単に察知しますし」

 

 その言葉よりむしろ朱乃さんの姿にこそ敵の『女王』は驚愕した。

 

「あ、あなたその姿はいったい!?」

 

 片翼に悪魔の翼、もう片翼は烏を思わせる漆黒の翼。

 全身に纏うのは悪魔が忌み嫌う弱点である光を束ねた雷光。全身を鎧のように雷光が駆け巡っている。まるで全身に雷を走らせているような姿だ。

 

 全力を出した朱乃さんの姿に『女王』は度肝を抜かれた。

 

「私の父は堕天使バラキエル。母は人間の姫島朱璃。私は堕天使と人間のハーフにしてリアス・グレモリーの手で悪魔に転生を果たした存在。父が誇った『雷光』を受け継ぎし娘ですわ」

「まさか……堕天使幹部の娘が悪魔になっているなんて」

「私も以前はこの力が嫌いでしたし、あまり表沙汰にするのも問題があると普段は隠していました。ですが自分の力も受け入れられない腑抜けにリアス・グレモリーの『女王』はつとまらないと根性を叩き直され、今回は『全力を出せ』と命を受けたのでこの姿をさらしておりますわ」

 

 たぶん今回の実績を使って朱乃さんの存在を認めさせるつもりなのだろうか?

 

 あっ!? 俺、朱乃さんの前で堕天使が嫌いとか言っちゃったよ。

 きっと低い好感度がその発言でさらに下がっただろうなぁ……そういえば部長が面白がって朱乃さんに話を振っていたっけ、部長も教えてくれればいいのに。そうすればすぐに謝れたのになぁ。

 

「さて『爆弾女王(ボムクィーン)』あまり時間をかけるのも面倒ですので疾く退場なさってくださいな」

「なめるな!」

 

 敵の『女王』の炎が朱乃さんに襲いかかるが朱乃さんが手をかざすだけでその炎は朱乃さんの手のひらでとどまり、あっという間に消えてしまう。

 

「……訂正しますわ。あなたに『爆弾女王(ボムクィーン)』の名前はいささか荷が重いようです。私たちの仲間には文字通り『爆弾』を縦横無尽に操る人物がおりますが、彼の足下にも及んでいませんわ。彼の爆弾ならそもそも受け止めるなど論外。回避すら困難。ひたすら致命傷を避けて防御するしかない凶悪っぷりですの。彼こそが『爆弾』の名を冠するにふさわしい実力者でしょう。あなた程度では不足ですわ」

 

 その言葉に敵の女王が驚愕する……でもこれって俺のことだよな? 爆弾っぽい技を使う眷属は、俺の知る限りでは俺しかいない。そこまで評価されていたのか? 俺は。

 

「な……なんですって? そんな実力者がいるなど聞いていない……はったりですわ!」

「すぐにわかりますわ。どうも彼はフェニックスと戦いたがっているようですし、相手が不死性を誇る相手なら十分に実力を発揮出来るでしょう。なにしろ簡単には死なないのですから彼も遠慮無く技をふるえるでしょう」

 

 朱乃さんは艶然と微笑んだ。遠目に観戦している『王』ですら見とれる美しさだったそうだ。

 

「では、さようなら……試合後にまたお目にかかりましょう。リアスの婚約者の『女王』なのですから今後とも仲良くやっていきましょう?」

「な、舐めるなぁぁああああっ!!」

 

 激怒して特大の炎を撃ちだす『女王』に我らが『女王』は無造作に片手を向けた。

 

「がんばって耐えてくださいませ。死なれたら面倒ですから」

 

 悪魔一人を焼き殺すにはあまりに規模の大きい炎の弾丸。あれほど巨大な魔力を即座に撃てるって結構な実力者だったんだなと感心する。

 

 しかしそれも朱乃さんから放たれた雷光と比べれば花火みたいなもんだった。

 

 まさにいつか見た『王』の砲撃の再現。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 敵の『女王』が驚愕する。おそらく事前情報と違いすぎると驚いたのだろう。だがあいにく俺たちは『十日間の修行』でとんでもなくレベルアップしている。

 

 朱乃さんも例外ではない。

 

 朱乃さんが放った雷光は雷と光が相乗して途方もない威力で炎を消し飛ばし、一瞬で敵の『女王』を飲み込んで空へ突き抜けていった。

 

『ライザー・フェニックス様の『女王』一名。戦闘不能』

 

 アナウンスが無感動な声で敵の撃破を伝える。

 

「ふふっ……これできっとリアスから褒めてもらえますわ。楽なお仕事でしたけど『女王』を討ったのですもの、きっとご褒美だって……ああ、美少女姿のリアスに罵られて殴りつけられ地べたに這いつくばったところを踏みにじられさらなる罵声を浴びせられる……想像しただけでイキそうですわ……」

 

 朱乃さんは頬を緩めて『王』の元へと帰って行った。

 

 

 

 

 すべてあとで聞いた話だし、戦闘記録も見たが。

 

 なんともひどいものだ。

 

 ほとんど戦いになっていない。というかまともに敵とも認識していないんじゃないか? うちの最強コンビは。

 

 かくしてライザーさんは予想外の戦力に阻まれて作戦が崩壊し、戦力の大半を失った。

 

「……これはもう諦めた方がいいんじゃないかな?」

 

 観戦していた魔王様ですらそう思ったらしい。

 




うちのアーシアさんがさらに壊れた。ギャスパーも危険人物に。
信仰心を持った悪魔、信仰心を持って戦う悪魔な聖職者を書こうとしたらこうなりました。

僕なりの戦う聖職者を書いたつもりです。

そして原作未読な僕は朱乃さんの全力状態は僕の妄想設定。
雷光を纏い。悪魔と堕天使の翼を解放する朱乃さんはかっこいいじゃないか!? と書きました。

通常モードからの変身シーンを入れようと思ったのですが、さすがにそれは没に。
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