ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです   作:へびひこ

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第二十話 ゲーム終了後に。

「負けた負けた! 完敗だ! ちくしょー!」

 

 ライザーさんはそう地団駄踏んで悔しがっていた。まさかあんな切り札があるとは思わなかったと。

 

 それを眷属の女性たちが慰めるべきかそっとしておくべきかとひそひそ相談している。

 

 試合後の顔合わせは意外なことに悪くない雰囲気だった。

 

 俺たちの通された広間はゆったりとした開放感ある部屋でこの大人数がくつろいで十分余裕のある数のソファーやら、テーブルの上には軽食やフルーツまである。メイドさんが壁際にひかえているからもしかしたら頼めば飲み物ももらえそうだ。

 

 レーティングゲームという『試合』とはいえ殺し合いに近い行為をして興奮気味だった精神が落ち着くのを感じる。

 

 ここには俺たちグレモリー眷属だけではなく、ライザーさんの眷属も勢揃いしている。

 かなりの重傷を負った人も多かったらしいが『フェニックスの涙』を惜しまず使って今は全快していた。

 

 血なども落として衣服も着替えているため、綺麗どころが並んでいるという印象だ。とてもあれほどの戦意をもって俺たちに立ち向かってきたとは思えないほど落ち着いている。

 

 あれほどの蹂躙劇を繰り広げたのだからさぞ恨まれているだろうと考えていたのだが、まったく恨み言も憎しみの視線すらなかった。

 

 むしろ『必ず強くなってみせるからその時は一勝負お願いしたい』などと申し込まれた。

 

 アーシアを罵倒したらしい『騎士』シーリスは負傷で頭に血が上っていたと無礼を謝罪していた。アーシアは笑顔で『気にしていません。それより傷はもういいのですか?』と和やかに会話を始めていた。

 

 木場など『次は剣で貴様と勝負がしたい』とカーラマインという『騎士』に申し込まれ『いつか貴方を倒します!』と魔剣で串刺しにした美南風(みはえ)という十二単の『僧侶』に啖呵を切られて困ったような顔をしていた。

 

 ギャスパーはダンボールをかぶって隅の方で大人しくしている。

 そうすると落ち着くらしい。どうもあの終盤の『王』の一撃がトラウマになったらしくずいぶん怯えていた。

 心底怯えているので引きずり出すのも可哀相だととりあえずそっとしておいている。

 そんなあいつにさっきから和服姿の『兵士』がちらちら視線をやっているが、話したいのだろうか?

 

 朱乃さんはユーベルーナという『女王』と魔力の効率的な運用とやらについて和やかに意見交換している。

 

 小猫ちゃんはいつもの木場のように壁に背を預けて立っている。同じような格好をしても木場はキザっぽいのに小猫ちゃんはどこか可愛らしく感じる。

 

 でも俺が近づくと顔を真っ赤にして逃げてしまう……なぜだ?

 

 

 それにしてもさっきまで殺し合いに近い戦いをしていたとは思えない光景だ。

 ちょっと不思議というか、まるで先ほどのことが夢かなにかだったのではないかという気さえしてくる。

 

「不思議ですか?」

「ああ、ちょっとな。恨まれて当然くらいに思ってた」

 

 もしかしたらシャワーも浴びたのかもしれない。すっかり身ぎれいになって真新しいドレスで飾り、髪も直したレイヴェルさんが口元を手で隠して笑った。

 

「これはレーティングゲームです。その遺恨を引きずるようでは悪魔などやっていられません。そんなことをすればそれこそ日常的に殺しあいが起きてしまいますわ」

 

 そういえば悪魔ってこんなゲームをいつもやっていたんだっけ。なら確かにいちいち恨むのも馬鹿らしいか、将来必ず倒してやるぐらいは思われているようだけど。

 

 ……俺はどうもやりすぎたっぽいけどな。落ち着いて考えるとさすがにあれはと思えてくる。

 

「ごめん。あれはやりすぎた。反省している」

「ふふっ、そうですわね。女性に対する優しさの欠片もなかったのは事実ですわね」

 

 俺が素直に頭を下げるとレイヴェルさんはおかしそうに笑った。

 

「でもあれがレーティングゲームです。普通の女性にやったというのならばまた別の評価をしたでしょうけど、私はフェニックスです。あれぐらい徹底的にダメージを与えなければ勝てないのですからもう気にはしておりませんわ」

 

 むしろ最初から全力を出してもらえなかった方が残念だと表情を曇らせた。

 

「わかってはいます。私では相手として不足だったのでしょう? 実際全力の貴方相手では明らかに実力が足りなかった。おまけにさらに強いお兄様がいる。私よりもお兄様と戦う事を考えて力を温存したかった貴方の気持ちも理解出来ますわ」

 

 俺としては確かにライザーさんと戦いたかった。あの戦いを見たら余計にそう思える。

 

「結局『王』に持っていかれたけどな……でもいつか戦ってみたいな」

「殿方ですわね。勇ましいこと……」

 

 なにやら意味ありげな視線で俺を見やる。その頬が微妙に赤いのは気のせいか? えっ? もしかしてフラグ? 力を認められたことで男として評価されたとか?

 

 ……ないない。ありえない。彼女は貴族のお嬢様だぞ。俺みたいなぽっと出の馬の骨なんて本気で気にかけるわけがない。

 

 

「リアス。君の心遣いには感謝する。だが俺は敗北した。敗者になった以上約束を反故にするつもりはない。今後は君の婚約者として恥ずかしくないように振る舞うつもりだ」

 

 ふと少し怒ったようなライザーさんの声が聞こえてきて俺たちはそちらへ視線を向けた。レイヴェルさんはその様子を一目見て困った顔をした。

 

「慈悲をかけてもらえたのでしょうが、お兄様のご気性では逆効果でしょうに」

 

 よくわからない。

 なにがあったんだ?

 

 

 中央のソファーで差し向かいに座りながら我らが『王』とライザーさんが話し合っている。

 

「貴方を侮辱する気はないわ。けど約束は『フェニックス家から破談を持ち出さない』よ。私から持ち出す分には問題はないわ」

 

 いつもの『漢女モード』の部長だ。あの聞き苦しいオカマ声にもずいぶん慣れた。

 今ではそれほど違和感を覚えない。おかげでゲロをこらえる回数もずいぶん減った。胃薬の回数も減り、喜ばしい? ……喜ばしいことだろう。人間の順応性は性能がいいな! いや俺は悪魔か。

 

 しかし俺の常識はこの漢女に出会う以前に比べれば木っ端微塵に吹き飛んでいるな。

 

 しかしあのゲームの最中ふと聞いたあの声はなんだったのだろう? もしかして幻聴だったのか?

 

「それが侮辱だ。いや、君が純粋に俺のことを案じてくれているのもわかる。望まぬ婚約を強いられる必要もないと考えてくれていることも嬉しい。だがフェニックスの男がゲームで敗北したなら受け入れるという約定をあっさり破っては面目が立たない」

 

 ライザーさんは少し気を落ち着けるように深く息をつき、メイドに「飲み物を」と命じた。あっ、やっぱり飲み物頼めるんだ。

 

 しかしライザーさんもすごいよな。約束したからには守る。そう断言する。

 俺だったら漢女にそう提案されたら、悩んだあげくに泣いて感謝してしまいそうだ。

 

「それに今回のゲームで君の実力を俺は認めている。俺など百年経っても届かないだろう境地に君はいる。その夫となるのだ。むしろ誇るべきことだろう」

「私はあなた好みな『従順で美しい女性』ではないわよ?」

「いまさらだな。そもそも貴族に生まれた者が望んだ相手と結婚できる方がまれだ。まだ実力を認めて跪くことに躊躇することのない女を妻とし、当主として立てることのできる俺は幸運だろう」

 

 もっとひどい女をあてがわれる男などいくらでもいるぞとライザーさんは笑ってみせる。

 その物言いに部長もわずかに苦笑いして「そうね」と同意した。

 

「まだ婚約にすぎないのだし、それほど深く悩むこともないかもしれないわね。婚約なんて状況が変われば破棄されることもあるし」

「フェニックス家が君とグレモリー家との縁を手放すなどもはやありえない気がするがね」

 

 それだけの実力を示したのだとライザーさんは主張する。フェニックス家はリアス・グレモリーとの縁をつなぐことを重視するだろうと。

 

「その通りだ。そしてもちろんグレモリー家もフェニックス家の天才児との縁を切るなどありえない」

「お兄様……」

「サーゼクス様、父上まで」

 

 扉が開き赤い髪をなびかせた好青年風の男性が室内に入ってくる。部長のお兄さんである魔王様だ。魔王様の一歩後ろに立つのはライザーさんの父親だろうか。だとしたらフェニックス家の当主様なのか。

 

「我がフェニックス家としてはこの縁談はまことにめでたい。破談など冗談でも口にはしませんぞ。リアス嬢のあの実力を見てそんな妄言を口にする者は阿呆でしょう」

 

 壮年の男性。いやもう少し歳をとって見えるか、でも老人と言うほどではない。ただ立つだけで威厳を感じさせる男性だ。正直かっこいい。俺も歳をとったらこんな渋くてかっこいい大人になりたい。

 

「フェニックス卿。それはこちらも同様です。敗れこそしたがライザーくんの実力は確かに見させてもらった。彼はまだ若い。将来が実に楽しみな逸材だ。彼との縁を切るなどそれこそ冗談でしょう。この冥界の貴族に彼ほどの若手実力者がどこにいます?」

 

 魔王様が朗らかに笑う。周囲を安心させ、その人柄を知らなくてもなんとなく信頼してしまいそうな笑顔だ。人を惹きつける魅力という奴だろうか。

 

「しばらく前まではどうしようもない愚息と嘆いていたのですがな。サーゼクス様」

「見事成長してのけたのです。めでたいことではありませんか」

 

 二人が朗らかに言葉を交わし合う。

 俺にはよく意味がわからない。つまり部長もライザーさんも評価されているという事か?

 

「……将来有望な若手二人。お互いに縁をつなぐことに両家にとって大きな意味がある。それを破談にするなどありえないと魔王様とお父様は宣言されておられるのです」

 

 目を白黒させていたのだろう俺にそうレイヴェルさんがささやいてくれる。

 

「つまり二人の婚約は確定って事か?」

「おそらく婚姻も確定事項でしょう。よほどのことがない限りは覆らない。両家ともそれで合意した。そういう意味ですわ」

 

 そうなのか。というか普通にそう言えばいいのになんか遠回しな口ぶりだったような気がする。

 

 俺の不満が顔に出ていたのかレイヴェルさんが小さく含み笑いをもらした。

 

「これが貴族ですわ。貴方も上級悪魔を目指すのなら少しは勉強なさいませ」

「そういえば上級悪魔になるって貴族になるってことだったな……」

 

 俺にこんな事ができるのか? 俺はただの高校生。あと何年、いや十年成長してもたぶん多少強い程度の戦闘しか取り柄のない男にしかならないぞ。たぶん。

 

「ん? なんで知っているんだ? 俺が上級悪魔目指していること」

「退場したあと中継でお兄様たちの会話を聞きましたから」

 

 そんなこともできるのか。

 きっと退場したライザー眷属全員でライザーさんを応援していたんだろうな。そんな光景が目に浮かぶようだ。

 

「私に不満はありません。彼女は妻にするにふさわしい実力の持ち主です」

「私も今のライザーであれば不満はありません。むしろこちらからお願いしたいほどですわ」

 

 ライザーさんも部長も口々に魔王様とフェニックス卿と呼ばれた人物に不満はないと告げる。

 

「めでたい。両者が不仲であった事でどうしたものかと悩みましたが、結果は上々ですな」

「まったくですな。拳を交えて認め合う。若者とはかくあるべきなのかもしれません」

 

 魔王様とフェニックス卿が口々に「めでたい」と口にする。

 

「ああ、そうだ。婚約披露宴は明後日だから」

「は?」

「いや、婚約披露宴。やるならば大々的に発表しないと意味がないだろう?」

 

 魔王様の気軽な通告に部長が普段ありえない間抜けな反応をした。

 

「明後日? 急すぎます。なんの準備もできてはいません」

「準備はこちらでしたよ。ドレスも問題ない」

 

 いやに手回しがいいですね。魔王様。

 もしかして負けはありえないと踏んで最初から手を回していましたか?

 

 しかし部長のドレス姿……その婚約披露宴で隣に立つであろうライザーさんを見ると案の定微妙な顔をした。

 そして俺の視線に気がつくとなんとも情けなさそうな顔をする。

 

 気持ちはわかる。

 なにしろ男より男らしい漢。漢女だ。

 それがドレスで着飾る? その横に立って笑顔で周囲の祝福を受ける?

 

 どう考えても晒し者だろう。祝福の声をかけられるよりも会場のあちこちで腹を押さえて笑いをこらえる奴が続出しそうだ。

 

 それも明後日。覚悟を決める暇もない。まさか逃げないように早めに既成事実で固める気かと勘ぐりたくなる。

 

「あの方のドレス姿ですか……なんというか感想を聞かれたらどういたしましょう?」

 

 レイヴェルさんも微妙な顔だ。この人はライザーさんの妹だから当然親類席、主役の二人のそばにいることになるだろう。もしその席で笑ったりしたらたぶん失態ではすまない。

 

 唖然とする部長と、なにやら決死の覚悟を決めたようなライザーさんを華麗にスルーして大物二人が俺たちの方へ来る。

 

「君が兵藤くんか。報告は聞いているよ。いや報告以上の実力だった。君も将来が楽しみだ。ぜひその力でリアスを助けてやってくれ」

 

 魔王様直々に親しく声をかけて肩に手を置かれる。身体がこわばった。

 

 な、なんて答えたらいいんだ?

 

「はは、そんなに緊張しないでくれ。今はプライベート。リアスの兄としてここにいる。普通にサーゼクスさんとでも呼んでくれないか?」

「は、はい。サーゼクスさん! 俺にできる限りの事はします!」

「いい返事だ。そういえば君は上級悪魔を目指しているそうだね。君の実力ならあとは実績を上げれば問題はないだろう。あとこういう言い方はあまりしたくないけど君は『赤龍帝』だ。我々も扱いには慎重にならざるをえない。かなり早い段階で君に、そして『赤龍帝』にふさわしい地位に就くことになるだろう。今からしっかり学ぶといい」

 

 赤龍帝にふさわしい地位か……もし俺が実力なんてない雑魚でもそう言われたのかな?

 

『まぁ、それなりの地位は用意されただろうな。最低でも中級悪魔程度は当然だろう。なにしろ二天竜の片割れを継ぐ者だぞ? 下級悪魔として粗雑に扱って離反でもされたら目も当てられないだろう?』

 

 ドライグが頭の中でそう笑う。

 

『心配するな。相棒は実力で上級悪魔になれる実力を示した。なにしろフェニックスを圧倒したのだからな。禁手化すれば勝負にすらならなかった。下手をすれば最上級悪魔になってもおかしくない。それも実力でだ』

 

 自信を持てと相棒に力づけられる。

 そうだな。俺が強くなったのは事実だ。そのために俺はあの地獄を生き延びたのだからな! あれ? 涙が溢れそう。身体がちょっと震える。

 

「どうしたのかな? どうも顔色が悪いが」

「……少し修行の時を思いだしてしまって」

 

 そう素直に言うと魔王様は同情的な視線で俺を見つめた。

 

「あの子は本当は優しい子なんだ。確かに厳しいところはあるがそれも君を思えばこそだ。できれば嫌ったり怖がったりしないであげて欲しい」

「はい……大丈夫です。発作みたいなものですからすぐに収まりますし」

 

 俺を見てフェニックス卿が微妙な顔をした。

 

「一時期のライザーを見ている気分だな。よく息子もあの直後はそんな顔をしていた」

「はっは……すみません。どうも加減がギリギリ(・・・・)な子でして」

 

 いや気にはしていないよとフェニックス卿が恐縮する魔王様にかえって居心地悪そうな顔をする。

 そりゃ魔王様といえば悪魔のトップだもんなぁ。そのトップに謝罪されたら居心地が悪いだろう。

 

「そうだ。君に話したいことがあるのだよ」

 

 そうフェニックス卿が場の空気を変えるように俺に向き合う。

 

 俺に話? いやな予感しかしない。

 ライザーさんは気にしていないようなことを言っていたし、レイヴェルさんも許してくれたが父親としては娘に拷問まがいの扱いをした男に言いたいこともあるだろう。

 

 殴られるくらいは覚悟するべきだろうな……。

 

「そう緊張することはない。レーティングゲームでの君の戦いは見事だった。フェニックスの弱点を見事ついたものだ。それを実行できる技と実力、私もつい感嘆のため息が漏れたものだよ……娘が苦しむ様を見ながら不謹慎とは思いながらもね」

 

 チクリと刺してきますね? 実は怒っているでしょう?

 

「提案があるんだよ。君にとっても悪い話ではないと思うが」

「提案ですか?」

 

 フェニックス卿が意味ありげに俺の隣に立つレイヴェルさんに視線をやった。何故か俺の背筋に寒気が走った。なぜだ?

 

「君が上級悪魔になり眷属を持つことになったときに娘レイヴェル・フェニックスを君の眷属に迎えてくれないか? 君ほどの実力者の眷属になるならばフェニックス家としても名誉なことだ」

 

 え? 俺の眷属? 俺の眷属にレイヴェルさんを? おいおい、俺はまだ転生したての下級悪魔だぞ。いくらなんでも気が早くないか?

 

「……打つ手が早いですな。フェニックス卿。さっそく手をつけられるか」

「それが貴族というものでしょう。早めに約束を取り付けなくてはいずれ眷属候補であふれかえってしまう。そうなってからでは遅い。できれば引き抜きたいがそれはさすがにそちらが承知しますまい」

「当然です。リアスが承知するわけがない」

 

 魔王様が苦笑し、それに平然とフェニックス卿が答える。

 なんの話だ?

 

「あなたは実力的にはすでに上級悪魔としてなんの問題もないのです。それだけの実力があればレーティングゲームに参加すればあっという間に頭角を現すでしょう。そうなってからでは他に眷属候補が貴方の周囲にいるかもしれない。その前に私を押し込みたい。そういうことですわ」

 

 レイヴェルさんがそう俺に教えてくれる。

 

「レイヴェルは不満かな?」

「いえ、この方が『王』ならば不服はありませんわ」

「では兵藤殿は?」

「……え、えっとそのまだよく考えたことがないのでわかりません」

 

 フェニックス卿は俺の情けない返答に呆れもせずに優しく微笑んだ。

 

「そう難しく考えることはない。上級悪魔になったときに眷属になる候補を一人予約する。そういう話だ。たいした話ではないだろう? おまけに娘はまだ未熟だがフェニックスだ。フェニックスを眷属に迎えられることなどそうはない。君にとっても名誉なことだし戦力としても君に敵わなかったとはいえレイヴェルも上級悪魔だ。それも実力で認められる上級悪魔。そこらの下級悪魔など敵ともしない」

 

 そう笑顔で囁かれるといい話に思えてくる。そういえば俺は上級悪魔になりたい。眷属を持ちたいとは言ったが、眷属のあてなどない。

 

 もしかしていい話なのか?

 

「レイヴェルほどの眷属はそうはいない。いや君たちには劣るかもしれないが娘もまだ若い。これからいくらでものびる。それにフェニックスを眷属に迎えれば上級悪魔となり貴族の仲間入りをした際に君の後ろ盾としてフェニックス家がつくことになる。もちろんグレモリー家の後ろ盾もあるだろうが有力貴族の後ろ盾は多い方がいい。転生悪魔から上級悪魔に成り上がったのならなおさらだ」

 

 転生悪魔、下級悪魔は基本的に非力な存在だ。実力主義の悪魔たちから見下される。

 そして元が人間や妖怪の転生悪魔、血筋的にたいしたことのない下級悪魔は血統のいい名門貴族出身者から見下される。悪魔には力を評価して認める価値観と血筋を尊ぶ価値観の二つがある。

 

 力はいい。君なら確実に認められるとフェニックス卿は保証する。だが君は転生悪魔、元は人間だ。血筋という面ではこの上なく弱い立場になる。

 

 だから貴族となったときに成り上がりと見下されないためには名門貴族とのつながりが重要になる。その名門貴族であるフェニックス家の娘を眷属に迎えているとなれば『王』である兵藤殿を侮辱することはフェニックス家を侮辱するに等しい。そんな馬鹿はそうはいない。

 

 そんな話を笑顔で語られるとだんだんいい話に思えてきた。

 ああ、すごくいい話に思えてきたな……フェニックス卿っていい人だな。

 

「承諾してもらえるかな?」

「はい、お気遣いいただきありがとうございます」

「うむ、お互い良い『契約』ができた。娘は将来君の良いパートナー(・・・・・・・・・)になるだろう。そうだろう、兵藤殿」

「はい、ありがとうございます」

 

 つんつんとレイヴェルさんが俺の服の袖を引っ張った。身長差から見下ろすように彼女の顔を見るとなにやら恥ずかしげにもじもじしながら顔を真っ赤にしている。

 

 なんだ? どうしたんだ?

 

「貴方、ご自分がなにを『契約』させられたか理解してますの?」

「契約?」

「お父様が言ったでしょう。『契約』と。悪魔の契約は絶対。破るなどありえません。貴方は将来少なくとも眷属に私を迎え入れることを『契約』したのです。その対価は将来の貴方へのフェニックス家の助力」

 

 へ? 『契約』? あの日頃やってる営業か? ということは……俺が彼女を眷属に迎えることはほぼ確定?

 

「そしてお父様は言いましたわ。『娘は将来君の良いパートナーになる』と。これの意味もわからないのですの?」

「ごめん、わからない」

 

 苛立ちが頂点に達したように勢いよくレイヴェルさんが床を蹴りつける。かなりすごい音がした。その行動に俺は驚く、そういう乱暴な行為と無縁のお嬢様然としているから余計怖い。

 

 魔王様がますます苦笑し、フェニックス卿はニヤニヤ笑っている。

 

「貴方は……貴方は戦闘以外は頭が空っぽなのですか!? どう考えても将来の婚約の約束でしょうに!」

 

 え?

 

「えええええええええええええええええええ!!」

 

 俺は慌ててフェニックス卿に詰め寄った。

 

「困りますよ! 眷属はともかく婚約なんて!」

「君がなぜ困るのかよくわからないが君にとってもいい話だぞ? フェニックスの娘を妻に迎える。夫は赤龍帝で上級悪魔に実力でのし上がった実力者。大変結構じゃないか。フェニックス家も君とより深い縁で結ばれる。お互い良い関係を築けると思うがね」

 

 確かにそれだけ聞けばいい話だろう。けど俺には。

 

「俺には好きな子がいるんです! 婚約者なんて困ります!」

 

 そう大声で告げるとフェニックス卿が目を丸くし、魔王様も驚いた顔をした。

 

「くっくっく……そうか兵藤くんには意中の女性がいたのか。どうやらフェニックス卿の勇み足ですな」

「そうでもないでしょう。『契約』は『レイヴェル・フェニックスを眷属に迎える』『フェニックス家は兵藤殿を支援する』だけです。婚約の話はまぁついでに提案しただけの事。彼が上級悪魔になるまでまだ時間がある。心変わりをするかもしれませんし、レイヴェルもほれ見たとおりの器量よし。心がなびくこともあるでしょう。それに意中の女性とかならず結ばれると決まったわけでもない」

 

 魔王様とフェニックス卿のやりとりに俺は我慢ならずに怒鳴りつけるように声を振り絞った。

 

「結ばれるんです! 絶対! たとえ百度振られようとも俺は彼女を諦めませんよ!」

「龍は異性を惹きつけると言うが、今代の赤龍帝は情熱的だね。まるで僕の若い頃を見るようだよ。そうだよ兵藤くん、その意気だ。女性を口説くのは熱意と根性だ。一度や二度振られた程度で諦めてはいけない。僕も妻と結婚するときは苦労したんだよ?」

 

 俺の肩を抱くようにして親しげに魔王様が語りかけてくる。

 そして経験から来る女性の口説き方をレクチャーしてくれた。正直とてもためになった。俺はそっち方面はまったく無知だからな。

 

「フェニックス卿。まだ若い彼に無理強いはよくありませんな。眷属に無理強いをしたとリアスが知れば、というかもう知っていますのでこちらを睨んでいますよ?」

 

 慌ててフェニックス卿が振り返ると獰猛な笑みを浮かべた部長と目が合ったらしい。汗を流して一歩後退した。

 

「い、いや、強制するつもりはない。まぁ婚約の話はまたの機会に話そう。今は眷属に迎える話を承諾してくれただけで十分だ」

 

 さすがのフェニックス卿も部長は怖いらしい。

 

「まったく……貴方はうかつですわね。あんなに容易くお父様の話術にはまるなど、上級悪魔を目指し貴族になるのならそのあたりももう少し鍛えてくださいませ!」

 

 去り際に俺の足を思い切り踏みつけてレイヴェルさんが部屋から出て行ってしまった。

 

 え? 俺は彼女を怒らせるような事したか?

 

 よく考えれば目の前で婚約をあれだけ嫌がったらプライドの高そうな彼女なら傷つくか、あとでまた謝らなければいけないな。

 

 そして小猫ちゃんを見ると相変わらず顔を真っ赤にして俺と目を合わせてくれない。

 試合以降近づこうとすると真っ赤になって俺を避ける。

 

 正直傷つく。

 

 やはり抱きしめたのがいけなかったか?

 

 でもあれは緊急事態だったし……いや言い訳は男らしくない。あの漢女との婚約すら約束だからと堂々と受けたライザーさんを見習うべきだ。

 

 あとで小猫ちゃんにもちゃんと謝らないとな……告白するつもりだったのにこの状況じゃ無理っぽい。

 

 それにしてもライザーさん。

 晒し者はさすがに可哀相だよな……なんか俺に出来ることはないだろうか?

 

 俺、なんとなくあの人嫌いじゃないんだよな。なんかかっこいいし。我が『王』とは違うけどあの人も『王』って感じがしていいんだよな。

 




試合後のちょっとしたお話。

もう少しで一万字に届くという文字数……文字数管理が最近苦手。どうもキリよく七千文字程度でお話がまとまらない。

次回が最終話の予定。
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