ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです   作:へびひこ

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最終話 婚約披露宴。

 あれから準備に大忙しであっという間に婚約披露宴当日になった。

 

 贅を尽くし大勢の招待客で賑わう婚約披露宴の会場。

 そこに二人の若い婚約者たち、今日の主役が現れる。

 

 ライザーさんに手を引かれて部長が姿を現した。

 その瞬間会場の空気が止まった。

 

 皆見とれていた。

 先ほどまで『噂に聞くグレモリーの奇人はどんなものか』などと笑い話に興じていた者も馬鹿みたいに半開きの口のまま呆けている。

 

 それほど今日の部長は美しかった。

 

 彼女に比べればこの広く豪勢な婚約披露宴会場も、飾り立てた貴婦人たちも、まるで色を失ったように存在感を失う。

 宝石のように煌めくシャンデリアの光に照らし出された我が『王』リアス・グレモリーは誰もが認めざるを得ない美少女だった。

 

 薄桃色のドレスは肩を大きく露出している少々大胆なものだった。胸元には精緻な刺繍で芸術品のように仕立てられたリボンが飾られている。そのリボンが清楚さを強調していて高評価だ。

 

 少々子供っぽいという見方もあるかも知れないが幼い雰囲気によく合っている。今の部長には無垢でどこか幼さを感じさせる。男の庇護欲をかき立てるような愛らしさがある。

 

 ふっくらとした頬は緊張のためかうっすらと赤く染まり、小さな形のいい唇には薄い紅が塗られていてそれも可愛らしい。穏やかで優しげな瞳はぱっちりとしていて顔立ちがくっきり見える。鼻も高すぎず低すぎず。細めの眉は優しげなカーブを描いている。

 

 身体つきも小柄で長身のライザーさんと並ぶとまるで兄と妹にも見える。実際身長はレイヴェルさんと大差ないように思える。

 

 華奢な手足はすらりと長くて、将来はモデルのような体型になると予想できた。

 胸元はまだ幼い雰囲気だが十分膨らみを感じさせ、腰もきゅっと細く抱きしめたら心地いいだろうなと俺ですら思ってしまう。ふんわりと広がったスカートに隠された腰のラインもきっと女の子らしい曲線を描いているだろう事は想像に難くない。

 

 年齢は中学生ぐらいだろうか? 十三か、十四歳くらいに見える。思春期真っ盛り、子供から大人へと徐々に変わっていく可愛らしい色気がある。

 

「部長……俺は『普通の女の子の格好をしてください』とお願いしたでしょう?」

 

 婚約者たちを迎えるために彼らの立つステージの前に整列している眷属の列。そこで慣れないスーツで着飾って立つ俺は思わずうめいた。

 

 

 

 

 俺はライザーさんのために何かできないかと考えて、部長が外見を自由にできるということを思いだした。

 

 なので土下座する勢いで拝み倒して『婚約披露宴ではぜひ普通の女の子の格好をしてください! 主にライザーさんの自尊心を守るためにも!』と頼み込んだ。その結果。

 

「まぁ、別にいいけど。この姿じゃだめなの?」

「それだとほぼ確実にライザーさんが笑いものにされます」

 

 俺は大真面目だった。羞恥プレイというよりもむしろ公開処刑だろう。これから漢女な婚約者を立てて一生生きていくのだと。一生あの漢女に頭が上がらないのだと。こそこそ笑われるのは確実だ。

 

 だがその相手が普通の女の子ならどうだろう。

 

 相手は名門グレモリー公爵の次期当主。その夫の立場は普通に魅力的なポジションだろう。将来のグレモリー公爵にもっとも影響力のある夫という立場を得られる。ライザーさんみたいな『デキる男』にはイマイチだろうが、貴族で跡継ぎになれない普通の次男三男なら垂涎の立場だろう。

 

 そのくらい貴族社会に疎い俺でもわかる……ごめんなさい見栄を張りました。

 本当はアーシアに教わりました。アーシアは結構頭いいんですよ。相談したら貴族に関しての知識、貴族の見栄の張り方、貴族の体面を重んじる一種異常な執着など教えてもらいました。

 

「そこまで言うのなら、イッセーもレーティングゲームでフェニックスを破る活躍をしたのだし、聞いてあげてもいいわよ。あの行為に関しては反省しているようだし、本人に謝罪もしたようだし」

 

 そう笑う部長のこめかみが微妙に痙攣していることに気がつかなかった俺が間抜けなのか。たぶん怒っていたんだな。

 

「あんたと一緒だとライザーさんが恥をかく」

 

 そう言ったも同然だもんな。思い返してみたら。

 

 

 

 

 見ればライザーさんはほっとしたような。それでいて少し困ったような微妙な顔をしている。当然だ。男よりも男らしい漢女と並ぶ公開処刑を回避したと思ったら、何故かその婚約者は本来の年齢よりもだいぶ幼い姿をしているのだから。

 

 ライザーさんの年齢は知らないが本来の部長より年長だろう。レーティングゲームに参加しているという事は大人と見なされる年齢という事だ。二十歳くらいだろうか?

 

 それが中学生のような幼い婚約者を連れて歩いている。漢女よりましだが、これではロリコンという不名誉なレッテルを貼られかねない。

 

 そして部長は爆弾発言をした。

 

「私の婚約者と私のたった一人の『兵士』がこういう姿が好きだと聞いたのですが、似合っていますか?」

 

 な、なんてことを言うんですか部長! 俺はロリコンじゃありませんよ!? 確かに小猫ちゃんは幼い容姿ですが別にそういう容姿だから惚れたわけじゃありません。俺はノーマルだ!!

 

 ライザーさんも慌てていた。

 

「……リアス。冗談もほどほどにしないといけない。ここは君がいつもいる人間界の学校とは違うんだ」

「あら? ライザーは私がそんなことも理解しない愚か者と思っているのかしら、悲しいわ」

 

 実に外見相応の可愛らしい魅力的な声だ。その声で少し悲しそうに、甘えるようにライザーさんに寄り添う。そして耳元でなにか囁いたとたんにライザーさんの顔が真っ青になった。

 

 あとで聞いたのだが内容はこうだ。

 

『何なら今からでもいつもの姿に戻ってあげましょうか? そして言ってあげるわよ? やっぱり私の婚約者はこの姿の方が好きなようですって』

 

 それは卑怯だよ。部長。そんなこと言われたらもうライザーさんに選択肢はないじゃないか。漢女好きかロリコンか。俺なら迷わずロリコンの汚名を甘受する。

 

「はははっ、リ、リアスは相変わらず可愛らしいな。惚れ直しそうだよ」

「そう? 喜んでもらえたなら嬉しいわ」

 

 ライザーさんはなんとか表面上平静を取り戻して部長をエスコートする。ロリコンの汚名を覚悟したらしい。

 

 途中で部長が振り返った。

 

「イッセー。どう? 今日の私をあなたは気に入ったかしら?」

 

 口調は優しいがガタガタ文句言うならわかっているだろうなと目で威圧してくる。

 

「……とても可愛らしいお姿だと思います」

 

 悪魔としての基礎知識と教養としてさんざん叩き込まれた公式な場での『王』への口の利き方講座で身につけた口調で答える。

 

「そう、気に入ってもらえてなによりだわ。そうそう、小猫も可愛らしいわね。とてもドレスが似合っているわ。小猫と私どちらが綺麗かしら?」

 

 部長がネズミをいたぶる猫のように口元に意地悪な笑みを浮かべた。

 おおかた返答に困るか、立場を重んじて部長だと答えることを期待したのだろう。

 

 

 どうも俺の小猫ちゃんへの感情はだいぶ前から部員にはバレバレだったらしい。おまけにあの『好きな子がいる』発言でほぼ確信されたわけだ。

 

 そう言われてみればあきらかにからかわれていた場面もあった。

 

 俺がアーシアを助けたいと言ったときの朱乃さんと部長の反応などまさにそれだろう。そしてそれを見て木場は笑っていたわけだな。あいつに恋人ができたら盛大にからかってやると心に決めた。

 

 俺は自覚していなかったが小猫ちゃんと他の女子への態度が明らかに違っていたらしい。アーシアにそう指摘された。

 

「あれなら恋愛ごとに疎い私だってわかります。小猫さんもです。イッセーさんのことになるとムキになるのですから初々しくてついからかってしまいました」

 

 アーシアでも他人をからかうことがある方が俺はびっくりだよ。そういうことはしない素直ないい子だと思っていたんだけど。小猫ちゃんをからかって楽しんでいたのか。

 できればほどほどにして欲しい。あまり小猫ちゃんをいじめないでくれ。可哀相だろう。

 

 

 部長が返答をうながすように俺に視線を向け続ける。おおかたここで引っかき回して俺をからかいたいんだろう。

 

 だが俺は兵藤一誠! こんな脅しに屈しはしない!

 

「俺にとって小猫ちゃん以上の女性は存在しません。たとえ『王』であってもです」

 

 その言葉に意表を突かれたのか部長は目を丸くして驚いた。そして視線を小猫ちゃんに向ける。俺も見たが真っ赤になって下を向いてしまっていた。

 

 なんか選択肢をミスった気がする。

 これじゃあ公衆の面前で告白したようなものじゃないか……!

 

 周囲もなにやら微笑ましいものでも見るような視線で俺と真っ赤になってしまった小猫ちゃんを見ている。ひそひそと噂話をしているが絶対ろくな内容じゃない。

 

 ふと吹き抜きの二階の席に座るサーゼクスさんが腹を抱えて笑いをこらえている様子が見えた。一発殴りたいと思った俺はきっと悪くない。

 

 グレイフィアさんでさえ微笑ましいと言いたげに俺を見ている。手で口元を隠しているがあれはきっと笑っている。

 

 というかこういう場でもメイド服なんですか? あなたは魔王様の奥さんでしょ? 普通は正装して魔王様の横にいるべきなんじゃないですか?

 

 それがこの場でもまるで従者のようにひかえているし、どうもよく理解出来ない。サーゼクスさんは筋金入りのメイドプレイマニアなのか?

 

 

 

 

 その後はつつがなく婚約披露宴は進行した。

 多くの人に祝福されてライザーさんも部長も嬉しそうだった。

 

 ただライザーさんが一人で俺の近くに来たときにぼそっと。

 

「おまえの差し金か?」

 

 とドスのきいた声で聞いてきたのにはちょっとびびった。

 

「俺は『普通の女の子の格好をしてください』と頼んだんですよ。でもどうも機嫌を損ねたみたいで……すみません」

「いや……いい。おまえにあたるのは筋違いだ。本来は俺が拝み倒してでも頼まなければならないことだろう。おまえはよくやってくれた。いつもの姿に比べればはるかにマシだ。ロリコン扱いも別にかまわない……アレが好みと思われるよりいいだろう」

 

 ライザーさんは俺に近づくと内緒話をするようにささやきかけてきた。

 

「それに俺は結構守備範囲が広くてな。ロリっ子もいける口だ……おまえもか?」

 

 そういえばライザーさんの眷属には幼い容姿の子もいたな。

 

「俺は好きになった人がたまたま幼い容姿をしていただけです」

「そうか、大人な魅力溢れる巨乳もいいがロリはロリでいいものだ。なにか相談があれば乗るぞ。俺は結構女性関係は派手に遊んだからな。ある程度助言はできる……たぶんもう遊べないだろうがな……」

 

 陰鬱な顔をする。まぁ婚約したんだし、俺としても部長の婚約者になったのに女遊びされるのは気に入らない。あの美少女っぷりを見たら余計。アレならいいじゃないか。なんの不満がある? おっぱいか? 頼めば巨乳ぐらい部長なら楽勝だろう?

 

「何か言われましたか?」

「母上に釘を刺された。『あなたはもう自由に遊べる身分じゃないのだからわきまえなさい』と父上にも言われた『おまえの行動一つでグレモリー家とフェニックス家の関係が良くも悪くもなると言うことを自覚しろ』と。とどめはリアスだ」

 

 割と普通の注意だと思う。貴族とはいえ親は親なんだな。

 半ば身を固めたに等しいのだからもう独り身感覚で女遊びはするなという事だろう。

 

 あと部長? さっそく婚約者になにか注文をつけたのかあの人は。

 

「浮気をしたら股間のブツを潰すと言われた。眷属にも手を出したらよそへ放り出すと言われた。もういっさい浮気はするな。したら潰すだとさ」

 

 青ざめた顔でそううわごとのように呟く。

 

 追い詰められているな……。

 

 他人事のように思った。いいじゃん。浮気しないから俺の前では美少女でいてくれと頼めば。俺なら小猫ちゃんがそばにいてくれるなら他の女なんかいらないと断言できる。

 

 しかし……部長さっそく浮気禁止令か。部長の立場的には当然だろうけど。今まで自由に女の子と遊んでいたっぽいライザーさんにはきついのかも知れないな。

 

 部長からしたらライザーさんは将来の婿だ。その最大の役目は二人の間に子供を作ることだろう。よそでぽこぽこ子供を作るような行為は認めないのもわかる。

 

 まぁ、まだ婚約の段階だから多少大目に見てもいいんじゃないかという気もするけど。結婚までの猶予期間という感じで。

 

 よその女はともかくライザーさんの眷属は確か元はライザーさんのハーレムだったんだろう? 本人がそんなこと言っていたしな。レイヴェルさんとも少し話をしたし。

 

 そのレイヴェルさんが連絡用にマジックアイテムをくれた。外見といい機能といいまるで携帯電話のようだった。

 

 なんか真っ赤な顔をして『いつでもというわけではありませんが、お話ぐらいしてもいいですわ。将来の『王』と親睦を深めるのも必要でしょう』とか言っていた。ツンデレに脳内変換するとちょっと楽しかったな。ツンデレキャラがすごくはまり役な気がする。

 

「眷属の人は納得しているのですか?」

 

 ああ、この話し方疲れる。かといって周囲にまだ人がいるから話し方崩すわけにもいかない。というか内緒話とはいえこんなところで話していい内容なのだろうか。

 

「泣かれた……けど納得してくれた」

 

 そう言ったあと微妙ににやけ顔でライザーさんが肩を組んできた。

 

「でもバレなければ問題ないと思わないか?」

 

 あ、この人。約束破る気満々だ。俺は約束を破るようなことはしない的なこと言ってませんでした? 俺の感動を返せよ。

 

「あの部長ですよ。リアス・グレモリーですよ。絶対にどこからかバレます。俺はそう確信します」

「そう思うか……俺もなんかそんな気がするんだよな」

 

 がっくりとライザーさんがうなだれる。あの部長だぞ? 理不尽の権化な最強漢女だぞ? 婚約者の浮気なんてなにをどうしたかもわからない方法で察知しそうだ。

 

「誰にも見られていなくても何故かバレている未来しか想像出来ないのはなぜだ? 確かにリアスは強いが……強さとそっち方面は別だろう」

「部長って実はかなり魔力操作も上手いですよ。この会話を盗み聞きしていても俺は驚きません」

「……脅かすなよ。本当にありそうでビビる」

 

 冗談だと思っているのだろう。そうライザーさんが力なく笑う。まだ甘いな。あの最強漢女の理不尽さがわかっていない。

 

「ふふ、楽しそうなお話ね。ライザー」

「……げぇ! リアス!」

 

 振り返ると案の定とてもイイ笑顔を浮かべた部長がいた。レイヴェルさんとユーベルーナさんも一緒だ。なんか虫けらを見る目で俺たちを見ている。

 

 俺を一緒にしないでくれ、俺は止めたぞ。

 

「あなたが浮気するたびにペンチであなたの大事な部分を潰すのはどうかしら? さすがにイッセーの『爆弾創造(ボム・クリエイト)』は真似るのが難しいし、どうせフェニックスだから再生するんだし」

「あ、あの部長さすがにそれは……」

 

 さすがに同じ男として口を挟んだが。

 

「あなたがそれを言うのですの?」

「いえ、何でもありません。ごめんなさい」

 

 レイヴェルさんに言われたら俺は黙るしかない。なにせ俺はやらかした張本人だ。

 部長の快進撃は続く。

 

「あなたが浮気するごとに眷属たちをまだ眷属をもっていない上級悪魔の『悪魔の駒』とトレードしましょう。みんな実力者ですもの。きっと歓迎されるわ」

「……その、確か最初のお話では俺はレーティングゲームに出ていいという話だったはずでは? 眷属がいなくなるのはさすがにちょっと……」

 

 ライザーさんが弱々しく抗議する。なんだかこの二人の未来の姿が見えた気がするな。

 

「あなた一人でもだいたいの相手に勝てるでしょう? もしくは今度は男性の眷属を集めなさいな。でも同性愛はダメよ。もしそんなことをしたら引っこ抜くから」

 

 なにを? とは聞けない。怖くて。

 

「もうユーベルーナもレイヴェルも私の味方。他のみんなもとても素直に言うことを聞いてくれたわ」

 

 二人とも当然だという顔をしている。

 レイヴェルさんにしてみたらフェニックス家とグレモリー家の仲をこじれさせたくない。ユーベルーナさんは多少申し訳なさげだがそれでも否定しない。彼女もリアス・グレモリーの婚約者になったからには以前のようではいけないと考えているのだろう。

 

 どうやらライザーさんはもう孤立無援らしい。部長が楽しそうに笑う。きっと全開で威圧しながら『お話』したんだろうなぁ。

 

「兵藤、助けてくれ……」

「すみません。俺は部長の『兵士』ですから」

「俺を見捨てるのか!」

「俺だって部長は怖いんですよ! あの人の地獄の修行を受けてなお刃向かえる奴なんていませんよ!?」

 

 男同士見苦しい言い合いをしているとレイヴェルさんが実に軽蔑のこもった視線で見下してきた。

 

「殿方というのはこれだから……」

「あら、こういうところも可愛いのよ。レイヴェルもいずれわかるわ」

 

 さっそく彼氏持ちの余裕をぶちかます部長。レイヴェルさんが胡乱な目を向ける。

 

「お義姉さまは確か調査では男性とのおつきあいはなかったはずでは?」

「祐斗にギャスパーにイッセーという眷属を育ててきたのよ。あなたよりは男というものを知っているわ。みんな可愛いのよ?」

「なるほど、『王』としての経験ですか。確かに個性あふれる眷属でしたからご苦労されたでしょう?」

「手のかかる子ほど可愛いのよ。イッセーなんて最初はまるで使い物にならなかったのだから、転移も出来なかったあの子を私がここまで育てたのよ?」

「……少し興味がありますので、そのお話をもう少し詳しくお願いいたしますわ」

 

 そして三人で去って行く。実に楽しそうにおしゃべりしている。なんか仲がいいな。

 いや、もう身内なんだから仲がいい方がいいんだろうが。女の子ってなんか唐突に仲良くなるから理解出来ないところがある。

 

 俺の過去話なんて楽しくないと思うんだけど。なんでレイヴェルさんは興味を持ったんだ? 将来の『王』のことを知りたいのか? それとも強くなる秘訣でも知りたいのかな。俺としては俺の過去話なんてあまり広めて欲しくないんだが。

 

「……『結婚は人生の墓場だ』という言葉が俺の国にはありましてね」

「ああ、その言葉を生み出した人物はたいしたものだな。俺も共感できる……いいさ、俺にはリアスがいる。浮気せずに機嫌を取ればまたあのロリっ子モードになってくれるかも知れないし、巨乳美女だってリクエストすれば叶えてくれるかもしれないし」

「普段がアレですがね」

「言わないでくれ。なんとか交渉して二人きりの時はせめてあのロリっ子モードになってもらえるようにがんばるつもりだ。あれは意外と趣味に合う」

 

 本当に守備範囲広い人だな……。

 まぁ確かに可愛いけど。

 

 小猫ちゃんの方が可愛いけどな!

 

「おまえはあっちをどうにかした方がいいのではないかな? あの発言をしたあと放置というのは少々男として問題がある」

 

 ライザーさんが壁際にぽつんとしている小猫ちゃんを視線で示した。ライトグリーンのドレス姿が可愛らしいが、今はなにやら落ち込んだようにうつむいている。暗い雰囲気のせいで周囲の人たちも避けているようだ。

 

 みんなもフォローぐらいしてくれてもいいだろうに。見渡すとそれぞれ好きに会場を歩き回って周囲の人と挨拶している。木場と目が合うと苦笑して小猫ちゃんを指さしてさっさと行けと手振りで示した。

 

 どうやら俺がなんとかする問題だからと気を使って一人にしているっぽい。

 

 ギャスパーが見当たらないと思ったら隅の方でライザーさんの『兵士』の少女と一緒にいた。記録映像で見たが確かギャスパーが倒した相手じゃないか? あの時ダンボール箱に隠れて震えていたギャスパーを気にかけていた少女だ。

 

 なにを話しているのかわからないがあのギャスパーが笑顔でいるのだからきっといい子なのだろう。会場でのダンボール禁止令と婚約披露宴強制参加を言い渡されて死人みたいな顔をしていたギャスパーだったが、楽しんでいるのならなによりだ。ドレス姿にまったく違和感がないのがなんとも言葉がない……本当に男なのか?

 

「責任を取ってこい。玉砕してもかまわん。衆人環視のもとで女に恥をかかせたのだからむしろ玉砕して砕け散れ」

「……私怨がこもってませんか?」

「なんのことかわからん……くそっ、盛大にフラれてこい。デリカシーのない男なんて嫌いと殴られてこい!」

 

 なんかライザーさんのイメージが変わったなぁ。もっとすごい『王』だと思っていたんだけど。なんか微妙に器が小さくないか、この男。せめて形だけでも応援しろよ。こっちは足が震えそうなほど怖いんだぞ。フラれたらホントどうしよう……。

 

「けっ……フラれろ、フラれっちまえ。そして俺の苦しみの万分の一も味わうといい」

 

 いつか『爆弾の支配する戦場(ボム・ルーラー・フィールド)』で穴だらけにして半殺しにしたあとで『龍帝の咆吼(ブレイブドラゴン・ブレス)』で消し飛ばすぞ?

 

 ドライグの倍加をさらに使えばもっと出力は上がるんだからな? 元々あんた用の技だからあの魔人になっても俺は勝てる自信があるぞ? それにどうせ自力であれにはなれないだろう。マジックアイテムに貯め込んだ自身と眷属の魔力をトリガーにしてようやく出来た技だと部長も言っていたからな。

 

 格闘センス? はっ! 俺の『爆弾の支配する戦場(ボム・ルーラー・フィールド)』に格闘戦なんて必要ない。勝つだけならなぶり殺しにしたあげく綺麗さっぱり消し去れば終わりだ。

 そもそも『真なる赤龍帝の勇者(トゥルー・ブーステッド・ギア・ブレイブ)』なら力押しだけで十分格闘戦も互角にやれる。

 

「……せいぜい気張れ、助言らしい助言はたいしてないがこういう場合は絡め手より真っ正面から馬鹿正直なぐらいにいった方がいいぞ。どうせ向こうも今頃おまえを意識してパンク寸前だろう。小難しいことを言っても誤解されるだけだ」

 

 ふんとそっぽを向いて軽く助言を残して去って行く。

 

 実はいい人なのか? 微妙だ。

 だが元より俺にはそれしかできない。巧みな話術で女性の心をとらえるなんて俺には百年経ってもきっと不可能だ。

 

 

 

 

 中庭には精緻な彫刻の施された噴水があった。

 水瓶を頭上に掲げ跪く女性の像だ。頭上に掲げた水瓶から大量の水が噴き出して綺麗な水の膜を張っている。

 

 中庭も照明で照らされているので夜だが十分に明るい。目を赤く腫らした小猫ちゃんの顔が見えるぐらいには。泣いていたのかな。そんなに傷つけたのか……。

 

 俺は半ば強引に小猫ちゃんの手を握りこの場所まで連れてきた。

 正直この屋敷のことなどよく知らないから単に人気のない場所へ歩いてきただけだ。

 

 結果としてなんか雰囲気のいい場所にこれたのは、神様、いや俺は悪魔だから魔王様のご加護だろうか。あの魔王様なら面白半分に鑑賞しながら俺を応援ぐらいしそうだ。

 

「小猫ちゃん……」

 

 俺はなんと言っていいかわからずに言葉を切った。いや、違うな。怖かったんだ。

 その先を口に出して、予想される未来が現実になるのが。

 

 脳裏に俺を嘲笑いながら俺を殺す少女の歪んだ笑顔がちらつく。涙を流して命乞いして今度こそ俺を好きになると哀願したあの顔が離れない。

 

「小猫ちゃん……」

 

 もう決着をつけたはずだ。

 俺はもうあの件にケリをつけたはずだ。

 

 だから俺はもう立ち止まれない。

 ここで立ち止まったら彼女は、目の前で怯える彼女はどうなる。

 ただ満座で恥をかかされただけで終わるじゃないか、そんなことは許せない。

 

 彼女が笑いものになるのが許せない。

 彼女に嫌われることが許せない。

 彼女が俺から離れていくなど許せるはずもない。

 

「俺は君が好きだ」

 

 だから俺はそう言葉にする。

 そうしなければ伝わらない。そしてそれだけでもきっと伝わらない。

 

 だから言葉を続ける。自分でも馬鹿みたいに単純な言葉を。

 

「俺は小猫ちゃんが好きだ。ずっと一緒にいたい。俺は小猫ちゃんを……」

 

 俺のモノにしたい。

 

 その言葉を言うより早く小猫ちゃんが俺に飛びついてきた。

 

「本当に小猫ちゃんは軽いな」

「……体重管理は完璧です」

 

 身体に預けられた重みに俺は苦笑する。本当に軽い。こんな身体で彼女は『戦車』として戦ったのだ。

 冗談めかした言葉を口にする小猫ちゃんの小柄な身体を抱きしめる。

 

「俺は小猫ちゃんが好きだ。俺は小猫ちゃんを俺だけのモノにしたい。俺は小猫ちゃんをずっと抱きしめていたい」

 

 本当はもっといくらでもこの胸にある想いをぶちまけたい。けどいきなりそんなに言葉を重ねられても迷惑だろうと考える程度の理性はあった。

 

 小猫ちゃんは小さく震えた。

 

「私は猫の妖怪です」

「知っている」

「私の姉は犯罪者で今も追われています」

「知っている」

「私がもしイッセー先輩の子供を授かっても、それは人間でも悪魔でもドラゴンでもないかも知れません。もしかしたら私は猫の子を産むかも知れません」

「それがどうした。もしそうなったら二人で可愛がればいい」

 

 そう言うと信じられないという顔で小猫ちゃんは俺を見上げた。

 その瞳が動揺に揺れる。不安がある。恐怖がある。隠しきれない歓喜がある。

 

 小猫ちゃんは赤くなった顔を隠すように俺の胸に顔を埋めた。

 

「……いい匂いです」

「そうか」

「最初は大嫌いでした……私はエッチな人が嫌いですから」

「……そ、そっか」

 

 やっぱり最初嫌われていたのか。

 

「でも先輩はどんどん変わりました。なんでなのだろうと思って祐斗先輩に聞きました。そしたら『たぶん君に嫌われたくないんだよ』と笑っていました」

 

 あの野郎。いったいいつだ。勝手なことほざきやがって……事実だけど。

 

「イッセー先輩は私に好かれるために努力したんですか?」

「全部が全部って訳じゃないけど。大部分がそうだな」

 

 上級悪魔になりたいのもそのくらいになれば小猫ちゃんだって認めてくれると思った。

 強くなれば小猫ちゃんを守れると思った。

 実際に修行で手に入れた力は小猫ちゃんを守った。

 

 部長に認められたい。恩返しがしたいというのもあった。

 けどやっぱり俺は小猫ちゃんに認めて欲しかった。

 俺を自分にふさわしい男だと認めて欲しかった。

 

 最初はもちろん違った。

 出世して立派になればモテるかも知れないと思った。

 強くならなければ、そもそもあの修行で生き残れなかった。

 実際に強くなったと実感したとき思ったのは、これで俺は役立たずじゃないという安堵だった。

 

 小猫ちゃんは特別だった。それは事実だ。けど最初は恋愛感情ではなかった。そんなものは期待するだけ無駄だと諦めていた。

 

 そんなことをゆっくりと小猫ちゃんに語った。

 正直ここまで馬鹿正直に打ち明ける必要はなかったとあとで思ったが、俺の口は胸にたまった想いをさんざんに吐き出した。

 

「私は……弱いです。イッセー先輩が会場で部長より私を選んだとき、私は怖かった。私にそんな資格はない。これからきっと活躍していくイッセー先輩にそんなに想われる資格なんてない」

 

 小猫ちゃんの目に涙がたまりこぼれ落ちる。その瞳を綺麗だと思った。ずっと見ていたい。ずっと俺だけを映し続けて欲しい。

 

「私よりアーシア先輩の方が、あの人の方がきっとイッセー先輩にはふさわしい。あの人は天才です。規格外(バグキャラ)とか言われますけど、要はそれだけ才能と実力があるという事です。それにあの人は強い。力も心も。きっとイッセー先輩を支えていける人です」

 

 そう言って小猫ちゃんは離れようとした。だが俺は認めない。俺から離れるだなんて認めないし許さない。

 

 力強く抱きしめてその耳元で囁く。

 

「俺は小猫ちゃんがいいんだ。小猫ちゃんと生きたい。小猫ちゃんと毎日を過ごしたい。小猫ちゃんにずっと俺のそばにいて欲しい。お互いをお互いのモノとして生き続けたい」

「……わ、私は、嫉妬深くて、無口で、無愛想で、チビで、イッセー先輩の好きなおっぱいもなくて、独占欲の強い嫌な女です……イッセー先輩はきっと私を理解していない」

 

 泣きながら、つっかえつっかえに小猫ちゃんはそう吐き出した。

 

「ならこれから理解しよう。小猫ちゃんのすべて、他人に見せないすべても俺は全部知りたい。そして全部手に入れたい。俺は小猫ちゃんが大好きだ。けして放さない。逃げ出しても追いかけて捕まえる。嫌がっても鎖につないででも俺のそばに置く。食事を絶って死のうとしても無理矢理その口に食べ物を詰め込んで生きながらえさせる。俺から離れることなど許さないし認めない。俺を置いて死ぬ事すら許さない」

「……言っていることが変質者です」

「俺は小猫ちゃんがいてくれるなら変態だろうと変質者だろうと外道だろうとなる。俺は小猫ちゃんがいてくれればいい」

 

 小猫ちゃんがふいに身体を震わせた。かすかに笑い声が聞こえる。

 

「イッセー先輩は実は危ない人だったんですね」

「……そうなのか?」

「自分を拒否するなら監禁するなんて言う人は危ない人です」

 

 選択肢をミスった? なんか調子に乗っていらんことを言ったのか?

 

「そんな危ない人を野放しにしておいたら危険ですから私が見張っていてあげます」

「え?」

「イッセー先輩のすべては私のモノです。イッセー先輩は私だけ見ていればいい。私だけ想ってくれればいい……ふふっ実は私も結構危ない女なんですよ?」

 

 俺の身体に自分の身体を溶け込ませようとでもするかのように小猫ちゃんの身体が押しつけられる。

 

「私もイッセーさん(・・・・・・)のことが大好きです」

 

 背伸びするように小猫ちゃんの顔が近づいてきて、俺は破裂しそうな心臓すら意識の外に放り出して魅了されたように互いの顔を近づけていった。

 

 お互いの唇の暖かさを感じながら俺は今度こそ幸福に浸った。

 

 

 

 

「あ、私がいるんですから。もう部屋に置いてあるエッチなモノは全部いりませんよね? すぐに全部捨ててください。たとえ雑誌だろうが映像だろうがイッセーさんが他の女に見とれるなんて私は許しません」

「え?」

 

 俺に、俺が懸命に集めたコレクションをすべて捨てろと?

 

「あとイッセーさんが『王』になったら当然私もイッセーさんの眷属になります。焼き鳥ごときに大きな顔はさせません。イッセーさんは私のモノです」

 

 喉の奥で不吉な笑いを漏らす。その瞳がなんか虚ろで怖い。

 

「フェニックス家がなんですか、ガタガタ抜かすなら根こそぎ滅ぼしてやればいいんです。二人ならきっとできます……そのためにももう一度くらい部長の修行を受けるべきでしょうか? 確実に殲滅するために」

 

 ライザーさん! ご実家がピンチです! なんか確実に彼女に敵性認定くらってます!

 

 あとレイヴェルさん逃げて、俺の眷属になる契約だけど。たぶん来たら小猫ちゃんにいじめられるよ!?

 

 ケンカしたらたぶん小猫ちゃんの方が強いし。小猫ちゃんの攻撃も対フェニックス用なんだよ。あれ食らうと想定では回復能力が大幅に落ちるはずなんだよ。

 

 実際俺の『崩壊の掌(ブレイク・パーム)』の発展系だから基本的に接触されたら終わる技なんだよ。

 

 レイヴェルさんが勝とうと思うならひたすら逃げ回って遠距離戦に、あっそれでも『千条魔槍拳』やらそれの大規模砲撃バージョン『閃光大槍撃』で撃ち落とされて終わるか。詰んでいる。もう無理、逃げて。

 

「ふふ、私たちの幸せを邪魔する輩はすべて排除しましょう。二人ならきっとできます」

 

 え? 俺もやるの? フェニックス家滅ぼしたりレイヴェルさんを半殺しにしたり?

 

 ……小猫ちゃんは俺の癒やしだったんだけどなぁ。

 急な告白が悪かったのかな? なんか小猫ちゃんが壊れた。すごい方向にかっ飛んでる。

 

 

 

 

 いろいろブツブツ呟いてすっきりしたのかいつもの無表情っぽい穏やかな雰囲気に戻ったときは心底ほっとした。

 

 きっとストレスがたまっていたんだ。そうだよ。小猫ちゃんはいい子なんだから。どこぞのギャルゲーに出てくるようなヤンデレヒロインとは違うんだよ。

 

 俺はそう心に言い聞かせた。

 問題ない。俺が浮気しなければいい話だ。そして俺は小猫ちゃん以外に興味はない。レイヴェルさんにはちょっと罪悪感があったけどそれとこれとは別だ。

 

「さあ、行こう。小猫ちゃん」

 

 さすがに夜風にずっと当たりっぱなしは冷えるだろう。小猫ちゃんが風邪でもひいたら大変だ。

 

「白音です」

「え?」

「私の本名は白音です。『塔城小猫』は素性を隠すために部長がつけてくれた名前。だから二人っきりの時は本当の名前で呼んでください」

 

 そう言ってなにか期待するような熱のこもった瞳が俺を映す。

 ああ、いつ見ても綺麗な瞳だ。いつまで見ていても飽きないだろう。

 

「わかったよ白音(・・)。二人っきりの時は、だな?」

「ええ、二人っきりの時だけ……イッセー(・・・・)

 

 部長が必要として偽名を名乗らせたのなら公の場で彼女の本名を呼ぶのはなにかしら不利益があるという事だろう。

 

 そのうち部長やサーゼクスさんにお願いして彼女が自由に本名を名乗れるように頼んでみよう。そのためなら土下座もするし、できることなら何でもする覚悟だ。

 

 それに二人っきりの時だけの呼び方というのもちょっと胸が熱くなる。

『イッセー』か。小猫ちゃんの声で、小猫ちゃんの唇からその言葉が紡がれるだけで俺は心がとろけてしまいそうだ。

 

 白音、そう白音だ。二人っきりの時だけじゃなくて心の中で思うくらいはいいだろう? 俺だけはいつも彼女の本名を呼んでいたいんだ。

 

 そう思いながら俺は改めて白音に手を差しのべた。

 

「行こう。白音。あまり夜風にあたると風邪を引くよ。そのドレスはとても似合っているけど少し寒そうだ」

 

 肩口とか大きく露出しているしな。グレイフィアさんか? これを選んだのは。

 今度苦情を言おう。彼女の素肌を見ていいのは俺だけだ。

 

 確かにライトグリーンのドレス姿は可愛いけどさ。清楚さと色気が絶妙なバランスでよく似合ってる。俺に見せるだけならグレイフィアさんに感謝したい。

 

「ようやく褒めてくれましたね。イッセー」

 

 しまった。褒めるのが遅くなったか、俺はまだまだだな。

 

 今度そのあたりのことをサーゼクスさんに教わろう。ライザーさん? あの人はいまいち信用できない。今日のことでライザーさんの株は大暴落した。女遊びをしまくっていた人の助言なんて信用できない。俺は白音だけでいいんだ。

 

 白音が笑って俺の手を取る。相変わらず小さくて柔らかい。全力で守りたくなるような小さな手だ。

 俺たちはお互い手を握り合って、しばらくお互いの感触を楽しんだ。

 

 体温が伝わってくる。お互いの想いさえ伝わってきそうだ。

 

 恋人たちが手を握りあいたがるのもわかる気がする。こうしていれば身近に感じる。理解できる気がする。なによりお互いをお互いのモノだと自分や周囲へ宣言できる。それはとても幸福で誇らしいことだ。

 

 

 

 

『兵士』兵藤一誠と『戦車』塔城小猫、いや白音。

 

 俺たちはこれからずっと二人で歩いて行く。

 互いの手を放すことなく。互いの瞳を視界からそらさないまま。

 お互いの魂をその手に大事に抱きしめ、お互いの身体を自分のすべてで愛おしく抱きしめ続けて。

 

 俺がもし『王』になってもそれは変わらない。

 もしこの命が永遠に続くのなら、永遠すら二人ですごそう。

 

 お互いにけして欠けることのない存在として、共に悠久の時をあり続けよう。

 

 

 俺は目覚めたとき男を超越した漢にして漢女たるリアス・グレモリーに出会った。

 

 俺は恋を騙って欺いた堕天使の少女をこの手で殺した。

 

 俺は恩人たる教会を追われた元聖女を助けた。

 

 俺は命の恩人であり尊敬する『王』のためにライザー・フェニックスたちと戦った。

 

 俺はリアス・グレモリーとライザーフェニックス。二人の『王』の対決をこの目で目撃した。

 

 わずかな期間でいろいろあった。本当に激動と表現できるイベントの大量発生だ。

 

 俺は悪魔に転生し、覚悟の大切さを知り、力をつけ、『王』の姿を知った。

 

 俺が彼女のような、彼のような立派な『王』になれるかどうかはわからない。

 だけど努力しよう。白音が胸を張って自慢できるような男であり続けよう。

 

 俺はまだまだ子供だ。しょせん高校生。しょせん転生したての下級悪魔。

 少しは強くなった。ケンカだけならそれなりになっただろう。

 

 でもまだ足りない。

 俺の知る『王』はただ強いだけの人たちではない。

 

 

 

 

「白音。俺はがんばるよ。白音が自慢できるような男になっていつか白音に自慢させてやる。『この男が私の夫だ』ってさ」

「私もがんばる。イッセーが『俺の自慢の妻だ』って言える女になってみせる」

 

 俺たちはひそかに、婚約の約束をした。

 ただの口約束。人によっては冗談ともとれるかもしれない。

 

 だけど俺たちは本気だ。お互いの瞳の奥を見据え、その魂をつなげた『契約』だ。

 

 誰もいない夜の中庭。

 噴水の水音だけが耳に心地いい場所で、俺たちだけの婚約が成立した。

 

 俺たちだけの婚約披露宴。華やかさもなければ祝福してくれる人もいない。

 

 今はこれだけで十分だ。俺は白音さえいればいい。いつか俺が立派になったときに彼女が誇りに思えるような華やかな舞台を用意しよう。

 そこで思い切り自慢しよう。見せつけよう。俺たちは愛しあっているのだと。

 

 もう一度だけ俺たちはお互いを重ね合った。

 先ほどのようなおそるおそる触れるだけの関係じゃない。お互いに求めあい。貪りあい。お互いのすべてを喰らい尽くすような長く激しい接吻だった。

 

 俺は『王』になろう。

 なによりも彼女が誇れる王に。我が『王』が『この男は私が育てたのだ』と自信を持って公言できるくらいに。

 

 そして彼女を守り続ける。

 俺の大切な宝物。俺が運命という道筋から足を踏み外したおかげで出会った美しいこの世に二つとない宝物。

 

 

「一緒に行ってくれるか? 白音」

「はい。一生あなたのすぐそばに居続けます。一生あなたの歩む道を共に歩みます。イヤだと言ってももうダメです。逃がしません」

 

 そう悪戯っぽく笑って腕を絡めてくる。

 

 

 そして俺たちは歩き出した。

 きっと幸福な未来があると無条件に信じながら。どんな不幸があろうと叩き壊し粉砕して共に突き進もうと決意しながら。

 

 俺は本当にリアス・グレモリーに感謝した。

 

 あなたのおかげで俺は出会えた。

 あなたのおかげで俺は変われた。

 あなたのおかげで俺はこうして白音を手に入れた。

 

 本当にありがとう。

 俺を救ってくれて、俺を導いてくれて。

 

 俺の腕に抱きつくように腕を組んで歩く愛しい女性。

 その暖かさと柔らかさを感じながら、その愛情を全身で受け止めながら。俺は自分が本当に幸運で幸福な男なのだと信じられた。

 

 

 終わり。




『ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです』完結!

最後は漢女な部長の物語というよりイッセーと小猫の恋愛モノになっちゃったけど。
この物語は一応イッセーの成長物語ですから、イッセーが心も力も強くなり、愛する人と結ばれてハッピーエンドです。

それにしてもこの最終話。なんとこの作品最大の一万五千文字超え。
最終話を分割するのは……とそのまま投稿。

無事目標の『四月以内に完結する』を達成!
もう少しペースを落としてもだいじょうぶだったかも。

感想を書いてくださった方ありがとうございます。大変励みになりました。
小説書きは士気が大事ですね。歴史シミュレーションゲーム並みに。
応援してもらえるととてもやる気がみなぎりました!

評価をくださった方もありがとうございます。評価もらえるとやはり嬉しいですね。

アクセスしてくださった方もお気に入り登録してくれた方もありがとうございます。

ハーメルンで初の完結作品です。今やテンションがすごいです。

それではまた別の機会に僕の作品を読んでもらえれば嬉しいです。最後まで読んでくださってありがとうございました。
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