ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです   作:へびひこ

5 / 21
真面目回です。
アーシアの人格が若干変わっています。ある意味別人レベルかも。
純真無垢な天然ドジっ子ではありません。


第五話 聖女に出会いました。彼女は女神です。

 年下の女の子に慰められながら泣き続ける先輩ってどうなんだろうなぁ。

 

 そんなことを思いながら黄昏れる。自宅に帰る足取りも重い。

 情けない男と思われなかっただろうか? 頼りない泣き虫だと馬鹿にされなかったか?

 

「うおおおおお! 俺はなんて恥ずかしい事を!」

 

 以前の神器初出現の時の羞恥プレイをはるかに上回る恥ずかしさに頭をかきむしる。

 

 毎日顔を合わせる相手なんだ。そんな相手に慰められながら泣くって男としてもうダメな気がする。

 

 それなりの見栄があるんだよ。男の子には!

 

「でも、あれは泣くレベルの不幸だと思う。思うんだが……」

 

 将来強くなったら殺す。

 つまりそう言う宣告なんだ。絶望して泣いても仕方ないだろう。

 

 だがそれでも年下の女の子に頭を撫でられ、慰められながら子供のように泣き続ける男っていろいろダメだろ。

 

 小猫ちゃんはどう思っただろう。

 そればかりが気になる。

 

 初対面で変態と思われたのはしかたがない。自分の今までの行動が悪かった。しかも「ハーレム王になる」とかアレなセリフをぶちかました。おかげで冷たい軽蔑の目で見られた。

 それですら耐えがたいと行動を改めて友好的な関係を築き上げたのに。

 

 それなのに!

 

 明日、目が合った瞬間に「ぷっ」と噴き出されたりしたら俺はもう立ち直れないよ……。

 

 全校女子に変態だのエロ魔人だと罵られても屁でもなかったが、小猫ちゃんに笑われるのは無理。耐えられない!

 

 苦悩しながら俺は癒やしを求めて公園のベンチに座り込んだ。

 特になにがあるわけでもないが幼い頃から慣れ親しんだ場所にいると少し和む。

 昔はここで友達と日が暮れるまで遊び回ったんだっけ。あの頃は幸せだったなぁ。

 

「……俺の人生はどこへ行くのだろう?」

 

 目覚めたら全裸漢女との出会い。その後事後承諾の形で漢女の下僕化。地獄のような修行。神器の正体の判明。そして宣告される将来的処刑宣言……!

 

 俺の運命の神様は絶対仕事していないだろう? なんというか適当におもしろければいいやと遊んでいないか?

 

 普通違うだろう。

 

 もはや漢女についてはいまさら言うまい。けれど最弱のパンピーと思ったら実は伝説の神器をもっていたとなったら。そこは強敵と戦い成長して強くなり、いずれは最強の敵をも打倒する勇者の道だろう。

 

 それがなんだ? 最強の漢女が「歴代最強の赤龍帝にしてあげるわ」宣言。地獄の修行の追加がどん! しかも強くなってホントに最強になったりしたら、ホントに最強な漢女との戦闘がずどん。しかも殺される未来しか想像出来ないってどんだけだよ。

 

 伝説の神器を持つ少年は最強の漢女に育てられ、最強の赤龍帝になったら最強の漢女と戦ってぶち殺されました。めでたしめでたし。

 

「めでたくないわーっ!!」

 

 思わず叫ぶ。

 

 ……俺は、俺は結局主人公になれない男なんだな。きっと主人公はあの漢女だ。俺は漢女の手下だろう。しかもそのうちたいした意味もなく戦って殺される使い捨てタイプのキャラだ。

 

 きっと不人気な使い捨てキャラなんだよ。ふふっ、おもしろいなぁ笑えるなぁ、そうだろう? 笑えよ、遠慮なく。

 

 世界中のすべてが俺を嘲笑うといいさ! 俺はそんな道化に生まれついたんだろう。

 

 運命が仕事していないのではなく仕事した結果こうなのだろうさ。道化は道化らしく苦労して苦しんでたいした意味もなく死ねと。世界が俺に訴え望んでいるんだ!

 

 盛大に世界を呪っているとふと隣に人の気配を感じた。なんとなくいい匂いがする。女子のシャンプーの匂いだろうか。学校の女子とは少し違う匂いだ。

 

 小猫ちゃんはあまり強い香りのするシャンプーは使わないみたいでほんのりと石けんのいい匂いがするんだよなぁ。

 

「あの、大丈夫ですか? 何かお悩みならお話を聞きますけど……あ、日本語じゃないからわからないかな……? あの、私の言っていることがわかりますか?」

 

 そこには金色の髪がとても綺麗なシスター服を着た少女がいた。

 

 

 

 

 彼女はシスター服を着た少女ではなく本物の教会のシスターさんだった。

 

 近くの教会に赴任してきたと言っていたが、彼女のような若いシスターが行くような立派な教会があっただろうか? 見たところ同年代に見える。俺の知る教会はずいぶん無人でほったらかしにされたものだ。

 

 もしかしてあそこを再建するか? それにしては若すぎるような気がする。責任者は他にいて彼女はそのお手伝いなのだろうか?

 

「日本語が話せないので、お話しできる方はひさしぶりです」

 

 そう彼女は喜んでいたが、俺の耳には彼女は日本語をしゃべっているように聞こえる。

 

 確か悪魔に関する常識関係の授業で語学関係もあったような。悪魔はあらゆる言語を理解出来るんだったか、いやだいたいの言語だったか?

 

「何かお悩みのようでしたが、よろしければお話を聞きましょうか?」

 

 そう邪気のない無垢な笑顔で提案してくる。まさに天使の笑顔だ。小猫ちゃんに匹敵する癒しパワーだ。きっとそう言う波動を発しているに違いないと確信できる。

 

 この癒しパワーを前にすればいっそ話してしまおうかという気にさえなる。小猫ちゃんにすがって泣いたばかりのくせにまた女の子にすがるのかとプライドが騒ぐがあっという間に目の前の天使の信者達によってプチッと潰された。

 

 もう俺の心の中には彼女の信者達がたくさん住み着いている! なんて癒しパワー! そして圧倒的カリスマ! これが本物のシスターの実力か!?

 

「ちょっと悩んでいることがあるんです」

 

 そう前置きして話し出した。もちろん内容はぼかしたが。

 

 俺は高校生だがある人物の部下であること、その人物は極めて優秀な人で正直自分が力になれることなどなにもないと思えること。

 

 他にも部下がいてその誰もが自分よりも優秀なこと、彼女の部下の中で自分が一番劣っていること。

 

 その上司に将来を期待していると言われたこと。でも自分はそれに応えられる自信が無いこと。

 

 ……嘘は言っていない。

 

 部長は俺の上司だし、俺が千人でかかっても一発で殲滅されそうなほど強い。正直俺の力が必要な場面が思いつかない。

 

 他の部長の部下である眷属も全員俺よりはるかに優秀だ。俺が勝っているのは『赤龍帝の籠手』という希少な神器をもっているという一点だけだろう。そして俺はそれを使いこなせない。

 

 将来に期待されているのは事実だろう。『最強の赤龍帝』になる事を期待され、『全力の部長』が戦える相手になる事を期待されている。

 

 だが俺には自信が無い。部長が全力を出したら、例えドライグの言う禁手化が出来たとしてもあっさり殺される気がしてならない。

 

「将来に自信が持てないんです。いつか上司や仲間から見限られておまえなんか必要ないと言われるんじゃないかと怖いんです」

 

 小猫ちゃんに慰められながら子供のように泣いた。きっと情けない男だと思われただろう。軽蔑されたかもしれない。こいつはもうダメだと呆れられ見限られたかもしれない。

 

 泣いたことも恥ずかしいがそっちの方がはるかに怖い。

 

 最初はがんばろうと思った。がんばればきっと俺でも役に立てると。

 

 でもみんなの実力を見て、部長の力を見て、冷静になってみると不安になる……不安になってしまったのだ。

 

「俺なんて本当は必要ないんじゃないかって不安なんです」

 

 だから小猫ちゃんが伝えてくれた部長の伝言も俺には『おまえは将来殺し甲斐のある敵になるぐらいしか使い道がない』と言われたように感じた。事実上の処刑宣言としか聞こえなかった。

 

 涙が溢れてくるのが止められない。

 

 こんな自分が情けなくて仕方がない。

 

 人間だった兵藤一誠はセクハラ行為をするしか能のない人間だった。正直誰にも必要とされていなかった。いっそ消えてしまえと思っている女子だって多かっただろう。

 

 悪魔になった兵藤一誠も『兵士』の駒八個消費という規格外っぷりからは想像も出来ない落ちこぼれだった。誰でも出来るレベルの転移の魔方陣にすら反応されなかったのだから正真正銘の落ちこぼれ、間違いなくスカだと眷属の誰もが思っただろう。

 

『赤龍帝』となった兵藤一誠もあきらかに能力不足だった。最強と言われる神器。神滅具をもちながらその能力を生かせない。あきらかに才能のない無能。それはドライグだって見捨てたくなるだろう。

 

 悔しかった。悲しかった。虚しかった。

 

 神器を宿していることで堕天使に騙され殺されかけた。

 悪魔に救われその眷属になった。

 修行をつけてもらい『赤龍帝の籠手』を発現させた。

 

 そのどの場面でも兵藤一誠自身の力でなんとかしたことなどないと俺は思う。

 

 堕天使が俺を狙ったのは俺の中にある神器だ。俺自身にはなんの興味もなかっただろう。

 

 部長が眷属にすることを決めたのも神器があったからだ。もしなんらかの事故で死にかけているただの人間だったら眷属にしてまで救おうと考えただろうか?

 

 強くなれたのは部長の修行のおかげだ。厳しい修行だが確かに俺の力になった。その結果が『赤龍帝の籠手』だ。俺が目覚めさせたわけじゃない。部長のおかげだ。

 

 俺は卑屈になっている自分を自覚してもいたが止められなかった。確かに俺は無力で無能であきらかに役立たずなのだ。

 

「お話はわかりました」

 

 金髪のシスターは穏やかに微笑んだ。まるですべてが許されるような慈愛を感じさせる。正直後光が見えるようだ。

 

 俺は涙に濡れた目でシスターの慈愛の眼差しを受け止めた。ああ俺はきっと許される。こんな俺でもこの人なら認めてくれると無条件に信じられた。

 

「泣き言ばかり言っていないでください。ちゃんとつくものついているんですかこの玉無しが。去勢でもされましたか? それとも不能なんですか? 少しでも根性があるのならおっ立てるつもりで根性ひねり出しなさい」

 

 空気が止まった。世界が止まった。俺の心臓さえ止まった気がするがすぐに動き出してくれた。

 

 あ、危なかった。なんだ今の精神攻撃は? 一瞬即死するかと思ったぞ?

 

 目の前のシスターはいったい何と言ったのだ? 脳が理解を拒否する。ありえない。この子はきっと天使なのだ。それがあんな品のない罵声を淡々と……。

 

 純真無垢を絵に描いたようなシスターの口からありえない下品な台詞を聞いた気がする。気のせいだ。気のせいだと思いたい。

 

 しかし現実は常に俺に厳しい。うむ、平常運転だな……たまには優しくしてくれないと本気で自殺の方法を調べかねんぞ?

 

 現実逃避する俺に容赦なく目の前の天使が追撃をかけてくる。どこかの戦国最強騎馬軍団も蹴散らしそうな突破力に俺の精神は紙のようにブチ抜かれる。

 

「聞いていれば泣き言ばかり、あなたはもしかして世界で一番自分が不幸だとでも言いたいのですか? 無力さに嘆く人など世界に大勢います。誰しも一度は自分の無力さに悩むでしょう。いえ、人生の中で壁にぶつかるたびに悩むでしょう。あなたは自分だけが特別だと思っているのですか? それはたいそうお偉いのですね。世界に選ばれた主人公気分ですか? 泣いてすがればヒロインが慰めてくれて一緒に立ち向かってくれるとでも? あなたが今言ったことを要約すれば『自分はなんて無力でかわいそうな存在なんだ』だけです。そしてあなたの望んでいる言葉を私は与えることも出来ますが、あなたはそれで救われるのですか? 本当に立ち直って困難に立ち向かえる力をその心に叩き込めるのですか?」

 

 ざくざくと精神攻撃は続く。慈愛の聖女のような少女が淡々と言葉の剣で俺を滅多切りにしていく。感情的なところが一切見えないところが余計に怖くて心に痛い。しかも笑顔のままだ。この子笑いながらなんてこと言うんだよ。実はドSなのか?

 

 もうやめて……俺の精神値は限界だ。きっと帰ったら自殺の方法を、いやもう帰らないままどこぞで死のうか? 『赤龍帝の籠手』で最大まで倍加して自分をブン殴れば頭ぐらいパカーンと吹き飛ぶかもしれない。苦しまずに即死できるんじゃないかな?

 

「言ってあげましょうか? 『きっと仲間の皆さんもあなたの努力を認めてくれます。上司の方もきっといつか成長したあなたを見てあなたを部下に迎えたことは間違っていなかったと認めてくださるでしょう。あなたは上司や仲間の方を信じて努力を怠らずに一歩ずつ前へ進めばいいのです』……どうです。満足しましたか?」

 

 どこまでも優しい声。心に染みこんでいくような俺を認め許す言葉。だがその後に俺を貫いた冷たい視線に俺の心は凍りついた。

 もしその言葉を温かい笑顔と共に与えられたら俺は歓喜しただろう。だが現実には『おまえにはなんの価値もない。この玉無しが』と言いたげな冷え切った眼差しを向けられていては喜べるはずもない。

 

「あなたに足りないのは自らがこうありたいという確固とした信念です。あなたには自分がない。だから自信が持てない。他者と比較して自分を卑下する。未来に自信が持てない。迷い、悩み、自信が持てない人間によくあることです」

 

 こうありたいという信念。俺には……あるだろうか? 考えたこともない。

 

「今のあなたに本当に必要なのは慰めの言葉ではなく。あなた自身の決意です。なにがあっても自分はこうでありたいという覚悟です。それがなければ私がひとときの許しを与えたところであなたはまたいつか同じ事で悩み苦しむでしょう」

 

 それはそうだ。彼女にすがって慰めてもらっても俺が今のままだったら同じ事の繰り返しになる……。

 

「どんな小さな事でもかまいません。決断なさい。こうと決めてそれを貫きなさい。そうすればあなたの心にそれは強固な芯となってあり続ける。悩み迷ったときにその決意があなたを導くでしょう」

 

 俺は今度こそ心の奥底から涙が溢れて止まらなかった。

 

 目の前にいる少女は本当に天使だと思えた。ただ優しく慰めてくれる母親のような天使ではない。厳しくも少しでも正しい方向に導こうとしてくれる。少しでも俺が力を持てるようにと考えてくれる優しくも厳しい天使……いや女神様だ。

 

 本物の聖職者マジすごい。

 言葉に有無を言わせない説得力がある。力がある。魅力がある。圧倒的な信頼感が溢れてくる。同じ事を両親に言われてもここまで心震え魂が歓喜の叫びを上げることはなかっただろう。

 

 そうだ。俺に足りないものは表面的な力だけじゃない。そもそも悪魔になったのも神器に目覚めたのも状況や他人に流された結果だ。俺の決断じゃない。

 

 俺は俺自身の心で決断しなければ前へ進めない。きっと強くなったとしても『これでいいのか』と迷い続けるだろう。

 

 俺はなにを思って悪魔になったことを受け入れた。なにを思って上級悪魔になる。ハーレム王になるとほざいた。なにを考えてあの部長の『地獄修行』を生き延びた!

 

 俺は部長に恩がある。その恩を返したい。命の恩は俺が『赤龍帝の籠手』をもって部長の眷属となりその実力を認められればある程度果たせる。そんなものでは俺の心を満たさない。足りない。

 

 上級悪魔になる事? 立身出世? ハーレム? そんなものは力を身につけた結果ついてくるものだろう。全然足りない。

 

 あの修行の中で俺はなにを考えた? 部長を悪魔だオカマだと罵った? 俺を殺そうとしていると疑った? きっと死ぬだろうと絶望した? そして俺は……。

 

「俺は生きたいと思ったんだ……」

 

 自然と口からその想いが漏れた。

 

 夕麻ちゃんに殺されかけたときも結局は俺は死にたくない。生きたいと願った。

 

 そしてあの修行でも俺はただ『生きたい』という一心で生き残った。そして部室に帰ったとき自分が生きていることを喜んで心の底から涙を流した。

 

「俺は俺らしく生きていきたい。全部が全部思い通りにはならないだろうけど。それでも俺は……『俺の人生を生き抜きたい』と思う」

 

 意味もわからず堕天使に殺されるのも部長にいびり殺されるのもまっぴらだ。俺は俺らしく生きて生きて生き抜いてから死にたい。

 もちろん将来強くなったときに部長に遊び感覚で殺されるのもまっぴらだ。何がなんでも生き抜いて俺は自分の人生を歩む。部長に勝てないまでもけして殺されたりしない。無様でも失望されても生き残ってやる。

 

 人間としての短い一生を無駄にしない。悪魔に転生したことを後悔しない。部長の眷属であっても俺は俺だ。

 

 俺は俺の人生を生き抜く。何としてもだ。なにをやってもだ。

 

 胸にすとんと何か重たいものが収まった気がする。今まで空っぽだった場所に確かに存在感を感じる何かがある。今の俺はそう信じられた。

 

「迷いは晴れましたか?」

 

 シスターの目がまた慈愛に満ちた温かいものに変わった。

 

「はい」

 

 俺は素直に肯いた。この人は俺の恩人だ。部長が命の恩人なら、この人は俺に人生を教えてくれた恩人だ。

 

 繰り返すが、聖職者マジすごい。

 正直今までなめてました。適当に神様信じているだけの連中程度にしか思っていませんでした。けれど本物はすごかった。きっとこの同年齢ぐらいの少女は同じようにたくさんの人を激励し、その心と人生を救い導いてきたのだろう。

 

 ときどき下品な言葉が出てきたのは……たぶんこのシスターを教育した人に問題があったに違いない。彼女はなにも悪くない。うん。

 

「それはよかったです。今のあなたは先ほどの玉無しぶりからは想像も出来ないハンサムさんになっていますよ」

 

 笑顔で告げられた言葉に俺は苦笑した。俺はよほどひどい顔をしていたのだろう。先ほども、今までも人生でも。

 きっと玉無しと罵られても仕方がない腑抜けた間抜け面を晒して今まで生きていたのだ。

 

「よかったら名前を教えてくれませんか? 恩人の名前ぐらい憶えておきたい」

「私はただの主に仕えるシスターです。私の名など聞く必要はありません。あなたが心に刻むのは私の名ではなく、あなたが見いだした答えなのですから」

 

 恩人のことを名無しのシスターとだけ記憶するのはとても寂しい。

 それでもと食い下がると金髪のシスターは少女らしい困った顔を浮かべた。そう言う顔をすると年相応の年齢に見える。

 

「そうですね。あなたが私の『友達』になってくれるなら自己紹介しあうのが普通かもしれませんね」

 

 少し表情を曇らせながら彼女はそう提案した。なんだろう。そんなに名乗りたくないのだろうか。その程度にしか俺はそのとき考えなかった。

 

「ああ! もちろんいいとも! 俺は君の友達になる。俺は兵藤一誠。イッセーって呼んでくれ」

「私の名前は……」

 

 俺の言葉に泣き笑いのような妙な表情を金髪の少女は浮かべた。歓喜しているようにも悲しんでいるようにも、あるいはすべてを諦めているようにも見える。

 ためらいがちに少女は口を開き、その目を驚愕に見開いた。

 

 それを疑問に思う間もなく俺は激痛を感じて吹き飛ばされた。

 

 なんだ。頭が揺れる。頭に一撃食らったか。

 

 部長の修行の経験から俺は現状のダメージを即座に分析した。ダメだ。頭部への強力な不意打ち。このままでは意識が落ちる。不意打ちを仕掛けてくるような敵対者のいる場で意識を失うのは死ぬこととほぼ同義だ。俺は必死に耐えようと努力した。

 

 それでも持ちそうにない。絶望しそうになる心を必死に叱咤する。たった今俺は生き抜くと決断したばかりなのだ。こんなところで死ねるか!

 

 最後の手段として部長に教わっていた緊急事態を告げる術を発動する。今の俺に使える数少ない術で、部長が真っ先に教えてくれた術だ。万が一の場合はためらわずに使いなさいといって熱心に教えてくれた。

 

 これで少しは安心出来る。すぐに部長達が来てくれるはずだ。あの最強の漢女が仲間を引き連れてくるのだ。相手が誰であろうと即座にとどめを刺されない限り生き残れる可能性は高い。

 

 最後の意地だ。俺に不意打ちを食らわせた野郎をこの目で見てやると目を見開く。

 

 目に映ったのは黒い翼。美しい少女。そして絶望と諦観に染まった表情で黒い翼を持つ男と女に取り押さえられる恩人のシスターの姿だった。

 

「……また堕天使かっ!」

 

 俺の命を奪い。そして今度は俺の恩人にあんな顔をさせている。

 

 俺はそのとき決断した。

 俺は俺らしく生きる。ならば俺は俺らしく恩人を必ず助けようと。

 

 それこそ兵藤一誠だろうと。

 

 そして俺は固い決意に胸を熱く燃やしながら、意識を失った。

 




 アーシアが別人レベルな気が……タグにキャラ改変とか入れた方がいいかな?

 原作アーシアは神器を使った治療しかさせてもらえなかった感じですが、普通聖女に祭り上げた上に信仰心に厚いならば最低限の聖職者としての心得と知識は教えるのではないかなと思います。

 その方がより聖女らしくなりますし。

 信徒に説教の一つも出来ない聖女様って。原作アーシアの天然純真無垢ぶりを見る限りそういうスキルがあるとは思えませんでした。まぁそう言うキャラだと言えばそれまでなんですけど。

 うちのアーシアは信仰心の厚い優秀な神父の教えを受けてこうなっています。一部神父の悪癖を継いでしまったことで周囲を泣かせたりもした設定です。

 聖女様が玉無しとか言っちゃあかん……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。