ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです   作:へびひこ

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イッセーの活躍を書こうとすると真面目な話になりがち、コメディー宣言しているのに……。


第六話 恩人に手を差しのべるだけ……それがこんなに難しいなんて。

 気がついたときには部室にいた。

 オカルトかぶれの気合いの入った変人が飾り立てたような部屋を見て安心するようになった俺はだいぶ感覚が麻痺している。

 

 寝かされていたソファーから立ち上がる。そしてそれが当たり前であるというその場の空気に押されるように部長の前に立った。

 負傷したはずだが痛みはもう欠片もない。ちょっと不思議な気分だ。結構痛かったのだが。

 

 周囲にはオカルト研究部の仲間が、グレモリー眷属がそろっていた。もしかしてわざわざ俺のために集まってくれたのだろうか?

 

「怪我は治療したわ。意識を落とすための攻撃だったようね。軽傷だったし問題はないでしょう」

 

 目覚めた俺に部長がそう優しく声をかけた。部長専用の椅子に腰掛けた姿はまさに威風堂々たる偉丈夫だ。なんというか王者の風格がある。今は威圧するような様子はなく部下を労る主君といった穏やかさだ。

 

「よく『緊急警報』を使ってくれたわ。おかげですぐに私と朱乃が助けに向かえた。そうでなければ殺されていたかもしれない。よく頑張ったわね」

 

 まずは褒められた。俺としては部長に鍛えてもらいながら不意打ちを食らったことに忸怩たるものがあるので喜べない。

 

 俺はまだまだ弱い。

 

 覚悟を決めてもう一度部長に鍛えてくれとお願いするべきかもしれない。怖いからたぶん言い出せない気もするが。

 

「では事情を説明してもらえるかしら? 私たちの気配を察したとたんあなたを襲った敵は逃げてしまったので詳しいことはわからないの。気配からたぶん堕天使、それも複数だとはわかっているけど」

 

 部長の目にかすかに怒気が垣間見える。不甲斐ない俺が怒られているような気がして身体が固くなる。

 

「俺はあの場で教会のシスターだと名乗った女の子と話をしていました」

 

「教会のシスター?」

 

 部長が目を細めて俺に一睨み食らわせる。周囲の部員も何か言いたそうな空気を出しているが今は部長が話している。無言でこちらを見据えてくる。

 

 言いたいことはわかる。そのあたりのことはもう習っているのだ。教会は悪魔にとっての敵なのだ。正確に言えば向こうが悪魔を不倶戴天の敵として襲いかかってくるらしい。

 

 俺としては部長に本気で怒られるのは避けたい。必死に知恵を絞って言い訳する。

 

 セクハラや覗きで女子に私刑を喰らったときの言い逃れの技術がこんなところで役に立っている。

 あの頃はほとんど役に立たなかったけど。悪魔になってからはこの拙い話術と小賢しい知恵のおかげでなんとか契約を取ったりもしてきた。世の中何が役に立つかわからない。

 

「俺と同年代の女の子です。俺が見た限りでは戦闘能力は無いか限りなく低いです。少なくとも俺ですら負けない自信がありました」

 

 初対面で戦闘力を測る用心深さは今後必須だろうな。もちろんあの時はそんなことは考えなかったが。

 結構な時間話し込んだが雰囲気的にたぶんあの子が俺より強いことはないだろう。まるきり嘘じゃないさ。俺は嘘はついていないぞ。

 

「一応警戒はしていたのね。それで無害と判断したから正体を隠して会話をした……少し軽率ね。相手によっては敵意や実力を隠すことも出来る。思いも寄らない神器や道具を持つ相手もいるから今後は気をつけなさい。それで? 教会の人間がどんな人間か興味でもわいたのかしら?」

 

 部長の視線の圧力が一段階ぐらい下がる。自己弁護成功らしい。

 少しお説教が来たがこの程度で済むなら素直に言うことを聞く。確かに俺は弱いのだからまだ相手の隠された実力や神器など見抜けない。確かにもう少し気をつけるべきだろう。

 

 これで何も考えずに美少女シスターとお話ししていましたなんて言ったらきっと部長の鉄塊のような拳が唸りをあげたのだろうか。俺の頭はスイカ割りのスイカな感じになったかもしれない。

 

「いろいろと悩んでいたので試しに相談に乗ってもらいました。彼女も悩みがあるなら聞きますと言ってくれたので」

「悪魔が教会の人間に相談?」

 

 部長が不快げな声音を出した。もう猛獣が唸っているのに近い。

 

「俺は眷属で一番弱いから役に立っている自信がありませんでした。部長や他の仲間には言い難かったので部外者の彼女に詳細はごまかして相談してみました」

 

 背筋が凍る思いをしながら言い訳を並べる。おおむね事実だ。部長に言っても『では修行しましょう』にしかならないだろうし、他の眷属でも『まだ新人だから』と慰められただけだろう。

 

 部長は軽く眉間を抑えるとため息をついた。

 

「あなたはまだ新人なのだからそんなに思い詰めることはないのよ……それでそのシスターはなんと言ったの?」

「まずは覚悟を決めて自分をしっかり持てと。俺にはそこからまず足りていないからなんでもいいから覚悟を決めて、それから進めと」

「どうやらまともなシスターだったようね。普通は適当になだめて終わりでしょうに」

 

 少し感心したように部長が興味深げな顔をする。どうやら俺の会ったシスターに興味がわいたらしい。

 

 でも普通はそう思いますよね? 俺もそれを期待して愚痴をこぼしたつもりなんですけど「玉無し」と罵られて激励されましたよ。

 

「それから彼女の名前を聞こうとしたら、不意打ちを食らって俺は行動不能。なんとか踏ん張って状況を確認したらどうやら堕天使が最低でも三人でそのシスターを誘拐しようとしていました。その後は意識を失ってしまったのでわかりません」

 

 俺から報告できることはそれだけだが、若干都合の悪い箇所を省いてもいる。

 彼女は堕天使に『誘拐』された。俺が一瞬見た光景では彼女はほとんど無抵抗だったが間違っても喜んでついていくという雰囲気では無かった。だが抵抗も逃亡もしなかったのだ。『誘拐』される人間にしては少しおかしい気がする。

 

 だが俺は『誘拐』で押し通す。そうでなければこの後の俺の行動。そのただでさえ少ない正当性が完全に失われるのだ。

 

「彼女は抵抗していたの?」

 

 さすが部長。いやなところをついてくる。

 

 さすがに大貴族の跡取りで上級悪魔か。俺ごときにやすやすと言いくるめられるほど単純ではない。

 

 だが俺は負けない。負けられない戦いが今ここにある。

 

 あのクソ堕天使をぶちのめして彼女を救うためにはまずは部長に納得してもらう必要がある。最低でも俺の行動を黙認してもらえなければ、殴り飛ばされて終わる。

 

「いえ、あっという間に取り押さえられてしまいましたから抵抗も逃亡も無理だったと思います。おまけに冷静になって考えてみれば目の前で人一人が簡単に殴り倒されたあげくあきらかに人間ではない連中に囲まれたら、普通のシスターにしか見えなかった彼女が抵抗するのは難しかったでしょう」

 

 普通の女の子なら怯えて錯乱するか泣きだすだろう。取り乱す様子のなかった彼女はある程度あの事態を想定していたのだろうか。

 

「ふぅん、説得力のある説明ね。イッセーらしくないと思うのは失礼な感想かしら?」

 

 口元に笑みを浮かべて俺を楽しそうに見やる。見透かされているようで生きた心地もしない。

 

「イッセーはあまり頭の回るタイプではないと思っていたのだけど。その割にはきちんとした説明ね。不意打ちで倒されて目覚めた直後なのに慌てすらしないし」

 

 しまった! 部長の目から見て俺の態度は不自然に見えたらしい。

 俺は気絶する前の状況はだいたい理解したつもりだし、それからどうするかも決断し、覚悟もしていた。すぐに部長が助けに来ることを信じてもいたから部室で目覚めても驚かなかった。

 

 けれどよく考えれば、部長から見た俺はつい最近までただの高校生だった一般人に毛の生えた程度の新米だ。それが冷静に状況を把握し、ある程度整然と説明してのける。慌てもしない。なにが起こったかを問い返してうろたえもしない。冷静に考えればかなり不自然だ。

 

 冷や汗がだらだらと流れる。

 部長の楽しげな視線が怖い。今にも豹変して俺を殺しに来そうと思うのは被害妄想だろうか?

 

「イッセーは意外ととっさの事態に強いタイプなのかしら? 朱乃はどう思う?」

 

 朱乃さん! ぜひフォローを! いつかのような優しく寛大なお心でお願いします!

 

 部長に視線を向けたまま祈る。朱乃さんがどんな顔をしているか見るわけにもいかない。見ればきっと朱乃さんにすがるような視線を向けてしまう。そうなればさらに疑われかねない。

 

「その女の子に一目惚れでもしたのではないでしょうか? 男の子が別人のように必死になる理由としては妥当ではないかと」

 

 なんてことを言うんだこの腹黒女!?

 

「シスターと悪魔の禁断の恋。物語にしたら売れそうね。ある日仕事が上手くいかずに落ち込んでいた悪魔の男の子がシスターと出会って立ち直り、その後も正体を隠してシスターと親しく接し、シスターのピンチに助けに行く。王道ね。ラストで悪魔だとバレて拒絶されたら悲恋になるけど」

 

 部長が楽しげに語る。俺はもう身体の震えが止まらない。心なしか小猫ちゃんの視線が冷たい気がする。木場はどこか楽しげだ。

 ……俺は小猫ちゃんを怒らせるようなことをしたのだろうか? それと木場、俺の窮地に何を笑っている? そんなに親友のピンチが楽しいのか?

 

「それで私の可愛い下僕なイッセーは何がしたいの? 正直に言いなさい」

 

 もう腹を括るしかない。最初から小細工の通用する相手ではなかったのだ。

 

「彼女を堕天使から助けたいです」

 

 はっきり言った。

 とたんに部長は真顔になり部長の斜め後ろに控える朱乃さんの目つきから笑みが消えた。まるで虫けらを見る目だ。そこまでまずいことをいったのか、俺は? 堕天使は悪魔の敵なんだろう?

 

「理由を言いなさい」

「まず俺にとって彼女は恩人です。迷っていた俺を叱咤し立ち直らせてくれた。彼女の言葉がなかったら俺はきっといつかダメになっていた」

「……眷属を導くのは『王』の役目なのだけど。そのあたりは話していなかったかしら? その子がいなくてもいずれ私がなんとかしたわよ? あなたが自信を持てないでいたのはわかっていたし、悪魔として生きる覚悟をもてないでいるのも察していた」

 

 さすが部長。俺の悩みなんてまるっとお見通しだったらしい。

 

「あと俺は堕天使が嫌いです。俺を殺したのも堕天使だし、俺の恩人を目の前でさらったのも堕天使ですから」

 

 それを聞いて部長はちょっと楽しげに朱乃さんに視線をやる。

 

「イッセーは堕天使が嫌いですって。朱乃はどう思う?」

「イッセー君の悪魔に転生した理由からして妥当でしょう。自分を殺した相手を好きになるのはよほどの物好きですわ」

 

 ……そこでなぜ朱乃さんに聞くのだろう? 木場や小猫ちゃんならまだフォローが期待できるのに。

 

 さっきから部長よりもむしろ朱乃さんの視線が怖い。

 なんというか殺処分を検討している管理者の目だ。部長の許可が下りれば俺を殺すことにきっと躊躇ないのだろうな。

 

 グレモリー眷属の中でたぶん朱乃さんの好感度が一番低い。表面上礼儀正しいけど、そこに俺個人への親しみとかはあまりない。あくまで部長の眷属としての対応しかこの『女王』はしなかった。

 個人的にも友人の小猫ちゃんや木場はもちろん、部長でさえそれなりに俺を気遣ってくれるというのにだ。ある意味俺から見ると仲良くやっている部や眷属の中で一番異質なのが『女王』である朱乃さんだ。

 

「まだ政治の話は早いと思ったから詳しく教えていなかったけど。悪魔と堕天使は確かに敵同士よ? だけどそれでも滅多に争わないのよ。少なくとも最近はね」

 

 部長が真面目な口調で教えてくれる。

 過去戦争もした三勢力。悪魔、天使、堕天使だが戦争の被害があまりに大きすぎたためこれ以上戦争を続ければ種族ごと滅亡しかねない。

 だから何処の勢力も戦争をしたくない。なるべく争い事を起こさず。争いを大きくせずにしたい。

 

 そんな状況で悪魔が堕天使を滅ぼせばどうなるか?

 当然堕天使勢力は悪魔に対する悪感情を爆発させるだろう。どこの世界にも状況の見えていない好戦的な奴はいるらしい。そういう強硬派が開戦を主張し堕天使勢力の大勢がそちらに流れたら?

 

 悪魔と堕天使の戦争が再開される。当然天使もその状況に乗る。あるいは両者が弱ったところで漁夫の利を狙うかもしれない。

 

 俺は愕然とした。

 堕天使は悪魔の敵なのだ。理由さえあれば彼女を助けることもなんとかなると考えていた。問題は彼女が教会のシスターだということぐらいだと。彼女も悪魔から見たら敵対勢力だからそこをなんと目をつぶってもらおうと。

 

 けれど問題はそこではなかった。

 堕天使に喧嘩を売ること自体が、下手をすれば悪魔と堕天使の戦争どころか三勢力の全面戦争への流れさえつくりかねない。

 

 俺にそんな責任を負えるはずもない。俺なんて戦争になったら真っ先に殺される雑魚だろう。なんの役にも立たないから償いすら出来ない。

 

 言葉を失うとはこのことか……。

 俺は彼女を助けたい。けれど下手をしたら部長達に迷惑がかかるどころじゃない。三勢力が生き残りをかけた大戦争。悪魔と堕天使の住む冥界、天使の住む天界。俺たちの住む世界だって無事に済むか保証が無い。

 

 沈黙する俺に朱乃さんが冷笑すら浮かべて声をかけてきた。

 

「自分がどれほど愚かなことを口走ったか理解しましたか? あなたはリアス・グレモリーの眷属でありながら自らの『王』に堕天使との戦争の引き金になりかねないことをしたいと主張したのですわよ」

 

 さらに言葉を続ける。

 

「あなたは堕天使の蠢動を見逃したリアスを責めていましたが、リアスだって好きで見逃したわけではありません。下手に手を出せば政治的問題に発展しかねない。事は慎重に運ぶ必要があった。当然時間がかかります。その時間をかけている間にあなたは死んだ。それでリアスを恨むのは見当違いです。リアスにも責任はあるかもしれません、ですがリアスは自分に許された裁量の中で最善を尽くした。恨むならリアスの領地に勝手に侵入した堕天使をまず恨むべきではないのですか?」

 

 一言もない。

 そんなことは知らなかったといっても意味は無いだろう。

 俺は確かに堕天使を見逃していた部長を責めた。けれど俺を殺した堕天使への恨み言など彼女たちの前では口にしなかった。

 

 朱乃さんが不快に思ってもしかたがない。俺は彼女の『王』を批判しながら犯人自体は非難しなかった。さぞ不愉快だっただろう。部長だって出来る限りの事はきっとしていたのだ。

 

 おまけに部長はそんな俺を悪魔に転生させるという方法であっても助けている。そのことに礼も言わない俺はさぞかし朱乃さんの神経を逆なでしただろう。

 これでは俺に対する好感度が低くても仕方がない。俺の態度が悪かったのだ。ある意味小猫ちゃん以上に初期選択肢をミスっている。むしろ敵対フラグを立てている程だ。

 

「あまりイッセーを苛めないであげて、彼は何も知らなかったのよ?」

「すみません。けれど何も知らないまま部長に不満を持たせるのは良くないと判断しました」

 

 軽く部長に頭を下げる朱乃さん。俺を見る目は相変わらず友好的とは言いがたい。これからがんばって信頼を回復しなければならないだろう。きっと長い付き合いになるというのに毛嫌いされていてはやりにくいし、俺の精神値にダメージが来る。

 

「それでイッセー。状況は理解出来たかしら?」

「……はい」

 

 なんと言えばいい。なにを言えば彼女を助けられる? 眷属を抜ける? そんなの無駄だ。部長が許すはずがないし宣言したとたん殺される。特に朱乃さんに。

 

 それにそれではあまり意味が無い。眷属を抜けても元眷属だろう。それのしでかしたことに部長がまったく責任を負わないというのは楽観的すぎる。

 世間のニュースだって『元〇〇社員の〇〇が犯罪行為を』という言葉が聞こえてくればその会社に対する印象は悪くなる。詳しくは知らないがきっと直属の上司などは周囲から責められるのではないか?

 

 俺は絶望しかかった。八方塞がりに感じる。俺のお粗末な頭では事態を打開して目的を遂げる方法が思いつかない。

 

「そういえばその堕天使は以前から私の縄張りを荒らしている輩なのよね」

 

 部長が何気ない様子で話し始めた。

 

「私も仕事はしているのよ。その堕天使の見当はついているし活動拠点も割り出している。後は上から許可さえもらえば私の縄張りを侵した愚か者を潰せるわけなの」

 

 けれどそれは時間がかかると朱乃さんが……。

 その間に彼女がどんな目に遭うか想像したくもない。同年代の可愛い女の子なのだ。ひどいことだってされるかもしれない。

 

「でもイッセーはすぐにでも殴り込みをかけてその子を救いたいのね?」

 

 答えられない。その言葉がどれほど重いか突きつけられた俺は自分の意志を貫けない。覚悟したはずなのに、決断したはずなのに。

 

 ……涙がこぼれそうだ。俺は弱い。俺は愚かだ。俺は……やはり役立たずだ。

 

 部長が困ったような顔をしたあと精一杯の優しい口調で語りかけてきた。

 

「そんな顔をしないの。素直に答えなさい。けして叱ったり罰したりはしないし、させないことをグレモリーの名にかけて誓うわ」

 

 朱乃さんが目を見開いて驚いている。貴族が家名にかけて誓う。それがどれほどの意味があるのか俺にはわからない。けれど朱乃さんの態度からきっと重いことなのだろうと理解した。

 

「……俺は、なんとかして彼女を助けたいです」

 

 部長が我が意を得たりとばかりに笑った。

 猛獣が獲物を見つけて喜ぶような獰猛な笑みだが、不思議と怖くなかった。何故か頼もしさすら感じるのはもしかしたらという希望が俺の胸にわいてきたからだろうか。

 

「可愛い下僕の初めてのわがままだもの。叶えてあげるわ。イッセーのその願い。もちろん契約じゃないから代償なんて取らないわよ?」

「リアス!? まだ上層部からの許可は下りていません! 下手をすればリアスの経歴に傷がつきます!」

 

 朱乃さんがすごい剣幕で諫めるが部長はたくましい両腕を組んで不敵に笑った。

 

「もともとあの連中は目障りだったのよ。私の縄張りで好き放題。おまけに神器もちとはいえ一般人を襲撃。あげく私の眷属を襲った。さらに私の縄張りで教会のシスターを自称している存在をさらった。下手をすれば堕天使が教会に敵対行為を働いたことを私が黙認したことになりかねないとは思わないかしら?」

「それは……しかし確証がありませんわ。あくまでも現段階では自称シスターです。教会の管理外の存在である可能性もあります。上層部もすぐには納得しません。調整には時間がかかります」

 

 部長はにやりと口元に笑みを浮かべる。

 

「そんなの簡単よ。お兄様にちょっとおねだりすればすぐだわ」

 

 ますます朱乃さんが驚く。

 

「リアス……なにもイッセー君のためにそこまでする必要はありませんわ。普通に手順を踏み堕天使の討伐命令がくるのを待てばいいではありませんか?」

「あら、私のわがままっぷりはすでに有名よ。いまさらたいしたことではないし、事情を知ればむしろ納得されるでしょう。いえ、よくも今まで我慢したものだと感心されるかしら? 私ってどうも短気だと思われているらしいし」

 

 朱乃さんの言葉も剣幕もだんだん弱々しくなっていきしまいにはため息をついた。

 

「……また着せ替え人形にされますわよ」

「それは……まぁ仕方がないわね。お兄様の趣味なのだから、たまにはお兄様とのふれあいもいいと思いましょう」

 

 少し憂鬱そうな顔をしたが、着せ替え人形? 部長はその『お兄様』にいったいなにをされるんだ? というか部長のお兄さんって事は大貴族の息子って事だよな。ひょっとして偉い人なのか……って大貴族の息子、しかも妹の部長でさえ領地を任される上級悪魔なら年長の兄ならもっと偉くても不思議はないか。

 

「じゃあ、ちょっとお兄様におねだりしてくるわ。十分もかからないからみんな殴り込みの準備をなさい」

 

 そう言って部長は部室を出て行った。きっとその『お兄様』に連絡を取るのだろう。

 

「あの……部長のお兄さんってもしかして偉い人なんですか?」

「部長のお兄様は現魔王のお一人のサーゼクス・ルシファー様ですわ」

 

 おそるおそる尋ねた俺に朱乃さんがいつもの笑顔を浮かべて礼儀正しく答えてくれる。あきらかな軽蔑の眼差しはなくなったがやっぱり内心では俺のことが好きではないんだろうな……。

 

「着せ替えって言うのは?」

「サーゼクス様のご趣味です。リアスに子供の頃の格好をさせて写真を撮るのがお好みらしいですわ。私も何度かおつきあいしました」

 

 あの漢女に子供服を着せて何が楽しいのだろう? もしかしてサーゼクス様って独特な感性の人なのだろうか?

 

 俺の表情から何を考えているのか察したのか朱乃さんが補足する。

 

「リアスは今はああですが子供の頃はそれは可愛らしい女の子だったそうです」

 

 さらにいえば悪魔は魔力に優れたものならば外見を自由に操ることが出来るとか。部長ならば幼児期の外見になる事など楽勝らしい。ちなみに朱乃さんも出来るらしく同年齢の子供ぐらいになって一緒に写真を撮ったりもしたと若干嬉しそうに語った。

 

 ……ちょっと見てみたい気もする。美少女な部長と朱乃さん。

 

「なかでも十二歳頃のリアスがサーゼクス様はたいそうお好みで、着替えをさせたり写真を撮ったりしているときはたいそうお喜びになります」

 

 魔王様……もしかしてロリコン? いや妹相手ならシスコンか?

 

 というか外見が自由に出来るなら、なぜ部長はあんな違和感ありまくりな容姿なのだろう。まさかわざとそういう姿をしているのか? 本当の正体は美女とか。

 

「リアスは外見を偽るのは歳をとってからで十分だと言ってあまり好まないので普段は使っていませんわ。アレはリアスの本来の姿です。ついでに言えばリアスは自分の姿を嫌ってはいません。むしろ美しいと思っているようです」

 

 後半部分はさすがの朱乃さんも若干あきれ顔だった。いつもニコニコと部長の側にいるけど一応あの外見に違和感をもっていたのだろうか。それともアレを美しいと思える主の感性が理解出来ないのか。

 

 しかしアレが本当の姿なのか。それなのに子供の頃は美少女だったと。

 いったいどういう成長をすれば魔王様がメロメロになる美少女が覇王っぽい漢女になるのだろう?

 

 しかも自分は美しいと思っていたのか。

 いや、ある意味肉体美的な美しさはあるかもしれない。筋肉ムキムキなマッチョだし、一部の趣味人は尊敬の眼差しで見るだろう。部長はそっち系の感性の持ち主なのかな……?

 

 まぁ、今はそのことはとりあえずいいだろう。

 悪魔は魔力に優れていれば外見なんて自由自在か。俺にはきっと無理だな。もし出来るならイケメンになってみたいが部長の修行を受けても並程度。しかも下級悪魔としてはだからたぶん悪魔全体で見たらいまだに底辺クラスだろう。

 

 今はそんなことよりも重要なことがある。

 魔王様、サーゼクス様。お願いします。ぜひ許可をください。もしこのお願いを聞いてくれるなら俺は今以上に一生懸命部長の眷属としてがんばります。だからあの子を俺に助けさせてください!

 

 祈るような気持ちで俺は部長を待ち続けた。

 

「大丈夫だよ。部長のおねだりをサーゼクス様が拒否するなんて滅多にない。それに今回のは時間さえかけていいなら普通に可能な内容だからね。ほんの少し手順を前倒しするだけさ」

「……それよりもイッセー先輩は実戦は初めてでしょう。今のうちに覚悟をしてください。堕天使や、報告でははぐれエクソシストもいるらしいです。人間を殺す覚悟もした方がいいです」

 

 木場と小猫ちゃんがそう声をかけてくれる。

 

 そうだ俺はこれから戦いに、殺し合いに行くのだ。

 部長を信じて待つしかないこの時間で俺は覚悟を決めなくてはいけない。

 

 エクソシストは教会にいる悪魔や堕天使と戦う人たちだったか。はぐれというのは教会に所属していない。あるいは教会から逃げ出したり、追放されたはぐれ悪魔みたいな立場か。

 

 堕天使なら人間じゃないからという言い訳もできる。だが俺は敵とはいえ人間を殺せるか?

 

 脳裏にアーシアの言葉が浮かんでくる。『覚悟を決めろ』と。

 

 そうだ。俺はもう一般人の兵藤一誠ではない。上級悪魔リアス・グレモリーの眷属、『兵士』の兵藤一誠だ。

 悪魔として生きるなら戦うことを覚悟しなければならない。つい先ほど不意打ちを食らって意識を失ったばかりだ。部長が助けに来なければ殺されていただろう。自分が殺す事もこの先きっといくらでもある。

 

 俺は緊張で口が渇くのを感じた。

 俺は彼女を助けたいから、その邪魔をする奴を殺す。

 彼女のため? 違う、俺が彼女を助けたいというわがままから殺すのだ。

 

 俺が俺らしく生きるために。俺は俺の敵を殺す。部長の敵もきっと殺す。仲間の敵も殺すだろう。

 そしてそれが今回は俺の恩人をさらった奴らだというだけだ。

 

「……大丈夫ですか?」

「ああ、たぶん大丈夫さ。俺は俺らしく生きるために。俺の敵を、部長の敵を、みんなの敵を殺す。たぶん出来ると思う」

 

 心配げに声をかけてきた小猫ちゃんが表情を曇らせる。そんなに俺は頼りないだろうか? いや実際に俺は弱い。おまけにまだ新人だ。心配されても仕方がない。

 

「……そんなに思い詰めないでください。私たちも一緒に行きます。だから大丈夫です」

 

 そう言って俺の手を優しく握ってくれた手はとても柔らかく小さくて、そして涙が出そうな程のぬくもりを心に伝えてくれた。

 




普通に領地に不法侵入した堕天使潰しても問題ないんじゃない?
そう思いながらも屁理屈で理論武装、建前は重要です。

うちのイッセーが真面目系主人公っぽくて困る。原作だともっと馬鹿っぽいはず。

あと元一般人が人殺しも覚悟する過程っていまいちしっくりきません。うちのイッセーの理屈も一歩間違えれば危ない人っぽいですし。

そして朱乃さんのイッセーへの好感度は今のところ眷属中最低です。
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