ハイスクールD×D 漢女な部長はとてもすごいです   作:へびひこ

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堕天使討伐、アーシア救出編が思ったより長くなったので分割。三話で収まるかな……?



第七話 グレモリー眷属の出陣、そして我が王との出会い。

 欠けた月が夜空に白く輝いている。

 部長率いる俺たちグレモリー眷属は転移魔法で直接、敵の本拠地の目前に乗り込んだ。

 

「ふぬけておるな。我はどうやらなめられているらしい」

「我らが『王』を侮ったこと。存分に後悔させましょう」

 

 古びた教会の敷地内に転移しても敵はなんの反応も見せない。きっと油断しているのだろう。自分たちが襲撃されるはずはないと。

 

 それを自身が侮られていると俺たちの『王』は不快気に口元を歪める。

 そしてそんな『王』に眷属筆頭たる『女王』朱乃さんが好戦的な笑みを浮かべて宣言した。ああ、きっとここにいる堕天使たちはろくな死に方をしないだろうと確信できる不吉な笑みだ。

 

 

 

 

 あの時、部室に戻ってきた部長は親指を立てて、太い笑みを浮かべた。

 そしてあの全開状態の漢ボイスで部室に集まっていた眷属達に告げたのだ。

 

「許可は取った。我が眷属どもよ。我らが縄張りを侵し不埒な振る舞いをする愚か者どもに鉄槌を食らわせてやろうではないか。おのが力を信じよ。おのが此れ迄成してきた努力を信じよ。貴様らは我が誇る我が眷属どもである」

 

 朗々たる低く響き渡る声が腹に、いや魂に叩き込まれる。

 部長、リアス・グレモリーが俺たちの『王』として部下たる眷属に語りかけている。

 

 皆姿勢を正し、自らの『王』に正対してその言葉の一欠片さえ聞き逃さないとばかりに一言も発さず身動きすらせずに『王』の言葉に耳を傾ける。

 

 俺でさえ自然に背筋が伸び、真剣な顔で普段とは違う迫力を感じさせる『王』を見つめた。

 

「貴様たちは断じて木っ端堕天使や教会に居場所を失ったエクソシストなどに劣りはせぬ。おのが力を示せ。王たる我にその武勇を示せ。我は貴様らの健闘と勇戦を望み期待する」

 

 言葉もない。本当になんと例えたらいいかわからない。

 自分でもこの感情がなんであるのか理解出来ない。ただ魂の奥底から力が溢れ、熱い想いが胸から溢れ出して全身を満たす。

 

 まだ自分に自信のもてなかった俺でさえ自分はやれると今なら信じられる。俺の人殺しの覚悟などこの『王』の言葉の前ではチリに等しい雑念に思える。

 

「我、リアス・グレモリーに従う我が愛しき眷属たちよ。我が宝にして誇りである愛し子たちよ。出陣である! 今から向かうは戦場である! 汝らの王は貴様ら全員がこの場に帰還することを強く望むものである! いざ我らは戦人となりて憎き敵を討ち果たそうぞっ!!」

「承知いたしました。我らが王よ」

「騎士として王のため、この剣を振るいましょう」

「王の御命令に従い敵を屠ります」

 

 朱乃さんが普段の笑顔を消して真剣な表情で頭を垂れる。それに倣うように木場が、小猫ちゃんが頭を下げる。

 

 俺はその場の空気に、何より『王』の発する圧倒的存在感にただ圧倒されて動けなかった。そんな俺に『王』は野太い笑みを口元に浮かべて見せた。

 

「さあ、我が一騎当千たる『兵士』よ。露払いは我らが務めよう。貴様は貴様の成すべき事を存分に成すがよい」

「はい! がんばります!」

 

 俺を、この俺を『一騎当千の兵士』と言ってくれるのか!?

 ただ『赤龍帝の籠手』を持つだけの、新人悪魔の俺を!

 

 感動だ。これはきっと感動に違いない。

 俺は初めて本物の『王』を見た。自然と人を従え、導き、先頭に立って駆け抜ける本物の『王』だ。

 

 外見など些細なことだった。この人の纏う空気、存在自体から発せられる威風。

 この人はきっと生まれながらの『王』なのだ。

 この人に従って良かった。この人に付き従いたいと思わせる一握りの選ばれた存在。

 

 俺はこの日。

 初めて『王』たるリアス・グレモリーに出会った。

 

 

 

 

「祐斗、エクソシストはすべて斬れ、小猫も一人たりともこの地より逃すな」

「承知!」

「了解しました」

 

『王』の命令に従って、木場と小猫ちゃんが先陣を斬って教会に斬り込む。

 いまさらながらに事態に気がついたらしいはぐれエクソシストと思わしき人物達が教会から次々と飛び出してくる。

 

 光り輝く剣や銃をもって武装しているが木場も小猫ちゃんも気にした様子もなく突っ込む。

 

 木場の手にいつの間にか握られていた剣の一振りが一人、また一人と雑草でも刈りとるようにはぐれエクソシストを斬り殺していく。小猫ちゃんの拳を受けた人物は盛大に血を吐いて倒れ、繰り出した蹴りは首を容易くへし折る。

 

 悪魔や堕天使と戦うのがエクソシストと聞いていたのに、ずいぶん弱いんだな。

 これが俺の正直な感想だ。これなら俺でも神器すら使わずに倒せそうだ。目の前の悽惨な光景への感想は意図的に考えないように努力する。

 

 吐くのならすべてが終わった後だ。

 

 その後なら吐こうが泣きわめこうがかまわない。しかしこの場でそんな醜態はさらせない。俺の目的のため、そして傍らで眷属の戦いぶりを見守る『王』の期待に応えるために。

 

 ふと『王』の視線が上空に向いた。

 

「小賢しい。上空からなら奇襲できるつもりか? せめて気配ぐらい隠せばまだ可能性もあったものを」

 

 そう吐き捨てるように罵った。

 なんとなく気持ちが理解出来る気がする。あまりの敵の不甲斐なさに腹が立つのだろう。

 

 エクソシスト達はあきらかに俺よりも弱い。一対一ならば下級悪魔にすら勝てない程度なのではないか。あっという間に木場と小猫ちゃんに殺され残り人数はあと十数名か?

 

 堕天使達はもう俺の耳にすら翼をはためく音が聞こえている。あれで『王』や朱乃さんに奇襲できるつもりなのだろうか。

 

 こんな手応えのない雑魚に今まで手をこまねいていたと思えば『王』も不機嫌にもなるだろう。

 

 これがより手強い相手ならば、あるいは自分の領地で不埒を働いたがその度胸と力量はたいしたものだとか認めそうだ。俺たちの『王』は。

 

 そういう意味でも漢らしい気がする。度量が広いと表現すべきだろうか。

 

「朱乃、二羽のカラスを処理しろ。確実にだ」

「承知いたしました」

 

『王』に一礼して朱乃さんが悪魔の翼を出して羽ばたく。そして一瞬で上空に舞い上がった。俺ではあそこまで上手く空を飛べない。部長の修行のおかげである程度飛べるようになったがあきらかにレベルが違う。

 

 そして『王』はもう敵を堕天使とすら呼ばない。カラス扱いだ。

 

「ゆくぞ、イッセー」

「はい!」

 

 はぐれエクソシストの大半は木場と小猫ちゃんに討ち取られている。二人とも返り血は受けても怪我一つした様子もない。今はおそらく逃げ出す隙をうかがっているのだろう。慎重に距離を取ろうとする連中を確実に殺していく。

 

「情報では堕天使はあと二人いる。木っ端のカラスとはいえ油断はするな」

「もう不意打ちを受けるような無様はさらしません」

「そう意気込むな。貴様は事実上初陣であるのだからな。我がそばにいる。だが油断はするな。戦場では油断すれば死ぬ」

 

 軽く笑みを浮かべて大きな手のひらで俺の頭を一撫でする。

 不思議と不快感は感じない。以前だったら拒否反応でこみあげるゲロをこらえるのに必死だったろうに。

 

 おそらく今の『王』の雰囲気だろうか。

 

 普段の部長は言ってはなんだが出来の悪いオカマのような雰囲気があった。

 圧倒的体格に男臭い濃い顔立ち。これで聞き苦しい女声と口調で話されては優しく気遣われても拒否反応が出る。これはもう本能レベルの拒絶だろう。

 

 しかし、今の『王』はまさに従うことになんの疑問ももてないほどの圧倒的存在感と信頼感を感じさせる。カリスマというやつだろうか。

 本当に普段からこうならいいのに。普段はどうしても漢女の違和感と迫力に怯える構図にしかならない。

 

「普段からこういう態度はできないんですか? 俺はこっちの部長の方が好きですけど」

 

 つい言ってしまった。殴られるだろうかと内心怯える。

『王』の怒りの一喝を覚悟したが、意外にも『王』は小さく苦笑を浮かべただけだった。

 

「イッセー。我はな。王であると同じくらいにリアス・グレモリーでもあるのだ。今は若輩者ゆえ人間の世界で学生をしていられる。気楽な立場だ。ここでは貴族の家のしがらみも跡継ぎの重圧もほとんど感じない」

 

 少し意外だ。部長でもプレッシャーのようなものを感じていたのだろうか。

 

「今は戦場にある。故に我は力強い王でなければ眷属が不安になる。自らに従う眷属の心さえ支えられぬ王など笑止ではないか」

 

『王』の声からはとても深い知性を感じさせる。普段の部長からは感じないものだ。

 

「だがな。普段くらいは我も気を抜いても許されるのではないかと思っておる。王として立つときは別だが、オカルト研究部の部長としてならただの小娘であっても許されるのではないかとな。まぁただのわがままだ。イッセーには不快に映るかもしれん。奇異にも見えるだろう。だがそれが我だ。出来れば受け入れて欲しい。それが無理でも黙認ぐらいしてくれるのが男の器量であろう?」

 

 だから部長は、「部長と呼んで欲しい」と最初に願ったのか……。

『王』として貴族の家の跡継ぎとしての重圧を感じないで済む。ほんの一時羽を伸ばして過ごす部長の遊び場。それがあの学校であり、オカルト研究部なのだろう。

 

 俺は馬鹿だ。部長には部長の悩みがあって当然じゃないか。

 

「俺はどうにも普段の部長が苦手ですが、それでもオカルト研究部の一員としてがんばるつもりですよ」

「正直者め、祐斗や小猫と似たようなことを言う。そういえば仲が良かったな。気の合う仲間がいるというのはいいことだ……さぁ征こうか」

 

 ほんの少しだけ俺と部長の距離が縮まった気がする。

 そして俺は王と共に征く。教会の扉を開けてその中へと。

 

 

 

 

 そこには十字架に磔にされたシスターがいた。ぐったりと力なく拘束に身をゆだねている。意識がないのだろうか。

 

 神聖であるはずの聖堂の床にはいかにも怪しげな魔方陣が描かれている。オカルトじみた魔方陣と室内の明かりを反射して輝く聖母を描いたステンドグラスがひどく不釣り合いだ。

 

 磔にされたシスターのそばには男性の堕天使と若い女性の堕天使がいる。

 外見はまだ若い少女のそれだ。そしてその顔を俺は知っていた。

 

「夕麻ちゃん……」

「あら、以外と早かったわね……まったくミッテルト達も役に立たないわ。これだから下級と馬鹿にされるのよ、あの無能どもは」

 

 嘲るように鼻を鳴らす。その手には何か指輪のようなものが握られていた。

 

 正直そんな彼女を見るのが辛い。俺にとっての天野夕麻という少女は純真で素直で優しい女の子だ。まるで絵に描いたような理想の女の子。そんな彼女が心底人を見下した態度で仲間を無能と罵倒している。

 

 そして一転して表情を輝かせて笑いだす。

 

「けれど私は違う。私は『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を手に入れた! アザゼル様は神器の研究がお好きと聞くわ。きっと私をおそばに呼び出してくださる! これで私はもうつまらない無能の下級ではなくなったわ! ああ、アーシア・アルジェント、あなたはとても素敵だわ。私にこんな贈り物をくれたのですもの。魔女と罵られて生きるよりもいっそ死んだ方が楽でしょう? きっとあなたも私に感謝しているはずよね」

 

 アーシア・アルジェント。それが彼女の名前なのか? 魔女と罵られる? なんのことだ。彼女ほど立派なシスターはきっといない。おまけに死んだ方が楽……まさか、まさか……。

 

「人間から神器を抜いて奪ったか、堕天使」

 

 俺が怒鳴り散らすよりも『王』の低い声が響くのが早かった。

 

「あら、不細工で無能な悪魔でもそのぐらい理解出来るのね。筋肉ばかりで脳味噌も筋肉かと思ったわ」

「床の魔方陣を見ればなにをしたのかぐらいわかる。しかし解せん。そんなことをしてどうするつもりだ」

 

『王』は本気で怪訝そうに問いかけた。それを夕麻ちゃんが嘲笑う。

 

「やっぱり無能な悪魔ね。血の巡りの悪い事! これは『聖母の微笑』よ? 『魔女』アーシア・アルジェントが所有する回復の力を持つ希少な神器。それを手に入れたことがわからない? 本当に愚かね、リアス・グレモリー。まぁあなたが無能なおかげで私はこうして目的を遂げられたのだけど!」

 

 他人事ながら冷や汗が出た。夕麻ちゃん、君は死にたいのか? それともわからないのか?

 

 俺から見ても夕麻ちゃんと『王』の力は天と地ほども違う。『王』が拳を振るうだけで夕麻ちゃんは呆気なく死ぬだろう。

 

 いや俺でさえ殺せる程度の力しか夕麻ちゃんは持っていない。実力を隠しているならともかく、そうでないなら俺でも勝てる。『赤龍帝の籠手』すら必要が無い。もし使えば瞬殺できるレベルにまで力の差は広がるだろう。

 

 彼女はこんなに弱かっただろうか? 俺はこんな弱い存在に殺されたのか?

 

「愚かな。借り物どころか奪った力でなにを成すというのだ」

 

 心底『王』は夕麻ちゃんを軽蔑したらしい。もはやたくましい両腕を組んで今にもため息をつきそうだ。

 しかし夕麻ちゃんは気にもとめない。欲しがっていたおもちゃを与えられた幼児のようにはしゃいでいる。

 

「なにを成す? 決まっているわ! 私はこれでアザゼル様の寵愛を受けられる! そしていずれは至高の堕天使となって今まで私を蔑んでいた無能どもを見返すのよ!」

「愚かな……なぜ自らを鍛えない。自らが高みへ登ろうとしない。他人から奪い。その力で権力者に取り入り、しかも目的が他者を見返したい? そのような者が至高の堕天使などに至れるものか」

 

 部長が吐き捨てた。夕麻ちゃんの笑顔が消える。

 

「あなたのような無能な悪魔には理解出来なくても結構よ。領地を荒らされても気がつかないような無能に何がわかるの? あなたのその見せかけだけの筋肉なんて私がその気になればあっという間に穴だらけになるでしょうね」

 

 それはない。それだけはないよ。夕麻ちゃん。

 内心でそう突っ込んだ。

 

 俺はあの地獄の修行で何度も部長と戦った。戦い続けるうちに俺は強くなり、魔力も人並みになった。

 

 当時まだ神器を『龍の手』と思い。単純に能力を倍にしか出来なかったにしても倍加された俺の全力攻撃を受けても部長はかすり傷一つつかなかった。

 

 しかも使った技は防御力の高い部長を倒すために考えた防御力無効の技だ。部長にはまったく効かなかったが『同格か格下相手ならば必殺になり得る技』と評価された。

 

 その俺よりあきらかに弱い夕麻ちゃんが部長に傷を負わせる? 無理だろう。

 

 そもそもなんで彼女は『リアス・グレモリーは無能』なんて考えているんだ? まさか領地に入っても何もされなかったから領地に入った堕天使にも手も足も出ない無能なんて思っているのか?

 

 俺が呆れていると夕麻ちゃんがさらに呆れることを言った。

 

「あなたごときに至高の堕天使になる私が手を下す価値もないわ。ドーナシーク。その視界に入れるのも不快な醜い存在をさっさと殺しなさい」

「はい、レイナーレ様」

 

 え? 二人がかりでなく一対一? しかもあのおっさんはどうもレイナーレと呼ばれた夕麻ちゃんよりも弱そうに見えるんだけど。

 

 コートを羽織ったおっさんが黒い翼を羽ばたかせて部長に襲いかかる。その手には以前夕麻ちゃんが俺を殺した光の槍と同じものが握られていた。アレって堕天使の基本技なのかな。

 

「こんな連中を好きに野放しにしていたとは……もっと早くさっさと始末するべきだった。朱乃の進言を入れて上層部の判断を待ったのが間違いであった」

 

 部長は愚痴っぽく呟くと突進してくる堕天使のおっさんを軽く殴り飛ばした。

 光の槍も部長の巨石も砕く拳に粉砕されて、その勢いのまま顔面に拳が突き刺さる。

 

 堕天使のおっさんが夕麻ちゃんの足下に吹き飛ばされた。

 その突撃、無造作に返り討ち、吹き飛びっぷり。まるで実力差もわからず主人公に挑みかかる雑魚キャラのような見事なやられっぷりだった。

 

「な? なにがおこったの?」

 

 夕麻ちゃんが狼狽するが、俺にしてみれば何をうろたえるのかわからない。

 こうなることなど最初からわかりきっていただろうに。もしかして本気でこの『王』が弱いと思っていたのか?

 

 俺が夕麻ちゃんを見る眼差しはきっと哀れみに満ちていた気がする。

 




『王』である漢女リアス話。
そしてようやく忠誠の対象として漢女リアスを認めるイッセー。

そしてなんとも言いようのない堕天使達。
馬鹿は馬鹿ゆえに過信し、馬鹿ゆえに過小評価し、馬鹿ゆえに無謀な行動に出るのです。

漢女リアスのモデル……強いていうならばフェイトゼロの征服王のひげを剃って髪を長くした感じ?
あのくらい格好いい『王』リアスが書きたい……半分でもいい。格好いい王様に書きたい。

思いついたルーツは真・恋姫無双の漢女二人組からですけど。
漢女リアスはただの変態にはしたくないなぁと戦闘時は真面目な王様モードです。
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